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69話、花見とお団子
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旅の途中で見かけたマジックショーで偶然モニカと出会ってから早数日。あれよあれよという間に共通の幼馴染クロエとの再会も果たし、一時的に二人を共に旅をする事となった。
最初こそは気ままな一人旅だったが、妖精のライラと出会って陽気な二人旅となり、そして今一時的とはいえ幼馴染二人まで加わっている。
そうなるとより楽しい旅路になるかと言うと……意外と普通だった。
朝食を終えてから次の大きな町をめざし、街道をひたすら歩き続ける。最初は会話に花が咲いていたものの、一時間もすると段々口数も少なくなっていった。
もともとクロエは饒舌なたちではなく、私たち幼馴染の間でのムードメーカーと言えばもっぱらモニカが一任している。
しかし当のモニカは歩くのに疲れてすっかり口数を減らし、クロエは黙々と歩き続け、私はいつも通りライラと周りの風景を楽しんでいた。
幼馴染とはいえ三者三様。でも特に会話を交わさずにいても沈黙が苦にならないのは、やっぱり昔からの付き合いだからだ。
そうして街道を歩き続けていると、いつしか道路の端に木が植えられているのが目についた。そんなに背が高くない低木が等間隔に居並んでいる。
私の魔女帽子のつばにちょこんと座っていたライラは、その居並ぶ木々を見て嬉しそうに声をはずませる。
「見て、花が咲いているわ」
ライラの言う通り、街道の並木には花が色づいていた。寒冷地で寒い気候といえ、寒さに強い植物は数多い。寒冷地らしく、この並木は冬の寒さの中で花開く種類なのだろう。
ぐったりと肩を落としながら歩いていたモニカも、いつしか顔を上げて居並ぶ花並木を見つめていた。
「何の花かしら。葉っぱは無いのに黄色い花がたくさん咲いているわ」
「多分ロウバイだよ」
モニカの疑問に答えを返すと、彼女は首を傾げた。
「何それ」
「甘い匂いがする花を咲かせる木。魔法薬にもたまに使う」
私の代わりにクロエが補足する。
その通り。花は魔法薬で結構使うので私もそこそこ知識がある。このロウバイの花は甘い匂いと光沢ある黄色い花びらが特徴的で、特に精神に作用する魔法薬によく使われるのだ。
精神に作用する魔法薬も様々あるが、その甘い匂いによるリラックス効果を活かした、心を落ち着かせる薬が主な用途だ。
モニカは深呼吸するようにゆっくりと空気を吸い始める。
「……本当だ、甘い匂いがする。あれ? でも……なんかおいしそうな匂いもするんだけど」
私とクロエは顔を見合わせた。ロウバイの花においしそうな匂いなんて無いはずだけど。
しかしすぐにライラが肯定を返す。
「私もおいしそうな匂いを感じるわよ。何かしら、甘酸っぱい感じの匂いよ」
どういうことだ、と私もゆっくり匂いを嗅いでみた。
「……うん、確かにする。どこかで屋台でもあるのかな」
ライラの言う通り、ロウバイの甘い香りに隠れて明らかに食欲をそそる匂いがあった。
「屋台があるならせっかくだし食べていきましょうよ。なんだか旅っていう感じするし」
モニカの思い描く旅の情景が謎だったが、提案は悪くない。私たちは先に進みつつ、この匂いの元手を探すことにした。
やや曲がりくねったロウバイの花咲く並木道。ほんの十数分歩くと、この食欲そそる香りの元へとたどり着く。
そこに広がる光景を目にして、私たちは思わず足を止めた。
街道の端やその先に植えられた花開くロウバイの木の下に、たくさんの人がシートを敷いて座っていた。そしてロウバイの花を見ながら何やら食べたり飲んだりしている。
何だこの状況。街道部分にはさすがに人が座っていなかったが、代わりに屋台が立ち並んでいた。なんだかちょっとしたお祭り騒ぎにも見える。
予想外の光景に、私たち三人は顔を見合わせた。
「何なのよこれ」
「……さすがに分からない」
モニカもクロエも首を傾げる。訳が分からないのは私もそうだが、こういう妙な光景は旅をしていたら何度か出くわすので、二人ほどうろたえてはいない。
