【R18】翡翠の鎖

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第二章.婚約編

11.真意

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「そんなこと…しなくていいのに」
 リーファはぼんやりとした頭のままで、やんわりと制止する。
 手早く寝衣を身につけたヴェルドライトが、まだリーファの身体を拭き始めたからだ。
 特に、リーファの下腹部に吐き出された、白濁の欲望を、念入りに清めている。

「僕の体液なんだから、僕がして何がだめ? リーファのことなら何でもしたいよ。 浴室に行きたいなら、それでもいい」
「平気…」
 満ち足りていて、身体が重い。
 動くのが億劫な感じがして、リーファは小さく首を振る。

 リーファの様子から、ヴェルドライトは察したらしい。
「疲れた?」
「ん…少し」
「きれいになったよ。 身体、起こせる?」


 ヴェルドライトがリーファの手を取って、リーファが上体を起こすのを手伝ってくれる。
 ああ、また、介護をしてもらっている。

 申し訳ない気持ちになりつつ、リーファが身体を起こすと、ヴェルドライトが夜着を差し出してくれた。
「これ、着られる? 別のものがよければ、取ってくるよ」
「ありがとう」


 リーファは、ヴェルドライトの手から夜着を受け取って、身に着ける。
 少しだけ腰を浮かせて、裾も整えた。
 下着は身に着けていないけれど、致し方ないだろう。

 そのリーファを後ろから抱きしめながら、ヴェルドライトはリーファの耳元で囁く。
「ひとつ、お願い、聞いてくれる?」
「何?」
 耳元をくすぐる彼のさらさらとした髪と彼の可愛らしい言い方に、笑みが混じりそうになる。
 続いた言葉は、もっと可愛かった。
「…今夜はこのまま、一緒に寝てほしいな。 どう?」


 リーファは軽く目を見開く。
 なんて、偶然。

 リーファは微笑んで、リーファの肩口にあるヴェルドライトの頭に頭をくっつける。
「…嬉しい。 わたしも、そう思ってた」



+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+



 ヴェルドライトと身体を重ね合って、気持ちよくなった直後は、身体が重くてすぐにでも眠りたいような気持ちだった。
 けれど、ヴェルドライトと彼のベッドに横になって見れば、目が冴えてしまった。
 それはきっと、ヴェルドライトも一緒だったのだろう。

 ヴェルドライトの左腕はリーファの下敷きになっていて、そのまま腰に回されている。
 リーファなどは、重くないのだろうかと心配になるのだが。
 ヴェルドライトは非常に上機嫌で、リーファの額に唇を押し当ててくる。


「僕、部屋に女性体を入れたの、リーファが初めてだからね」
 ヴェルドライトの急な発言に、リーファの頭の中を、思い出が廻った。


 確かに、幼い頃からリーファはヴェルドライトの部屋に入れてもらっていたし、お互いの部屋を行き来して遊んでいたし、一緒に寝たりもしていた。
「…それは、知ってる」
 リーファが返答までに要した微妙な間が何か、ヴェルドライトは敏感に察したらしい。

「あ、昔の話は、なしで。 僕の部屋で、僕のベッドで、こういうことするの、初めてだから」
 もう一度、ヴェルドライトがリーファの額に口づける。
 なんだか、甘くて、恥ずかしくて、また体温が上がる気がする。


「うん…」
 うつむくリーファの顔に、影が落ちた。
 鼻先に、やさしい感触がして、すぐにヴェルドライトがキスしてくれたのだと理解する。


 リーファが、少し視線を上げると、ヴェルドライトの視線が、唇のあたりに向けられた気がした。
 リーファが静かに目を閉じると、唇に、やわらかくて、濡れた感触。
 蕩けてしまいそうで、ぼんやりしていると、彼が苦笑した。
「いやなら拒んでいいんだよ?」
「うん」
「拒まないと…僕、お許しを得たと受け取るからね」
「うん」

 いやなときは拒めるし、拒まないときは続けてほしいとき。
 そんなことは、お互いに理解しているはずなのに、改めて確認してくるヴェルドライトが可愛くて、微笑ましくなる。


 ふふ、と笑って、リーファはヴェルドライトの肩口に頭を寄せた。
 ヴェルドライトは、やさしい目でリーファを見つめていたが、急に何か考えるような表情になる。
「ひとつだけ、言い訳させて」
「え?」
 リーファは、ぱちぱちと目を瞬かせる。


 言い訳とは、何の言い訳だろう?


 でも、このタイミングで、ヴェルドライトが悪い話をするわけがない。
 そのように確信しているので、リーファはヴェルドライトの発言をジッと待つ。
 ややあって、ヴェルドライトは、口を開いた。


「僕は、リーファに触りたくないわけじゃないんだよ?」


「…それは、わかってる」
 リーファは思わず、頬を緩ませる。

 正確には、今夜のヴェルドライトの様子で、よく理解した。
 では、なぜ、ヴェルドライトは言い訳をしようという気になったのか?

 きっとヴェルドライトは、気に病んでいるのだ。
 リーファに、「ヴェルドライトはリーファに触りたくないのかも」と思わせてしまったこと、もしくは、リーファに今夜、誘わせたことに対して。


「…でも、正直言うと、まだ、僕には少し、時間が必要かも」


 それは、リーファが紅女帝に対して示した見解と同じだったので、笑ってしまった。
 リーファは、もう少し踏み込んで、ヴェルドライトに訊いてみることにする。


「…【婚約のしるし】を見るだけで、幸せ?」


 ヴェルドライトは、驚いたように目を丸くするが、すぐに納得した表情で頷いた。
「…きっと、そう。 今まで、手に入らないと思っていた幸せが、立て続けに飛び込んできて、戸惑ってるんだ。
リーファに、【対のしるし】があると思ってたから、余計」
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