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第十四話 邂逅1
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「本当に夜魔の眷属がいるなんて、驚きね……」
美景が危惧していた通りである。ここに夜魔の眷属がいるということは、このものらに肉体を与えた魔女がいるということであり、その者は夜魔を復活させようと画策しているのだ。
「楓、あいつら倒せそう?」
「多分、大丈夫。でも数が多いかも」
身を寄せ合って、小声で二人は会話した。
夜魔の眷属の数はぱっと見て、四匹は確認できた。今から奴らに背を向けて逃げ出すよりは、戦って殲滅する方が生き残る可能性は高い。二人はそう判断していた。
「左右から挟み撃ちしましょう。あいつらが私たちに反応する前に一匹でも斬れれば、大分楽になるわ」
戦意を高める紅音に対して、楓は冷えたものに気づいて口をしかめた。
「……紅音、囲まれてる」
「え……?」
楓に言われ辺りを見回した紅音は小さく息を飲んだ。
影も音もなく新たに現れた四匹の夜魔の眷属たちが、楓たちを取り囲んでいたのだ。その姿は犬や狼を模した四足歩行の猛獣のようにも見え、だが影に包まれているようにはっきりとは視認できない。
そのように見えるのは、本能がその姿を直視するのを避けているためだった。目を凝らしてはっきりと夜魔の眷属の姿を視界にとらえようとすれば、脳が焼け付くような疼痛が走りだす。これは、理解してはいけない生物なのだ。
眷属がこうであれば、夜魔本体ははたしてどのような姿かたちをしているというのだろうか。それを考えると、楓の肌が粟立った。
楓にとってこの化け物は、父母を殺したものと同一だった。個体でいえば違うのだろうが、姿形は全く同じである。
都合八匹もの夜魔の眷属に取り囲まれているこの状況で、楓の心は決まった。
――一匹残らず、斬り殺してくれる。
楓の戦意を察して、紅音は喉をならした。生き残るためには戦わなければいけないと、彼女も理解したのだ。
「楓、別れて戦いましょう。いい?」
「分かった」
このまま二人背を合わせて戦っては押し込まれる。そう判断した二人は、申し合わせて分散して戦うことを決意した。
二人の呼吸が合致し、紅音が左手へ飛び出し一刀を放った。楓も合わせて踏み込み、正面へ体を躍らせた。
楓はまず、切り払うように刀を振り払い四匹もの夜魔の眷属を牽制した。
その後楓は右脇に構えて、慎重に出方を図った。敵は人間でなく獣を模した夜魔の眷属であり、その攻撃手段は爪、あるいは牙によるものである。
剣術とは人に対するものであり、このような手合いと戦うならそれ相応の戦術を用意しなければいけなかった。
楓はわざと右脇構えのまま片膝をついた。夜魔の眷属と目線が近くなるその格好は、はたから見れば夜魔の眷属に攻撃させやすくしているように見える。
獣を模した化け物である夜魔の眷属に、呼吸や意図を測るような繊細さは持ち合わせていない。楓が片膝をつくや、近くにいた一匹が大口を開けてすぐさま跳びかかってきた。丁度、狙いやすくなった楓の頭部を目がけて。
「はっ!」
気合一閃、楓は上体をわずかに引きながら、刀を振るった。跳びかかってきた夜魔の眷属の頭部を刈り取る軌道で刀が放たれ、楓の企図通りとなった。
首を断たれ、更に斬られた衝撃で推進力を相殺された夜魔の眷属の体は地に落ち、まるでヘドロのような液体をまき散らした。
一匹を倒した楓だが、まだ気を休める時ではない。残りは三匹。仲間が殺されたのを見て、いきり立って襲い掛かってくるのは予想の内だった。
二匹が同時に、一匹がそれに遅れて楓に跳びかかってきた。楓は片膝立ちから飛び上がる様に跳ね、夜魔の眷属の頭上をとった。そのまますれ違いざまに一匹の脳天を断ち斬り、着地すると同時に、横薙ぎに刀を振り払い夜魔の眷属を再度牽制した。
牽制に構わず突進してきた一匹をやすやすと返す刀で仕留め、明らかに狼狽えを見せた残り一匹を迅速に斬り断った。
