魔女リリアの旅ごはん

アーチ

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127話、フウゲツの町ときつねそば

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 海辺の街道を歩き続け、ついに次の町へとたどり着いた。
 訪れた町の名はフウゲツ。これまでとはまた違って、独特な雰囲気の町だった。
 まず家屋の様式がかなり違う。三角形の瓦屋根が特徴的な木造建築で、中は風通しの良い構造をしていて、夏場を快適に過ごせるようになっている。

 このフウゲツの町は地理的に寒くなり辛い気候をしているらしく、このような家が好まれているようだ。
 また、人々の服装もかなり変わっている。長い布を体に巻き付けて帯で締める形で、男性物は着流し、女性物は着物と呼ばれる服装が一般的なようだ。
 町並みも不思議なもので、町のあちこちには灯篭と呼ばれる照明器具が置かれている。

 これは石造りで一見置き物のような形をしており、上側部分に四角形の穴が開いていてそこに火を灯して使うようだ。まだ夜になってないので、私の目には奇妙な建造物としかうつらない。
 町の中には水路が引かれており、水の流れがちょろちょろと聞こえてきて涼しげだ。水路を横断する朱色の橋があちこちに作られており、一見だと立体的な迷路にすら見える。

 今までとはひと味違った文化の街並みに、まるで異世界に迷い込んでしまったような気持ちになる。

「何だか不思議な町ねー」

 珍しい街並みにライラも興味を引かれたのか、私の周りをふわふわ漂いながらあちらこちらを見ていた。

「本当に不思議な町ね。でも私的には中々良い町だわ。雰囲気よくて涼しいし」

 ……私より先にライラへ反応したのは、あろうことか隣りに居たベアトリスだった。
 私はしばし沈黙を保ちつつ、ようやくの思いで朝から言いたかった言葉を発する。

「いや、あのさ、ベアトリス何で居るの?」

 そう、ベアトリスは昨日一緒に野宿してからずっと、私達に付いてきてたのだった。

「あら、別にいいじゃない。お互い気ままな旅でしょう? たまには旅の道連れが増えるのも悪くないわ」
「そうよリリア、にぎやかでいいじゃない」

 なぜかライラがベアトリスの肩を持つ。多分ベアトリスと一緒に居るとおいしい食べ物にありつけると踏んでいるのだろう。特に野宿の時とか。
 ベアトリスはベアトリスで気まぐれを起こしているだけだろうし……それに二人が言う通り旅の道連れがいてもにぎやかになるだけで別に悪い事はない。

「……ま、いっか」

 結局、なし崩し的にベアトリスと共に旅をする事を受け入れる。一応、うっかり血を吸われないよう気をつけよう。

「それにしても、お腹が空いてきたわね」

 ベアトリスが何の気なしにお腹を撫でながら言った。

「私も空いたわ。リリア、ごはん食べに行きましょう」

 ……本当にすっかり気が合ってるな、ライラとベアトリス。

「別にいいけど……何食べよっか」

 まだ来たばかりなので、ここではどのような食文化すら分かってない。街並みからして独特な文化体系なので、食事も多少変わっていそうだ。その辺り調べてみないと。
 そう思っていたら、ベアトリスはいつの間にか入手していたパンフレットをパラパラめくっていた。

「どうやらここ、そばが有名らしいわよ」
「そば?」

 私とライラの声がハモる。

「そばの実を原料とするそば粉を使った麺料理らしいわ。この町ではそばの実が良く取れるから、安価でおいしい大衆料理として確立してるようね」
「へぇー、この町の大衆料理かぁ。いいじゃん、そば食べに行こう」
「……ちょうどそこに立ち食いそば屋があるわね」

 ベアトリスが指さす方を見ると、確かにぽつんと一件そば屋があった。のれんがかけられていて、立ち食い、と書かれている。

「立ち食いそばって何?」

 私が聞くと、ベアトリスが首を傾げる。

「さあ? 私に聞かれても知らないわ。多分立って食べる事を言うんじゃない?」

 確かに。立ち食いってそういう意味としか思えない。
 おそらく町の人々がさっと食べてさっと出るのに適したお店なのだろう。観光客の私達からしたらちょっと入りにくい。
 でも今はお昼時を過ぎた頃合いで、立ち食いそば屋の店内はかなり空いていた。

 これは……迷わずさっさと入るべきかも。せっかくだから立ち食い形式も体験してみたいし、渡りに船だ。
 私とライラにベアトリスは、三人顔を見合わせて無言で頷き、立ち食いそば屋へ入っていった。

