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rainbows
clear blue sky②
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天音は凌士のことを、「漫画とか小説の中の【スパダリ】みたい」というけれど、凌士は自分がスパダリではないことを知っている。
でも、天音がそう言うのならそれで良いと思うし、その、天音の言う【スパダリ】な凌士を、凌士は無理に演じているつもりでもないからいいかな、という感じだ。
天音の笑顔が見たくて、天音に喜んでほしい。
そのことを考えて行動しているだけ。 非常にシンプルでもある。
天音と出逢えたこともそうだが、天音との結婚がすぐそこの見えるところまできたことが、凌士はとても嬉しい。
彼女が入社したときから、総務に可愛らしい子がいるな、とは思っていた。 けれど、なぜか彼女は凌士から一歩引いているようで、挨拶程度の言葉と、業務上必要最低限の言葉しか交わしたことがなかった。
いつの間にか、彼女の左手の薬指には、安っぽい、彼女が誰かのものであることを主張する指輪が嵌まっていて、彼氏ができたのを想像するのは簡単だった。
あんな安物の、彼氏彼女の延長のような指輪、天音には全く似合っていないというのに。
彼女が婚約したというような噂が耳に入ってきて、あのとき、凌士は自分が彼女に向ける思いが何かを知った。
年甲斐もなく、妬いた。
どこの誰ともしれない、相手に。
だから、あの日、偶然に出会った、あのチャンスは、逃せなかった。
彼女が、流されてくれるかどうかについては、十割の自信があったわけではない。
つけこむなら、今しかないと思った自分の思考は、【スパダリ】とは程遠いものだというのだけは、理解している。
替えの服を置きに行きながら、脱衣所の扉のついた棚に入っていたドライヤーは回収してきた。
彼女に触れる理由が欲しかったからだ。
ずっと見ていたから、天音がコーヒーよりも紅茶派なのは知っていた。
普段はストレートだが、疲れているときや一息入れたいときには、必ずミルクティーにしていることも。
凌士は紅茶よりもコーヒー派だったから、凌士の家には当然紅茶などなくて。
天音を浴室に案内して、着替えを用意してから、慌ててコンビニに車で走ったことなど、きっと天音は知らないだろう。
あの日、君を、ベッドに誘って、君が、俺を、拒まないでいてくれて、俺がどれだけ浮かれていたか、君は知らないだろう。
寝室の、ベッドで待っているようにと言い含めて、シャワーを浴びに行った浴室で、俺が一度抜いたことも、知らないはずだ。
結果、その判断が適切だったことを、凌士はそのすぐあとに、ベッドで知ることとなるのだけれど。
天音は色白で、むっちりしていて、天音には言わなかったけれど、凌士は天音の裸体を目にして、まずはじめになぜか、雪見大福を連想した。
少なくとも、凌士は好きだった。 実際、肌もいい匂いがするし、すべすべなのに弾力があって気持ちいい。 けれど、とても男ウケするだろうその身体を、天音がコンプレックスに思っているようなのは、知れた。
それはきっと、女性の好む女性の身体と、男の好む女性の身体が違うためだろう。
だから、凌士は、何度も天音に「可愛い」と言ったし、「好きだ」とも言った。 この上なく丁寧に、刻み込むように触れたし、天音が自分を好きになってくれたらいいと思って、抱いた。
その願いが通じたのか、天音は凌士の婚約者になったし、週末は互いの家を行き来するのが習慣となっている。
東田部長の呼び出しに始まった、憂鬱な一週間だったが、金曜日には家で天音が待ってくれていると思って頑張った。 そして今日、天ぷらと白和え、それからお吸い物を作って凌士を待っていてくれた天音を前にしたら、東田部長のことなんかどうでもよくなってしまった。
そうして、食事をして、先に天音に浴室を使ってもらって、自分も浴室を使い終えて出てきたのだが…。
天音がリビングのテレビの前で四つん這いに近い形になり、何かごそごそと探っている。
この前までは、凌士のシャツをパジャマ代わりに着ていた天音だが、夏にさしかかり、ホットパンツとタンクトップという姿で寝るようになった。
男の難しいところは、それを見て、可愛いとか似合うとかセクシーだだけでは終わらずに、むらっとしてしまうところにあると思う。 天音の言う、むっちりした身体、というのは、凌士の目には大人しそうな顔には似合わないセクシーな身体というように映る。
今だって、ふりふりと揺らされるお尻に、我慢を重ねている状態だ。 あのままの姿でいられては、自分の理性がふつっと切れて、天音の上にのしかかりかねない。
だから、凌士は深呼吸を繰り返して、自分が落ち着いたところで天音に声をかけた。
「何か捜し物?」
すると、天音はくるりと振り返って、絨毯を敷いた床に座った。
「凌士さんのお家って、本当に本もDVDもないですよね」
「DVDはないけど、本はあるよ。 読む?」
凌士が問うと、天音は少しだけ困った顔になった。
どういうことだろう、と考えていると、天音が視線を落として、少しだけ頬を染めてもごもごと口にする。