鮮やかな手口で四匹もの夜魔の眷属を斬った楓。彼女は、記憶にこびりついた四足歩行の夜魔の眷属と戦う想定を何度も繰り返していたのだ。
しかし、脳内に描いていた企図通りに刀を振るった楓の気分は、一向に晴れなかった。今この夜魔の眷属を斬ったからといって、楓の両親が戻ってくる訳でもない。今の実力をあの日の自分が持ち合わせていなかった以上、ただ虚しさを感じるだけだった。
楓は、紅音が無事かと彼女の方を見てみた。紅音もまた楓と同じく迅速に夜魔の眷属を斬り断っていた。
傷一つない紅音が近づいてくるのを見て、楓はほっと息を吐いた。
「まずいことになったわね。本当に夜魔の眷属がいるなんて……夜魔の眷属があんな化け物なんて、想像もしなかった」
紅音は口元を手で抑えてえずくように言った。夜魔の眷属の姿を思い出したのだろう。
「信じられないけど、あんなものが存在するなら本当に夜魔もいるのかもしれないわね……」
楓は頷きを返した。
「ねえ楓、後で師匠と合流する予定だったけど、ここで探索は切り上げて師匠に報告しにいきましょう。私たちの手に負えないわ」
「ごめん、紅音。あなた一人で美景さんに伝えてきて。私は、もう少しこの辺りを調べたい」
「ちょ、ちょっと楓! 何言ってるのよ! 夜魔を復活させようとしている奴が近くにいるかもしれないのよ?」
「うん……分かってる」
「分かってないわよ! ラピスを正しく制御できない素人ならまだしも、きちんと修練を積んだ魔女は自分が持つラピスの気配を制御して気づかれない様にすることができるって、楓も知ってるでしょう? 私たちだってそうしてるじゃない。何人敵がいるのかも分からないのに、一人で探索を続けるなんて自殺行為よ!」
きつい口調だったが、紅音は楓のことを心配して言っているのだ。
心配する紅音の心境は、楓にも分かっていた。夜魔の眷属があれほどいたということは、この近辺で夜魔の復活の儀式が行われている可能性が高いということである。
そしてそれを企むものも、きっとこの辺りにいるのだ。それが一人なのか、複数なのか、その実力の程も分からない。危険なのは明らかだった。
しかし、危険は承知の上であった。
ここで二人とも逃げれば、夜魔の復活を画策している者たちがその隙に姿を隠す可能性がある。そうなっては元の木阿弥。楓と紅音は何のために危険な目にあったというのか。
更に言えば、ここで夜魔を復活させようとしている者こそが、楓が家族を失った切欠である夜魔の眷属に肉体を与えたものかもしれないのだ。
美景が言っていた言葉を、楓は思い出した。夜魔を復活させる儀式は数年かかると。数年前からこの森に姿を隠し、儀式を執り行い、夜魔の眷属に肉体を与えていた者。
その者こそが、楓の敵である。その敵を目の前にして、どうして逃げ帰れようか。
紅音に何と言われても、楓は決意を曲げる気はなかった。愚かな小娘と思われようと、こればかりはどうしようもない。
楓の過去を聞いていた紅音は、楓の頑なな決意を察しつつあった。彼女は数度溜息をついた後、楓に言った。
「本気、なのね」
「うん。それに、夜魔の眷属と斬りあったことがもう敵に伝わっている可能性がある。もし私たち二人が逃げたらそいつは姿を隠すと思うけど、この森に入ったのが私みたいな小娘一人だけと分かったら、きっと油断して姿を隠すより私を始末することを選ぶと思う。そうなったら時間が稼げる」
「……師匠が来るまで、足止めしておくってこと……?」
「……そうなる」
「何よそれ、すごく危険じゃない!」
「だけど、誰かがやらないと。夜魔を復活させようなんて奴を、このまま逃がす訳にはいかないでしょ?」
「だ、だったら私がやるわ!」
「紅音は、ダメ。正直紅音より私の方が実践慣れしているし、紅音よりも小さい私が相手の方が敵は侮ると思う」
楓に言われて、紅音はうなった。そして思い切ったように息を吐いた。
「ああ、もうっ。分かったわよ、すぐに師匠呼んでくるから、無茶はしないでよねっ。危険だと思ったらすぐ逃げることっ!」
