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第2章
038.妹の役回り
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「――――もしかして、何か用事でもあった?」
突然現れたリオの企みによってシャワーを浴び終えた俺は、水の掛からないよう避難している彼女に問いかける。
チラリと見たその手にはいつの間にか先程より一際大きいバスタオルが。
「はい、これ使って」
「ありがと……」
差し出されたタオルを使って身体の水分を本格的に拭き取っていく。
何故こんな大きいタオルを都合よく、用意周到に持っていたかは知らないが、きっと俺の為に用意してくれたのだろう。俺と一緒にシャワーに濡れた彼女。しかし既に髪を拭いたようで飄々としていてホッとする。
そんな事を考えながら好意を無下にしては悪いとありがたく使っていると、ふわりと柔軟剤なのか、ほんのりグレープのようなフルーティーな香りが漂ってきた。
「あっ……そうだったそうだった……」
暫く無言で俺の拭いている姿を眺めていると思ったら、ふと何かを思い出したかのように女子更衣室へと消えていくリオ。
さっきまで手ぶらだったし、向こうに荷物でも置いているのだろうか。 そう思いながら戻ってくるのを待っていると、1分と経たずに姿を見せた時には何やら布に包まれた2つの箱状の物がその手に収まっていた。
口元を紐で縛られたピンクの巾着、もう一つの大きいのは黒色。これはもしかすると……。
「おべんと、一緒に食べよ?」
控えめに上げたそれは案の定。前回の学校侵入を彷彿とさせる、二人分の小さなお弁当箱だった。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
シャワーの水滴も消え去ったプールサイド。適当に落ち着ける場所に腰を降ろした俺たちは、互いに膝の上に置かれたお弁当箱を広げる。
中身は以前と同じく和中心の食事となっていた。
きっとリオは和食中心に頑張っているのだろう。以前と比べても味の染み具合などが上達していることが見て取れる。
あの日食べたお弁当は荒削りな部分もあったものの、その心遣いも含めてとんでもなく美味しかった。
お料理パーフェクトのアイさんと比べるような無粋な真似はしないが、今回のお弁当も輝いて見えたる。
「それじゃあ、いただきます!」
「ねぇ、リオ」
手を付ける前に1つの疑問を解消するため彼女に呼びかける。
呼びかけられたリオも割り箸を割ろうとした手を止め、こちらに顔を向けてきた。
「ほいほい、何か食べられないものでも? もしかして……アーンじゃないと食べられないとか!?待ってて!今選ぶから!」
「ううん、食べられないものはない……って違くて。 どうして、ここで食べるの?」
「ほえ?」
彼女は俺が視線を動かすと同時に辺りを見渡す。
――――そこは先程までと一切変わらない景色、プールサイドだ。
室内プールだから風が吹くこともなく、水辺があり、くもりガラスとはいえ陽の光が入ってくるものだから湿度、温度共にかなりの数値を誇っていることが肌感覚からして実感できる。
まだ俺は水着姿だから不快感は殆どないが、制服姿の彼女はかなり辛いだろう。
「……どういうこと?」
そんな意図を全く理解していないのか、未だピンと来ていないらしく首を傾ける。
「ほら、暑くない? 俺は平気だけどリオは服着てるしさ」
「へっ……そんな……『俺を満足させたければここで脱げ!グヘヘ!!』ってこと!?」
「え、いや、ちがくて…………」
何だその悪役口調は!
グヘヘなんて俺言ったことないんだけど!?
「恥ずかしいけど……慎也クンの頼みなら……。お父さん、お母さん。私、今日大人になります」
「ちょ……!まっ……!」
一体どこの部分をどう受け取ったら服を脱げに解釈しちゃうの!?
