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23話、山菜混ぜごはんと肉とチーズの山菜巻き
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今私は山奥にあるこじんまりとした村にやってきていた。
村の名はファルというらしく、人口は少なくて訪れる旅人や観光客もほとんどいない、物静かなところだった。
山奥というだけあって周囲は木々に囲まれ、自然に溢れている。自然と共存するのどかな村といった風情だ。
そんなところに私がなぜいるのかというと……道に迷ったからだ。
そう、滝を眺めた後また旅を再開した私は、周囲を包む森林にすっかり方向感覚をやられ、派手に迷っていた。
歩いても歩いてもどこか見た様な風景が続くし、日はどんどん暮れていくしで、焦った私はついに箒に飛び乗ることにした。
そうして木々の高さを超えて周囲を見回すと、リネットのお店がある大樹ははるか先にあり、迷って歩くうちにいつの間にやら随分遠くまで来てしまったことに気づいたのだ。
その頃にはもう夕方になっていて、私はこのまま野宿を覚悟し、せめて立地の良いところで足を休めたいと空を飛び回り、ふと見つけたのがこのファルという村だった。
観光客が全くこない村というだけあって、宿屋など外部の人間が寝泊まりする施設もないこの村。しかし村人は皆気が良くて、納屋で寝泊まりしてもいいと許可をいただいた。
とのことでなんとか野宿を免れた私は、納屋にバッグを置いて何の気なしに村を見て回っていた。
日は落ちてすっかり暗くなっていたが、村のところどころには電球があって歩くのには困らない光量があった。
木造りの家はこの辺りにある木々を原料としているだろう。薄黒い色合いで丈夫そうな印象を抱く。
ひどく静かな村だからか、耳を澄ますと夜行性の野鳥の声がかすかに聞こえてきた。
そうして村を歩き回っていると、村のはずれで炊事場のようなところを発見した。
薄暗い色の材木で作ったテーブルに、水が入ったいくつかのバケツ。そして火を起こすのに使うのだろう薪。どうやらここが村全体の調理場のようだ。
「あれ? 魔女さんも料理ですか?」
興味深げに眺めていたら、背後から声をかけられた。音調が高い、少女の声だ。
振り向くと、その手に野草をいっぱい持った少女がいた。きっとこの村に住んでいる子だろう。目が合うと彼女はにこりと笑った。
「あ、ごめんなさい。ちょっと興味があって見てただけだよ。邪魔だったね」
「あはは、邪魔だなんてそんな。こんなところでよければいっぱい見ていってくださいよ」
少女は明るい笑顔が特徴的な、朗らかな子だった。
「今から皆のご飯を作るつもりなんです。あ、良ければ魔女さんも食べていきますか?」
「え、いいの?」
「ええ、久しぶりのお客さんですから」
ありがたい申し出だった。ただ、さすがにいきなりやってきてタダで頂くのは気が引けるので、私の食材を提供することにした。
納屋からバッグを持ってきて、中に入っている食材をいくつか彼女に差し出していく。
お米に干し肉、チーズなどなど。
「さすがにこんなにいっぱい頂くわけには……」
量が多かったのか困ったように言う少女に、私は笑いかけた。
「どうせ一人だと食べきれない量だからさ、せっかくだから貰ってよ」
「そうですか……なら、今日は豪勢な料理を作っちゃいますね」
せっかくなので、調理工程を眺めることにする。私もたまに料理するし、こういう時に学んでおけば後に色々役立つかもしれない。
少女は村の炊事担当とのことで、手慣れた手つきで料理を進めていく。
まずお米を軽く洗い、耐熱容器の中にお米と水を入れて蓋をし、火にくべる。
ご飯を炊いている間に野草を水洗いし、切っていく。
