魔娘 ―Daughter of the Golden Witch―

こりどらす

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第5章 魔女と奇術師

5-2 華麗なるショー

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ステージに立っていたのは白い燕尾服を着た若い男性。
モデルのようにすらりとした長身、整った顔立ちで爽やかな笑顔を振り撒き、観客の視線を一気に惹きつける。
そして執事のように丁寧な所作で挨拶した。

「本日は私達のクリスマスマジックショーにお越しいただき、誠にありがとうございます。4人のマジシャンが順番に登場して、心躍るひと時を皆様にお届けしますので、ぜひ最後まで楽しんでいただけると幸いです。それでは、まずは私こと隼斗のマジックをご覧ください!」

小気味いいテンポの音楽が会場内に流れ始める。
隼斗と名乗った若いマジシャンは、胸ポケットから赤いハンカチを取り出した。
妖艶な手さばきでひらひらと揺すると……一瞬のうちにハンカチは長いステッキへと変身。
ホールは大きな拍手に包まれる。

続けて隼斗はフラフープよりもやや小さな金色のリングを持ち出した。
2本のリングを胸の前で何度も交差させると、どこにも隙間のないはずのリングがいつの間にやら繋がった。
さらにリングを取り出しては次々と繋げてゆき、最終的には6本のリングが鎖のようになった。

その後も風船や紙袋、ロープなどの小道具を用いた様々なマジックを披露する隼斗。
流れが一段落したところで、ステージ上には黒いワンピースを着た外国人の女性が登場した。

「ここからは少し趣向を変えます。よく見ていてくださいね。」

隼斗は背丈ほどもある黒い幕を手に持って女性の全身を隠すと、

「せいっ!」

幕を一気に横へと動かした。
すると、女性のワンピースは一瞬で黒から赤色に様変わりしていた。

続けて今度は役を交代し、女性が幕を掲げて隼斗を覆い隠す。
幕の後ろから姿が見えない隼斗の声が響く。

「いきますよ、はいっ!」

現れた隼斗は直前までの白い燕尾服ではなく、赤と白のコントラストが印象的なサンタクロースの衣装に着替えていた。
会場から一際大きな歓声が沸き起こる。

隼斗は再び幕を持つと、流れるような手つきで女性の前に掲げ、一気に真下へ向かって降ろす。
今度は、一人しかいなかったはずの女性がいつの間にやら二人に増えた。

「さあ、これで最後です!」

大量の紙吹雪を隼斗が女性達に向けて振りかける。
舞台上を雪のように埋めつくす銀色の紙吹雪。
その中から現れた二人の女性は、美しい純白のドレスを身に纏っていた。

「ありがとうございました!」

大きな拍手が巻き起こる中、隼斗は優雅な足取りでステージを後にした。

「いやー、やっぱりプロのマジシャンはスゲーな。おまけに爽やかイケメンときた、こりゃズルいぜ。エリカも『あんな彼氏が欲しいなー』なんて思っただろ?」
「もう、そんな目では見ていないわよ。確かに魅力的な人だったけれどね。トップバッターでこんなに凄いマジックを見せてくれるなんて、この後に出てくる人も楽しみだわ。」

拍手の音に紛れてアレイスターとエリカはこっそりと感想を言い合う。

しばらくして会場内が静けさを取り戻すと、二人目のマジシャンがステージ上に登場した。
金髪で少しふくよかな体形をした男性で、ミラーボールのように眩しく光る紫色のスーツを着込んでいる。

「次は僕、ミヤビのマジックをお見せするよ!僕のマジックは会場の皆さんにも協力してもらうんでヨロシクゥ!」

ミヤビと名乗ったマジシャンは宣言通り、目についた観客をステージ上に招いて自身のマジックに参加させた。

最初に選ばれたのは小学生と思われる男の子。
ミヤビはテーブルに置かれた大きな立方体の箱に少年を入れると、蓋を閉じて側面に次々と剣を突き刺してゆく。
観客は固唾を飲んで見守るが、ミヤビは特段意に介した様子もない。
全ての剣を刺し終わると今度は逆順で引き抜いてゆく。
そして最後に蓋を開けると、中からは何事もなかったかのように少年が飛び出した。

