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Яainy, Rainy
reversal
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天音は、榊課長の言葉に、ぱちくりと目を瞬かせる。
それは、つまり、結婚もしていないし彼女もいないけれど、いるように見せかけるためにわざわざ、左手の薬指に指輪をつけていたということ?
では、一体、何のために?
天音が思考に没頭しそうになる前に、榊課長から声がかけられた。
「だから、安心して上がるといい」
榊課長の言葉に、天音は混乱した。
奥様も彼女もいないということは、修羅場に巻き込まれるようなことはないという点では確かに安心だ。
けれど、天音の身の安全という点では、果たして安心と言えるのだろうか?
「…間宮、さん?」
もう一度声をかけられて、天音はハッとする。
いや、榊課長が天音相手に何をどうするということもないだろうけれど一応、と警戒はしつつ、けれど信用もしているので、天音はそっと玄関に足を踏み入れる。
「では、あの、お邪魔します」
「あ、待っていて。 タオルを持ってくるから」
榊課長が部屋の電気をつけながら、奥へと進んでいった。
そこで、天音は玄関の姿見に映る自分の姿に気づいて、苦笑する。
ひどい姿だ。
頭からびっしょりぐっしょりの濡れ鼠。 折角榊課長が肩にかけてくれたスーツの上着も濡れてしまっている。 髪からも、服からも水滴が滴っているし、パンプスもぐしょぐしょだ。
メイクも流れてしまっているし、目は赤くなって瞼も腫れている。 なのに、唇は紫色で、かたかたと震えていてお目汚しでしかない。
「済まない、待たせたね」
タオルを手にした榊課長に、天音はひたすらに恐縮してしまう。
「あの、榊課長…。 わたし、やっぱり、ここで。 やっぱり、申し訳ないので」
今までは気づかなかったから平気な顔でいられたが、こんなひどい顔を晒すのが恥ずかしくて、天音はそっと下を向く。 しどろもどろで、自分の言いたいことが上手に伝えられない。
「俺が、怖くなった?」
優しい声で問われて、天音は反射的に顔を上げてしまった。
「いえ、そういうわけでは」
「ならば、じっとしていて」
いつの間にか広げられていた、普通のバスタオルよりも大きなサイズのバスタオルに、身体が包まれる。
次の瞬間には、ふわりと身体が浮くような感じがして、天音は目を見張った。
「え、!」
その感覚は間違いではなかったようで、信じ難いことに今、天音は榊課長にお姫様抱っこをされている。
驚きすぎた天音は、それ以上何も言葉を発することができなかった。
信じられないと思うが、濡れて冷えた服は寒いのに、榊課長に抱きかかえられているところから伝わる温もりが、これは真実だと告げている。
榊課長のゆったりとした歩調に合わせて、振動が伝わる。
ふと、その足が止まったかと思えば、榊課長が一つのドアを開けた。
「バスルームはここ」
言った榊課長は、ゆっくりと天音をバスルーム――…脱衣所のふかふかのマットの上に下ろしてくれる。
浴室へと続く扉の向こうからは、水の流れる音がした。
「はい、タオル。 お湯も溜め始めたから、ゆっくり温まって出てくるといいよ」
「ありがとうございます」
天音はほっとして息をつき、頭を下げた。
そうすれば、榊課長が微笑んで出ていくので、一つ息を吐いてバスタオルをはがして衣類を脱いでいく。
ランドリーラックの下の段がきっと、脱いだ衣類を入れるランドリーバスケットなのだろう。
そこに天音はぽいぽいと脱いだ服を入れていき、フェイスタオルを持って浴室へと入った。
温かい湯気の湿気と熱が、今は肌に心地良い。 入浴剤の、甘くて柔らかくて優しい香りもする。
ほっと、リラックスできるような香りだった。
すぐにでも、浴槽に飛び込みたい衝動を何とか我慢して、天音は一度お湯を止めてシャワーを出し始める。 適温になったのを見計らって、シャワーを浴びた。
「はぁ…」
温かさがじんわりと肌に滲み、天音は思わず溜息をついた。
そのときだ。
「間宮さん」
「! はい!」
榊課長が天音を呼ぶ声に、心臓が跳ねた。 思わずびくっと身体も跳ねた気がする。
浴室の鍵はついていたので閉めたが、脱衣所への扉は鍵がついていなかったので閉められなかったのだ。
「替えの服とタオル、置いておくから。 服は洗っておくね」
「ありがとうございます」
替えの服、ということは、やはり、着替えを榊課長のお家に置いていくような関係の女性がいるということではないのか。
そちらに意識を取られていたために、天音は大切なことに気づくのが遅れた。 天音はハッとする。