「これは全部私たちが日常的に食べてる山菜なんですよ。ちょっと苦いですが、ちゃんと味があっておいしいんです」
魔法薬を作る時に自生している野草を使うことは多々あるが、食用の野草のことは全く分からない。
何か会った時のために、今少女が料理に使っている野草の種類をできるだけ覚えることにした。
野草を切り終えた少女は、少し考え込むように唇に指をあてた。
「いつもはこのまま山菜全部を塩で炒めてごはんに混ぜ込むんですよねー。でも今日は他にも食材があるので……半分だけ使うことにしましょう」
そう言って少女は山菜を半分だけフライパンで炒めだした。もう半分は別の料理に使うのだろうか。
私の心の内の疑問に答えるように、少女は山菜の塩炒めをさっと作った後、干し肉とチーズを細長く切りはじめた。
そして切った干し肉とチーズを重ね、それを山菜で巻いていく。
少女はちょうどごはんが炊けた頃合いに容器の蓋をあけ、炒めた山菜を入れてざっくりとかき混ぜた。そしてまた蓋を閉めて今度は火から遠ざける。
「後は十分ほど蒸らせば山菜ごはんは完成です。その間にこのお肉とチーズの山菜巻きを焼いていきますね」
空いたフライパンに山菜巻きを敷いていき、じっくりと焼いていく。
時々ひっくり返しながらごはんが蒸すまで焼いていくと完成のようだ。
「そろそろごはんもできた頃合いですね」
少女はフライパンを火から放し、山菜巻きを取り皿に分けていく。
焼き目がついた山菜の間からとろけたチーズがはみ出してきて、とてもおいしそうだった。
「ごはんも取り分けて……と。はい、これは魔女さんの分です。えへへ、今日は魔女さんのおかげで一品増えました。ありがとうございます。それじゃあ私、皆に料理を配ってきますから、魔女さんはどうぞ食べていてくださいね」
ごはんが入った耐熱容器と山菜巻きを乗せた取り皿を手にして、少女は暗闇の中を歩いていった。
少女がいなくなって、私の前には山菜を混ぜ込んだごはんと、肉とチーズを山菜で巻いた物だけが残された。どちらもとてもおいしそうだ。
お腹もすいているし、食べていていいと言われたので早速頂くことにする。
携帯していた箸を取り出し、ごはんを一掴み。箸は得意ではないけど、この料理はスプーンやフォークで食べるって感じでもない。
適材適所とも言うし、食事に使う器具はやはり色々持っておくべきだ。
山菜がたっぷり混ぜ込んであるごはんを一口食べると、山菜の匂いが広がった。ちょっと青臭くもあり、だけど嫌な匂いじゃない。
山菜混ぜごはん自体はとてもシンプルな物だ。色んな山菜が入っているとはいえ、味付けは塩のみ。
しかし山菜のほのかな苦みと塩気、そしてごはん自体の甘みがしっかりと感じられ、素朴ながらもとても味わい深い。
少女の発言によると、これがこの村の人たちが日常的に食べている物らしいし、とても家庭的なごはんだった。
そしてもう一品は干し肉とチーズの山菜巻き。こちらも味付けはされていないが、元々干し肉は塩気が強いし、チーズも味が濃い。それにほろ苦い山菜が合わさっているのだから、味付けはなくても期待できるだろう。
山菜巻きを一口かじると、山菜の葉を噛み切る軽快な音が小さくなった。伸びてくるチーズをうまく途中で切り、じっくりと咀嚼する。
こちらも期待通りおいしい。チーズと干し肉自体相性が良いし、そこに苦味があり焼いたことで香ばしさも増した山菜の味が入ってくるのだから、おいしいのは当然だろう。
山菜巻きをおかずに山菜混ぜごはんをまた一口。普段食べない山菜尽くしで、なんとなく贅沢な気分になる。
気がつけばあっという間に全部たいらげてしまっていた。
食後にひとごこちついて、ふと思う。偶然この村に寄らなければこの料理に出会わなかったのだろうな、と。