何を血迷ったのか、突然父母へのメッセージを口にした彼女はおもむろに自らの服に手をかけ始めた。
慌てて出そうとした否定の言葉も間に合わず、彼女は迷いなく服の裾部分に手をかけてセーラー服を脱いでキャミソール姿へと変わっていく。
どうやら彼女も高湿度の空間で服を着ていたのは暑かったようで。
大胆に見えている肩からは汗が陽の光によってキラキラと光り輝き、そのすぐ下に見える胸部に目を奪われそうになるところを、寸前で視線を上に向け事なきを得る。
「ふぅ、暑かった。 次」
「そ……それはダメ!!」
自身の意思の強さを自画自賛しようと思ったが彼女はまだ止まらなかった。
そのまま流れ作業のようにスカートに手を掛けた段階で慌ててその手を取って止めることに成功する。
「む……脱げって言ったから脱いだのに……」
「違う違う! 服じゃなくて場所! 移動しないの!?」
慌てて先程の言葉の意図を正確に伝え、スカートにかけていた力が抜けたところで俺も手を離す。
…………水色のキャミソールか。髪の色も含めて、明るい色が好きなのだろうか。
それにしても年相応……いや、それより少し大きいよね……やっぱり。
「他の場所は誰が来るかわからないから嫌。いつもの教室だったらいいけど……」
「あそこは……わからない」
いつもの教室というのはきっと科学室のことだろう。
今日は平日とはいえ夏休み。担任がいれば空けてくれるが今居るのだろうか。
俺一人で確認しに行ってもいいのだが、それはそれで懸案事項を残すことになる。
「それじゃ、ここにしよ。私もこれ以上脱がないから」
「是非そうして……」
さすがにこんな気温の中、セーラ服をもう一度着ろなんて事は言えなかった。
だって俺としても今の姿のほうが……いや、なんでもない。
「それじゃあ、食べよ? あ~んはいる?」
「いりません!」
横に避けていたお弁当箱を膝に載せ、卵焼きをこちらに差し出すリオを俺は首を振って逃れることにした。
「そういえばさ――――」
「ぷむ……?」
学校のプールでお弁当を食べるという、なんとも奇妙な時間を過ごした俺はふと思い出したことを伝えることにした。
帰ってきたのは変な相槌。お茶を飲んでるところにごめんね。
「リオは関係がない話なんだけど、夏休み入った途端母さんが帰ってきてね」
「あぁ、うん。そうみたいだねぇ。エレナから聞いてるよ。『お母様に会ったけどすっごい喜んでくれた!!』って」
エレナか。そういえば同じ場所にいたんだもんね。
あの日はサインも書いてもらってこちらとしても感謝しかない。
「それで、妹……紗也も帰ってきたんだけどね――――」
「紗也…………ちゃん?」
俺の言葉を遮るように彼女がその名を復唱する。
同時にこちらを見つめるは不思議な目。
困惑、驚き、不安。
そんな感情を含んだなんともいえない瞳だった。
一体彼女の中で何を感じたのか。一瞬だけ不思議に思ったが特に気にすることなく話を続ける。
「あれ、それは聞いてなかったんだ?……というか、俺に妹が居たのが意外?」
「うん。妹さんの話は初耳。……どんな子?」
「どんなかぁ……凄く可愛いよ。外ではしっかり者だけど家では甘えてくるし努力家だしね」
「ふぅん…………」
俺が紗也に語ると先程の読めない表情から一転、こちらをにらみつけるようなジト目に変わっていた。
い、妹だからいいと思います!
「それは、どのくらい可愛いの?」
「一番」
「即答……」
それは即答するだろう。
他人に言われるまでもなくシスコンだってことも自覚している。向こうに行った時も紗也が居ない寂しさでだいぶ辛い日もあったくらいだ。
気づけばそれを感じされる間もなくエレナたちが現れたのだが。
「話遮っちゃってごめん。 その……紗也ちゃんが帰ってきてどうしたの?」
「うん。離れてた反動か今は家に居るとずっと引っ付いてきちゃって。外に出るたびにどこに行くか聞かれるようになって……妹ってそういうものかなって」
そう。紗也は帰ってきて以降、家では俺にベッタリになってしまった。
流石にトイレや風呂は別だがそれ以外はほぼ全てといって差し支えない。
もはや部屋で勉強しているときですらベッドでゴロゴロする始末だ。
「嫌なの?」
「まさか。もっと来てもいいくらいだよ。でも、いつかは自立しなきゃいけないのかなぁ……と思ってね……」
そう未来の事を思いながら天を仰ぐ。
彼女はまだ中学生。高校に上がったらお兄ちゃん嫌いなんて言ってくるのだろうか。あ、ダメ。泣きたい。
「私には兄妹が居ないけど……紗也ちゃんならきっと大丈夫だよ」
「……ありがと。 なんとなく元気が出たよ」
なんだかいつの間にやら悩み相談になっていた。
けど、なんにも根拠なんて無いが聞いてもらえるだけで十分元気が出る気がする。
そうして俺もお茶を一口のみ、これからどうしようかと頭を悩ませると、ポスンと膝に何かが乗る感触に襲われる。
「ん……? り、リオ!?」
「ふむぅ……気持ちいい……いい匂い」
慌てて下を向くと俺の膝には小さな頭がポスンと載せられていた。所謂うつ伏せの膝枕状態だ。