「うん」
音を立てないように速足で遠ざかる紅音の背を見送った後、楓は慎重に身を屈め木々に隠れるようにゆっくり奥へ進んでいった。
しばらく進んでいくと、不思議な光景が目に飛び込んできた。今まで四方を包んでいた木々がその場所にだけ無く、ぽっかりと円形状に広い空間が空いていた。
良く目を凝らしてみると、その空間にある木々が根本付近から断ち切られているようだった。
つまり周囲の木々が斬り倒され、広い空間が生まれているのだった。
楓は慎重に周辺の気配を探って、近くには誰もいないことを確かめてからその空間に踏み込んだ。
周りを取り囲んでいた木々が無くなったため、多少の解放感が楓を包んだ。空からは日が指している。
何かがおかしいと、楓は思った。一見して森の中に清々しい休憩所でも設けたように見えるが、樹木の切り口には腐食が見られ、蟻の巣が出来ているものすらあった。どうにも、ただ邪魔だから斬り倒したという風に見える。休憩所にでもするのなら、切り口にしかるべき処置を加え腰かけに改装しそうなものだ。
そして、空間の中心付近の地には、不思議な模様が書かれていた。真上から見下ろして、楓はその正体を知った。
魔法陣である。今現在、正調の魔女はマナを用いて魔術を行うが、一昔前は魔法陣を用いた魔術も研究していたと楓は師から教えられた。結局魔法陣による魔術は廃れたものの、大規模な儀式魔術を行う際は用いることもあるという。
魔法陣は、その書き方や内容でどのような儀式魔術を行おうとしているのか分かるらしいが、知識が少ない楓にはさっぱりだった。しかしこれは、夜魔を復活させる儀式に関係あるものだろうと楓は感じていた。
せめて特徴を覚えようとして食い入るように魔法陣を見ていた時、ぞくりと楓の背が震えた。魔法陣から目を離して周囲を見回すと、音も、気配もなく、森の奥から何者かがやってきた。
薄暗い森奥から近づいてくる者の輪郭が、徐々に露わになってきた。その姿は、楓にとって忘れられない者だった。
「お前は……!」
現れたのは、かつて楓を一蹴しラピスを奪っていった者。
黒衣の男が、ついに楓の前に姿を現していた。
美景が危惧していた通りである。ここに夜魔の眷属がいるということは、このものらに肉体を与えた魔女がいるということであり、その者は夜魔を復活させようと画策しているのだ。
「楓、あいつら倒せそう?」
「多分、大丈夫。でも数が多いかも」
身を寄せ合って、小声で二人は会話した。
夜魔の眷属の数はぱっと見て、四匹は確認できた。今から奴らに背を向けて逃げ出すよりは、戦って殲滅する方が生き残る可能性は高い。二人はそう判断していた。
「左右から挟み撃ちしましょう。あいつらが私たちに反応する前に一匹でも斬れれば、大分楽になるわ」
戦意を高める紅音に対して、楓は冷えたものに気づいて口をしかめた。
「……紅音、囲まれてる」
「え……?」
楓に言われ辺りを見回した紅音は小さく息を飲んだ。
影も音もなく新たに現れた四匹の夜魔の眷属たちが、楓たちを取り囲んでいたのだ。その姿は犬や狼を模した四足歩行の猛獣のようにも見え、だが影に包まれているようにはっきりとは視認できない。
そのように見えるのは、本能がその姿を直視するのを避けているためだった。目を凝らしてはっきりと夜魔の眷属の姿を視界にとらえようとすれば、脳が焼け付くような疼痛が走りだす。これは、理解してはいけない生物なのだ。
眷属がこうであれば、夜魔本体ははたしてどのような姿かたちをしているというのだろうか。それを考えると、楓の肌が粟立った。
楓にとってこの化け物は、父母を殺したものと同一だった。個体でいえば違うのだろうが、姿形は全く同じである。
都合八匹もの夜魔の眷属に取り囲まれているこの状況で、楓の心は決まった。
――一匹残らず、斬り殺してくれる。
楓の戦意を察して、紅音は喉をならした。生き残るためには戦わなければいけないと、彼女も理解したのだ。
「楓、別れて戦いましょう。いい?」
「分かった」
