オカルト王子と拝み屋と最強×××なアイツ

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13.顔のない男

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 将臣マサオミは、急にハッとしたように姿勢を正すと、きょろきょろと周囲を確認する。
「…どした?」
「ねぇ、玄奘ゲンジョウ。 ナギリもういない?」


 将臣の問いに、俺は室内を見回す。
 俺に認知できる範囲に、ナギリの気配はない。
 ほぼ四六時中将臣にべったりのナギリだが、こと入来院イリキイン家においては、守護が万全のために、ふらっと将臣の傍を離れることもある。


「ああ」
 ナギリが今は周囲にいないことを肯定したのだが、将臣はもう一度室内を見回す。
 見えないくせに何をしているんだ、と思わないこともないが、それで将臣が安心するのならいいだろう。
 ベッドの下なども確認した後で、将臣は俺の隣に座り直した。


 そこまで慎重になるということは、これから将臣は、ナギリに聞かれたくない話をするのだろう。
 いや、聞かせたくない、だろうか。


 恋話こいばなか?
 そう思った俺の隣で、将臣はひとつ、深く息をして、口を開いた。


「最近僕、変な夢、見るんだよ」


「…夢?」
 予想だにしなかった単語だった。


「んー…。 最初、心霊現象来た!? ってめっちゃテンション上がったんだけどさ、あれ、多分、違うんだよ。 だって、僕に近づくそういうのって、ナギリが追い払うはずじゃない」


 いつもより、トーンが低めの将臣が、体育座りで膝に顎をくっつけて、静かに口にする。
 確かに、将臣の言う通りだ。
 将臣に近づく悪霊の類は、ナギリが問答無用で消滅させるのだ。
 将臣に近づきようがない。


「確かに」
 俺が、将臣の発言を肯定すれば、将臣はパッと顔を上げてあからさまに安堵した表情になった。


 それで、俺は合点がいく。
 将臣が、ナギリが近くにいるかどうかを、ことさらに気にしていたのは、そういうわけか。
 将臣が変な夢を見ることが、悪霊だとかのためであれば、【殿】をお守りすることに命をかけているナギリが役目を果たせていないと傷つくかもしれないと考えたのだろう。
 優しいのは、将臣みたいなのを言うんだよなぁ。
 いい子に育ったものだ、と思っていると、将臣は再び口を開く。


「だから、きっと、あれって僕の好きなオカルトじゃないんだ、って思ったら、…ちょっと気味悪い」


 最後のトーンが、あからさまに落ちた。
 だから俺も、将臣の見る夢が、ただの夢ではないのではないかと、気になったのだ。
「どんな夢だ?」


「………顔のない、男の夢」


 ぽそり、と将臣は、小さな声で告げた。
 俺は、その言葉をただ繰り返す。
「顔のない男?」

 将臣は、俺をちらりと見て、こくりと小さく頷くと、再び体育座りの膝に顎をくっつけて、膝を抱えた。
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