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第十九話 剣鬼2
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全ては夢想だった。楓の考えた魔技陽炎の攻略法は泡と消えた。陽炎は、彼の攻撃動作中でも維持できたのだ。その可能性を、楓は少しだけ考えていた。しかし、その考えはすぐに打ち捨てていたのだ。
なぜならば、もしそうであれば自分に勝ち目はないと思っていたからだ。楓には、陽炎を真っ向から打ち破る術技が何一つ無かったのだから。
小鴉の言う通りだった。最初から楓に勝ち目はなかったのである。
蹴られた腹部を抑える手を離し、楓は刀を握って詰められる間合いを外すように下がった。しかし、こんなものはただの時間稼ぎである。この状況、どうにも覆しようがなかった。
数度後ろに下がった楓は、ついに足を止めた。これは逃げているだけだ。これでは勝てない。楓はそう思った。その思いが、後ろへ下がる足を止めた。
――どうすればいい? どうすれば、奴を斬れる?
魔技陽炎を破るには、小鴉を斬るためには、今のままではダメだ。今の朝比奈楓では、力が足りない。
そう、力だった。楓に足りないのは純然たる力。条理も不条理も打ち破る圧倒的な力。ただ一太刀の元に敵を斬る、剣の理法。小鴉の魔技不知火のような強力な術技が、楓には足りない。
しかしそんなものは、ただの小娘である楓には持ちえない。マナの恩恵に預かろうと彼女の体は軽く、剣撃に重さが伴わない。つまるところ、体も技も優れている相手を一太刀で倒すなど理想夢想の産物。そんなものは決してありえないのだ。
――いや、違う。それは、ある。
楓の理想を遂げる道が、ただ一つだけあった。……魔技だ。いまだに開眼しない楓だけの技。我流剣技。
今こそ、それを見出す時であった。それが出来なければ死は免れない。やらねば、やられる。
楓は慣れ親しんだ八双に構えた。それは何らかの意図があった訳ではない。ただ、こうするのが自然だと楓は思ったのだ。
――何を目指し、何を遂げる? 私の魔技は、何を目的とする。
楓は静かに己の心に語り掛けていた。己の理想とは一体何か。己の剣とは一体何か。心中の水底にゆっくりと彼女の心が沈んだ。
まず思い浮かんだのは、楓を斬った天坂夕月の魔技だった。魔技空澄の太刀。剣が届かぬ距離で斬撃を届かせる、魔性の技。
だが、それではまだ足りぬ。あれは威力、射程距離共に通常の剣撃を超えた幅を持っていたが、楓が目指すのはそれではない。彼女が求めるのはもっと純粋な力だった。
次に思い浮かんだのは、小鴉の魔技不知火だった。揺らめく黒炎のようなマナを剣に纏わせ、一撃必殺と呼ぶに相応しい剣撃の威力を得る魔性の技。
それは、楓の理想に近いような気がした。だがどこかで、楓はこの魔技には己が理想とする何かが足りないと思っていた。
魔技不知火は、それを応用して魔技陽炎、魔技朧へと派性していると楓は見て取っていた。不知火は剣撃にマナの結界を纏わせ威力を増し、陽炎は自分の体を防護し、朧はドーム状の大きく広いマナの結界を任意の場所に発生させる。驚くべき応用の幅だが、楓が目指すのはそれではない。目指すのは応用の幅ではなく、ただただ純粋な一太刀である。
