不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

文字の大きさ
155 / 167
第6章

155.裏側

しおりを挟む
「あはは……。突然ごめんね?」

 冬休み最終日。英気を養うため今日は一日家でダラダラしようと決めた朝。
 突然の来訪者に扉を開けると、申し訳無さそうに困り顔をしながら目を逸らしつつ立つ小北さんが立っていた。
 まだ一日早いにも関わらずその格好は制服で、学校指定のボストンバッグに何故か後ろには小さなキャリーバックを引きずっている。

「えっと、学校ならまだ早いよ?」
「わかってるよぉ!そもそも学校だったらもう遅刻の時間帯じゃん!」

 ふむ、確かに。
 現在時刻は9時を過ぎたとこ。
 8時半が始業のウチからしたらとうに遅刻の時間だ。

 ならば何故。
 そう聞こうと思った矢先、俺の背中から体重をかけるように、肩から紗也の頭がひょっこりと出てくる。

「美代さんだぁ。おはよ~」
「あ、紗也ちゃん。おはよう。ごめんね朝早くから」
「いいのいいの。随分と大荷物だねぇ。運ぼうか? お兄ちゃんが」

 受け取った荷物を問答無用で押し付けてくる紗也。
 いまだ部屋着の姿にそろそろ準備しなくていいのかと思いつつも言われるがままにグッと持ち上げる。

 ……思ったより重いな。随分と色々詰めているようだ。


「ごめんね突然。道合ってるか心配で何度か迷子になっちゃったけど、無事たどり着けてよかったよぉ」
「連絡くれれば迎えに行ったのに。コーヒーでいい?」
「外寒いのに悪いよ~。あ、コーヒーはいただきます!」

 荷物をリビングの隅に置いた俺は早々にキッチンに向かい適当な豆ををガリガリと挽いていく。
 暖かい暖房の下。俺や紗也は冷たくして飲んでいたが今の彼女ならホットだろう。


 ヤカンに入れたお湯が沸騰するまで手持ち無沙汰にぼーっとしていると、リビングからは二人の笑い声が聞こえてくる。
 ずいぶんと盛り上がっているようだがそろそろ紗也は行く時間……大丈夫だろうか。

「おまたせ小北さん。紗也は時間大丈夫?」
「そうだね。そろそろ行こっかなぁ。聞きたかったことは聞けたし」

 聞きたかったこととはなんだろう。問い返したくなったがそそくさとリビングを出ていく姿に呼び止めを失敗してしまう。
 あまりにも流れるような退出。その聞き分けの良さに思わず目を取られたが、ふと背を向けて座る小北さんに目をやると、その変貌ように思わず目を見開いた。

「小北さん大丈夫!?すごい真っ赤……もしかして暖房暑かった!?」
「……ま、前坂君!?どうしてここに…!? な、なんでもない!なんでもないの!!暖房も丁度いいよ!うん!」

 彼女の顔は烈火の如く真っ赤になっていた。
 今にも火を吹くほど顔を赤くし、小動物のように小さくすぼんだ口でコーヒーを飲んでいく小北さん。
 もしかして、アイスのほうが良かったかな?口をつけてほんの少し暑そうに舌を出す姿にそう思ったが、ふと一つの心当たりに行き着いた。

 …………もしかして、紗也?

「小北さん、もしかして紗也になんか変なことでも言われた?」
「う、ううん!そんなことないよ! 確かにちょっとだけ聞かれたけど、そんな大したことじゃ……はい……」

 何があったのか気になるけど、この様子じゃ話してくれそうにもない。
 早々に聞くことを諦めて向かい側に座ってコーヒーをすすると、準備のできた紗也が顔を出してくる。

「お兄ちゃん、そろそろあたし行ってくるから」
「あ、まって。小北さんになにか言った?今すごい顔真っ赤だけど」
「ううん、なにも~。美代さんがいいなら聞いたこと言ってもいいけど――――」
「やめて!! 前坂君には話さないで!!」

