ギルドを追放された支援魔法士は悪魔※とギルドを創る

るちぇ。

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序章:悪魔と手を結んだ日

狙った獲物は美味しいです

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 <金色の虎>

 中規模ではあるが活気は十分な、この街と周囲一帯を守るギルドである。

 白い石畳で舗装された贅沢なメインストリートの先にあるギルド本部、また酒場でもある中世風の木造の建物にルークとイブリースは招かれていた。

「お……おぉ! こ、これ、食べてもいいんですか!?」

 並んだ肉料理の数々に目を輝かせているのはイブリースだった。

 涎を垂らし、腹の虫をぐーぐー鳴らし、今にも飛び掛からんと前傾姿勢になっている。

「は……はい。これはせめてもの気持ちです」
「お肉万歳! いっただきまーす!」

 獰猛な肉食獣のように、それこそグリズリーが脱兎の如く逃げ出しそうな気迫で食らい始めるイブリース。

 この場を設けたヨシオを初め、皆は引いているのだがお構いなしである。

「珍獣の暴れっぷりを肴に飲むか」
「ルークさんも遠慮せず、どうぞ!」
「そうですよ! すみませーん! こちらの方に極上エールと骨付き肉のおかわりを!」

 どれだけ空腹だったのだろう。

 イブリースは追加注文の肉も鷲掴みにし、太い骨までガリガリ食らってしまう。

 これには気を遣ったクリオ、ミリアは苦笑いするしかない。

「ほら、頼んだ側から跡形も残さないぞ。皿が無事なだけマシな気がする」
「あ、あはは……と、ところで、ルークさんはどうしてあそこに?」

 酒に口を付けたまま固まってしまうルークであった。

「え、えーと……秘密って事じゃ駄目か?」
「あの、一応、ここは他所のギルドなんですよ?」
「そ……そうだよなぁ……」

 明確な取り決めは無いが、ギルド間には不可侵条約のような物が結ばれている。

 管理する土地の資源を、無断で搾取されるのを防ぐためだ。

 仕方なく、ルークは少しだけ事情を説明する事にした。

「実は……余り会いたくない奴と出くわしてさ、咄嗟にテレポートをかけたらあそこに飛んだみたいなんだ」
「る、ルークさんにそう評されるなんて……」
「いや、大した奴じゃないんだけど――」

 この時、ルークは近未来を想像して戦慄した。

 今はまだいい。

 獣は餌に集中しているから。

 しかし腹が満たされたらどうなるだろう。

 ――私は幹部候補生の1人、イブリース! ふはははっ! 恐れおののけ、人間ども!

 彼は先手を打った。

「――その、非常に心苦しい事だが、うちのギルド長は最高に愉快だろ?」
「え……えぇと、見る者全てを笑顔にする方と伺っています」
「あぁ、苦笑いと嘲笑が広がるな」

 性格や人格がどうあれ、格上の相手。

 ヨシオは精一杯のオブラートに包んだのだが、ルークはバッサリと切り捨てた。

「非常に嘆かわしい事に、たまに同類がいる……というか目の前にいる。そこの自称美少女がいるだろ? そいつはな、魔王軍の幹部だの、その候補生だのと言って<宵闇の竜>に殴り込みに来たんだ。同族ゆえに惹かれ合ったのかもな」
「う……うわぁ、真性ですね」

 ヨシオだけではない。

 ミリアとクリオまで、残念な娘を見る目をしている。

「事情はどうあれ、ギルドに迷惑をかけるのは見過ごせない。そこでテレポートを使ったんだ」
「な、なるほど。流石は<宵闇の竜>随一の良心と言われるだけはありますね、ルークさん!」

 ヨシオだけではない。

 ミリアとクリオまで、聖人を見る目をしている。

 ――許せ、イブリース。お前を守るためだ

 内心、ルークはそんな風に考えていた。

「ふー、満足でした! ごちそうさまです! さて――」

 丁度その時、話題の人が食べ終えた。

 その目がギラリと光り、周囲の人間たちを見下す。

「はーはっはっは! 脆弱な人間どもよ! 私は魔王軍幹部候補生の1人、イブリース!」

 ドヤ顔まで決めるが、効果てきめんらしい。

 痛い子を見るような視線のみ向けられる。

「あ……あれ?」

 この反応にイブリースは戸惑い、そして何かを思い付いたらしい。

 今一度、無い胸を張って高圧的な態度になる。

「聞け、人間! かつて私は魔王様と間違えられた程の実力なのです! 畏れなさい、崇めなさい! はーっはっはっは!」

 ルークはもう見ていられなくなり、そっと肩に手を置いた。

「お前……言ってて辛くないか?」
「あーっはっはっは! あの、泣いていいですか?」
「好きにしろ」

 隅でポロリと涙を流すイブリース。

 何はともあれ、これで万事解決。

 そうルークが思った矢先のこと。

「号外、号外! あの<宵闇の竜>幹部、ルークさんが追放されたって!」

 酒場の入り口から大声が発せられた。

 瞬く間にその話題で持ちきりになってしまう。

「え!? どうして!?」
「何でも、魔王を討伐したから支援魔法なんて要らないって事らしいぞ!」
「あんな良心的かつ強い人が不要とか凄いな、<宵闇の竜>は!」
「つまりフリーって事だよな!? 何とかして勧誘できないものか――」

 ヨシオたちだけではない。

 酒場にいる者全ての視線がルークへ集まり、次の瞬間――殺到した。

「る、ルークさん! 是非<黄金の虎>へ!」
「今なら杖もローブも使いたい放題にします!」
「ここの料理も酒もお好きなようにどうぞ!」
「この鉱石はほんの気持ちです! 好きに使って下さい!」
「魔導書もどうぞ!」

 詰め寄られたルークの目は点になっていた。

 怒涛の勢いは止まらない。

「衣食住の保証もします!」
「ルークさん限定で一夫多妻制を認めます!」
「好きな女の子を彼女にする権利だって差し上げます!」
「朝はおはようから夜はおやすみまで美少女のご奉仕三昧ですよ!」
「ちょっと待った!」

 それに待ったをかけたのはイブリースだった。

 人の波をかき分けて進もうとする。

「今ならもれなく焦げない鍋をプレゼントします!」
「絶対に刃こぼれしない剣はどうですか!?」
「食べられる食器なんてどうです!? 洗う手間なんてありませんよ!?」

 しかし、無駄。

 誰もイブリースの方を見ようともしない。

 揉みくちゃにされるだけである。

「何なんですか、何なんですか!? この男、それだけの価値があるんですか!?」
「知るかっ! 俺は逃げる!」

 誰も触れない一瞬の隙を突いて、ルークはテレポートで逃げ出したのだった。

「――逃がしますかっ!」

 そのズボンの裾に、黒い手が触れていたとも知らずに。
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