今の俺は水着姿。そこそこ乾いたといえども水着はそうもいかず、濡れているというのに彼女は臆することなく頭を押し付けてモゴモゴと声を出している。
「は、離れて! 俺水着だから!」
「ふぇ……ダメなの……? お兄ちゃん……?」
「うっ!!」
お兄ちゃん―――――
それは年下が使える魔性の言葉。
そこで甘え声はずるいよ……
リオは先程までの眠たげな目から大きくクリクリした瞳を開いてこちらを上目遣いで見つめてくる。
彼女のその潤んだ瞳と、意図してるかはわからないが、確かにある谷間が見えてもはや何も言うことも、見ることすら出来なくなってしまう。
「ご……ご自由に……」
「わ~いっ!」
お許しを出したと同時に動けない太ももをプニプニと触ってくるリオ。
凄くこそばゆい。
「――――紗也ちゃんもきっと、何年経ってもお兄ちゃんのことを大好きでい続けてくれるよ。…………私のようにね」
「えっ?」
気づけば、今までとは雰囲気も声色も変わった様子でポツリと彼女はつぶやく。
その雰囲気はとても儚く、凝らさなければ見失ってしまうほどの透明な――――
「なんでもな~い! ふふふ……やっぱり慎也クンの筋肉はいいのぉ……」
彼女が勢いよく体を起こした頃には普段どおりの雰囲気に戻っており、横に避けていた自身の服を手に取った。ただし視線は俺の腹部から離す気配を見せない。
……やっぱり凄く恥ずかしい。
「も……もう着替える! リオも早く上着てよ!」
「は~い!」
俺は一人立ち上がって男子更衣室までの道を小走りで向かう。
着替えている間ずっと、妹状態のリオもいいなと思い続けていた。
突然現れたリオの企みによってシャワーを浴び終えた俺は、水の掛からないよう避難している彼女に問いかける。
チラリと見たその手にはいつの間にか先程より一際大きいバスタオルが。
「はい、これ使って」
「ありがと……」
差し出されたタオルを使って身体の水分を本格的に拭き取っていく。
何故こんな大きいタオルを都合よく、用意周到に持っていたかは知らないが、きっと俺の為に用意してくれたのだろう。俺と一緒にシャワーに濡れた彼女。しかし既に髪を拭いたようで飄々としていてホッとする。
そんな事を考えながら好意を無下にしては悪いとありがたく使っていると、ふわりと柔軟剤なのか、ほんのりグレープのようなフルーティーな香りが漂ってきた。
「あっ……そうだったそうだった……」
暫く無言で俺の拭いている姿を眺めていると思ったら、ふと何かを思い出したかのように女子更衣室へと消えていくリオ。
さっきまで手ぶらだったし、向こうに荷物でも置いているのだろうか。 そう思いながら戻ってくるのを待っていると、1分と経たずに姿を見せた時には何やら布に包まれた2つの箱状の物がその手に収まっていた。
口元を紐で縛られたピンクの巾着、もう一つの大きいのは黒色。これはもしかすると……。
「おべんと、一緒に食べよ?」
控えめに上げたそれは案の定。前回の学校侵入を彷彿とさせる、二人分の小さなお弁当箱だった。
―――――――――――――――――
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―――――――
シャワーの水滴も消え去ったプールサイド。適当に落ち着ける場所に腰を降ろした俺たちは、互いに膝の上に置かれたお弁当箱を広げる。
中身は以前と同じく和中心の食事となっていた。
きっとリオは和食中心に頑張っているのだろう。以前と比べても味の染み具合などが上達していることが見て取れる。
あの日食べたお弁当は荒削りな部分もあったものの、その心遣いも含めてとんでもなく美味しかった。
お料理パーフェクトのアイさんと比べるような無粋な真似はしないが、今回のお弁当も輝いて見えたる。
「それじゃあ、いただきます!」
「ねぇ、リオ」
手を付ける前に1つの疑問を解消するため彼女に呼びかける。
呼びかけられたリオも割り箸を割ろうとした手を止め、こちらに顔を向けてきた。
「ほいほい、何か食べられないものでも? もしかして……アーンじゃないと食べられないとか!?待ってて!今選ぶから!」
「ううん、食べられないものはない……って違くて。 どうして、ここで食べるの?」
「ほえ?」
彼女は俺が視線を動かすと同時に辺りを見渡す。
――――そこは先程までと一切変わらない景色、プールサイドだ。
室内プールだから風が吹くこともなく、水辺があり、くもりガラスとはいえ陽の光が入ってくるものだから湿度、温度共にかなりの数値を誇っていることが肌感覚からして実感できる。
まだ俺は水着姿だから不快感は殆どないが、制服姿の彼女はかなり辛いだろう。
「……どういうこと?」
そんな意図を全く理解していないのか、未だピンと来ていないらしく首を傾ける。
「ほら、暑くない? 俺は平気だけどリオは服着てるしさ」
「へっ……そんな……『俺を満足させたければここで脱げ!グヘヘ!!』ってこと!?」
「え、いや、ちがくて…………」
何だその悪役口調は!
