魔娘 ―Daughter of the Golden Witch―

こりどらす

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第3章 狂気の科学者

3-2 子役の魔女

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湯城ゆしろヒカル?誰だそりゃ。」
「えーっ!アレイスター、ヒカルちゃんを知らないの!?」

11月の上旬になり、季節は秋の真っ只中。
澄み切った空の下、街中を心地よい風が駆け抜けていく。
道端に立ち並ぶ街路樹も、徐々に鮮やかな赤や黄色に色づき始めている。

が、エリカは紅葉を見に出かけることもなく、朝から工房で次の依頼の準備中。
リビングの椅子に座って、テーブルの上に止まるアレイスターに珍しく熱い口調で語りかける。

「最近話題になっている子役の女の子よ。まだ13歳なんだけど、大人顔負けの演技力で、将来すごい女優になるんじゃないかって期待されているの。ちょうど今期のドラマにも出演しているわ。」
「ふーん。オレは全然テレビとか見ねーからなぁ。そんな名前初めて聞いたぜ。」
「ほらほら、見てアレイスター。この子がヒカルちゃんよ。」

エリカは目の前に置かれていたリモコンを手に取り、リビングの角に設置してあるテレビの電源を入れ、事前に録画してあったドラマを再生した。
映し出されたのは今シーズン放映されているホームドラマ。
父親の再婚に伴いやってきた『新しいお母さん』との関係性に悩みながらも、徐々に絆を深めてゆく娘の物語である。

「心にグッとくる迫真の演技ね。まるで役が憑依したみたい。とても中学生とは思えないわ。」
「へえ、スゲーな。確かに良い演技をするじゃねーか。」
「でしょう?話題になるのも納得だわ。」

しばらく黙ってドラマに見入る二人。
そしてCMに入ったところでアレイスターがエリカに尋ねる。

「で、その湯城ヒカルっていうチビッ子が、今回の依頼人なのか?」
「正確にはマネージャーさんよ、ヒカルちゃん本人じゃなくてね。マネージャーさんとは事前に電話で少しお話ししたんだけど、ヒカルちゃん、実は魔女らしいわ。」
「なっ!?」

驚きの声を上げ、アレイスターの動きがピタリと止まった。

「オイオイ正気かよ。魔女がそんな露骨に目立つ仕事してて大丈夫なのか?ウィッチハンターどもの格好の標的にされちまうぞ。さあどうぞ狙ってください、って言ってるようなモンじゃねーか。」
「私も同じことを思ったんだけど、何か深い理由があるみたい。今回の依頼はその辺りの事情も関わっているらしいわ。お昼の12時に工房に来るって連絡があったから、一緒にご飯を食べながら、詳しいことを聞いてみましょ。」

エリカが話し終わると同時にCMが明け、再開したドラマを二人は最後まで見続けた。



録画ドラマの再生が終わり、

「何か面白い番組はやっているかしら。」

エリカは何とはなしにテレビのチャンネルを次々変える。
と、目に留まったのはお昼のワイドショー。

『相次ぐ未確認生物の目撃情報!その正体は?これは天変地異の前触れか!?』

という怪しさ満点の特集を放映していた。
最初に紹介されたのは、霧の立ち込める山を登っていた一団が、イエティかビッグフットらしき、巨大な人型の生き物を遠くに見かけたという報告。

「しっかしホント人間はこういうオカルトが好きだよな~。何かロマンでもあんのかねぇ。」
「普通の人からしたら、アレイスターみたいな人語を喋る蛾も十分オカルトよね。」
「……エリカ、何か言ったか?」
「ううん、何も。気のせいじゃないかしら。」

続いては、雨の降る湖で釣りをしていた男性からの目撃情報。
首の長い巨大な恐竜のような生き物が、水面から顔を突き出しているのを発見したとのこと。
ネッシーか、シーサーペントか、はたまた正体不明の魔獣か、などとコメンテーターが答えのない議論を交わす。
目撃者が撮影した写真も紹介されていたものの、距離が遠すぎるのと雨でぼやけているのとで、写っている物体の判別は非常に難しい。

アレイスターとエリカはテレビを眺めつつ会話する。

「魔獣――人知を超えた不思議な力を持つ生き物は、伝説じゃなくてマジで実在したらしいな。ユニコーンとか、ヤタガラスとか、グリフォンとか。」
「そうね。一般的にはネッシーと同じような、架空の生き物扱いをされているけれど、大昔には人目につかない秘境でひっそりと生きていたって、母さまからずっと前に聞いたことがあるわ。」
「でも、今はもうどこにもいねーよな。どっかの時代で絶滅したってことか?」
「多分そうだと思うけど、詳しいことは分からないわね。」

その後もワイドショーでは未確認生物の特集が続いているが、どれも決定的な証拠はなく、信憑性は薄い。
本物かどうかの真偽はともかくとして、番組が盛り上がればそれで十分という意図が透けて見える。

「さあ、そろそろお昼の準備をしないとね。ヒカルちゃんも楽しみにしてくれているし。」

エリカはテレビの電源を切ると、椅子から立ち上がってキッチンに向かった。





そして約束の時間、12時。
工房の外で車の停車音が響き、ドアが開いて人が降りてくる音が聞こえた。
続けて玄関の呼び鈴が丁寧に鳴らされる。

「はい。」

玄関扉を開けたエリカの目の前に立っていたのは、年齢差のある男女の二人組。

エリカから見て左側に佇むのは、肩まである黒髪ウェーブヘアの背が低い少女。
午前中に観たテレビドラマに出演していた、まさにその女の子であるが、テレビ越しでの庶民的な印象とはやや異なる。
ゴシック調の赤い長袖ワンピースを着て、慎ましく体の前で両手を重ねており、お嬢様のような上品さが際立つ。