「とりあえず屋台でも見てみようよ。ついでに話も聞けるし」
そう言って先に歩き出すと、二人は感心するように小さい驚き声を漏らした。
「さすが慣れてるわね」
「今はリリアが頼もしく見える」
……。
「え、クロエは今まで私のこと頼りになるとは思ってなかったの?」
私が振り向いて鋭く言うと、クロエはさっと目をそらした。しかしその無言は肯定の証だ。
なんだか納得いかなかったが、とにかく今は屋台へと向かう。
屋台で売られていたのは、白く丸い物をいくつか串に刺し、その上にこげ茶色のソースをかけた物体だった。なんだろうこれ。この地域の特産品かな。
こういうのは売っている人に聞くのが一番。屋台の人なら観光客にも慣れていることだろう。
「あの、これって何ですか?」
屋台で売り子をしている女性に問いかけると、彼女はにこやかに笑って答えた。
「お団子ですよ。この辺りでよく食べられるお米を練った食べ物です。ここに咲くお花はこの地域では月花と呼ばれていて、咲き頃になると眺めながらお団子を食べるのが習わしなんです」
さすが屋台の売り子さんだけあって観光客への説明は慣れているらしい。私たち三人とも魔女姿なので、この辺りの人ではないことは一見して分かったのだろう。
それにしても、ロウバイの花を月花と呼ぶこの地域の人は洒落ている。確かにロウバイの花は月のように黄色く、花開く前のつぼみはまるで満月にも見えた。ロウバイ自身が寒い気候で咲く花なので、もし咲いている時に雪でも降ればさながら雪月花だろうか。
街道から少し外れたところで人々が花を見ながら食べていたのは、この屋台で売っているお団子なのだろう。なら私たちもこの地域の習わしに従い、花を見ながらお団子を食べるとしよう。
ライラも含めて人数分のお団子を買い、団子が刺さった串を片手に街道の端へと向かう。さすがに腰を落ち着けてゆっくり食べるつもりはないので、皆立ちながら花を見てお団子を口に運んだ。
「あっ、おいしいかもこれ」
お団子はなんていうか不思議な味だった。団子自体はもちもちっとしてて楽しい食感で、味は甘さとしょっぱさを同時に感じる。今までに食べたことがない感じ。
お団子は米から作られているらしいが、お米っぽさはそんなに感じない。練っているからもう全く別の食べ物としか思えなかった。これならお米を食べ慣れてない人も問題なく食べられるだろう。
そして一番不思議なのは、このかけられたソースだ。こげ茶色で一見苦そうなのに、匂いはなんだか甘くて、いざ食べると甘さと塩辛さが同居している。そしてそれがこのお団子の素朴な味に妙に合っていた。
「おいしいけど、なんだか不思議な感じね」
ライラも同じ感想だったらしく、はぐはぐとお団子に噛り付きながらも不思議そうに首を傾げている。あまり食べたことがない味わいだから、なんでおいしいのか全く分からないと言った風だ。
私もそれに同意見。間違いなくおいしいけど、今まで食べたことない食感と味だから、なんだか良く分からない感じ。
「……不思議な食感。パンと似ている様で全く違う」
クロエはこのもちもちとした食感が不思議らしく、興味深げに唸っていた。
そしてモニカはというと……。
「よく分からないけどおいしいじゃない、このお団子……だっけ? 私追加で買ってくるわ」
あっという間に串にささったお団子全部を食べ終えていたモニカは、意気揚々と鼻歌を歌いながら屋台へと向かいだした。どうやらかなりお気に召したらしい。
モニカってこういう馴染みの無い物を軽く受け入れるところがある。見習うべきだろうか。
「……私も追加で買ってくる」
クロエも団子を食べ終えてすぐモニカへと続いた。クロエはおそらくこの不思議な食べ物をもうちょっと味わって探求したいのだろう。理由は違うが結果的に行動が同じなのは面白い。
「リリア、私ももっと食べたいわ」
「じゃあ私たちも買いに行こっか」
実を言うと、私も不思議ともう一度食べたくなっていたところだ。ライラも含めて私たち四人、性格は違えど似たところがあるのかもしれない。
屋台へ向かおうと歩きだしてすぐ、私はそういえばと思い出して木々に視線を投げた。
