魔女リリアの旅ごはん

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122話、離島の自然杉とミックスフライ定食

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 カカミの町二日目の朝。
 私は早朝から箒に乗り、空を飛んでいた。
 眼下に広がるのは広大な海。太陽の光に照らされて、透き通ったサンゴ礁が青々と輝いている。

 わざわざ箒で海の上を飛んでいるのは、何も酔狂ではなく、とある場所を目指しているからだ。
 カカミの町から海を隔てて少し先を行った所には、自然あふれる離島がある。この離島も一応カカミの町の一部らしく、町の観光パンフレットに堂々と紹介されていた。
 なので今日は離島観光をしようと考えたのだ。

 カカミの町と離島の間は定期船が巡航していて、それに乗れば一時間で着くらしい。
 観光するには手軽な距離だが、つい最近船酔いに苦しんだ私にとって一時間も船の上にいなければいけないのは想像するのも嫌だった。
 だからこうして箒に乗って自ら離島に向かう事にしたのだ。

 箒で風を切って進む事早一時間近く。空高くにいるから目指す離島はずっと視界の先にあり、時が経つにつれその大きさを増していく。だから飛んでいる間それほど暇では無かった。
 一時間ちょっとをかけて目指す離島へと到着した私は、浜辺へと着陸した。

 この離島の名はミルラナ島。何でもミルラナ杉と呼ばれる原生林が有名らしく、島のほぼ三分の二が杉で覆いつくされている自然あふれる場所だ。
 私が降り立った浜辺のすぐ先にも、杉林との境界線が広がっている。海が近くにあるのに、その目と鼻の先で緑色が濃い杉林が広がっているのは奇妙な光景だ。
 この杉林の中に観光町が築かれているらしいので、まずは歩いてそこを目指す事にする。

「うわっ……中へ入ると空気が一変するわね」

 ライラと共に杉林の中へ足を踏み入れると、彼女が言う通り周りの空気が変わった。
 外からでは一見普通の杉林といった風情だが、中へと入ると巨大な杉がそこかしこに生え、太い幹を複雑に絡めあって縦横無尽に枝を伸ばしている。

 地面には大きな岩がごろごろ転がっていて、表面には苔がびっしりと生えて緑色になっていた。まるで岩すらも杉の一部のようだ。
 空からさんさんとした白い光が杉林へ差し込み、幻想的な空間を演出している。
 空気も澄んでいて、森林独特の落ち着く匂いが感じられる。私は思わず深呼吸をした。

「ふはぁ……何だかこの雰囲気、落ちつくわ」

 妖精であるライラはこの雄大な自然美に心惹かれるのか、私の魔女帽子の上に座りながらくにゃっともたれかかった。

「すごいね、この杉林。でも、奥にはもっとすごいのがあるらしいよ」
「へえ、何があるの?」
「千年杉って呼ばれる、樹齢千年もある大きな杉があるんだって」
「それがこの森の長老って事なのね」

 千年杉を森の長老と評するのは、自然に生きる妖精ならではの感性だと思えた。彼女達妖精からすれば、長生きしている木々などは尊敬に値するようだ。
 その千年杉を見に行くため、深い杉林の中を歩いていく。

 しかし、こうも周りが杉だらけだと、一気に方向感覚を失ってしまう。雄大な自然美に見惚れるせいもあり、気を緩めるとどこから歩いて来たのか一気に分からなくなりそうだ。
 でもそこは観光地。ちゃんと道案内の立て札が細かく立てられ、千年杉の元へと容易に到達できた。

「わぁ……」

 千年杉を目の当たりにして、自然と驚嘆の声が出た。
 それは道中の杉よりも更に太く大きな杉。
 巨大な幹は私が抱き付いて手を回しても決して後ろまで届かないほどで、雄々しく屹立している。

 千年もの時を感じさせるように、幹の表面は結構荒れている。ささくれだってゴツゴツとしていて、ひび割れている部分もあった。
 だけど空高くに生える葉っぱは濃い緑色をしていて、若々しさを感じさせる。

 長い時が想像できる古風な趣きでありながら、溢れんばかりの生命力が漲り若さも感じさせる。きっとこの木はこれから先、まだまだ雄々しく生きていくのだろう。それこそ向こう千年ほど。
 この杉林から感じられる不思議な空気は、自然の強い生命力なのかもしれない。

 考えてみれば、木々は時に人間などとは桁が違う年数を生きるのだ。この地に生える杉のほとんどが私より年上なのだろう。
 自然の中で生まれる妖精は、体を形成する魔力さえあれば半永久的に存在できる。妖精はいわば、この生命力に満ちる自然の化身なのかもしれない。
 で、当の妖精のライラはと言うと……。

「はぁ~……すごい……すごい落ち着く……ふはぁ……あぁ、何だか眠くなってきたわ」

 あろうことか、大先輩のはずの千年杉を前にして自然美を感じすぎてリラックスしまくっていた。もう帽子の上で横になってる。このまま寝るつもりだろうか。
 自然界では上下関係ってないのかな……いや、もしかして妖精が自然界のトップなのかも。実際歩く自然みたいなものだし。
 でもライラはもう……自然とはかけ離れているよ。