「では次のマジックを始めるよ!手伝ってもらうのは、そうだなあ……じゃあ真ん中あたりの白い髪の女性!」

ミヤビが仰々しい身振りで指差したのはまさかのエリカ。

「え、わ、私!?」
「そうアナタです!」

明らかに動揺した様子でエリカは席を立って前方へと向かう。
おぼつかない足取りで舞台へと上がり、一身に注目を浴びながら、用意されたテーブルの上に寝かされた。

「さあ皆さん、よく見てよく見て~。ほら!」

ミヤビが両手を下から上へと怪しい手つきで動かすと、なんとエリカの体がテーブルを離れ、じわじわと宙に持ち上がってゆく。

(すごい!私、空中に浮いてるわ!)

今度はミヤビが上から下に手を振るとエリカは徐々に下降し、テーブルにゆっくりと着地した。

「ありがとう!みんな、彼女に大きな拍手をヨロシクゥ!」

盛大な拍手が送られる中、エリカは恥ずかしそうに顔を伏せつつ自分の席へと戻った。
すると待ってましたとばかりにアレイスターが声をかける。

「ハッハッハ、まさかオマエが選ばれるとはな。」
「本当よ。これだけお客さんが沢山いるのに、偶然にもほどがあるわ。人前で目立つのは好きじゃないのだけれど……」
「とはいえ、魔法みたいに空中浮遊する体験ができて良かったじゃねーか。魔女の立場から見ての感想はどうだ。タネは見破れたか?」
「それが全然トリックが分からなかったの。あれだけ近くで見ていたのにね。本当に魔法みたいだったわ。」

その後もミヤビによる観客参加型のマジックが続々と披露され、会場は大盛り上がり。
最後は巨大なトランプを使った手品で締めくくった。

「みんなありがとう、最高だったよベイベー!じゃあまたね!」

キザな言葉を残してミヤビの出番が終了。
するとエリカはどことなくそわそわし始める。

「いよいよ次は澪の出番ね。楽しみだわ。」
「そうだな。ミオがどんなマジックを見せてくれるのかお手並み拝見といこーぜ。」
「私がステージに立つ訳じゃないのに、何だか自分のことみたいにドキドキするわ。」

手の平にうっすらと汗を滲ませたエリカが見つめる中、会場を流れるBGMが陽気なダンスのような音楽に切り替わる。
テンポに合わせた軽快な足取りで、黒い燕尾服に身を包んだ澪が姿を現した。

「皆さんこんにちは~。あたしは『みおぽん』!今日の出演者の中で唯一の女子、紅一点のマジシャンですっ!よろしくお願いしまぁ~す。」

澪は普段と変わらない元気はつらつな様子で、舌を出しながらウインクした。

「マジか、アイツ『みおちん』なんて名乗ってるのかよ。こりゃ笑っちまうぜ。」

アレイスターが小声でぼそりと呟く中、澪のショーが始まった。

「みなさん手拍子をよろしくねっ!はい、はい、はい、はいっ!」

観客を煽りながら澪が取り出したのは白いハンカチ。
胸の前で踊るようにひらひらとさせると、いつの間にやらハンカチは2枚に増えた。
それを何度も繰り返し、あれよあれよという間に手には大量のハンカチが。
そして全てのハンカチを丸めて球状にし、

「ほいっ!」

一気に開くと中から真っ白な一羽のハトが飛び出した。
観客席の子供から嬉しそうな声が上がる。

「ハトさんの登場で~す!あたしの手品ではハトさんがい~っぱい出てくるから楽しみにしててねっ!」

続いて澪は真っ黒な台の上に白い羽根を置き、黒い布をさっと被せる。

「スリー、ツー、ワン、はいっ!」

意気揚々と数を数えて布をはがすと、そこあったはずの羽根はハトへと変身していた。
流れるような動作で今度は黒いシルクハットを持ち出し、回転させて中に何も入っていないことを強調。
自分のオレンジ色の髪に乗せる。

「こうすると~、ほらほらっ!」

素早くシルクハットを取ると、澪の頭上に現れたハトが羽ばたいた。



(……あれ?)