「魔法薬に使う野草だけじゃなくて、食用の野草についても勉強しようかな」
魔女として過ごしてきた私だけど、一人の人間としてはまだ知らないことが多い。
旅を続ければ、もっと私が知らない色々なことを知れるのだろうか。
すくなくとも、この旅はまだまだ私を飽きさせたりはしないのだろう。
村の名はファルというらしく、人口は少なくて訪れる旅人や観光客もほとんどいない、物静かなところだった。
山奥というだけあって周囲は木々に囲まれ、自然に溢れている。自然と共存するのどかな村といった風情だ。
そんなところに私がなぜいるのかというと……道に迷ったからだ。
そう、滝を眺めた後また旅を再開した私は、周囲を包む森林にすっかり方向感覚をやられ、派手に迷っていた。
歩いても歩いてもどこか見た様な風景が続くし、日はどんどん暮れていくしで、焦った私はついに箒に飛び乗ることにした。
そうして木々の高さを超えて周囲を見回すと、リネットのお店がある大樹ははるか先にあり、迷って歩くうちにいつの間にやら随分遠くまで来てしまったことに気づいたのだ。
その頃にはもう夕方になっていて、私はこのまま野宿を覚悟し、せめて立地の良いところで足を休めたいと空を飛び回り、ふと見つけたのがこのファルという村だった。
観光客が全くこない村というだけあって、宿屋など外部の人間が寝泊まりする施設もないこの村。しかし村人は皆気が良くて、納屋で寝泊まりしてもいいと許可をいただいた。
とのことでなんとか野宿を免れた私は、納屋にバッグを置いて何の気なしに村を見て回っていた。
日は落ちてすっかり暗くなっていたが、村のところどころには電球があって歩くのには困らない光量があった。
木造りの家はこの辺りにある木々を原料としているだろう。薄黒い色合いで丈夫そうな印象を抱く。
ひどく静かな村だからか、耳を澄ますと夜行性の野鳥の声がかすかに聞こえてきた。
そうして村を歩き回っていると、村のはずれで炊事場のようなところを発見した。
薄暗い色の材木で作ったテーブルに、水が入ったいくつかのバケツ。そして火を起こすのに使うのだろう薪。どうやらここが村全体の調理場のようだ。
「あれ? 魔女さんも料理ですか?」
興味深げに眺めていたら、背後から声をかけられた。音調が高い、少女の声だ。
振り向くと、その手に野草をいっぱい持った少女がいた。きっとこの村に住んでいる子だろう。目が合うと彼女はにこりと笑った。
「あ、ごめんなさい。ちょっと興味があって見てただけだよ。邪魔だったね」
「あはは、邪魔だなんてそんな。こんなところでよければいっぱい見ていってくださいよ」
少女は明るい笑顔が特徴的な、朗らかな子だった。
「今から皆のご飯を作るつもりなんです。あ、良ければ魔女さんも食べていきますか?」
「え、いいの?」
「ええ、久しぶりのお客さんですから」
ありがたい申し出だった。ただ、さすがにいきなりやってきてタダで頂くのは気が引けるので、私の食材を提供することにした。
納屋からバッグを持ってきて、中に入っている食材をいくつか彼女に差し出していく。
お米に干し肉、チーズなどなど。
「さすがにこんなにいっぱい頂くわけには……」
量が多かったのか困ったように言う少女に、私は笑いかけた。
「どうせ一人だと食べきれない量だからさ、せっかくだから貰ってよ」
「そうですか……なら、今日は豪勢な料理を作っちゃいますね」
せっかくなので、調理工程を眺めることにする。私もたまに料理するし、こういう時に学んでおけば後に色々役立つかもしれない。
少女は村の炊事担当とのことで、手慣れた手つきで料理を進めていく。
まずお米を軽く洗い、耐熱容器の中にお米と水を入れて蓋をし、火にくべる。
ご飯を炊いている間に野草を水洗いし、切っていく。
「これは全部私たちが日常的に食べてる山菜なんですよ。ちょっと苦いですが、ちゃんと味があっておいしいんです」
