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第1章 サンドリヨンが王子様に捕まるまで
3.サンドリヨンは×××です。
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「可愛いお嬢さん、お城の王子のお妃を決める舞踏会に行ってみたくはない?」
自分以外、誰もいないはずの屋敷に響いた艶やかな声に、アシュリーは目を見張る。
次いで、ぱっと目の前に現われたのは、黒ずくめの、美女だった。
驚いて一歩後退りつつも、アシュリーは目の前に現われたその女性について考察する。
腰まで届く、長い黒髪は艶やかな漆黒で、まるで星空のよう。 毛量もほどよいのだろう。 頭髪が重いという印象は与えない、本当に流れるような髪――それを無造作に下ろしている。
切れ長の瞳なのだが、縁取る睫毛が長い。 そのためか、【きつい】というよりは【凜とした】という言葉の方が、その女性には似合う気がした。
瞳は黒曜石の如く、肌は石膏のように滑らかな白。
白と黒のコントラストが際立ちすぎて現実味がないというのになぜか、圧倒的な存在感を持つ人だった。
どちらかといえば、身体のラインが際立つような漆黒の衣服――スカートではなく、パンツ――を身につけていて、無駄のない均整のとれた身体つきなのが一目でわかる。
容貌だけ見れば、美女であり、怪しくも何ともないが、彼女がここにいること、それが問題だ。
継母や継姉たちは、きっとアシュリーのことはどうでもいいのだろうが、家の家財など金目のものが持って行かれるのは困ると家全体に警戒網を張っているはずなのだ。
それに引っかからなかったということは、恐らくこの女性は、魔術師。
それも、継母や継姉たちよりも上位に位置する。
警戒心の強い彼女たちは、万一彼女たちの警戒網を突破されたときのために、保険をかけている。
それはもちろん、アシュリーのためではなく、この家の家財や金目のもののためだ。
魔力のない者は、声に魔力を宿らせることもできず、魔法騎士への通報もできない。
だから、アシュリーの喉――声帯の位置には、継母の施した紋章がある。
それに、触れて、通報の呪いを口にする。
「コード・ゼロ」
以前、一度だけ口にしたことのある呪文は、口にすれば口にした場所から、花火のようなものが上がる。 そうすれば、一・二分もしないうちに、管轄の魔法騎士が駆けつけてくれる。
なのに、花火の音も聞こえなければ、魔法騎士が駆けつけてくる気配もない。
今日が王子の妃選びの舞踏会とは言っても、彼らが業務を疎かにするはずはないのに。
「どうして…」
疑問が口から零れると、ジッとアシュリーを観察していた漆黒の美女が、緩く首を揺らした。
「魔力のない、【見捨てられし子】というのは本当のようだね。 場の空気の変化に、気づかないの?」
高音ではない。
中音域とのぎりぎりの境くらいな、けれども凜として通る声。
それが、無感動に紡いだ言葉の、意味がわからない。
「どういう、ことですか」
この美女が、本当の本当に悪いひとなら、死亡フラグが立っている。
けれど、アシュリーは不思議なほどに動じていない。 それは、この世に、残す未練が思いつかないからなのか。
驚きはしたが、怖れないままに、アシュリーは尋ねていた。
「お粗末な網が張ってあったね。 その網と同化してしまえば、私は内部の者と認識される。 一時的にだけれど、その警戒網の内側に、私が壁を造った。 だから、君の声は外には届かない」
美女はすらすらと、アシュリーの問いへと思しき答えを返してくれるが、アシュリーには理解の出来ない話だった。 これが、魔力を持っていてきちんと魔力に関する教育も受けている継姉たちだったならまた話は別だっただろうけれど。 魔力に関する教育は、魔力を持たないアシュリーは受ける必要がなかったために、わからないことのほうが多いのだ。
だから、魔法に関する質問はせずに、別の質問をすることにした。
「それで、私をどうするおつもりですか?」
「言ったはずだよ。 お城の王子のお妃を決める舞踏会に行ってみたくはない?」
間髪入れずに戻ってきた答えは、確かに彼女が真っ先にアシュリーに尋ねてきた内容だった。
お城の王子のお妃を決める舞踏会に、行ってみたくはない?