鮮やかに咲く黄色いロウバイの花、この地方では通称月花。それを見ながらお団子を食べるのがこの地域の習わしというが……お団子に夢中ですっかり忘れていた。
私たち四人とも、花より団子だったらしい。
最初こそは気ままな一人旅だったが、妖精のライラと出会って陽気な二人旅となり、そして今一時的とはいえ幼馴染二人まで加わっている。
そうなるとより楽しい旅路になるかと言うと……意外と普通だった。
朝食を終えてから次の大きな町をめざし、街道をひたすら歩き続ける。最初は会話に花が咲いていたものの、一時間もすると段々口数も少なくなっていった。
もともとクロエは饒舌なたちではなく、私たち幼馴染の間でのムードメーカーと言えばもっぱらモニカが一任している。
しかし当のモニカは歩くのに疲れてすっかり口数を減らし、クロエは黙々と歩き続け、私はいつも通りライラと周りの風景を楽しんでいた。
幼馴染とはいえ三者三様。でも特に会話を交わさずにいても沈黙が苦にならないのは、やっぱり昔からの付き合いだからだ。
そうして街道を歩き続けていると、いつしか道路の端に木が植えられているのが目についた。そんなに背が高くない低木が等間隔に居並んでいる。
私の魔女帽子のつばにちょこんと座っていたライラは、その居並ぶ木々を見て嬉しそうに声をはずませる。
「見て、花が咲いているわ」
ライラの言う通り、街道の並木には花が色づいていた。寒冷地で寒い気候といえ、寒さに強い植物は数多い。寒冷地らしく、この並木は冬の寒さの中で花開く種類なのだろう。
ぐったりと肩を落としながら歩いていたモニカも、いつしか顔を上げて居並ぶ花並木を見つめていた。
「何の花かしら。葉っぱは無いのに黄色い花がたくさん咲いているわ」
「多分ロウバイだよ」
モニカの疑問に答えを返すと、彼女は首を傾げた。
「何それ」
「甘い匂いがする花を咲かせる木。魔法薬にもたまに使う」
私の代わりにクロエが補足する。
その通り。花は魔法薬で結構使うので私もそこそこ知識がある。このロウバイの花は甘い匂いと光沢ある黄色い花びらが特徴的で、特に精神に作用する魔法薬によく使われるのだ。
精神に作用する魔法薬も様々あるが、その甘い匂いによるリラックス効果を活かした、心を落ち着かせる薬が主な用途だ。
モニカは深呼吸するようにゆっくりと空気を吸い始める。
「……本当だ、甘い匂いがする。あれ? でも……なんかおいしそうな匂いもするんだけど」
私とクロエは顔を見合わせた。ロウバイの花においしそうな匂いなんて無いはずだけど。
しかしすぐにライラが肯定を返す。
「私もおいしそうな匂いを感じるわよ。何かしら、甘酸っぱい感じの匂いよ」
どういうことだ、と私もゆっくり匂いを嗅いでみた。
「……うん、確かにする。どこかで屋台でもあるのかな」
ライラの言う通り、ロウバイの甘い香りに隠れて明らかに食欲をそそる匂いがあった。
「屋台があるならせっかくだし食べていきましょうよ。なんだか旅っていう感じするし」
モニカの思い描く旅の情景が謎だったが、提案は悪くない。私たちは先に進みつつ、この匂いの元手を探すことにした。
やや曲がりくねったロウバイの花咲く並木道。ほんの十数分歩くと、この食欲そそる香りの元へとたどり着く。
そこに広がる光景を目にして、私たちは思わず足を止めた。
街道の端やその先に植えられた花開くロウバイの木の下に、たくさんの人がシートを敷いて座っていた。そしてロウバイの花を見ながら何やら食べたり飲んだりしている。
何だこの状況。街道部分にはさすがに人が座っていなかったが、代わりに屋台が立ち並んでいた。なんだかちょっとしたお祭り騒ぎにも見える。
予想外の光景に、私たち三人は顔を見合わせた。
「何なのよこれ」
「……さすがに分からない」
モニカもクロエも首を傾げる。訳が分からないのは私もそうだが、こういう妙な光景は旅をしていたら何度か出くわすので、二人ほどうろたえてはいない。
「とりあえず屋台でも見てみようよ。ついでに話も聞けるし」
そう言って先に歩き出すと、二人は感心するように小さい驚き声を漏らした。
「さすが慣れてるわね」
「今はリリアが頼もしく見える」
……。
「え、クロエは今まで私のこと頼りになるとは思ってなかったの?」