楓の理想、それは、ただ一つの太刀で相手を切り伏せる魔性の技だった。それこそが、楓の求めるただ一つの真実。楓の魔技……一之太刀。
一之太刀。その名が楓の心に浮かんだ時、楓の中の何かが変わった。どこかに落とし忘れていたものを見つけたような感覚を、楓は抱いた。
楓の中の変化は、楓の周囲にも現れていた。彼女の周りに漂うマナが、まるで吸い寄せられるように刀身へと集まっていく。
通常、魔女がラピスを用いて操りきれるマナはある程度決まっており、そこには限界が存在していた。しかし今、楓の刀身に集まるマナは楓の限界を遥かに超えて、更に集まっていく。楓の理想を遂げるために、条理も不条理も乗り越えて、更に、更に。
小鴉は、慎重に楓との間合いを詰めていた。彼に焦りはない。長身な体と野太刀による間合いは楓よりも遥かに大きく、魔技不知火による一刀は楓をやすやすと切り裂ける。よしんばラピスで出来た強靭な刀を盾にして受けようとしても、それすら楽に突破できると彼は自負していた。
更に魔技陽炎による強固な防護は、朝比奈楓の渾身の剣撃をものともしない。全ての要因が、楓の勝利が不可能だと告げている。ゆえに、小鴉には焦りがなかった。
しかし、彼は何かを感じていた。八双に構え微動だにしない楓の目は、決して勝負を諦めていなかった。
楓の周囲に渦巻くマナの波濤。それに気づいた時、小鴉は目を驚愕に見開いて一息に間合いを詰めてきた。彼はその瞬間、はっきりと感じ取ったのだ。朝比奈楓という少女への、恐れを。
「魔技、不知火」
小鴉の野太刀がはしる。黒炎めいたマナを纏わせる彼の一刀は、何者も阻むことができない。
その、剣に。合わせる形で。楓の剣がはしった。
一瞬の刃合わせは、どこまでも静かだった。刃と刃が噛みあう音すらしなかった。ただ寂寥とした風が一陣流れた。
「……ばか、な……」
小鴉の野太刀が、折れていた。野太刀に隠れる形であった小鴉の体もまた、切り裂かれていた。
「あ、有り得ぬ……な、何だ、それは……」
楓の一刀は、魔技不知火も、魔技陽炎も切り裂き、小鴉の体を斬り落とし、彼の遥か後方にある大木すらも、静かに切り倒していた。
それは、剣の極地である。ただ対敵を斬るためだけの殺人刀。朝比奈楓が生み出した魔性の一振り。
「魔技、一之太刀」
楓の声が、静かに小鴉の死を告げた。
魔技一之太刀。その正体は、楓の限界を超えて刀に集まったマナを斬り下ろしと共に解放する、荒々しい術技であった。
対敵を斬る。ただその一念のために生まれ出でた一剣の威力は甚大であった。魔技陽炎の防護すらも意に介さぬ威力は、まさに一太刀で相手を仕留める魔性の技。
ゆえにその名を一之太刀。この一刀の後には二ノ太刀は要らず。全てのものを平等に切り伏せる、朝比奈楓の魔技であった。
この勝負が始まる前、小鴉は楓を剣鬼と言った。まさに、今の楓は剣鬼と呼ぶにふさわしい。ただ相手を斬る。それだけを一念に置く、剣の鬼。この一刀を知って、誰が楓を剣鬼と思わぬことか。
しかし、楓はやはり一人の少女であった。体を斜めに両断された小鴉の死体を見て、彼女は憐れむ目を見せたのだ。
剣鬼とは、剣を執って剣以外を意に介さぬ者。決着がついた今、楓はただの小娘に戻っていたのだ。
何が起こったのか、意味も分からず死んだ小鴉のことを、楓は憐れんでいたのだ。