その時、客席で見守っていたエリカが眉根を寄せた。

「いきなりどうしたエリカ。」

不審に思ったアレイスターが尋ねる。

「今一瞬、あのハトが青く光ったような……」
「いくら手品でもそんな訳ないだろ。気のせいじゃないのか。」

エリカは再びステージに視線を戻すが、ハトの色は純白以外の何物でもない。

「うーん、疲れているのかしら、私。」



エリカが首をひねっている頃、会場後方の壁際の席。
一人の客が意味深な笑みを浮かべていた。



その後、澪はハトのマジックだけでなく、別の小道具を使った手品も交えつつ進行してゆく。
明るく快活で、ダンスを踊るような身のこなしは子供達の反応がすこぶる良い。
そしていよいよ澪の舞台も終盤に。

「あたしのショーはもうすぐ終わりですっ!すっごくさみしいけれど、最後にとっておきのマジックを見せちゃうよぉ~!」

澪は胸ポケットからマッチ箱を取り出し、マッチを一本擦って火を点した。
反対の手で持つ白い羽根に火を近付けると――燃え上がった跡から純白のハトが現れた。

「わっはははっ!凄いでしょ~!」

観客の反応を見て満足げにウインクをする澪。

続いて澪はハトの足元でおもむろに手を握って開くと、さも今産み落としたかのように薄茶色の卵が乗っていた。
その卵を握って再び手を開くと、今度は卵ではなくハトが出現。
鮮やかな手さばきを見た観客席の子供達から大きな歓声が上がる。

澪はマジックで出した二羽のハトをステージ上に用意された大きな鳥かごに入れた。
仰々しい手つきで黒い暗幕を全面に被せると、

「これでラストだよっ!みんな一緒に、スリー、ツー、ワン、どうだ~っ!」

目一杯の力で引いて取り払った。
かごの中は20羽、あるいは30羽か、数えきれないほど多くのハトで埋めつくされていた。

「ありがとうございました~!みおぽんでした~!」

満面の笑みで両手を振りながら澪はステージを後にした。
澪の姿が見えなくなった後も鳴り止まない万雷の拍手。
手を叩く観客の中には、もちろんエリカも含まれていた。

「流石は澪ね。もちろん前の二人も良かったけれど、次から次へとハトが出てくるマジックは見ていてすごくワクワクしたわ。お客さんの盛り上げ方も上手かったしね。って、身内だからちょっと贔屓目が入っているかしら?」
「別にそんなこともねーと思うぞ。実際、タネが全く分からないくらい見事な手さばきだったし、手品にオリジナリティもあったし、何よりあのミオとは思えないくらいカッコ良かったぜ。普段はあんなにおちゃらけていても、ミオはやっぱりプロのマジシャンなんだな。」

珍しくアレイスターも澪を褒めちぎる。
ステージ上での澪の堂々としたパフォーマンスに感銘を受けた二人であった。

そして本日のショーも最終盤。
照明の落ちたホールの中、スポットライトに照らされて、ついにトリを務めるマジシャンが登場。
観る者を圧倒するオーラを放つ、サングラスをかけたドレッドヘアーの中年男性である。

「ドクトル・アダチと申します。さあ、見たことのない世界へ皆様をお連れしましょう。」

会場を支配するかのような妖しい音楽のもと、ドクトル・アダチのショーが始まった。

テーブル上で寝転がった人が真っ二つに切断されるマジック。
人が中に入った縦長の箱が左右ジグザグに分割されるマジック。
水で満たされた大きな箱の中から、手足を拘束された状態でドクトル・アダチが脱出するマジック。

これまでの出演者とは違い、ある種の緊迫感すら感じさせる大掛かりなイリュージョンの数々で、ショーは進行してゆく。
そしてドクトル・アダチの指示で、人の背丈を優に超える巨大な暗幕がステージに垂れ下がる。

「いよいよクライマックスです。どうぞ目を凝らしてご覧ください。私から皆様へのクリスマスプレゼントは、こちら!」

指をパチンと弾く音を合図に暗幕が取り払われる。
なんとそこには、煌びやかに輝く巨大なクリスマスツリーが鎮座していた。

「本日のマジックショーは以上となります。どうもありがとうございました!」

出演した4人のマジシャンが舞台上に集結し、動きを揃えて大きく一礼。
客席全体に向かって感謝の意を込めて大きく手を振る。
それに応えるような観客からの惜しみない拍手は、長い間止むことなくホールに反響し続けた。
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