魔女リリアの旅ごはん

アーチ

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68話、オリーブオイルで揚げパン

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「ん……」

 まどろみの中、ゆっくりとまぶたを開いて小さくあくびをかく。
 あくびが収まると体の凝りを感じたので、手を重ねて軽く伸びをする。すると同じ姿勢で凝り固まっていた体がほぐれるような感覚を抱いた。

 寝ぼけまなこを擦って空を見上げてみると、柔らかな光が降り注いでいた。時刻はすっかり朝だ。
 普段だと野宿では睡眠が浅くなりがちだけど、今日はなんだかすごく良く眠ってしまっていた。それはきっと、昨日久しぶりに幼馴染三人が揃ってちょっとはしゃいでしまったからだろう。

 はしゃいだと言っても、何も夜更けまで騒いでいたわけではない。昨日食事を終えた私たちは、お互いの近況を話し合い、そのうち昔話が花開いてしまったのだ。
 それで思う存分話して就寝したのだが、モニカとクロエが一緒ということもあって私も気が抜けたのだろう、大木に背を預けて座り寝をしたというのに、たっぷりと寝こけてしまったようだ。

 空の陽気とはまた違う暖かさを近くに感じ、そちらに目を向ける。
 するとそこにはすでに起きていたクロエがいて、彼女は魔術でたき火を起こしていた。

「おはよう、リリア」
「おはよう、クロエ。相変わらず早いんだね」
「魔術遺産の調査は時間がかかるのが普通。だから早起きが当たり前」

 なんてことないように言うが、クロエは昔から早起きが得意だった。その代わり夜が苦手というか、大分早い時刻にうつらうつらとする癖がある。昨日も話しながらそうなっていたから、その癖は早起きと共に健在なのだろう。

「モニカとライラは……まだ寝てるか」

 周りを見回すと、寝こけている二人をすぐに発見できた。
 ライラは私の魔女帽子をベッド代わりにしていて、モニカは自分の魔女帽子を枕代わりにして小さくうずくまるように寝ていた。
 多分地面と接する面積を最小限に抑えたいのだろう。汚れ避けの魔術はかけているはずだけど、気持ち的に受け入れられないのだ。

「起こす?」

 クロエに私は首を振った。

「朝ごはんの準備してたら勝手に起きるでしょ」
「そう。じゃあ朝ごはんはどうする?」
「うーん……」

 今度の問いかけには唸った。食料はまだあるのだが、小柄な妖精のライラを含めた四人分の朝食となると、少々ピンとこない。
 ライラは体が小さいから、これまでの二人旅では私の分を分け与えて量的にはちょうど良かった。モニカと同行しても、まだ後一人分追加すればいいから準備の手間はそんなに変わらない。
 しかし四人分となると……どうしようか。

「昨日の乾パン、まだ大分余ってるから皆で食べてもいいけど」

 乾パンがたっぷり詰まった袋をクロエが差し出してくる。まだこんなに持ってたんだ。この乾パンはクロエのお気に入りらしいけど、かなり筋金入りだ。

「乾パンだけっていうのもなぁ……」
「私は別に構わないけど」
「うーん、確かにそれでもいいけど……ほら、できればもうちょっとおいしく食べたいでしょ」
「ああ……」

 昨日話し合ったお互いの近況を思い出したのか、クロエは合点が言ったと手を叩いた。

「リリアはおいしいものが食べたくて旅をしているんだったっけ」
「うん、そう。自分でも思い付きで急に実行したんだけどさ、そういう目的で始めたからできるだけおいしく食べたいんだよね」
「なら、パンの付け合わせを用意するとか?」
「それもいいなぁ。クロエの乾パン、ビスケットタイプじゃなくてライ麦パンみたいにぎゅっと生地が詰まってるタイプだし、水気のある野菜とかと合いそう……あっ」

 ふと思いついた私は、昨日使ってまだ外に放置したままのフライパンを手に取り、蓋を開けて中を確認した。
 そこには昨日鶏肉のスパイシー揚げをした時のオリーブオイルがまだなみなみと入っている。

「昨日みたいにそれつけて食べるの?」
「ううん、これで揚げパンにしたらどうかなって思って。鶏肉の油とスパイスの味もうつってるし、オリーブオイルのコクもあって味的には問題ないと思うんだよね」

 それに固めの乾パンだから多少油を吸うことでいい具合に柔らかくなりそうだ。

「よし、物は試し。揚げるだけだしやってみよっか」

 私は早速テレキネシスでフライパンを操作し、クロエが起こしていたたき火の上に固定した。

「……私はいいけど、もし失敗だったらどうするの?」

 クロエの言う失敗とは、おいしくなかったら、ということだろう。

「それはもう……モニカに……がんばってもらおうかな」

 そう言うと、クロエはその無表情の中にわずかな笑みを含んだ。

「リリアひどい。後でモニカに言おう」
「じょ、冗談だから、冗談。モニカには内緒ね」

 クロエは無表情でいて、わりとこちらをからかうことが多い。というかよくよく考えると、私は昔からよくクロエにからかわれていた気がする。多分はっきりと気がついてないだけで。