剣と剣の勝負とは不条理なものだった。体も技も心も優れている相手が、全てに劣る相手の理不尽な一刀にて死に至る。強い者が生き、弱き者が死ぬのではなく、ただ己の剣に殉じたものが勝ちを得る。その純度の差が、勝敗を分かつのだ。
その不条理さに、楓は虚しさを感じていた。
虚しさを飲み込み、楓は歩みを進める。術者である小鴉を斬ったため、森の奥への侵入を阻む黒炎めいた結界は露と消えていた。
この森の奥には、魔女殺し伏倉と楓の師である天坂が待ち構えている。どちらも小鴉と同じく楓を上回る実力を持った者たちであり、魔技に目覚めた楓でも確実な勝利は望めない。
それでも楓は、迷わず踏み込んだ。その先に、斬るべき己の定めがあると信じて。
一歩森の奥に足を進めた楓は、ひどい嫌悪感を抱いた。今まで感じたことが無いほどおぞましく薄気味悪いマナが、大量に渦巻いているのを感じたのだ。
天坂と伏倉が夜魔を呼び出そうとしているせいだろうか。楓はそう思った。今まで、このように薄気味悪いマナを感じ取ったことはなかった。何か忌まわしいことが起きていると肌で感じ取れた。
魔技に目覚めた楓は今や、正真の武辺の魔女として成長していた。その彼女が、夜魔の復活は近いと感じ取っていた。
美景が言った通り、明朝頭数を揃えて森奥を攻めても、その時にはすでに夜魔が復活していることだろう。今夜魔の復活を止められるのは、ただ一人楓しかいなかった。
急がなければいけない。楓はそう思っていたが、足が泥に纏わりつかれたように重かった。一歩を踏み出すだけで、精神的な苦痛を覚えた。このおぞましいマナの持つ狂気が楓を阻んでいるのだ。
そして楓の体もまた、前に進もうとする彼女の心を阻んでいた。胃液が逆流しかけ、ひどい吐き気を覚えた。手足も痺れたように震え出す。楓の心はまだ恐怖にのまれていないものの、体は徐々に狂気に蝕まれていく。
――こんなものを、復活させてはいけない。私が止めるんだ。
強い使命感を持って、楓は狂気の波濤を押しのけた。強く心を保たなければ、もう一歩も歩けそうもなかった。まだ復活してないとはいえ、三魔女が封じるしかなかった夜魔の規格外さが伝わってくる。正調の魔女が何十人もいたとして、はたしてこれに敵うだろうかと、楓は冷や汗を流した。
息を強く吐き、ゆっくりと空気を吸って心と体を落ち着かせ、楓は走り出した。渦巻くマナの奔流、この中心こそが夜魔を復活させる儀式の中心。すなわち、天坂と伏倉がいるはずだ。
この際、二人同時に相手することも楓は戸惑わない。二人同時に相手取るよりも、夜魔を復活させてしまうことの方が絶望的だと楓は思っていた。
「あら……?」
「……っ!」
しかし、走る楓の前に一人の女性が立ちふさがった。魔女殺し、伏倉響だ。ゆらりと、まるで幽鬼のように気配を感じさせずに、木の影から現れたのだ。
なぜならば、もしそうであれば自分に勝ち目はないと思っていたからだ。楓には、陽炎を真っ向から打ち破る術技が何一つ無かったのだから。
小鴉の言う通りだった。最初から楓に勝ち目はなかったのである。
蹴られた腹部を抑える手を離し、楓は刀を握って詰められる間合いを外すように下がった。しかし、こんなものはただの時間稼ぎである。この状況、どうにも覆しようがなかった。
数度後ろに下がった楓は、ついに足を止めた。これは逃げているだけだ。これでは勝てない。楓はそう思った。その思いが、後ろへ下がる足を止めた。
――どうすればいい? どうすれば、奴を斬れる?