このまま二人背を合わせて戦っては押し込まれる。そう判断した二人は、申し合わせて分散して戦うことを決意した。
二人の呼吸が合致し、紅音が左手へ飛び出し一刀を放った。楓も合わせて踏み込み、正面へ体を躍らせた。
楓はまず、切り払うように刀を振り払い四匹もの夜魔の眷属を牽制した。
その後楓は右脇に構えて、慎重に出方を図った。敵は人間でなく獣を模した夜魔の眷属であり、その攻撃手段は爪、あるいは牙によるものである。
剣術とは人に対するものであり、このような手合いと戦うならそれ相応の戦術を用意しなければいけなかった。
楓はわざと右脇構えのまま片膝をついた。夜魔の眷属と目線が近くなるその格好は、はたから見れば夜魔の眷属に攻撃させやすくしているように見える。
獣を模した化け物である夜魔の眷属に、呼吸や意図を測るような繊細さは持ち合わせていない。楓が片膝をつくや、近くにいた一匹が大口を開けてすぐさま跳びかかってきた。丁度、狙いやすくなった楓の頭部を目がけて。
「はっ!」
気合一閃、楓は上体をわずかに引きながら、刀を振るった。跳びかかってきた夜魔の眷属の頭部を刈り取る軌道で刀が放たれ、楓の企図通りとなった。
首を断たれ、更に斬られた衝撃で推進力を相殺された夜魔の眷属の体は地に落ち、まるでヘドロのような液体をまき散らした。
一匹を倒した楓だが、まだ気を休める時ではない。残りは三匹。仲間が殺されたのを見て、いきり立って襲い掛かってくるのは予想の内だった。
二匹が同時に、一匹がそれに遅れて楓に跳びかかってきた。楓は片膝立ちから飛び上がる様に跳ね、夜魔の眷属の頭上をとった。そのまますれ違いざまに一匹の脳天を断ち斬り、着地すると同時に、横薙ぎに刀を振り払い夜魔の眷属を再度牽制した。
牽制に構わず突進してきた一匹をやすやすと返す刀で仕留め、明らかに狼狽えを見せた残り一匹を迅速に斬り断った。
鮮やかな手口で四匹もの夜魔の眷属を斬った楓。彼女は、記憶にこびりついた四足歩行の夜魔の眷属と戦う想定を何度も繰り返していたのだ。
しかし、脳内に描いていた企図通りに刀を振るった楓の気分は、一向に晴れなかった。今この夜魔の眷属を斬ったからといって、楓の両親が戻ってくる訳でもない。今の実力をあの日の自分が持ち合わせていなかった以上、ただ虚しさを感じるだけだった。
楓は、紅音が無事かと彼女の方を見てみた。紅音もまた楓と同じく迅速に夜魔の眷属を斬り断っていた。
傷一つない紅音が近づいてくるのを見て、楓はほっと息を吐いた。
「まずいことになったわね。本当に夜魔の眷属がいるなんて……夜魔の眷属があんな化け物なんて、想像もしなかった」
紅音は口元を手で抑えてえずくように言った。夜魔の眷属の姿を思い出したのだろう。
「信じられないけど、あんなものが存在するなら本当に夜魔もいるのかもしれないわね……」
楓は頷きを返した。
「ねえ楓、後で師匠と合流する予定だったけど、ここで探索は切り上げて師匠に報告しにいきましょう。私たちの手に負えないわ」
「ごめん、紅音。あなた一人で美景さんに伝えてきて。私は、もう少しこの辺りを調べたい」
「ちょ、ちょっと楓! 何言ってるのよ! 夜魔を復活させようとしている奴が近くにいるかもしれないのよ?」
「うん……分かってる」
「分かってないわよ! ラピスを正しく制御できない素人ならまだしも、きちんと修練を積んだ魔女は自分が持つラピスの気配を制御して気づかれない様にすることができるって、楓も知ってるでしょう? 私たちだってそうしてるじゃない。何人敵がいるのかも分からないのに、一人で探索を続けるなんて自殺行為よ!」
きつい口調だったが、紅音は楓のことを心配して言っているのだ。
心配する紅音の心境は、楓にも分かっていた。夜魔の眷属があれほどいたということは、この近辺で夜魔の復活の儀式が行われている可能性が高いということである。
そしてそれを企むものも、きっとこの辺りにいるのだ。それが一人なのか、複数なのか、その実力の程も分からない。危険なのは明らかだった。