今、榊課長は、天音の服を洗っておく、と言わなかったか。
シャワーの熱いお湯で温まってきた身体から、また血の気が引いたような気がした。
洗われて、困るようなものは身につけていない。
縮んでしまうとか、色落ちしてしまうとかいうものは身につけてはいなかったけれど、榊課長の目に天音の下着も晒すことになる。
…恥ずかしくて、消えてしまいたい。
しばし、懊悩した天音だったが、急に思い至って立ち直る。
そうだ、上下違う下着でなかっただけマシではないか。
それから、比較的新しくておしゃれな下着だったと思う。 こういうときこそプラス思考だ。
とりあえず、ぐしゃぐしゃになった髪を洗わせてもらおう、と思って伸ばした手を、天音は一度止めた。
榊課長と同じシャンプーと、トリートメント。 これを使わせてもらっていいのだろうか。
しばし葛藤したが、結局天音は手を伸ばした。
榊課長の使っているスポンジを使うのはさすがに憚られて、天音は泡立てた手で全身を洗って湯船に浸かった。
他人の家――異性の家のお風呂に入るなんて、天音の人生の中で、初めての経験のような気がする。
いい香りがして、少しだけ、落ち着いた。
落ち着くと同時に、冷静になって天音は湯船の中で項垂れた。
ここで、榊課長がいつも入浴をしている、と思うと、とてつもなく恥ずかしい。
ずっとこの湯船に浸かっていたい気がするけれど、そろそろ出ないといけないだろうか。
名残惜しい気もするが、湯船から上がってフェイスタオルで全身を拭く。
現金なもので、身体がぽかぽかになったら、気分も浮上したような気になるものだ。 鍵を開けて、そろり、と扉の向こうを気にしながら天音は脱衣所に移動した。
ランドリーラックの真ん中の段に用意されていたのが、ストライプのシャツなことを意外に思いながら、天音はバスタオルで全身を拭く。
用意されていたのは、そのシャツ、だけ。
いるかもしれない女性の存在を臭わせるようなものではない。 いや、もしかしたらこのシャツ、女性ものなのだろうか。
そう思いながら袖を通したが、これは間違いなく男物だ。
ブラもショーツも身につけておらずに、シャツだけ。 色物のストライプのシャツだったことが救いだ。
丈が大丈夫か、非常に気になる。 けれど、ここにバスタオルを巻き付けて出ていくのは不格好だろう。
非常に気になるけれど、天音は勇気を出して、脱衣所の扉を開けた。
そこには、来客用と思しきスリッパも用意されている。
スリッパを履いて、きょろ、と辺りを見回した天音だったが、ガラスばりの扉の向こうの明かりに気づいて、そちらに足を向けた。
それは、つまり、結婚もしていないし彼女もいないけれど、いるように見せかけるためにわざわざ、左手の薬指に指輪をつけていたということ?
では、一体、何のために?
天音が思考に没頭しそうになる前に、榊課長から声がかけられた。
「だから、安心して上がるといい」
榊課長の言葉に、天音は混乱した。
奥様も彼女もいないということは、修羅場に巻き込まれるようなことはないという点では確かに安心だ。
けれど、天音の身の安全という点では、果たして安心と言えるのだろうか?
「…間宮、さん?」
もう一度声をかけられて、天音はハッとする。
いや、榊課長が天音相手に何をどうするということもないだろうけれど一応、と警戒はしつつ、けれど信用もしているので、天音はそっと玄関に足を踏み入れる。
「では、あの、お邪魔します」
「あ、待っていて。 タオルを持ってくるから」
榊課長が部屋の電気をつけながら、奥へと進んでいった。
そこで、天音は玄関の姿見に映る自分の姿に気づいて、苦笑する。
ひどい姿だ。
頭からびっしょりぐっしょりの濡れ鼠。 折角榊課長が肩にかけてくれたスーツの上着も濡れてしまっている。 髪からも、服からも水滴が滴っているし、パンプスもぐしょぐしょだ。
メイクも流れてしまっているし、目は赤くなって瞼も腫れている。 なのに、唇は紫色で、かたかたと震えていてお目汚しでしかない。
「済まない、待たせたね」
タオルを手にした榊課長に、天音はひたすらに恐縮してしまう。
「あの、榊課長…。 わたし、やっぱり、ここで。 やっぱり、申し訳ないので」
今までは気づかなかったから平気な顔でいられたが、こんなひどい顔を晒すのが恥ずかしくて、天音はそっと下を向く。 しどろもどろで、自分の言いたいことが上手に伝えられない。
「俺が、怖くなった?」
優しい声で問われて、天音は反射的に顔を上げてしまった。
「いえ、そういうわけでは」
「ならば、じっとしていて」
いつの間にか広げられていた、普通のバスタオルよりも大きなサイズのバスタオルに、身体が包まれる。
次の瞬間には、ふわりと身体が浮くような感じがして、天音は目を見張った。
「え、!」