魔技陽炎を破るには、小鴉を斬るためには、今のままではダメだ。今の朝比奈楓では、力が足りない。
そう、力だった。楓に足りないのは純然たる力。条理も不条理も打ち破る圧倒的な力。ただ一太刀の元に敵を斬る、剣の理法。小鴉の魔技不知火のような強力な術技が、楓には足りない。
しかしそんなものは、ただの小娘である楓には持ちえない。マナの恩恵に預かろうと彼女の体は軽く、剣撃に重さが伴わない。つまるところ、体も技も優れている相手を一太刀で倒すなど理想夢想の産物。そんなものは決してありえないのだ。
――いや、違う。それは、ある。
楓の理想を遂げる道が、ただ一つだけあった。……魔技だ。いまだに開眼しない楓だけの技。我流剣技。
今こそ、それを見出す時であった。それが出来なければ死は免れない。やらねば、やられる。
楓は慣れ親しんだ八双に構えた。それは何らかの意図があった訳ではない。ただ、こうするのが自然だと楓は思ったのだ。
――何を目指し、何を遂げる? 私の魔技は、何を目的とする。
楓は静かに己の心に語り掛けていた。己の理想とは一体何か。己の剣とは一体何か。心中の水底にゆっくりと彼女の心が沈んだ。
まず思い浮かんだのは、楓を斬った天坂夕月の魔技だった。魔技空澄の太刀。剣が届かぬ距離で斬撃を届かせる、魔性の技。
だが、それではまだ足りぬ。あれは威力、射程距離共に通常の剣撃を超えた幅を持っていたが、楓が目指すのはそれではない。彼女が求めるのはもっと純粋な力だった。
次に思い浮かんだのは、小鴉の魔技不知火だった。揺らめく黒炎のようなマナを剣に纏わせ、一撃必殺と呼ぶに相応しい剣撃の威力を得る魔性の技。
それは、楓の理想に近いような気がした。だがどこかで、楓はこの魔技には己が理想とする何かが足りないと思っていた。
魔技不知火は、それを応用して魔技陽炎、魔技朧へと派性していると楓は見て取っていた。不知火は剣撃にマナの結界を纏わせ威力を増し、陽炎は自分の体を防護し、朧はドーム状の大きく広いマナの結界を任意の場所に発生させる。驚くべき応用の幅だが、楓が目指すのはそれではない。目指すのは応用の幅ではなく、ただただ純粋な一太刀である。
楓の理想、それは、ただ一つの太刀で相手を切り伏せる魔性の技だった。それこそが、楓の求めるただ一つの真実。楓の魔技……一之太刀。
一之太刀。その名が楓の心に浮かんだ時、楓の中の何かが変わった。どこかに落とし忘れていたものを見つけたような感覚を、楓は抱いた。
楓の中の変化は、楓の周囲にも現れていた。彼女の周りに漂うマナが、まるで吸い寄せられるように刀身へと集まっていく。
通常、魔女がラピスを用いて操りきれるマナはある程度決まっており、そこには限界が存在していた。しかし今、楓の刀身に集まるマナは楓の限界を遥かに超えて、更に集まっていく。楓の理想を遂げるために、条理も不条理も乗り越えて、更に、更に。
小鴉は、慎重に楓との間合いを詰めていた。彼に焦りはない。長身な体と野太刀による間合いは楓よりも遥かに大きく、魔技不知火による一刀は楓をやすやすと切り裂ける。よしんばラピスで出来た強靭な刀を盾にして受けようとしても、それすら楽に突破できると彼は自負していた。
更に魔技陽炎による強固な防護は、朝比奈楓の渾身の剣撃をものともしない。全ての要因が、楓の勝利が不可能だと告げている。ゆえに、小鴉には焦りがなかった。
しかし、彼は何かを感じていた。八双に構え微動だにしない楓の目は、決して勝負を諦めていなかった。
楓の周囲に渦巻くマナの波濤。それに気づいた時、小鴉は目を驚愕に見開いて一息に間合いを詰めてきた。彼はその瞬間、はっきりと感じ取ったのだ。朝比奈楓という少女への、恐れを。
「魔技、不知火」
小鴉の野太刀がはしる。黒炎めいたマナを纏わせる彼の一刀は、何者も阻むことができない。
その、剣に。合わせる形で。楓の剣がはしった。
一瞬の刃合わせは、どこまでも静かだった。刃と刃が噛みあう音すらしなかった。ただ寂寥とした風が一陣流れた。
「……ばか、な……」
小鴉の野太刀が、折れていた。野太刀に隠れる形であった小鴉の体もまた、切り裂かれていた。
