咲いても散らぬ、恋の花。

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<閑話>国王と紅の獅子

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「それで、おれはどうして呼び戻されたのでしょう?」


 王家の紋章の入った馬車により連れ去られたリシェーナを家まで送り、王都騎士団の詰所に戻ったジオークだったが、国王陛下がお呼びだというので執務室に向かった。
 つい先ほど、「お前は業務中のはずだから、敢えて私はお前を呼ばなかった」と言っていなかっただろうか、このひとは。それとも、ジオークの記憶違いだろうか。

 執務机に肘をついて両手を重ね、そこに額を預けて顔を伏せている国王は、だんまりを決め込んでいる。
 退室してもいいだろうか、とジオークが考え始めた頃、ふーっと重く深いため息が聞こえた。


「エドの女性の趣味がまともなことに、安堵していると言えば安堵しているのだが…」


 また、突拍子もなく、よくわからないことを言い始めたが、国王らしいといえば国王らしい。
 通常運行の範囲内なので、ジオークは相槌を打つ。
「妃殿下、強烈ですからね」

 国王の正妃で今や唯一の妃であるアンネローゼ妃殿下は、傍目に見る分にはとても愉快な人物だ。
 だが、妃殿下は猫かぶりが非常に達者なようで、ジオークも通訳兼護衛として国王夫妻のディストニア行きに随行することがなければ、妃殿下の特殊さには気づかなかっただろう。

 国王も最初は、妃殿下について「一歩引いて見るくらいが愉快でいい」と言っていたのだが、現在は渦に巻かれて渦中にいる。
 知らぬは本人ばかりなり…、というか、国王は自身の言動が多少妃殿下に影響されていることに気づいていない。
 恐ろしいことだ。


 自分もそうならないように気をつけよう、と肝に銘じるジオークの耳に、溜息に塗れた国王の声が届いた。
「…初恋が人妻か…、前途多難だ」


 見れば、国王は机に肘をついたままで、完全に顔を手で覆ってしまっている。
 何をそんなにダメージを受けているのだろう。


「そんなに深刻に考えることもないでしょう。 憧憬に近い感情ですよ、きっと」


 確かに、殿下はリシェーナを気に入ったようだが、ジオークにとってはそれ以上でも以下でもない。
 ジオークがリシェーナの宮仕えに難色を示したのは、リシェーナにちょっかいをかける男共が出てくるかもしれないという心配からで、殿下のことは者の数にも入っていないのが現状だ。


 殿下はまだ幼くていらっしゃるし、例えば成長したとしても、女性に無理強いをするタイプではない。
 そういった意味において、ジオークは王族に連なる男性たちは自制心が働き、立派だと思っている。


 だが、殿下の父である国王は、何がそんなに懸念なのだが、手で顔を覆ったままだ。
「…だとよいのだが…。 息子は周囲の大人にも、同じ年ごろの女の子にも、ああいった反応を示したことはないんだ…。 それが、人妻…、それも、お前の細君相手に…」
 ついには、肘をついた姿勢も維持できなくなったようで、手で顔を覆ったまま机に突っ伏した。


 さて、どうしたものか、と考えて、ジオークはふと閃く。
 何気ないふりを装って、今の国王に一番効果的であろう言葉を投げた。


「でも、陛下。 貴方今更、殿下に『ブラッドベル夫人には教師を辞めてもらう』なんて言えないでしょう?」
「言えるわけがないだろう!? 推しの笑顔が生きる活力なんだ!!!」
 手を机に置き忘れ、がばりと勢いよく顔を上げた国王からは、ジオークの予想を上回る反応が返ってきた。
 推しってなんだ、と思いながら、ジオークはうっすら涙目の国王に、気持ち数歩引きながら、一言注意申し上げることにする。


「…妃殿下や閣下だけでなく、おれにもわかる言葉を話していただけますか」
 国王とアンネローゼ妃殿下の婚姻から七年余り。
 妃殿下と結婚する前は、国王は面白いだけのひとだと思っていたのだが、妃殿下と結婚した後は、面白可笑しいひとになった、というのがジオークの嘘偽りない感想である。

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