しかし、危険は承知の上であった。
ここで二人とも逃げれば、夜魔の復活を画策している者たちがその隙に姿を隠す可能性がある。そうなっては元の木阿弥。楓と紅音は何のために危険な目にあったというのか。
更に言えば、ここで夜魔を復活させようとしている者こそが、楓が家族を失った切欠である夜魔の眷属に肉体を与えたものかもしれないのだ。
美景が言っていた言葉を、楓は思い出した。夜魔を復活させる儀式は数年かかると。数年前からこの森に姿を隠し、儀式を執り行い、夜魔の眷属に肉体を与えていた者。
その者こそが、楓の敵である。その敵を目の前にして、どうして逃げ帰れようか。
紅音に何と言われても、楓は決意を曲げる気はなかった。愚かな小娘と思われようと、こればかりはどうしようもない。
楓の過去を聞いていた紅音は、楓の頑なな決意を察しつつあった。彼女は数度溜息をついた後、楓に言った。
「本気、なのね」
「うん。それに、夜魔の眷属と斬りあったことがもう敵に伝わっている可能性がある。もし私たち二人が逃げたらそいつは姿を隠すと思うけど、この森に入ったのが私みたいな小娘一人だけと分かったら、きっと油断して姿を隠すより私を始末することを選ぶと思う。そうなったら時間が稼げる」
「……師匠が来るまで、足止めしておくってこと……?」
「……そうなる」
「何よそれ、すごく危険じゃない!」
「だけど、誰かがやらないと。夜魔を復活させようなんて奴を、このまま逃がす訳にはいかないでしょ?」
「だ、だったら私がやるわ!」
「紅音は、ダメ。正直紅音より私の方が実践慣れしているし、紅音よりも小さい私が相手の方が敵は侮ると思う」
楓に言われて、紅音はうなった。そして思い切ったように息を吐いた。
「ああ、もうっ。分かったわよ、すぐに師匠呼んでくるから、無茶はしないでよねっ。危険だと思ったらすぐ逃げることっ!」
「うん」
音を立てないように速足で遠ざかる紅音の背を見送った後、楓は慎重に身を屈め木々に隠れるようにゆっくり奥へ進んでいった。
しばらく進んでいくと、不思議な光景が目に飛び込んできた。今まで四方を包んでいた木々がその場所にだけ無く、ぽっかりと円形状に広い空間が空いていた。
良く目を凝らしてみると、その空間にある木々が根本付近から断ち切られているようだった。
つまり周囲の木々が斬り倒され、広い空間が生まれているのだった。
楓は慎重に周辺の気配を探って、近くには誰もいないことを確かめてからその空間に踏み込んだ。
周りを取り囲んでいた木々が無くなったため、多少の解放感が楓を包んだ。空からは日が指している。
何かがおかしいと、楓は思った。一見して森の中に清々しい休憩所でも設けたように見えるが、樹木の切り口には腐食が見られ、蟻の巣が出来ているものすらあった。どうにも、ただ邪魔だから斬り倒したという風に見える。休憩所にでもするのなら、切り口にしかるべき処置を加え腰かけに改装しそうなものだ。
そして、空間の中心付近の地には、不思議な模様が書かれていた。真上から見下ろして、楓はその正体を知った。
魔法陣である。今現在、正調の魔女はマナを用いて魔術を行うが、一昔前は魔法陣を用いた魔術も研究していたと楓は師から教えられた。結局魔法陣による魔術は廃れたものの、大規模な儀式魔術を行う際は用いることもあるという。
魔法陣は、その書き方や内容でどのような儀式魔術を行おうとしているのか分かるらしいが、知識が少ない楓にはさっぱりだった。しかしこれは、夜魔を復活させる儀式に関係あるものだろうと楓は感じていた。
せめて特徴を覚えようとして食い入るように魔法陣を見ていた時、ぞくりと楓の背が震えた。魔法陣から目を離して周囲を見回すと、音も、気配もなく、森の奥から何者かがやってきた。
薄暗い森奥から近づいてくる者の輪郭が、徐々に露わになってきた。その姿は、楓にとって忘れられない者だった。
「お前は……!」
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