3 / 42
第1章 サンドリヨンが王子様に捕まるまで
2.サンドリヨンはひとりの時間を満喫しています。
しおりを挟む
久しぶりに、アシュリーが自分のためにラザニアを作った。
今は亡き母は、アシュリーの好きなラザニアを必ず、アシュリーの誕生日に作ってくれた。 アシュリーにとってラザニアは、特別な日に食べる特別なもの。
だからアシュリーは、継母や継姉たちのためにそれを作ったことはない。
今日は、久しぶりに訪れた、特別な日だった。
いつもは追われるようにして終える食事を、今日はゆったりと味わって、時間をかけて終えた。
食事の片づけをして、父の部屋へと向かう。
父の部屋の鍵は、父がアシュリーに預けてくれたものだ。 このことは、アシュリーと父だけの秘密。
たまに片づけをしてもらえると助かる、そう言われて預けられた父の部屋の鍵が、アシュリーにとっての救いだ。
父の部屋には、父専用の浴室がある。
本当は、父の部屋は父と母の部屋だった。 父は、絶対にこの部屋に、継母のことは入れない。
そのことでも、アシュリーは救われている。
お湯を、バスタブいっぱいに溜めて、身を沈める。
アシュリーの体重分、温かいお湯がバスタブの縁から零れて流れていったが、たまにの贅沢なので許されるだろう。
肩までお湯に浸かった後で、頭の天辺までお湯に沈む。
三つ数えて、ざぱりと顔を出し、手で顔を拭う。
「はぁぁ~…」
無意識に、溜息が漏れた。 そしてもう一度、ずるずると肩まで湯に沈む。
腰まである長い髪が水に漂っているのが見えて、アシュリーは自分の髪を一房、指先で掬った。
その色彩を、じっと見つめる。
【灰かぶり】。
継母や継姉たちが、アシュリーのことをそう呼ぶ理由が、この髪の色にあることは知っている。
淡い、淡い、限りなく白に近い金の髪。
光を弾き、光の加減で部分的に色が違って見えるその様子が、灰を被ったように見えるのだということだ。
けれど、アシュリーはこの髪の色が嫌いではない。
むしろ、自分の身体のなかで一番気に入っている。
母が、「アシュリーの髪はきらきら光って、光を弾く雪原のようで綺麗ね。 アシュリーの髪は雲母色って言うのよ」といつだって褒めてくれた色だから。
父の、目映いばかりの金髪と、母の灰銀の髪、両方が合わさったようなその色は、アシュリーが父と母の子どもである証のようでもあった。 瞳の色だって、父と同じゼニス・ブルーで、どうして父の親族がアシュリーの出自を疑ったのか幼い頃はわからなかった。
だが、今ならば、わかる。
問題視されたのは、アシュリーの出自ではなく、母の出自だったのだ。
父の家の使用人の娘であり、同じく使用人として働いていた母を、父は周囲の反対を押し切って妻とした。 魔力を持っていればまだ良かったのかもしれないが、魔力のない母は、貴族の妻としては不適格以外の何物でもなかったのだ。
アシュリーは、無意識のうちに、眉間に皺を寄せる。
……大好きな母のことだけでなく、嫌なことまで思い出してしまった。
そのことを流すように、アシュリーは、いつもより時間をかけて湯に浸かり、全身を洗って温まって浴室を後にする。
父の部屋の時計は九時を少し過ぎたところだった。
今ベッドに入れば、少なくとも三時間は仮眠を取れるだろう。
継母や継姉たちが舞踏会の終える十二時ぴったりに帰宅することはないし、この世界は共通の法で日常生活における移動魔法の禁止が決められている。
違反すれば、どこからともなく100%の確率で国お抱えの魔術師なり魔法騎士なりが、やって来るという。 因みに、国の名の下に許可の与えられた魔術師や魔法騎士については、職務における移動魔法の使用は認められているらしい。
さて、話は戻って、移動魔法の使用が許可されていない継母たちは城から馬車で帰宅する。
城から家まで三十分はかかるから、アシュリーは十二時に起きれば、問題なくあの親子を迎えられる。
そう計算しながら、アシュリーが父の部屋の鍵を閉めて、自室――というか、屋根裏部屋――の方向に向き直ったときだ。
「可愛いお嬢さん、お城の王子のお妃を決める舞踏会に行ってみたくはない?」
自分以外、誰もいないはずの屋敷に、艶やかな女性の声が響いたのである。