私が振り向いて鋭く言うと、クロエはさっと目をそらした。しかしその無言は肯定の証だ。
なんだか納得いかなかったが、とにかく今は屋台へと向かう。
屋台で売られていたのは、白く丸い物をいくつか串に刺し、その上にこげ茶色のソースをかけた物体だった。なんだろうこれ。この地域の特産品かな。
こういうのは売っている人に聞くのが一番。屋台の人なら観光客にも慣れていることだろう。
「あの、これって何ですか?」
屋台で売り子をしている女性に問いかけると、彼女はにこやかに笑って答えた。
「お団子ですよ。この辺りでよく食べられるお米を練った食べ物です。ここに咲くお花はこの地域では月花と呼ばれていて、咲き頃になると眺めながらお団子を食べるのが習わしなんです」
さすが屋台の売り子さんだけあって観光客への説明は慣れているらしい。私たち三人とも魔女姿なので、この辺りの人ではないことは一見して分かったのだろう。
それにしても、ロウバイの花を月花と呼ぶこの地域の人は洒落ている。確かにロウバイの花は月のように黄色く、花開く前のつぼみはまるで満月にも見えた。ロウバイ自身が寒い気候で咲く花なので、もし咲いている時に雪でも降ればさながら雪月花だろうか。
街道から少し外れたところで人々が花を見ながら食べていたのは、この屋台で売っているお団子なのだろう。なら私たちもこの地域の習わしに従い、花を見ながらお団子を食べるとしよう。
ライラも含めて人数分のお団子を買い、団子が刺さった串を片手に街道の端へと向かう。さすがに腰を落ち着けてゆっくり食べるつもりはないので、皆立ちながら花を見てお団子を口に運んだ。
「あっ、おいしいかもこれ」
お団子はなんていうか不思議な味だった。団子自体はもちもちっとしてて楽しい食感で、味は甘さとしょっぱさを同時に感じる。今までに食べたことがない感じ。
お団子は米から作られているらしいが、お米っぽさはそんなに感じない。練っているからもう全く別の食べ物としか思えなかった。これならお米を食べ慣れてない人も問題なく食べられるだろう。
そして一番不思議なのは、このかけられたソースだ。こげ茶色で一見苦そうなのに、匂いはなんだか甘くて、いざ食べると甘さと塩辛さが同居している。そしてそれがこのお団子の素朴な味に妙に合っていた。
「おいしいけど、なんだか不思議な感じね」
ライラも同じ感想だったらしく、はぐはぐとお団子に噛り付きながらも不思議そうに首を傾げている。あまり食べたことがない味わいだから、なんでおいしいのか全く分からないと言った風だ。
私もそれに同意見。間違いなくおいしいけど、今まで食べたことない食感と味だから、なんだか良く分からない感じ。
「……不思議な食感。パンと似ている様で全く違う」
クロエはこのもちもちとした食感が不思議らしく、興味深げに唸っていた。
そしてモニカはというと……。
「よく分からないけどおいしいじゃない、このお団子……だっけ? 私追加で買ってくるわ」
あっという間に串にささったお団子全部を食べ終えていたモニカは、意気揚々と鼻歌を歌いながら屋台へと向かいだした。どうやらかなりお気に召したらしい。
モニカってこういう馴染みの無い物を軽く受け入れるところがある。見習うべきだろうか。
「……私も追加で買ってくる」
クロエも団子を食べ終えてすぐモニカへと続いた。クロエはおそらくこの不思議な食べ物をもうちょっと味わって探求したいのだろう。理由は違うが結果的に行動が同じなのは面白い。
「リリア、私ももっと食べたいわ」
「じゃあ私たちも買いに行こっか」
実を言うと、私も不思議ともう一度食べたくなっていたところだ。ライラも含めて私たち四人、性格は違えど似たところがあるのかもしれない。
屋台へ向かおうと歩きだしてすぐ、私はそういえばと思い出して木々に視線を投げた。
鮮やかに咲く黄色いロウバイの花、この地方では通称月花。それを見ながらお団子を食べるのがこの地域の習わしというが……お団子に夢中ですっかり忘れていた。
私たち四人とも、花より団子だったらしい。
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