その問いに、答えを返せば、彼女は満足なのだろうか。
「行きたいとは思いません。 興味がありませんので。 それよりも私は早く仮眠を取りたいと思います」
そう、まずは仮眠だ。
それから、継母や継姉たちを出迎えないと、大変なことになる。
アシュリーが断言すると、美女はひとつ息をついて、ぼそりと呟いた。
「…不憫だね、あいつ」
「あの、どういうことですか?」
あいつ、と誰かを指した言葉に、湧いたのは疑問と少しの興味。 だから、説明を求めたのだと思う。
美女は少し長めの前髪を掻き上げるようにしながら、苛々とした様子で目を伏せた。
「来るはずの君が、いつになっても姿を現さないから、私が迎えに行くようにと頼まれたんだよ。 いい迷惑だとは思わない? 君だって、女の子なら少しは興味があると思うんだけど」
今彼女が口にしたように、本当に彼女はいい迷惑だと思っているのだろう。
彼女の眉間には皺が刻まれているし、苛立ちが言葉の端々に棘となって見え隠れする。
どうやら、彼女は誰かに頼まれて、気は進まないながらもここにアシュリーを迎えに来てくれたらしい。
確か、今日の舞踏会は、王都中の年頃の娘全員に招待状が配られたと聞いている。
その中の全員が全員、舞踏会に行くとも思えないのだが、行かなかった人間をピックアップして宮廷魔術師たちが迎えにでも行っているのだろうか。
それは、本当にいい迷惑だろう。
アシュリーは肩を竦める。
言おうか、どうか、迷ったのは一瞬。
どうして、アシュリーの秘密を、彼女に告げようと思ったのかは、わからない。
けれど、気づいたときには言葉になっていたのだから、仕方がないだろう。
「というか、本当に興味がないんです。 私、男だから」
自分以外、誰もいないはずの屋敷に響いた艶やかな声に、アシュリーは目を見張る。
次いで、ぱっと目の前に現われたのは、黒ずくめの、美女だった。
驚いて一歩後退りつつも、アシュリーは目の前に現われたその女性について考察する。
腰まで届く、長い黒髪は艶やかな漆黒で、まるで星空のよう。 毛量もほどよいのだろう。 頭髪が重いという印象は与えない、本当に流れるような髪――それを無造作に下ろしている。
切れ長の瞳なのだが、縁取る睫毛が長い。 そのためか、【きつい】というよりは【凜とした】という言葉の方が、その女性には似合う気がした。
瞳は黒曜石の如く、肌は石膏のように滑らかな白。
白と黒のコントラストが際立ちすぎて現実味がないというのになぜか、圧倒的な存在感を持つ人だった。
どちらかといえば、身体のラインが際立つような漆黒の衣服――スカートではなく、パンツ――を身につけていて、無駄のない均整のとれた身体つきなのが一目でわかる。
容貌だけ見れば、美女であり、怪しくも何ともないが、彼女がここにいること、それが問題だ。
継母や継姉たちは、きっとアシュリーのことはどうでもいいのだろうが、家の家財など金目のものが持って行かれるのは困ると家全体に警戒網を張っているはずなのだ。
それに引っかからなかったということは、恐らくこの女性は、魔術師。
それも、継母や継姉たちよりも上位に位置する。
警戒心の強い彼女たちは、万一彼女たちの警戒網を突破されたときのために、保険をかけている。
それはもちろん、アシュリーのためではなく、この家の家財や金目のもののためだ。
魔力のない者は、声に魔力を宿らせることもできず、魔法騎士への通報もできない。
だから、アシュリーの喉――声帯の位置には、継母の施した紋章がある。
それに、触れて、通報の呪いを口にする。
「コード・ゼロ」
以前、一度だけ口にしたことのある呪文は、口にすれば口にした場所から、花火のようなものが上がる。 そうすれば、一・二分もしないうちに、管轄の魔法騎士が駆けつけてくれる。