魔法薬を作る時に自生している野草を使うことは多々あるが、食用の野草のことは全く分からない。
何か会った時のために、今少女が料理に使っている野草の種類をできるだけ覚えることにした。
野草を切り終えた少女は、少し考え込むように唇に指をあてた。
「いつもはこのまま山菜全部を塩で炒めてごはんに混ぜ込むんですよねー。でも今日は他にも食材があるので……半分だけ使うことにしましょう」
そう言って少女は山菜を半分だけフライパンで炒めだした。もう半分は別の料理に使うのだろうか。
私の心の内の疑問に答えるように、少女は山菜の塩炒めをさっと作った後、干し肉とチーズを細長く切りはじめた。
そして切った干し肉とチーズを重ね、それを山菜で巻いていく。
少女はちょうどごはんが炊けた頃合いに容器の蓋をあけ、炒めた山菜を入れてざっくりとかき混ぜた。そしてまた蓋を閉めて今度は火から遠ざける。
「後は十分ほど蒸らせば山菜ごはんは完成です。その間にこのお肉とチーズの山菜巻きを焼いていきますね」
空いたフライパンに山菜巻きを敷いていき、じっくりと焼いていく。
時々ひっくり返しながらごはんが蒸すまで焼いていくと完成のようだ。
「そろそろごはんもできた頃合いですね」
少女はフライパンを火から放し、山菜巻きを取り皿に分けていく。
焼き目がついた山菜の間からとろけたチーズがはみ出してきて、とてもおいしそうだった。
「ごはんも取り分けて……と。はい、これは魔女さんの分です。えへへ、今日は魔女さんのおかげで一品増えました。ありがとうございます。それじゃあ私、皆に料理を配ってきますから、魔女さんはどうぞ食べていてくださいね」
ごはんが入った耐熱容器と山菜巻きを乗せた取り皿を手にして、少女は暗闇の中を歩いていった。
少女がいなくなって、私の前には山菜を混ぜ込んだごはんと、肉とチーズを山菜で巻いた物だけが残された。どちらもとてもおいしそうだ。
お腹もすいているし、食べていていいと言われたので早速頂くことにする。
携帯していた箸を取り出し、ごはんを一掴み。箸は得意ではないけど、この料理はスプーンやフォークで食べるって感じでもない。
適材適所とも言うし、食事に使う器具はやはり色々持っておくべきだ。
山菜がたっぷり混ぜ込んであるごはんを一口食べると、山菜の匂いが広がった。ちょっと青臭くもあり、だけど嫌な匂いじゃない。
山菜混ぜごはん自体はとてもシンプルな物だ。色んな山菜が入っているとはいえ、味付けは塩のみ。
しかし山菜のほのかな苦みと塩気、そしてごはん自体の甘みがしっかりと感じられ、素朴ながらもとても味わい深い。
少女の発言によると、これがこの村の人たちが日常的に食べている物らしいし、とても家庭的なごはんだった。
そしてもう一品は干し肉とチーズの山菜巻き。こちらも味付けはされていないが、元々干し肉は塩気が強いし、チーズも味が濃い。それにほろ苦い山菜が合わさっているのだから、味付けはなくても期待できるだろう。
山菜巻きを一口かじると、山菜の葉を噛み切る軽快な音が小さくなった。伸びてくるチーズをうまく途中で切り、じっくりと咀嚼する。
こちらも期待通りおいしい。チーズと干し肉自体相性が良いし、そこに苦味があり焼いたことで香ばしさも増した山菜の味が入ってくるのだから、おいしいのは当然だろう。
山菜巻きをおかずに山菜混ぜごはんをまた一口。普段食べない山菜尽くしで、なんとなく贅沢な気分になる。
気がつけばあっという間に全部たいらげてしまっていた。
食後にひとごこちついて、ふと思う。偶然この村に寄らなければこの料理に出会わなかったのだろうな、と。
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