 チラリと紗也が彼女を見た瞬間、前のめりになってそれを止める。
 よっぽど変なことを聞かれたのだろうか。 

 紗也が弱みでも握って脅されているのかとも考えたが、そんなこと性格悪いことする筈もないし、そこまで深い関係性じゃないはずだけど……。

「――――ってことで、ごめんねお兄ちゃん、ノーコメントで。それじゃあ今度こそ行ってきます!ムフフ。思わぬ土産話が増えちゃった」
「うぅぅ……紗也ちゃん、お手柔らかにねぇ……」
「大丈夫だよ美代さん!きっと大丈夫だから!」

 手を振って上機嫌に消えていく紗也を呆然と見送る俺達。
 結局何のことかわからなかった。二人の会話も主語もわからず俺の頭には疑問符が浮かぶばかり。

 紗也がいなくなったことで残ったのは話の読めない俺と、真っ赤なままの小北さんの二人きり。

 なんだろう……だいぶ気まずい。
 バイト中はエレナたちを待つことが大半でよく二人きりになってたのに、こうも変な空気になることはなかった。
 何を話そうか……その顔色の理由は教えてくれなさそうだし……あとは……

「ねぇ小北さん」
「ふぇ!? ど、どうしたの!?」
「え、えっと……」

 そんな大げさな反応されたらこちらも妙な感じになってしまうじゃないか。

 真っ赤にしながら小さくなってチビチビとコーヒーを飲んでいく小北さん。
 それはまるで小動物のようで、今まで元気な彼女がこうもおとなしくなっていると、ギャップの可愛さと言うか、得もいえぬ感覚に襲われる。

「その服はどうしたの? これから学校にでも行くの?」
「これ?……ううん、そうじゃなくって、こっちのほうが荷物が減るというかなんというか……」
「荷物?」
「うん……」

 そう言って彼女が目を向けたのはリビングの隅のキャリーバッグ。
 ちょっと遊びにきたにしては明らかに異質なもの。なんだか数日の旅行にでも出かけるような……
 バッグを見てつい数日前を思い出す。あのエレナみたいに実家に来いなんて言わないだろうか。いや、明日学校だし流石にそんなことしないと考えたい。

 そんなありもしない考えを振り払っていると、彼女は席を立ってバッグへと歩いていく。
 そして横に倒し、閉められたチャックを開けていった。

「この中身なんだけどね、大したものじゃないんだけど……これらを入れてあるの」
「これ…………? っ――――!!!」

 開かれたそのバッグの中身を見て、思わず言葉を失ってしまう。
 俺に見せつけるように開いたそれは、透明の圧縮袋だった。

 問題はその袋の中。それらは綺麗に折りたたまれた下着の数々だった。
 白と黒の靴下に、様々な明るい色のソフトブラ。それとセットのように配置されたショーツの数々。
 彼女はそれを見せつけたかったのだろうか。下着を見せて真意を汲み取れと、なかなかに高難度なことを要求する彼女に目を逸しながら震える言葉で尋ねる。

「えっ……と……。これを見せて、どうしろと……?」
「? わかんない?」
「下着見せられてもさっぱり……。なにか間違ってるんじゃない……?」
「へっ――――? あっ……あぁぁぁぁ!! 違うの!!こっちじゃなくって!! 裏側なの!!」

 きっと彼女は見せつける時に中の確認をしなかったのだろう。
 慌てて蓋を締めてからバッグを裏返すようにして再度開いていく。

 そこには枕を筆頭に歯ブラシ、化粧品、シャツなど。まるで旅行するかのようなラインナップが広がっていた。

「うぅぅぅ……なんでさっき確認しなかったんだろぉ……見せないように一番奥入れてたのにぃ……」

 頭を抱えて後悔している小北さん。
 一番奥が裏目に出たみたいだ。それは確かに裏返したら先頭になるに決まっているだろう。

「……コホン。それで、どこか旅行でもするの?」
「うん。できるかわからないけどね」
「どこへ?」
「えっとね……ここ!!」
「…………えっ?」

 彼女は勢いよく立ち上がって床を指差す。
 ここ……個々……此処!?

「私ね、家出しちゃったんだ。 だから……お願い!!しばらくここに泊めてもらえないかなぁ?」

 両手を合わせて懇願するように頭を下げる小北さん。
 俺はまさかの彼女がまさかのお願いに、思わず頭が真っ白になってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

処理中です...