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エドゥアール、7歳→8歳 ②
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「では、食事を始めようか、エド。 ジオークも夫人もかけるといい」
そこで、父が見計らったように声を掛けてきた。気づけば、ロワおじさまがすぐ近くにいて、エドゥアールに手を伸べてくれる。
「殿下、お預かりしましょう」
「…ありがとうございます、ロワおじさま」
エドゥアールは少し考えて、箱に視線を落としたけれど、この箱を食卓の上に置いて食事をするのも無作法だろう。 そう判断して、エドゥアールはリシェーナからもらったプレゼントをロワおじさまに預けた。
そうしている間に、紅の獅子とリシェーナは食事の席に近づいたようだ。
紅の獅子が、リシェーナの先回りをして、椅子を引き、リシェーナにエドゥアールの隣の席を勧める。
「はい、リシェ、座って」
「ありがとう」
リシェーナは嬉しそうに微笑んで、椅子に座る。 紅の獅子はリシェーナの隣――つまりは、リシェーナを挟んでエドゥアールの反対側に腰かけた。
その様子を見ていて、エドゥアールは思った。
リシェーナにすごいと思ってもらえるだけではなくて、頼ってもらえる男になりたいし、かっこいいと思ってもらえる男になりたい、と。
慌しく自分の席に戻りながら、エドゥアールは父をちらと見た。
「…父上、ありがとうございます」
父は柔らかく目だけで、笑んでくれる。
父がエドゥアールの感謝を受け止めてくれたことは、それだけで十分に理解できた。
リシェーナは、こういった食事には慣れていないようだったが、隣に紅の獅子がいてアドバイスをしているからか緊張した様子もなく食事をしていた。
もともと、器用なのだろうか。
ナイフやフォークを口に運ぶ様子もスムーズだ。
デザートまで食べ終えたとき、そっと口元をナプキンで拭った紅の獅子が、改まった様子で口を開いた。
「陛下、妻の身体のことなのですが」
リシェーナの身体のこと、と言われて、エドゥアールはきょとんとしてしまった。
口に運びかけた、タルトを刺したフォークを皿に戻す。
リシェーナの身体が、一体どうしたというのだろう。
紅の獅子の言葉は、次のように続いた。
「当面、殿下の語学の教師のお勤めは、休ませていただけたらと」
驚いて、エドゥアールは傍らのリシェーナを見る。
頭の中で蘇ったのは、ロワおじさまに教えてもらった内緒の話だ。
リシェーナの家系は、あまり身体が丈夫ではない、と。
久しぶりにリシェーナと会えたことに浮かれていたが、本当にリシェーナは治ったのだろうか。
具合は、大丈夫なのか? というエドゥアールの問いに、リシェーナは「はい」と答えたが、本当に、大丈夫だったのか?
「…よくないのか?」
尋ねたのは、父だった。
エドゥアールはリシェーナの横顔を見つめていたから、父の表情はわからない。
だが、その声は抑制されていて、事態を深刻に受け止めているように聞こえた。
「いえ、あの…、その」
エドゥアールはリシェーナを見つめていたし、恐らく、父と母の目も、リシェーナに向いていただろう。
リシェーナはしどろもどろで、助けを求めるように、ちらと紅の獅子に顔を向けた。
紅の獅子は、リシェーナを安心させるかのように優しい表情を向ける。
ひとつ頷いたその様子が、まるで、「大丈夫だから」と言っているように見えたのは、エドゥアールの気のせいではないだろう。
「身重なんです」
紅の獅子は、姿勢を正して、幸せそうで、でも少し照れくさそうな微笑みを浮かべて告げた。
エドゥアールは、【みおも】の意味がわからなくて瞬きを繰り返していたのだが、父はほっと安堵の息をついたようだった。
「…ああ、そうか。 そういうことか。 おめでとう」
「ありがとうございます」
「リシェーナさん、よかったですねぇ。 お大事になさってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
父は、紅の獅子に「おめでとう」と言っているし、母もリシェーナに、「よかった」と言って、紅の獅子もリシェーナも、「ありがとうございます」と言っている。
エドゥアールにも何となく、【みおも】とは悪いことではなく、良いことだというのはわかったけれど、具体的な意味がわからなくて、自分だけ除け者のように感じる。
だから、エドゥアールはお行儀が悪いことは理解しつつも、椅子の上で身体をよじり、後ろに控えているロワおじさまを手招きで呼んだ。
「どうされました? 殿下」
ロワおじさまは、エドゥアールが呼ぶとどんなときでも近くに来てくれて、目線を合わせてくれる。
ロワおじさまは、エドゥアールにとても甘いのだ。
父や母が教えてくれないことも、エドゥアールが訊けば、ロワおじさまは教えてくれる。
だから、エドゥアールはロワおじさまに問う。
「ロワおじさま、みおも、とはなんですか?」