「あ、いえ、凌士さんがいつも読んでいるような、難しい本じゃなくて、その…」
一度言葉を切った天音は、目を潤ませて真っ赤になるが、観念したように言葉を紡いだ。
「えっちな、の」
でも、天音がそう言うのならそれで良いと思うし、その、天音の言う【スパダリ】な凌士を、凌士は無理に演じているつもりでもないからいいかな、という感じだ。
天音の笑顔が見たくて、天音に喜んでほしい。
そのことを考えて行動しているだけ。 非常にシンプルでもある。
天音と出逢えたこともそうだが、天音との結婚がすぐそこの見えるところまできたことが、凌士はとても嬉しい。
彼女が入社したときから、総務に可愛らしい子がいるな、とは思っていた。 けれど、なぜか彼女は凌士から一歩引いているようで、挨拶程度の言葉と、業務上必要最低限の言葉しか交わしたことがなかった。
いつの間にか、彼女の左手の薬指には、安っぽい、彼女が誰かのものであることを主張する指輪が嵌まっていて、彼氏ができたのを想像するのは簡単だった。
あんな安物の、彼氏彼女の延長のような指輪、天音には全く似合っていないというのに。
彼女が婚約したというような噂が耳に入ってきて、あのとき、凌士は自分が彼女に向ける思いが何かを知った。
年甲斐もなく、妬いた。
どこの誰ともしれない、相手に。
だから、あの日、偶然に出会った、あのチャンスは、逃せなかった。
彼女が、流されてくれるかどうかについては、十割の自信があったわけではない。
つけこむなら、今しかないと思った自分の思考は、【スパダリ】とは程遠いものだというのだけは、理解している。
替えの服を置きに行きながら、脱衣所の扉のついた棚に入っていたドライヤーは回収してきた。
彼女に触れる理由が欲しかったからだ。
ずっと見ていたから、天音がコーヒーよりも紅茶派なのは知っていた。
普段はストレートだが、疲れているときや一息入れたいときには、必ずミルクティーにしていることも。
凌士は紅茶よりもコーヒー派だったから、凌士の家には当然紅茶などなくて。
天音を浴室に案内して、着替えを用意してから、慌ててコンビニに車で走ったことなど、きっと天音は知らないだろう。
あの日、君を、ベッドに誘って、君が、俺を、拒まないでいてくれて、俺がどれだけ浮かれていたか、君は知らないだろう。
寝室の、ベッドで待っているようにと言い含めて、シャワーを浴びに行った浴室で、俺が一度抜いたことも、知らないはずだ。
結果、その判断が適切だったことを、凌士はそのすぐあとに、ベッドで知ることとなるのだけれど。
天音は色白で、むっちりしていて、天音には言わなかったけれど、凌士は天音の裸体を目にして、まずはじめになぜか、雪見大福を連想した。
少なくとも、凌士は好きだった。 実際、肌もいい匂いがするし、すべすべなのに弾力があって気持ちいい。 けれど、とても男ウケするだろうその身体を、天音がコンプレックスに思っているようなのは、知れた。
それはきっと、女性の好む女性の身体と、男の好む女性の身体が違うためだろう。
だから、凌士は、何度も天音に「可愛い」と言ったし、「好きだ」とも言った。 この上なく丁寧に、刻み込むように触れたし、天音が自分を好きになってくれたらいいと思って、抱いた。
その願いが通じたのか、天音は凌士の婚約者になったし、週末は互いの家を行き来するのが習慣となっている。
東田部長の呼び出しに始まった、憂鬱な一週間だったが、金曜日には家で天音が待ってくれていると思って頑張った。 そして今日、天ぷらと白和え、それからお吸い物を作って凌士を待っていてくれた天音を前にしたら、東田部長のことなんかどうでもよくなってしまった。
そうして、食事をして、先に天音に浴室を使ってもらって、自分も浴室を使い終えて出てきたのだが…。
天音がリビングのテレビの前で四つん這いに近い形になり、何かごそごそと探っている。
この前までは、凌士のシャツをパジャマ代わりに着ていた天音だが、夏にさしかかり、ホットパンツとタンクトップという姿で寝るようになった。
男の難しいところは、それを見て、可愛いとか似合うとかセクシーだだけでは終わらずに、むらっとしてしまうところにあると思う。 天音の言う、むっちりした身体、というのは、凌士の目には大人しそうな顔には似合わないセクシーな身体というように映る。
今だって、ふりふりと揺らされるお尻に、我慢を重ねている状態だ。 あのままの姿でいられては、自分の理性がふつっと切れて、天音の上にのしかかりかねない。
だから、凌士は深呼吸を繰り返して、自分が落ち着いたところで天音に声をかけた。
「何か捜し物?」
すると、天音はくるりと振り返って、絨毯を敷いた床に座った。
「凌士さんのお家って、本当に本もDVDもないですよね」
「DVDはないけど、本はあるよ。 読む?」
凌士が問うと、天音は少しだけ困った顔になった。
どういうことだろう、と考えていると、天音が視線を落として、少しだけ頬を染めてもごもごと口にする。
「あ、いえ、凌士さんがいつも読んでいるような、難しい本じゃなくて、その…」
一度言葉を切った天音は、目を潤ませて真っ赤になるが、観念したように言葉を紡いだ。
「えっちな、の」
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