グヘヘなんて俺言ったことないんだけど!?
「恥ずかしいけど……慎也クンの頼みなら……。お父さん、お母さん。私、今日大人になります」
「ちょ……!まっ……!」
一体どこの部分をどう受け取ったら服を脱げに解釈しちゃうの!?
何を血迷ったのか、突然父母へのメッセージを口にした彼女はおもむろに自らの服に手をかけ始めた。
慌てて出そうとした否定の言葉も間に合わず、彼女は迷いなく服の裾部分に手をかけてセーラー服を脱いでキャミソール姿へと変わっていく。
どうやら彼女も高湿度の空間で服を着ていたのは暑かったようで。
大胆に見えている肩からは汗が陽の光によってキラキラと光り輝き、そのすぐ下に見える胸部に目を奪われそうになるところを、寸前で視線を上に向け事なきを得る。
「ふぅ、暑かった。 次」
「そ……それはダメ!!」
自身の意思の強さを自画自賛しようと思ったが彼女はまだ止まらなかった。
そのまま流れ作業のようにスカートに手を掛けた段階で慌ててその手を取って止めることに成功する。
「む……脱げって言ったから脱いだのに……」
「違う違う! 服じゃなくて場所! 移動しないの!?」
慌てて先程の言葉の意図を正確に伝え、スカートにかけていた力が抜けたところで俺も手を離す。
…………水色のキャミソールか。髪の色も含めて、明るい色が好きなのだろうか。
それにしても年相応……いや、それより少し大きいよね……やっぱり。
「他の場所は誰が来るかわからないから嫌。いつもの教室だったらいいけど……」
「あそこは……わからない」
いつもの教室というのはきっと科学室のことだろう。
今日は平日とはいえ夏休み。担任がいれば空けてくれるが今居るのだろうか。
俺一人で確認しに行ってもいいのだが、それはそれで懸案事項を残すことになる。
「それじゃ、ここにしよ。私もこれ以上脱がないから」
「是非そうして……」
さすがにこんな気温の中、セーラ服をもう一度着ろなんて事は言えなかった。
だって俺としても今の姿のほうが……いや、なんでもない。
「それじゃあ、食べよ? あ~んはいる?」
「いりません!」
横に避けていたお弁当箱を膝に載せ、卵焼きをこちらに差し出すリオを俺は首を振って逃れることにした。
「そういえばさ――――」
「ぷむ……?」
学校のプールでお弁当を食べるという、なんとも奇妙な時間を過ごした俺はふと思い出したことを伝えることにした。
帰ってきたのは変な相槌。お茶を飲んでるところにごめんね。
「リオは関係がない話なんだけど、夏休み入った途端母さんが帰ってきてね」
「あぁ、うん。そうみたいだねぇ。エレナから聞いてるよ。『お母様に会ったけどすっごい喜んでくれた!!』って」
エレナか。そういえば同じ場所にいたんだもんね。
あの日はサインも書いてもらってこちらとしても感謝しかない。
「それで、妹……紗也も帰ってきたんだけどね――――」
「紗也…………ちゃん?」
俺の言葉を遮るように彼女がその名を復唱する。
同時にこちらを見つめるは不思議な目。
困惑、驚き、不安。
そんな感情を含んだなんともいえない瞳だった。
一体彼女の中で何を感じたのか。一瞬だけ不思議に思ったが特に気にすることなく話を続ける。
「あれ、それは聞いてなかったんだ?……というか、俺に妹が居たのが意外?」
「うん。妹さんの話は初耳。……どんな子?」
「どんなかぁ……凄く可愛いよ。外ではしっかり者だけど家では甘えてくるし努力家だしね」
「ふぅん…………」
俺が紗也に語ると先程の読めない表情から一転、こちらをにらみつけるようなジト目に変わっていた。
い、妹だからいいと思います!