「ライラ、そろそろ観光町の方へ行こうか。ごはん食べてこよう」
「いいわね。美味しいごはんはあるかしら~」

 歌うように声を弾ませるライラは、もはや食欲の化身だ。
 自然って……何なんだろう。
 深く考えても埒が開かないので、私は無心で杉林の中の観光町を目指した。
 この町もまた立て札で案内されているので、それほど苦も無くたどり着けた。

 そこはミルラナ島の旧ミルラナ町。杉林の中にあり、縦横無尽に生える杉をそのままに素朴な木造建築をした、自然と融合した町である。
 家屋の屋根や壁には杉の枝が這い回り、まるで林に飲み込まれているかのようだ。表面には苔が生え、人が住んでいるとは思えない。

 実際、ここは観光用の町なので人は住んでいない。以前は住んでいたらしいが、杉林が巨大になりすぎて、今では全ての人が浜辺近くに引っ越しているらしい。残っている家屋は当時のままで、崩壊しないように修繕しているようだけど。
 そんな人が住んでいない町だが、観光客用の料理店が一件だけある。柱と屋根だけの吹き抜けのお店で、自然の中で食事できるのだ。
 今日はそこでごはんを食べる事にした。

 幸いまだお昼には早い時刻なので、お客は私達しかいない。
 ゆったりテーブル椅子に座りつつ、料理を注文する。
 注文したのは、海の幸のミックスフライ定食。離島で海が身近なので、新鮮な海の幸がやはりお勧めらしいのだ。

 しかし、杉林の中で海の幸を食べるというのもアンバランスな感じもする。それはそれで面白いとも言えるけど。
 ほどなくしてやってきたミックスフライ定食は、結構なボリュームだった。

 メインのミックスフライの種類は、エビフライにカキフライ、そしてアジフライ。エビフライとカキフライにはタルタルソースがかかっていて、アジフライにはウスターソースがかけられている。
 そこにごはんとお味噌汁、山盛りのキャベツにお豆腐と、定食の名に相応しい盛りだくさんな取り合わせ。

 一人で食べるのは結構大変な量だが、ライラもいるので食べ切れるだろう。二人そろって頂きますをして、早速食べてみる。
 まず最初に口をつけたのはお味噌汁。以前飲んだことはあるけど、これでまだ二度目。味噌の独特の味わいと旨みはまだ食べなれないけど、美味しいのは分かる。

 次に食べたのはエビフライ。カリっと揚がっていて、一口かじるとサクっとした食感。ジャクジャク鳴る音を楽しみつつ噛んでいくと、弾力あるエビの身から旨みが広がっていく。
 マヨネーズと卵にタマネギが入った濃いタルタルソースが、エビフライの淡泊ながらも味わい深い旨みを引き立てていく。

 うーん、おいしい。ライラはカニ派だけど、私はエビも好き。ぷりぷりした身がたまらないよね。
 タルタルとエビフライの味が残っているうちに軽く一口ごはんを食べ、勢いのままカキフライに手を付ける。

 カキフライを一口かじると、クリーミーな味わいが広がっていく。カキは新鮮で水分たっぷり。もにゅもにゅとした食感で、噛むたびにじゅわっと水分が溢れていく。
 独特なクリーミーさがあるカキの旨みが、またタルタルソースと合っている。エビの時とは違った味の引き立て方で、とてもおいしい。タルタルソースってもう何にでも合いそう。

 エビ、カキ、ときたら次はアジフライ。こっちはタルタルソースではなくウスターソースがかかって味が濃そう。
 じゃくっと音を鳴らして一口。アジフライ自体はさっぱりしつつも魚の味が楽しめ、ウスターソースの塩分でごはんが欲しくなる。

 ぱくぱくごはんを食べ、お味噌汁を飲み一息。ドレッシングがかかったキャベツを少し食べ、お豆腐へと手を付ける。
 お豆腐は冷ややっこと呼ばれる、冷やした豆腐を醤油で頂くタイプ。以前おでんを食べた時に厚揚げを食べたが、冷ややっこは初めて。

 どんな感じなのだろうと、箸で一口分切って食べてみる。
 ひんやりとした口当たりに、大豆の味がほのかに感じられるお豆腐。醤油の濃さが淡泊な味わいに合っている。
 箸休めというか、合い間合い間でつい一口食べたくなる感じだ。

 メインのフライ系を食べるとごはんを食べたくなり、ごはんを食べるとお味噌汁を飲みたくなり、お味噌汁を飲むと冷ややっこやキャベツを食べたくなる。そしてまたメインのフライ系が食べたくなるのだ。
 ミックスフライ定食……いや、定食というタイプの料理は、そういうサイクルが自然と出来上がっているのかもしれない。伸びては朽ち伸びては朽ちを繰り返し、やがて大きな林を形成するこの杉林のように。

「はぁ……おいしかった」

 思わず満足して呟くと、ライラも共鳴するようにうなった。

「色んな物が楽しめて良かったわね」

 そう、そこだ。色々食べられるのが良い、このミックスフライ定食。
 そしてこれだけ色々食べて満足した直後には、こう思うのだ。
 次は何食べようかな……。
 ……ライラだけでなく、私も食欲に脳を支配されつつあるのかもしれない。
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