魔女リリアの旅ごはん

アーチ

文字の大きさ
134 / 185

134話、朝食のホットドッグと魔法薬

しおりを挟む
 朝、何やらごそごそした音で目を覚まし、寝ぼけまなこのままのそりと起き上がった。
 空からは明るい陽射し。そして鼻につく草花の匂い。これを感じると、ああ、野宿してるんだなって思う。
 霞む目で辺りを見回すと、すでに起きていたベアトリスが何やら自分の荷物を漁っていた。ごそごそした物音は彼女のせいらしい。

「あら、おはよう。起こしちゃったみたいね」
「……んー……おはよう。なにしてるの?」
「なんだか早く目が覚めちゃったから、今のうちに朝食の準備でもしようかなと思ったのよ」

 それで荷物を漁っていたのか……いや、そもそも吸血鬼なのに早起きしてるのがおかしい気がする。でもいっか、ベアトリスだし。

「そうだ、起きたついでに火を起こしてくれない?」
「んぁー……はい」

 起きたばかりで寝ぼけ半分だったが、もうこれまでの旅で染みついてしまったのか自然と体が動く。体内の魔力を調整して、ぼっと火を灯した。
 でもさすがに寝ぼけていたせいか、思っていた以上に大きな火が燃え上がってしまう。

「ぎゃー! ちょっと火! 火! もっと弱めなさいよ!」
「ごめんごめん、すぐ調整する……」

 内心慌てつつ魔力を調整して火加減する。するといつも通りのたき火程度の火力に落ちついた。

「気をつけなさいよ……吸血鬼だって火には弱いんだから」

 半ば涙目で睨まれてしまう。そんなに怖かったんだ……火にも弱いんだな、吸血鬼。
 この騒ぎでさすがに私の意識もはっきりと覚醒し、うーんと伸びをする。それだけで全身が目覚める気分だった。

 対してライラはいまだすやすやと寝ていた。ベアトリスの叫び声でも起きないなんて……リラックスしすぎ。
 しかし、こんな早起きをしてもする事がない。朝食はベアトリスが何やら作ってるらしいので、本当にやる事がなかった。

「……簡単な魔法薬でも作ってみるか」

 あまりにも暇なのでそう思い立ち、たき火の近くで魔法薬作成を試みる。
 今はあいにく手持ちにリリスの花がなくてマナ水から作る事ができない。だから調合しつつ自分の魔力を込めて作り上げる、やや難易度の高い作成法をするしかなかった。ま、簡単な薬だしなんとかなるでしょ。

 作るのは香水。といっても、きちんとした香水ではない。さすがに手持ちの材料ではできないからだ。
 実際の香水は無水エタノールに精油が必要だ。これらを混ぜて馴染ませればわりと簡単にできる。ここにマナ水などで魔力を含ませれば、通常の香水よりも長期保存できる香水が完成する。

 それらが無い今、私にできるのは……簡易香水だけ。花などのできるだけ強い香り成分が含まれる植物を熱湯で茹で、香り成分が含まれた水を抽出。それに魔力をそそげば香りの強さを増した魔法薬、簡易香水ができあがる。
 正規の作り方をした香水と比べると品質も香りも劣るが、少なくとも軽い匂い消し程度には使えるだろう。花でなく樹の根で作れば虫よけにも使える。

 とりあえずその辺に生えてた花――匂いからするとミント系――を摘み取り、ケトルでお湯を沸かしてその中に花を入れる。ぐつぐつ沸騰させて煮込むと、花がぐずぐずに崩れて水に混ざった。そのまま煮詰めていって匂いを濃くし、この辺りから箸でかき混ぜつつ魔力を込める。

「……なにしてるわけ?」

 地味な作業をしている私が気になったのか、ベアトリスが聞いてきた。

「魔法薬作ってる」
「へえ……」

 興味があるのかないのか、気の無い返事をしたベアトリスはフライパンで何やら焼きはじめた。すごく良い匂いがする。肉でも焼いてるのか。

「思ったんだけど」

 ふとベアトリスが言った。

「魔法薬の中には料理に使える物はないの?」
「……あー」

 そういえば無いかも。いや、あるかもしれないが私が知らないだけか?

「私が知る限りはないかなー」
「そう、残念ね。料理にかけるとおいしくなる魔法薬とかあったら便利なのに」
「……その発想はなかった」

 呆気にとられて私は口を開けた。
 ベアトリスの言う通りだ。料理に使える魔法薬があったらかなり便利じゃん。調味料やスパイスには植物から取れたり作れる物も多い。これをどうにかして魔法薬にするのは決して不可能ではない。

「……開発してみようかな」

 すごく乗り気だった。だって、これができれば普段の野宿料理もかなりおいしくなるうえ、飲食店にも売れるはずだ。試す価値はある。
 でも新しい魔法薬は一朝一夕で作れる訳ではない。込める魔力の量がとにかく重要で、少しでも魔力量をミスると、とたんに品質が劣化する。一から開発するというのは、調合の際に込める魔力量が未知数という意味だ。これの正解を出すには長い試行錯誤が必要だろう。

 でもやる価値はある。旅の合間にでもちょくちょく試作してみよう。何より日々のおいしいごはんの為に!
 うんうんと息巻いていると、いつの間にか香水が完成していた。これは小瓶に詰めておく。必要になったら適当に振りかけるだけで結構な香りがつくはずだ。

 また、ちょうどよくベアトリスの料理も終わったようだ。折よくライラも目を覚まし、あくびをしながらパタパタ飛びだした。

「……なんかおいしそうな匂いと花の良い匂いがする」
「おいしそうなのは私の料理ね」
「花の方は私が魔法薬作ってたからだね」

 ライラは寝ぼけ目のまま首を振った。

「二つ混ざると奇妙な匂いだわ」

 それは言えてる。

 ベアトリスが朝食に作ってくれたのは、ホットドッグだった。フライパンで焼いてたのはウインナーで、それを上に切れ目を入れたコッペパンで挟んだのだ。そこにケチャップとマスタードをかけて、シンプルなホットドッグが完成したというわけだ。
 作ってくれたベアトリスに感謝しつつ、ホットドッグを頬張る。コッペパンはかなり素朴だが、焼いたウインナーの香ばしさと旨みが混じるととたんにおいしくなる。マスタードのぴりっとした辛さとケチャップの甘さがたまらない。

 肉系なので食べごたえもあり、朝からお腹が落ちつくごはんだ。
 あっという間に平らげ、早速旅を再開……の前に、紅茶を飲んで一息つくことにした。
 ここで早速、できあがった紅茶に簡易香水を一滴垂らす。水と花と魔力だけでできてるので、食材や飲み物に混ぜても大丈夫なのだ。

 すると紅茶にミントのフローラルな香りが混じり、ハーブティー風味になる。
 同じ紅茶でも匂いが変わるだけで不思議と味わいも変わるもの。こうしてたまには変化をつけないとね。
 朝日差す獣道の中、私達三人はしばらく優雅にハーブティーを楽しんだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...