【R18】紅の獅子は白き花を抱く

環名

文字の大きさ
上 下
27 / 97
紅の騎士は白き花を癒す

2.理由は、…たぶん、わかってる。

しおりを挟む
「早いうちに診てもらったほうがいいから。 何もなければ、それでいいんだし。 だから…ね?」

 諭すように、気遣うように言われて、リシェーナは泣きそうになる。
 リシェーナは、心を落ち着けようとぎゅっと目を瞑った。
 お腹の前で手を組んで、深く呼吸を繰り返す。

 覚悟、しなきゃいけない。
 甘えちゃ、いけない。
 こういうふうに優しいひとだから、こそ。 これ以上。

 本当は、最初からこうすればよかった。
 けれど、できなかったのは、ジオークの傍にいたいと思ってしまった、リシェーナの我儘だ。
 リシェーナは、決心して、目を開いた。
 ジオークを真っ直ぐに見つめることは、できなかったけれど。


「理由は、…たぶん、わかってる」


 自分で意図したよりも、静かな声が出た。
 一呼吸置いて、リシェーナは言った。


「妊娠、かも」


 ジオークが、どんな顔をしているかは、わからない。
 ただ、息を呑む気配だけが伝わった。


 ようやく、わかった。
 なぜ、離婚した女が、月が廻らなければ次の結婚を許されないのか。 それは、お腹の子どもの父親が誰かを、はっきりさせるためだったのだ。
 そして、リシェーナのお腹に子どもがいるとしたら、その父親は、キュビス・カージナル。


 居たたまれなくて、視線を床に落としたままのリシェーナは矢継ぎ早に口にした。
「月が、廻らない、の。 だから」
 早く、リシェーナの思いを口にして、ジオークに、お別れを―…。


 思うリシェーナの肩を、掴む手。
 ビクッとしてリシェーナが顔を上げると、顔を辛そうに歪めたジオークが、いた。


「そんな大切なこと、どうして、もっと早く言ってくれなかったの」


 その表情に、リシェーナの胸は痛む。
 ジオークの表情は、哀しそうな、苦しそうなものになった。

「おれの子じゃないから? おれが、堕ろせ、って言うとでも思った?」
「ちがうっ…」
 リシェーナは思わず声を上げた。


 言えなかった理由は、もっと複雑な気がする。
 けれど、自分でもよくわからないそれを、誰かに説明することもできなくて。 リシェーナはよくわからない自分の心情よりも、考えて結論を出したことを伝えてしまおうと、口を開きかけた。
 だが、それよりも先に、ジオークが訊いてきた。


「リシェは産むつもりなんだね?」


「…うん」
 リシェーナは、目を伏せて、静かに告げる。
 そして、ぱっと顔を上げる。
「だから、ね。 わたしっ…!?」

 考えていたことを、口にすることはできなかった。
 ジオークが、問答無用でリシェーナを抱き上げたからだ。

「あ、あなたっ…!?」
「暴れないで。 落としたら大変だから」
 食事が途中だったのも忘れたのか、ジオークはリシェーナを抱きかかえたままでダイニングを出て、階段を上って行く。
 リシェーナの部屋の扉を器用に開くと、ジオークは優しくリシェーナをベッドに下ろした。
 一体どういうことかとリシェーナが混乱していると、ジオークは真剣な顔をして、言った。

「じゃ、なおさらお医者さん」
「え…?」
 リシェーナが、ぱちくりとしてしまったのも、無理のないことだろう。
「ちゃんと診てもらわなくちゃ、駄目だよ」
 言いながら、ジオークはリシェーナに布団をかける。

「ここにいて。 お医者さん呼んでくるから」
 言うが早いか、ジオークはリシェーナの部屋から出て行ってしまう。
 言いたいことの半分も言えなかったリシェーナは、ベッドの中で呆然としているしかなかったのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:24,602pt お気に入り:1,407

お飾り公爵夫人の憂鬱

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,062pt お気に入り:1,827

まるで裏稼業の騎士様にでろっでろに甘やかされる話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:280

イアン・ラッセルは婚約破棄したい

BL / 完結 24h.ポイント:30,785pt お気に入り:1,599

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

BL / 連載中 24h.ポイント:6,652pt お気に入り:2,723

処理中です...