「それは、どのくらい可愛いの?」
「一番」
「即答……」
それは即答するだろう。
他人に言われるまでもなくシスコンだってことも自覚している。向こうに行った時も紗也が居ない寂しさでだいぶ辛い日もあったくらいだ。
気づけばそれを感じされる間もなくエレナたちが現れたのだが。
「話遮っちゃってごめん。 その……紗也ちゃんが帰ってきてどうしたの?」
「うん。離れてた反動か今は家に居るとずっと引っ付いてきちゃって。外に出るたびにどこに行くか聞かれるようになって……妹ってそういうものかなって」
そう。紗也は帰ってきて以降、家では俺にベッタリになってしまった。
流石にトイレや風呂は別だがそれ以外はほぼ全てといって差し支えない。
もはや部屋で勉強しているときですらベッドでゴロゴロする始末だ。
「嫌なの?」
「まさか。もっと来てもいいくらいだよ。でも、いつかは自立しなきゃいけないのかなぁ……と思ってね……」
そう未来の事を思いながら天を仰ぐ。
彼女はまだ中学生。高校に上がったらお兄ちゃん嫌いなんて言ってくるのだろうか。あ、ダメ。泣きたい。
「私には兄妹が居ないけど……紗也ちゃんならきっと大丈夫だよ」
「……ありがと。 なんとなく元気が出たよ」
なんだかいつの間にやら悩み相談になっていた。
けど、なんにも根拠なんて無いが聞いてもらえるだけで十分元気が出る気がする。
そうして俺もお茶を一口のみ、これからどうしようかと頭を悩ませると、ポスンと膝に何かが乗る感触に襲われる。
「ん……? り、リオ!?」
「ふむぅ……気持ちいい……いい匂い」
慌てて下を向くと俺の膝には小さな頭がポスンと載せられていた。所謂うつ伏せの膝枕状態だ。
今の俺は水着姿。そこそこ乾いたといえども水着はそうもいかず、濡れているというのに彼女は臆することなく頭を押し付けてモゴモゴと声を出している。
「は、離れて! 俺水着だから!」
「ふぇ……ダメなの……? お兄ちゃん……?」
「うっ!!」
お兄ちゃん―――――
それは年下が使える魔性の言葉。
そこで甘え声はずるいよ……
リオは先程までの眠たげな目から大きくクリクリした瞳を開いてこちらを上目遣いで見つめてくる。
彼女のその潤んだ瞳と、意図してるかはわからないが、確かにある谷間が見えてもはや何も言うことも、見ることすら出来なくなってしまう。
「ご……ご自由に……」
「わ~いっ!」
お許しを出したと同時に動けない太ももをプニプニと触ってくるリオ。
凄くこそばゆい。
「――――紗也ちゃんもきっと、何年経ってもお兄ちゃんのことを大好きでい続けてくれるよ。…………私のようにね」
「えっ?」
気づけば、今までとは雰囲気も声色も変わった様子でポツリと彼女はつぶやく。
その雰囲気はとても儚く、凝らさなければ見失ってしまうほどの透明な――――
「なんでもな~い! ふふふ……やっぱり慎也クンの筋肉はいいのぉ……」
彼女が勢いよく体を起こした頃には普段どおりの雰囲気に戻っており、横に避けていた自身の服を手に取った。ただし視線は俺の腹部から離す気配を見せない。
……やっぱり凄く恥ずかしい。
「も……もう着替える! リオも早く上着てよ!」
「は~い!」
俺は一人立ち上がって男子更衣室までの道を小走りで向かう。
着替えている間ずっと、妹状態のリオもいいなと思い続けていた。
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