 オリーブオイルが十分熱くなるまで時間もあるので、もうひと手間加えることにした。といっても、輪切りにして一口サイズにした乾パンの表面に小麦粉をまぶすだけなんだけど。こうするときっと表面がからっと揚がるはず……多分。
 そしてフライパンから煙が立ってきた頃合いに、一口サイズの乾パンを投入していった。一気に放り込むと油の温度が下がるので、その分十分に熱しておいたのだ。

 もともと乾パンはそのままで食べられるので、そんなに長くは揚げたりしない。表面が狐色になる程度だ。
 それくらいになったらまたテレキネシスで乾パンたちを油から揚げ、軽く振動させて油切り、次々取り皿に放り込んでいく。

 乾パンを揚げる時の音とスパイシーな風味がうつったオリーブオイルの香りのおかげか、ライラとモニカが数度寝返りをうってゆっくりと起き上がりだした。

「おはよう、モニカ、ライラ」
「ふわぁ……おはにょ」

 二人に朝の挨拶をすると、モニカは呂律の回らない舌で聞き取れない声を発した。ライラはうつらうつらとしながら小声で、うん、と呟いただけだ。やはりまだ寝起きで意識がはっきりしないらしい。
 でもそのうち完全に目覚めるだろう。私は構わず揚げパンを作っていった。

 意外とパンが油を吸っているのか、乾パンを揚げ終った頃になると、フライパンになみなみと入っていたオリーブオイルの量が半分くらいになっていた。からっと仕上がった揚げパンの方も、ちょっと膨らんでいるように見える。

「よし、出来たよ。オリーブオイル揚げパン」

 私は出来たての暖かい揚げパンをひとつまみして、口に放り込んだ。
 小麦粉をまぶしたからか、表面はカリッとしている。そして昨日はぎゅっと生地が積まった硬めの食感だったが、油を含んだことで中の生地がちょっともっちりとしていた。
 オリーブオイルに昨日の鶏肉のスパイシー揚げの風味がちゃんと混じっていて、どこか肉々しさを感じる。でもオリーブオイル本来の香りとコクが後味を爽やかにもさせていた。

「……うん、結構おいしいんじゃない?」

 味の感想を言うと、ようやく完全に目が覚めたモニカとライラも近寄ってきて、それぞれが思い思いつまみ始める。

「……ああ、なんかスコーンっぽい感じかも。甘くなくてスパイシーな肉っぽいスコーン」

 それがモニカの食べた感想らしい。
 スパイシーな肉っぽい感じは、昨日鶏肉を揚げたオリーブオイルで揚げたからだけど、そう聞くと全然おいしそうに聞こえない。

「そうね、なんか香り……? 風味……? のおかげで食べごたえありそうだけど、わりとあっさりしてておいしいわ」

 ライラは結構満足してくれているようだ。

「……ん、おいしい。リリア良かったね、モニカに全部食べさせる必要は無くなった」

 ぽりぽりとつまんでいたクロエがぼそりと呟き、モニカが首を傾げる。

「私が……なに?」
「いや、なんでもない。なんでもないから!」

 慌てて言う私のことをクロエが楽しげに見ていた。あ、やっぱり私クロエにからかわれがち。

「そういえばさ、こうして再開できたけど今日からはどうするの?」

 話題を変える意味合いもあったけど、昨日から少し気になっていたことを私は聞いてみた。
 こうして三人再開するという目的が果たせた今、二人はどうするつもりだろうか。

「そうね……私は次の大きい町まであんたの旅に着いていこうかな。次の公演まで暇だしね。クロエはここの魔術遺産の調査?」

 モニカにふられたクロエは、首を振った。

「もうここの魔術遺産の調査は終わっている。私は二人が来る三日前にはきていたから」
「そう。じゃあどうするの?」
「次の魔術遺産を目指すつもり。調査は遠出になるから、いつも複数の魔術遺産を長期間かけて調査する方針にしている」
「だったらクロエも次の魔術遺産の道中、リリアの旅に同行したらいいじゃない。リリアもあてのない旅だから、クロエが次に向かう魔術遺産見学してきたら?」

 なんだかぽんぽんと話が進んでいって言葉を差し込む暇さえなかった私は、ただ軽く頷くだけだった。

「私は構わないよ。モニカの言う通りあての無い旅だし」
「なら、モニカと同じくリリアに同行する」
「じゃあ皆で次の魔術遺産を目指すってことで決定ね。私は多分途中で公演があるからお別れするけど」

 モニカが締めるようにはつらつと言った。
 なんだかモニカにうまく話しを進められてしまったけど、束の間とはいえ皆で旅をするのは楽しそうだ。こういう話しを進行させるのが上手なのは、さすが年上と言うしかない。一歳だけだけど。

「そうか……皆で旅かぁ」

 なら野外で料理をするのは結構大変かもしれない。さっきも思ったけど、四人分ともなるとやはり量が多い。
 うまいこと小さな村や町に立ち寄れれば、ごはんも食べられて食材もたくさん買えるかもしれない。後で地図を見ながら、クロエが向かう魔術遺産までのルートを大まかに決めておかないとな。

 そんなことを考えていた私の肩に、ライラがちょこんと座る。

「楽しそうな旅になりそうね」
「……うん、そうだね」

 ライラの言う通り、しばらくにぎやかで楽しい旅になることだろう。
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