 店内はそっけない内装で、長方形の長テーブルがいくつか並べられていた。そこに立ち並んで食べる形式なのだろう。
 お店の入り口には木札がさげられている。見るとその木札にはメニューと料金が書かれていた。

「多分食べたいメニューが書かれている木札を取って、料金と一緒に店員に渡すのよ」

 周りの人を観察していたベアトリスがそう囁く。
 なるほど……慣れればすぐに注文ができるし、さっと食べてさっと出ていく形式にはうってつけだ。木札もちょっとしゃれている。
 でも、そばって初めて食べるから品名を見ても何が何やら……ちょっと迷ってしまう。
 悩む私をよそ目に、ベアトリスはさっさと木札を取ってしまった。

「そばはあくまで麺料理よ。トッピング程度の違いしかないでしょうから、フィーリングで選びなさい。フィーリングで」

 フィーリングって言われても……ええい、ならこれ。完全に運任せで木札を選ぶ。
 私が手にした木札には、きつねそばと書かれていた。
 ……きつね? 狐の肉が入ってるとか? あ、ちょっと怖いかも。
 でもベアトリスはもう店員さんに木札を渡しているし、これ以上迷ってられない。

 私もベアトリスに続いて木札を渡し、二人肩を並べてテーブルの前に立つ。
 するとものの二分でそばが運ばれてきた。驚愕の速度だ。
 そばの見た目は、一般的な麺料理、例えば以前に食べた唐辛子煮込み麺のような、スープの中に面が浸っている形式だ。

 スープはやや茶色が濃い。そこに灰……灰色? 灰色を黒方向に濃くしたような、なんかそんな感じの独特な色をした細い麺が入っている。
 そしてスープの上にぷかんと浮かんでいるのは……お揚げ。薄く切った豆腐を油であげた物だ。

 きつねそばって、これ? よかった、狐が入ってるんじゃないんだ。
 どうしてお揚げが入っているときつねそばなのかは私には分からないが、多分この町ならではの理由があるんだろうな。

「……そういえばベアトリスは何頼んだの?」
「私? 鴨そば」

 鴨そば……これもきっと鴨が入ってるんじゃなくて、何か別の物が入っているのだろう。
 そう思ってベアトリスの前に運ばれてきた器の中を見ると……でんっと大きな鴨肉が乗っていた。

「……」

 絶句する私を気にもせず、ベアトリスは器を持ち上げて一口スープをすすった。

「あ、鴨出汁の味」
「……」

 鴨そばは鴨ちゃんと入ってるの? じゃあきつねそばは何で……いや、別に狐食べたかったわけじゃないけど。
 何だか腑に落ちないと言うか、文字通り狐に化かされたような気分だ。
 その気分を引きづったままそばを食べてみる。

 ちゅるちゅるっとすすると、出汁が絡んでおいしい。そばは独特な風味があって、鼻を突き抜けるような良い匂いがあった。
 そばを噛むとぷちぷち千切れる感じで、もちもちした小麦粉の麺とは別物。
 同じ麺でも小麦粉とそば粉で結構な違いが生まれるらしい。奥が深いなー。
 そして肝心のお揚げはというと……。

「んっ!? んまっ!」

 じゃくりと一口かじると、じゅわっと出汁が染みだし、油っ気あるお揚げに甘さとしょっぱさが加わった。
 なんだこれすっごくおいしい。

「ライラ食べてみて食べてみて」
「あ、あつっ! た、食べるから、食べるからぁ」

 思わずライラに勧めると、私の圧に押されたライラが引いていた。
 それでも一口ぱくりと食べると、すぐに驚きで目を見開く。

「何これおいしいわ」
「ねっ、おいしいよねこれ」

 何が狐か分からないけど、きつねそばすごくおいしい。出汁が染みたお揚げは甘辛くてもうたまらない。驚愕のおいしさ。
 すると、そんな私達を横目で見ていたベアトリスが、箸で鴨肉を掴み上げた。

「一個ずつ交換しない?」

 物欲しそうな目でそう訴えてきた。
 ……ベアトリスもお揚げ食べたいんだ。
 鴨肉もお揚げも二つずつ入ってたので、確かに交換したらちょうどいいかも。
 お互い一つずつ交換し、お揚げと鴨肉を楽しむ。

「旅の道連れがいるとこうやって色々楽しめるのがいいわね」

 ベアトリスがぼそっと言ったのを聞いて、私も無言で頷いていた。
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