「あ、有り得ぬ……な、何だ、それは……」
楓の一刀は、魔技不知火も、魔技陽炎も切り裂き、小鴉の体を斬り落とし、彼の遥か後方にある大木すらも、静かに切り倒していた。
それは、剣の極地である。ただ対敵を斬るためだけの殺人刀。朝比奈楓が生み出した魔性の一振り。
「魔技、一之太刀」
楓の声が、静かに小鴉の死を告げた。
魔技一之太刀。その正体は、楓の限界を超えて刀に集まったマナを斬り下ろしと共に解放する、荒々しい術技であった。
対敵を斬る。ただその一念のために生まれ出でた一剣の威力は甚大であった。魔技陽炎の防護すらも意に介さぬ威力は、まさに一太刀で相手を仕留める魔性の技。
ゆえにその名を一之太刀。この一刀の後には二ノ太刀は要らず。全てのものを平等に切り伏せる、朝比奈楓の魔技であった。
この勝負が始まる前、小鴉は楓を剣鬼と言った。まさに、今の楓は剣鬼と呼ぶにふさわしい。ただ相手を斬る。それだけを一念に置く、剣の鬼。この一刀を知って、誰が楓を剣鬼と思わぬことか。
しかし、楓はやはり一人の少女であった。体を斜めに両断された小鴉の死体を見て、彼女は憐れむ目を見せたのだ。
剣鬼とは、剣を執って剣以外を意に介さぬ者。決着がついた今、楓はただの小娘に戻っていたのだ。
何が起こったのか、意味も分からず死んだ小鴉のことを、楓は憐れんでいたのだ。
剣と剣の勝負とは不条理なものだった。体も技も心も優れている相手が、全てに劣る相手の理不尽な一刀にて死に至る。強い者が生き、弱き者が死ぬのではなく、ただ己の剣に殉じたものが勝ちを得る。その純度の差が、勝敗を分かつのだ。
その不条理さに、楓は虚しさを感じていた。
虚しさを飲み込み、楓は歩みを進める。術者である小鴉を斬ったため、森の奥への侵入を阻む黒炎めいた結界は露と消えていた。
この森の奥には、魔女殺し伏倉と楓の師である天坂が待ち構えている。どちらも小鴉と同じく楓を上回る実力を持った者たちであり、魔技に目覚めた楓でも確実な勝利は望めない。
それでも楓は、迷わず踏み込んだ。その先に、斬るべき己の定めがあると信じて。
一歩森の奥に足を進めた楓は、ひどい嫌悪感を抱いた。今まで感じたことが無いほどおぞましく薄気味悪いマナが、大量に渦巻いているのを感じたのだ。
天坂と伏倉が夜魔を呼び出そうとしているせいだろうか。楓はそう思った。今まで、このように薄気味悪いマナを感じ取ったことはなかった。何か忌まわしいことが起きていると肌で感じ取れた。
魔技に目覚めた楓は今や、正真の武辺の魔女として成長していた。その彼女が、夜魔の復活は近いと感じ取っていた。
美景が言った通り、明朝頭数を揃えて森奥を攻めても、その時にはすでに夜魔が復活していることだろう。今夜魔の復活を止められるのは、ただ一人楓しかいなかった。
急がなければいけない。楓はそう思っていたが、足が泥に纏わりつかれたように重かった。一歩を踏み出すだけで、精神的な苦痛を覚えた。このおぞましいマナの持つ狂気が楓を阻んでいるのだ。
そして楓の体もまた、前に進もうとする彼女の心を阻んでいた。胃液が逆流しかけ、ひどい吐き気を覚えた。手足も痺れたように震え出す。楓の心はまだ恐怖にのまれていないものの、体は徐々に狂気に蝕まれていく。
――こんなものを、復活させてはいけない。私が止めるんだ。
強い使命感を持って、楓は狂気の波濤を押しのけた。強く心を保たなければ、もう一歩も歩けそうもなかった。まだ復活してないとはいえ、三魔女が封じるしかなかった夜魔の規格外さが伝わってくる。正調の魔女が何十人もいたとして、はたしてこれに敵うだろうかと、楓は冷や汗を流した。
息を強く吐き、ゆっくりと空気を吸って心と体を落ち着かせ、楓は走り出した。渦巻くマナの奔流、この中心こそが夜魔を復活させる儀式の中心。すなわち、天坂と伏倉がいるはずだ。
この際、二人同時に相手することも楓は戸惑わない。二人同時に相手取るよりも、夜魔を復活させてしまうことの方が絶望的だと楓は思っていた。
「あら……?」
「……っ!」
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