ヒロインは悪役令嬢の笑顔をみるために奮闘する

富原あすか

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彼女のと私のはじまり

6、心配と混乱

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 リリーは驚き思わず手に力が入ると、クラウスはハッとしたように顔を上げぎこちなく微笑んでくれた。
「彼女の件もそうだが、今回の件についても色々な事がわかった。君にも関係する事だから話したいのだが……」
「私に、ですか……」
 クラウスの言葉を繰り返しながら、思い出すのは階段での出来事だ。あの時自ら足を踏み外した割には勢いがあったという違和感も、やはりリリーの勘違いではなく誰かの思惑がからんでいたのだろう……。落ちた時は突然の事で状況も何もわからなかったため、リリーとしても何が起きたのか詳しく知っておきたいところだ。
「ああ、だが目覚めたばかりで体調もまだ万全ではないだろう?授業が終わったらまた迎えにくるからそれまでゆっくり休んでくれ」
「いえっそんなお手数をおかけするわけには!」
 優しく微笑んで去ろうとするクラウスにリリーは慌てて答えた。
 この状況だけでも各方面から恨みを買いそうなのにクラウスのお迎えとあっては翌日の周りの反応が恐ろしすぎる。リリーは思わず想像しゾッとしたが、それを階段から落ちた事に対する怯えだと勘違いしたクラウスはより一層言葉を重ねる。
「大丈夫だ。怖い事はもう何も起こらない。それに私が君を迎えに行きたいんだ」
 いつの間にか両手を包んでいた手はリリーの頭にあり、ゆっくりと優しく撫でられる。
「ッ!?」
(本当にどうしちゃったの殿下!?)
 リリーは下がった体温がまた一気に上がるのを感じながら、「それじゃあ、また」と保健室を出るクラウスを見送るのが精一杯だった。
 クラウスが去った後もしばらく固まっていると、マリアがこちらの様子を伺いながらベッドまで歩いてきた。
「リリー?顔が真っ赤になっているけれど大丈夫?」
「大丈夫じゃない……」
 思わず両手で布団を引っ張り顔を覆いながら、リリーはベッドの中に沈み込む。完全に布団の中に隠れてしまったリリーに少し微笑みながらマリアはベッドの横の椅子に腰を下ろした。
「今までそういったイメージはなかったけれど、殿下も意外と行動派なのね」
「行動派なのね、じゃないよ!なんで止めてくれなかったの……。殿下にはフローレス様がいるのに……」
(それに前に誤解されるような態度は良くないって言ってくれたのはマリアだったのに……)
「殿下の行動を身分的にも私が止められるわけないでしょう?」
「それは、そう、かもしれないけど……」
「まあ、殿下の気持ちも分かるけれど確かにまだ婚約者がいる身で誤解されるような行動をとるのは良くないと思うわ」
「まだって……。」
(まるでこれから婚約者がいなくなるような言い方よね)
「マリア、何か知ってるの?」
 リリーはなんとなく嫌な予感がして恐る恐る尋ねるも、マリアは黙って微笑むだけだった。
「……きっと殿下がお話してくださるわ」
「でも──」
「とにかく体調も万全ではないのだからゆっくり寝て休むこと!いいわね?」
 ビシッと効果音がつきそうな勢いで話すとマリアはそのままドアの方に向かって歩いていく。それでもリリーがマリアに話を聞こうとすると、それを遮るかのようにマリアが話し出した。
「大丈夫よ。落ち着いたら、ちゃんと全部話すから……。リリーは気づいていないかもしれないけれど顔色もまだ悪いし、今はゆっくり休むことだけを考えて。……ね?」
 気になることは色々とあったが、マリアが本当に心配そうな、不安そうな顔で言うのでリリーは何も言えなくなくなる。
(そっか……色々あって忘れかけてたけど私階段から落ちてたんだっけ……)
 結構な勢いがあったことは覚えているため、どんな風に発見されたかは分からないが余程心配をかけてしまったのだろう。
「……わかった」
 リリーが了承するとマリアは安心したような様子で保健室の扉に手をかける。
「もうすぐ先生も来ると思うし、私もまた様子を見に来るわ」
「うん、ありがとう」
「気にしないで。じゃあ行くわね」
 最後にリリーの方を向き手を振るとマリアは保健室から出ていき、リリーも少し休むことにした。
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