その感覚は間違いではなかったようで、信じ難いことに今、天音は榊課長にお姫様抱っこをされている。
驚きすぎた天音は、それ以上何も言葉を発することができなかった。
信じられないと思うが、濡れて冷えた服は寒いのに、榊課長に抱きかかえられているところから伝わる温もりが、これは真実だと告げている。
榊課長のゆったりとした歩調に合わせて、振動が伝わる。
ふと、その足が止まったかと思えば、榊課長が一つのドアを開けた。
「バスルームはここ」
言った榊課長は、ゆっくりと天音をバスルーム――…脱衣所のふかふかのマットの上に下ろしてくれる。
浴室へと続く扉の向こうからは、水の流れる音がした。
「はい、タオル。 お湯も溜め始めたから、ゆっくり温まって出てくるといいよ」
「ありがとうございます」
天音はほっとして息をつき、頭を下げた。
そうすれば、榊課長が微笑んで出ていくので、一つ息を吐いてバスタオルをはがして衣類を脱いでいく。
ランドリーラックの下の段がきっと、脱いだ衣類を入れるランドリーバスケットなのだろう。
そこに天音はぽいぽいと脱いだ服を入れていき、フェイスタオルを持って浴室へと入った。
温かい湯気の湿気と熱が、今は肌に心地良い。 入浴剤の、甘くて柔らかくて優しい香りもする。
ほっと、リラックスできるような香りだった。
すぐにでも、浴槽に飛び込みたい衝動を何とか我慢して、天音は一度お湯を止めてシャワーを出し始める。 適温になったのを見計らって、シャワーを浴びた。
「はぁ…」
温かさがじんわりと肌に滲み、天音は思わず溜息をついた。
そのときだ。
「間宮さん」
「! はい!」
榊課長が天音を呼ぶ声に、心臓が跳ねた。 思わずびくっと身体も跳ねた気がする。
浴室の鍵はついていたので閉めたが、脱衣所への扉は鍵がついていなかったので閉められなかったのだ。
「替えの服とタオル、置いておくから。 服は洗っておくね」
「ありがとうございます」
替えの服、ということは、やはり、着替えを榊課長のお家に置いていくような関係の女性がいるということではないのか。
そちらに意識を取られていたために、天音は大切なことに気づくのが遅れた。 天音はハッとする。
今、榊課長は、天音の服を洗っておく、と言わなかったか。
シャワーの熱いお湯で温まってきた身体から、また血の気が引いたような気がした。
洗われて、困るようなものは身につけていない。
縮んでしまうとか、色落ちしてしまうとかいうものは身につけてはいなかったけれど、榊課長の目に天音の下着も晒すことになる。
…恥ずかしくて、消えてしまいたい。
しばし、懊悩した天音だったが、急に思い至って立ち直る。
そうだ、上下違う下着でなかっただけマシではないか。
それから、比較的新しくておしゃれな下着だったと思う。 こういうときこそプラス思考だ。
とりあえず、ぐしゃぐしゃになった髪を洗わせてもらおう、と思って伸ばした手を、天音は一度止めた。
榊課長と同じシャンプーと、トリートメント。 これを使わせてもらっていいのだろうか。
しばし葛藤したが、結局天音は手を伸ばした。
榊課長の使っているスポンジを使うのはさすがに憚られて、天音は泡立てた手で全身を洗って湯船に浸かった。
他人の家――異性の家のお風呂に入るなんて、天音の人生の中で、初めての経験のような気がする。
いい香りがして、少しだけ、落ち着いた。
落ち着くと同時に、冷静になって天音は湯船の中で項垂れた。
ここで、榊課長がいつも入浴をしている、と思うと、とてつもなく恥ずかしい。
ずっとこの湯船に浸かっていたい気がするけれど、そろそろ出ないといけないだろうか。
名残惜しい気もするが、湯船から上がってフェイスタオルで全身を拭く。
現金なもので、身体がぽかぽかになったら、気分も浮上したような気になるものだ。 鍵を開けて、そろり、と扉の向こうを気にしながら天音は脱衣所に移動した。
ランドリーラックの真ん中の段に用意されていたのが、ストライプのシャツなことを意外に思いながら、天音はバスタオルで全身を拭く。
用意されていたのは、そのシャツ、だけ。
いるかもしれない女性の存在を臭わせるようなものではない。 いや、もしかしたらこのシャツ、女性ものなのだろうか。
そう思いながら袖を通したが、これは間違いなく男物だ。
ブラもショーツも身につけておらずに、シャツだけ。 色物のストライプのシャツだったことが救いだ。
丈が大丈夫か、非常に気になる。 けれど、ここにバスタオルを巻き付けて出ていくのは不格好だろう。
非常に気になるけれど、天音は勇気を出して、脱衣所の扉を開けた。
そこには、来客用と思しきスリッパも用意されている。
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