今は亡き母は、アシュリーの好きなラザニアを必ず、アシュリーの誕生日に作ってくれた。 アシュリーにとってラザニアは、特別な日に食べる特別なもの。
だからアシュリーは、継母や継姉たちのためにそれを作ったことはない。
今日は、久しぶりに訪れた、特別な日だった。
いつもは追われるようにして終える食事を、今日はゆったりと味わって、時間をかけて終えた。
食事の片づけをして、父の部屋へと向かう。
父の部屋の鍵は、父がアシュリーに預けてくれたものだ。 このことは、アシュリーと父だけの秘密。
たまに片づけをしてもらえると助かる、そう言われて預けられた父の部屋の鍵が、アシュリーにとっての救いだ。
父の部屋には、父専用の浴室がある。
本当は、父の部屋は父と母の部屋だった。 父は、絶対にこの部屋に、継母のことは入れない。
そのことでも、アシュリーは救われている。
お湯を、バスタブいっぱいに溜めて、身を沈める。
アシュリーの体重分、温かいお湯がバスタブの縁から零れて流れていったが、たまにの贅沢なので許されるだろう。
肩までお湯に浸かった後で、頭の天辺までお湯に沈む。
三つ数えて、ざぱりと顔を出し、手で顔を拭う。
「はぁぁ~…」
無意識に、溜息が漏れた。 そしてもう一度、ずるずると肩まで湯に沈む。
腰まである長い髪が水に漂っているのが見えて、アシュリーは自分の髪を一房、指先で掬った。
その色彩を、じっと見つめる。
【灰かぶり】。
継母や継姉たちが、アシュリーのことをそう呼ぶ理由が、この髪の色にあることは知っている。
淡い、淡い、限りなく白に近い金の髪。
光を弾き、光の加減で部分的に色が違って見えるその様子が、灰を被ったように見えるのだということだ。
けれど、アシュリーはこの髪の色が嫌いではない。
むしろ、自分の身体のなかで一番気に入っている。
母が、「アシュリーの髪はきらきら光って、光を弾く雪原のようで綺麗ね。 アシュリーの髪は雲母色って言うのよ」といつだって褒めてくれた色だから。
父の、目映いばかりの金髪と、母の灰銀の髪、両方が合わさったようなその色は、アシュリーが父と母の子どもである証のようでもあった。 瞳の色だって、父と同じゼニス・ブルーで、どうして父の親族がアシュリーの出自を疑ったのか幼い頃はわからなかった。
だが、今ならば、わかる。
問題視されたのは、アシュリーの出自ではなく、母の出自だったのだ。
父の家の使用人の娘であり、同じく使用人として働いていた母を、父は周囲の反対を押し切って妻とした。 魔力を持っていればまだ良かったのかもしれないが、魔力のない母は、貴族の妻としては不適格以外の何物でもなかったのだ。
アシュリーは、無意識のうちに、眉間に皺を寄せる。
……大好きな母のことだけでなく、嫌なことまで思い出してしまった。
そのことを流すように、アシュリーは、いつもより時間をかけて湯に浸かり、全身を洗って温まって浴室を後にする。
父の部屋の時計は九時を少し過ぎたところだった。
今ベッドに入れば、少なくとも三時間は仮眠を取れるだろう。
継母や継姉たちが舞踏会の終える十二時ぴったりに帰宅することはないし、この世界は共通の法で日常生活における移動魔法の禁止が決められている。
違反すれば、どこからともなく100%の確率で国お抱えの魔術師なり魔法騎士なりが、やって来るという。 因みに、国の名の下に許可の与えられた魔術師や魔法騎士については、職務における移動魔法の使用は認められているらしい。
さて、話は戻って、移動魔法の使用が許可されていない継母たちは城から馬車で帰宅する。
城から家まで三十分はかかるから、アシュリーは十二時に起きれば、問題なくあの親子を迎えられる。
そう計算しながら、アシュリーが父の部屋の鍵を閉めて、自室――というか、屋根裏部屋――の方向に向き直ったときだ。
「可愛いお嬢さん、お城の王子のお妃を決める舞踏会に行ってみたくはない?」
自分以外、誰もいないはずの屋敷に、艶やかな女性の声が響いたのである。
4
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
他サイト様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる