【R18】サンドリヨンの秘密

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第2章 サンドリヨンが王子様に捕まってから

1,000回カウンターの呪い。

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「アシュリー、君、あいつにおかしな魔法かけられてるね。 それ、同意の上?」

 未だ男性の姿に戻れていないオリヴィエは、アシュリーのことを【義姉】というよりも【友人】という認識でいるらしく、こうやっておもにはクレイディオの目を盗んで会いに来る。
 あまり、アシュリーがオリヴィエと親しくしていると、クレイディオが妬くからだ。

 その結果、各方面に少しずつだが迷惑が掛かっているのを知っているし、夜はアシュリーが酷い目に遭う。
 身体を痛めつけられたり、暴言を吐かれたりするわけではないのだが、まぁ、あの王子サマは色々と執拗になるのだ。 それから、クレイディオのおねだりに対するアシュリーの拒否権がなくなる。

 オリヴィエがアシュリーに微塵も恋愛感情めいたものを持っていないのを理解していても、そう上手く割り切れないのだと、クレイディオは言う。
 そこは、上手く割り切ってくれと声を大にして言いたい。

 アシュリーとしては、オリヴィエは寂しがり屋で色々と不器用なのだと考えている。
 漠然とした孤独を感じていて、上手な甘え方を知らないのだろう、と。
 アシュリーに対してオリヴィエが抱く親近感は、同族意識のようなものなのだろう。

 さて、話を戻そう。
 アシュリーは、オリヴィエの言うあいつ――クレイディオにいくつかの魔法をかけられている。

 アシュリーの身に害があるような魔法はひとつもなかったはずなのだけれど…、さて、オリヴィエはどの魔法のことを言っているのだろう。

 オリヴィエは、椅子に腰かけているアシュリーの前までやって来ると、脚は曲げずに腰から上体だけを折って、まじまじとアシュリーの腹部を見つめた。
「初めて見る魔法式だね。 カウンターが入ってる? …時限爆弾か何か?」

 【カウンター】、【時限爆弾】という言葉に、アシュリーは当該魔法が何の魔法か見当をつけるとともに、笑ってしまった。
「時限爆弾ではありませんよ」
「じゃあ、何?」


「アシュリーと私の子ができるまでのカウントダウンだよ」


 突如聞こえた声は、クレイディオのもので、オリヴィエは驚いた様子で振り返った。
 アシュリーはもう、慣れてしまったので特段驚きはしない。
 クレイディオが急に現れるのはいつものことだ。

 それにしても、今日も完璧な闇属性の王子様っぷりだ。
 アシュリーの夫は、このオキデンシアの王太子殿下である。
 容貌は甘く、美しく、どちらかと言えば、色っぽい顔立ちだったのだな、と最近アシュリーは気づいた。
 物腰はスマートであるが、どこか一線を置いたようなクールな部分もあるひとだったのだが、その原因を理解したのは最近だ。


 この王子サマ、こんな顔をしておいて、アシュリーが初めての相手だったらしい。
 つまりは、童貞サマだったのだ。


 アシュリーで童貞を捨てた王子サマは、色っぽい容貌の上に雰囲気にも色っぽさが加わり、周囲を困らせているらしいが、本人にその自覚はない。
 上機嫌のクレイディオのバックに、アシュリーはたびたび咲き乱れる黒薔薇を見てきたが、クレイディオが童貞を捨ててからは黒薔薇の幻影を見るだけでなく、香りまで漂うような気がしている。


 そのクレイディオを、以前に【常軌を逸した】【頭おかしい】と表現していたオリヴィエは、またもや【こいつ頭おかしい】と顔に書いている。


「は…? 何言ってるの、兄上? アシュリーは男だよ」
「それでも私はアシュリーとの子どもが欲しいから、この魔法をかけたんだよ」
 常識では考えられないようなことを、まるで常識のように語るのが、このクレイディオという男だ。
 だから、自分たちの方が間違えているのではないかと錯覚させられることが往々にしてあるのだが、やはりおかしいのはクレイディオの方なのだ。


「アシュリーの体内に、私が1000回精を注げば、アシュリーは懐妊するという魔法だよ」


「は」
「クレイディオ!」
 オリヴィエは驚きに目を見張っているが、アシュリーはオリヴィエの様子に注意を払うどころではなかった。
 なんてことをさらりと口にするのだろう、この男は!


 慌ててクレイディオの名前を呼んだ自分の声には、羞恥と非難が滲んだと思うのだが、クレイディオは微笑むのみだ。
「アシュリーは照れ屋さんだね。 ごめんね、恥ずかしがらせて。 でも、その、照れて恥ずかしがって可愛い顔は、私以外に見せなくてもいいよね」
 クレイディオが言い終えた瞬間、アシュリーの肌がぞわっと粟立った。


 このクレイディオは、外面も闇属性の王子サマだが、中身は闇属性の部分がもっとずっと強烈なのだ。
 独占欲は強いし、嫉妬深い。
 それから、自己中心的で、ごめんねと言いつつ悪びれていることはほとんどない。

 こうやって上げ連ねると、果たして自分はクレイディオのどこが好きなのだろう、と自問するが、反射の速度で答えが返ってくる自分にも驚く。
 アシュリーという存在を肯定して、認めてくれるところ。
 男とか女とかではなく、アシュリーという存在にのみ、執着してくれているところだ。


 結局、アシュリーが渇望している部分に、クレイディオがぴったりとあてはまったということなのだろう。


 そんなことを考えるアシュリーの耳に、オリヴィエの深いため息が届いた。
「あのさ、兄上はそれでいいかもしれないけど、例えばアシュリーの身体に何かあったら兄上、一生後悔するんじゃないの。 それって、魔法っていうより、呪いって言って差し支えないと思う」
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