彼女の右側で寄り添うように立っているのは、ダークブラウンの短髪で、穏やかな目をした長身の男性。
年齢は20代後半といったところか。
カーキ色のジャケットと黒いパンツをスリムに着こなし、細いながらも筋肉質の鍛え抜かれた体が、服の上からでも見て取れる。

「こんにちは。今日はどうぞよろしく。」

その男性が丁寧に一礼し、

「こちらこそよろしくお願いします。さあ、中へ入ってください。」

エリカは来客二人を工房の中へと案内した。



「私はこの工房で解決屋をしている魔女の、白羽根エリカといいます……というのは、電話でお話ししたのでもうご存じですよね。」

エリカは事前に作っておいた3人分のオムライスをテーブルに置きながら自己紹介した。
隣り合って席に座る男性と少女も名乗り返す。

「ありがとう、というか僕達もきちんと自己紹介するべきだね。僕は矢溝啓二やみぞけいじで、隣に座っているのが湯城ヒカル。彼女はこう見えて白羽根さんと同じく魔女なんだけど、子役として芸能活動もしていて、僕がマネージャー兼ボディーガードを担当しているんだ。ほら、ヒカルもご挨拶しなさい。」
「こんにちは、湯城ヒカルです。よろしくお願いします。」

ヒカルと名乗る少女は礼儀正しくお辞儀をし、

(可愛い……!)

エリカは心の中で感激の声を上げた。
テレビの画面越しでも美少女であったが、生で見る本人ははるかに可愛らしい。
小さな顔に、くりくりとした目、ぷっくらと膨らんだ頬。
その全てにエリカは愛くるしさを覚える。

……と、つい興奮してしまった心を落ち着かせ、エリカは会話に戻る。

「ヒカルちゃん、よろしくね。私と一緒にお昼ご飯を食べたいって聞いていたから、オムライスを作ってみたの。冷めないうちにどうぞ。」

ヒカルはオムライスにケチャップで花丸の絵を描き、

「それじゃあ、いただきます。」

スプーンでひとすくい、上品な手つきで口へと運ぶと、

「おいしいわ!」

年相応の子どもらしい、満面の笑みをエリカに向けた。

「良かった。お口に合ったみたいで。」

エリカは胸をなでおろすと、今度はヒカルの隣の男性、矢溝啓二に話を振った。

「それで、矢溝さん――」
「ああ、啓二で構わないよ。そんなに肩肘張らないでくれ。堅苦しいのはあまり好きじゃないからね。」
「コホン、分かりました。では啓二さん、改めて今回の依頼内容を詳しく教えてくれますか?」

エリカの問いかけに、啓二は頭をクシャクシャとかきながら答えた。

「まあ何というか、一言で言うと、ヒカルの護衛をお願いしたいんだ。」
「護衛……ですか?そもそも啓二さんはヒカルちゃんのボディーガードなんですよね?」

スプーンを手に握ったままキョトンとするエリカに、腕を組む啓二が説明する。

「その疑問はもっともだね。で、理由はというと、つい先日ウィッチハンターの襲撃に遭ってしまったんだ。その場は何とか逃げられたんだけど、さすがに無事では済まなかった。今も僕のあばら骨は何本か折れたままで、万全の状態とはとても言えない。もしこのタイミングでまた襲われたら、ヒカルを守り切れる自信がないんだ。」
「なるほど。それで私に、護衛のサポートをしてほしいという訳なんですね。」
「そういうことだね。どうかな、依頼を受けてもらえるかい?」

エリカは返答の間を取るかのように、オムライスを一口食べた。
さらにお茶を飲んで一息ついた後、やや険しい顔で口を開く。

「解決屋の立場でこんなことを言うのも失礼ですが、私は魔女としての能力はあまり高くありません。それでも大丈夫でしょうか?探せば世の中には、私よりも強い力を持った魔女がたくさんいると思います。」
「確かに君より強い魔女はいるかもしれない。でも、魔女はお互い群れることなくひっそりと生きているのだろう?それを何の手掛かりもなく探し出すのは、あまり現実的ではないと思うんだ。」
「それは、その通りですね。」

啓二の言う通り、現代に生き残っている魔女は単独行動を好む。
他の魔女と集団生活をしたり、グループを作ったりということは基本的にない。
実際、使い魔のアレイスターの存在を除けば、エリカ自身も一人暮らしである。

魔女が皆一匹狼なのは、性格の問題ではない。
できるだけ目立たないように、ウィッチハンターの目につかないように、という意味合いが大きい。
群れれば群れるほどウィッチハンターに見つかりやすくなり、ひとたび標的にされてしまえば即刻餌食になる、と歴史が証明しているのだ。

「だから、こうやって運よく連絡を取れた白羽根さん、君にぜひ依頼したい。いくら鍛えているとはいえ、普通の人間である僕よりも、魔法が使える君の方が強いのは間違いないからね。」

啓二はエリカに頭を下げると、今度は隣で美味しそうにオムライスを食べるヒカルの顔を覗き込み、

「ヒカルは、どう思う?」

と尋ねた。
ヒカルは口元にケチャップをつけたまま、

「啓二は今、ひどいケガをしちゃってて大変なのよ。だから、わたしもお姉ちゃんに助けてもらいたいわ。よろしくお願いします。」

すっとエリカの前に右手を差し出して答えた。
エリカはその手を優しく握り返して答える。

「うん、分かった。啓二さんのケガが治るまで、私がヒカルちゃんを守ってあげるね。」
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