「お腹に、赤ちゃんがいるんですよ」
ロワおじさまは、すぐにそう、教えてくれた。
そこで、父が見計らったように声を掛けてきた。気づけば、ロワおじさまがすぐ近くにいて、エドゥアールに手を伸べてくれる。
「殿下、お預かりしましょう」
「…ありがとうございます、ロワおじさま」
エドゥアールは少し考えて、箱に視線を落としたけれど、この箱を食卓の上に置いて食事をするのも無作法だろう。 そう判断して、エドゥアールはリシェーナからもらったプレゼントをロワおじさまに預けた。
そうしている間に、紅の獅子とリシェーナは食事の席に近づいたようだ。
紅の獅子が、リシェーナの先回りをして、椅子を引き、リシェーナにエドゥアールの隣の席を勧める。
「はい、リシェ、座って」
「ありがとう」
リシェーナは嬉しそうに微笑んで、椅子に座る。 紅の獅子はリシェーナの隣――つまりは、リシェーナを挟んでエドゥアールの反対側に腰かけた。
その様子を見ていて、エドゥアールは思った。
リシェーナにすごいと思ってもらえるだけではなくて、頼ってもらえる男になりたいし、かっこいいと思ってもらえる男になりたい、と。
慌しく自分の席に戻りながら、エドゥアールは父をちらと見た。
「…父上、ありがとうございます」
父は柔らかく目だけで、笑んでくれる。
父がエドゥアールの感謝を受け止めてくれたことは、それだけで十分に理解できた。
リシェーナは、こういった食事には慣れていないようだったが、隣に紅の獅子がいてアドバイスをしているからか緊張した様子もなく食事をしていた。
もともと、器用なのだろうか。
ナイフやフォークを口に運ぶ様子もスムーズだ。
デザートまで食べ終えたとき、そっと口元をナプキンで拭った紅の獅子が、改まった様子で口を開いた。
「陛下、妻の身体のことなのですが」
リシェーナの身体のこと、と言われて、エドゥアールはきょとんとしてしまった。
口に運びかけた、タルトを刺したフォークを皿に戻す。
リシェーナの身体が、一体どうしたというのだろう。
紅の獅子の言葉は、次のように続いた。
「当面、殿下の語学の教師のお勤めは、休ませていただけたらと」
驚いて、エドゥアールは傍らのリシェーナを見る。
頭の中で蘇ったのは、ロワおじさまに教えてもらった内緒の話だ。
リシェーナの家系は、あまり身体が丈夫ではない、と。
久しぶりにリシェーナと会えたことに浮かれていたが、本当にリシェーナは治ったのだろうか。
具合は、大丈夫なのか? というエドゥアールの問いに、リシェーナは「はい」と答えたが、本当に、大丈夫だったのか?
「…よくないのか?」
尋ねたのは、父だった。
エドゥアールはリシェーナの横顔を見つめていたから、父の表情はわからない。
だが、その声は抑制されていて、事態を深刻に受け止めているように聞こえた。
「いえ、あの…、その」
エドゥアールはリシェーナを見つめていたし、恐らく、父と母の目も、リシェーナに向いていただろう。
リシェーナはしどろもどろで、助けを求めるように、ちらと紅の獅子に顔を向けた。
紅の獅子は、リシェーナを安心させるかのように優しい表情を向ける。
ひとつ頷いたその様子が、まるで、「大丈夫だから」と言っているように見えたのは、エドゥアールの気のせいではないだろう。
「身重なんです」
紅の獅子は、姿勢を正して、幸せそうで、でも少し照れくさそうな微笑みを浮かべて告げた。
エドゥアールは、【みおも】の意味がわからなくて瞬きを繰り返していたのだが、父はほっと安堵の息をついたようだった。
「…ああ、そうか。 そういうことか。 おめでとう」
「ありがとうございます」
「リシェーナさん、よかったですねぇ。 お大事になさってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
父は、紅の獅子に「おめでとう」と言っているし、母もリシェーナに、「よかった」と言って、紅の獅子もリシェーナも、「ありがとうございます」と言っている。
エドゥアールにも何となく、【みおも】とは悪いことではなく、良いことだというのはわかったけれど、具体的な意味がわからなくて、自分だけ除け者のように感じる。
だから、エドゥアールはお行儀が悪いことは理解しつつも、椅子の上で身体をよじり、後ろに控えているロワおじさまを手招きで呼んだ。
「どうされました? 殿下」
ロワおじさまは、エドゥアールが呼ぶとどんなときでも近くに来てくれて、目線を合わせてくれる。
ロワおじさまは、エドゥアールにとても甘いのだ。
父や母が教えてくれないことも、エドゥアールが訊けば、ロワおじさまは教えてくれる。
だから、エドゥアールはロワおじさまに問う。
「ロワおじさま、みおも、とはなんですか?」
「お腹に、赤ちゃんがいるんですよ」
ロワおじさまは、すぐにそう、教えてくれた。
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