なのに、花火の音も聞こえなければ、魔法騎士が駆けつけてくる気配もない。
今日が王子の妃選びの舞踏会とは言っても、彼らが業務を疎かにするはずはないのに。
「どうして…」
疑問が口から零れると、ジッとアシュリーを観察していた漆黒の美女が、緩く首を揺らした。
「魔力のない、【見捨てられし子】というのは本当のようだね。 場の空気の変化に、気づかないの?」
高音ではない。
中音域とのぎりぎりの境くらいな、けれども凜として通る声。
それが、無感動に紡いだ言葉の、意味がわからない。
「どういう、ことですか」
この美女が、本当の本当に悪いひとなら、死亡フラグが立っている。
けれど、アシュリーは不思議なほどに動じていない。 それは、この世に、残す未練が思いつかないからなのか。
驚きはしたが、怖れないままに、アシュリーは尋ねていた。
「お粗末な網が張ってあったね。 その網と同化してしまえば、私は内部の者と認識される。 一時的にだけれど、その警戒網の内側に、私が壁を造った。 だから、君の声は外には届かない」
美女はすらすらと、アシュリーの問いへと思しき答えを返してくれるが、アシュリーには理解の出来ない話だった。 これが、魔力を持っていてきちんと魔力に関する教育も受けている継姉たちだったならまた話は別だっただろうけれど。 魔力に関する教育は、魔力を持たないアシュリーは受ける必要がなかったために、わからないことのほうが多いのだ。
だから、魔法に関する質問はせずに、別の質問をすることにした。
「それで、私をどうするおつもりですか?」
「言ったはずだよ。 お城の王子のお妃を決める舞踏会に行ってみたくはない?」
間髪入れずに戻ってきた答えは、確かに彼女が真っ先にアシュリーに尋ねてきた内容だった。
お城の王子のお妃を決める舞踏会に、行ってみたくはない?
その問いに、答えを返せば、彼女は満足なのだろうか。
「行きたいとは思いません。 興味がありませんので。 それよりも私は早く仮眠を取りたいと思います」
そう、まずは仮眠だ。
それから、継母や継姉たちを出迎えないと、大変なことになる。
アシュリーが断言すると、美女はひとつ息をついて、ぼそりと呟いた。
「…不憫だね、あいつ」
「あの、どういうことですか?」
あいつ、と誰かを指した言葉に、湧いたのは疑問と少しの興味。 だから、説明を求めたのだと思う。
美女は少し長めの前髪を掻き上げるようにしながら、苛々とした様子で目を伏せた。
「来るはずの君が、いつになっても姿を現さないから、私が迎えに行くようにと頼まれたんだよ。 いい迷惑だとは思わない? 君だって、女の子なら少しは興味があると思うんだけど」
今彼女が口にしたように、本当に彼女はいい迷惑だと思っているのだろう。
彼女の眉間には皺が刻まれているし、苛立ちが言葉の端々に棘となって見え隠れする。
どうやら、彼女は誰かに頼まれて、気は進まないながらもここにアシュリーを迎えに来てくれたらしい。
確か、今日の舞踏会は、王都中の年頃の娘全員に招待状が配られたと聞いている。
その中の全員が全員、舞踏会に行くとも思えないのだが、行かなかった人間をピックアップして宮廷魔術師たちが迎えにでも行っているのだろうか。
それは、本当にいい迷惑だろう。
アシュリーは肩を竦める。
言おうか、どうか、迷ったのは一瞬。
どうして、アシュリーの秘密を、彼女に告げようと思ったのかは、わからない。
けれど、気づいたときには言葉になっていたのだから、仕方がないだろう。
「というか、本当に興味がないんです。 私、男だから」
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