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134話、朝食のホットドッグと魔法薬
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朝、何やらごそごそした音で目を覚まし、寝ぼけまなこのままのそりと起き上がった。
空からは明るい陽射し。そして鼻につく草花の匂い。これを感じると、ああ、野宿してるんだなって思う。
霞む目で辺りを見回すと、すでに起きていたベアトリスが何やら自分の荷物を漁っていた。ごそごそした物音は彼女のせいらしい。
「あら、おはよう。起こしちゃったみたいね」
「……んー……おはよう。なにしてるの?」
「なんだか早く目が覚めちゃったから、今のうちに朝食の準備でもしようかなと思ったのよ」
それで荷物を漁っていたのか……いや、そもそも吸血鬼なのに早起きしてるのがおかしい気がする。でもいっか、ベアトリスだし。
「そうだ、起きたついでに火を起こしてくれない?」
「んぁー……はい」
起きたばかりで寝ぼけ半分だったが、もうこれまでの旅で染みついてしまったのか自然と体が動く。体内の魔力を調整して、ぼっと火を灯した。
でもさすがに寝ぼけていたせいか、思っていた以上に大きな火が燃え上がってしまう。
「ぎゃー! ちょっと火! 火! もっと弱めなさいよ!」
「ごめんごめん、すぐ調整する……」
内心慌てつつ魔力を調整して火加減する。するといつも通りのたき火程度の火力に落ちついた。
「気をつけなさいよ……吸血鬼だって火には弱いんだから」
半ば涙目で睨まれてしまう。そんなに怖かったんだ……火にも弱いんだな、吸血鬼。
この騒ぎでさすがに私の意識もはっきりと覚醒し、うーんと伸びをする。それだけで全身が目覚める気分だった。
対してライラはいまだすやすやと寝ていた。ベアトリスの叫び声でも起きないなんて……リラックスしすぎ。
しかし、こんな早起きをしてもする事がない。朝食はベアトリスが何やら作ってるらしいので、本当にやる事がなかった。
「……簡単な魔法薬でも作ってみるか」
あまりにも暇なのでそう思い立ち、たき火の近くで魔法薬作成を試みる。
今はあいにく手持ちにリリスの花がなくてマナ水から作る事ができない。だから調合しつつ自分の魔力を込めて作り上げる、やや難易度の高い作成法をするしかなかった。ま、簡単な薬だしなんとかなるでしょ。
作るのは香水。といっても、きちんとした香水ではない。さすがに手持ちの材料ではできないからだ。
実際の香水は無水エタノールに精油が必要だ。これらを混ぜて馴染ませればわりと簡単にできる。ここにマナ水などで魔力を含ませれば、通常の香水よりも長期保存できる香水が完成する。
それらが無い今、私にできるのは……簡易香水だけ。花などのできるだけ強い香り成分が含まれる植物を熱湯で茹で、香り成分が含まれた水を抽出。それに魔力をそそげば香りの強さを増した魔法薬、簡易香水ができあがる。
正規の作り方をした香水と比べると品質も香りも劣るが、少なくとも軽い匂い消し程度には使えるだろう。花でなく樹の根で作れば虫よけにも使える。
とりあえずその辺に生えてた花――匂いからするとミント系――を摘み取り、ケトルでお湯を沸かしてその中に花を入れる。ぐつぐつ沸騰させて煮込むと、花がぐずぐずに崩れて水に混ざった。そのまま煮詰めていって匂いを濃くし、この辺りから箸でかき混ぜつつ魔力を込める。
「……なにしてるわけ?」
地味な作業をしている私が気になったのか、ベアトリスが聞いてきた。
「魔法薬作ってる」
「へえ……」
興味があるのかないのか、気の無い返事をしたベアトリスはフライパンで何やら焼きはじめた。すごく良い匂いがする。肉でも焼いてるのか。
「思ったんだけど」
ふとベアトリスが言った。
「魔法薬の中には料理に使える物はないの?」
「……あー」
そういえば無いかも。いや、あるかもしれないが私が知らないだけか?
「私が知る限りはないかなー」
「そう、残念ね。料理にかけるとおいしくなる魔法薬とかあったら便利なのに」
「……その発想はなかった」
呆気にとられて私は口を開けた。
ベアトリスの言う通りだ。料理に使える魔法薬があったらかなり便利じゃん。調味料やスパイスには植物から取れたり作れる物も多い。これをどうにかして魔法薬にするのは決して不可能ではない。
「……開発してみようかな」
すごく乗り気だった。だって、これができれば普段の野宿料理もかなりおいしくなるうえ、飲食店にも売れるはずだ。試す価値はある。
でも新しい魔法薬は一朝一夕で作れる訳ではない。込める魔力の量がとにかく重要で、少しでも魔力量をミスると、とたんに品質が劣化する。一から開発するというのは、調合の際に込める魔力量が未知数という意味だ。これの正解を出すには長い試行錯誤が必要だろう。
でもやる価値はある。旅の合間にでもちょくちょく試作してみよう。何より日々のおいしいごはんの為に!
うんうんと息巻いていると、いつの間にか香水が完成していた。これは小瓶に詰めておく。必要になったら適当に振りかけるだけで結構な香りがつくはずだ。
また、ちょうどよくベアトリスの料理も終わったようだ。折よくライラも目を覚まし、あくびをしながらパタパタ飛びだした。
「……なんかおいしそうな匂いと花の良い匂いがする」
「おいしそうなのは私の料理ね」
「花の方は私が魔法薬作ってたからだね」
ライラは寝ぼけ目のまま首を振った。
「二つ混ざると奇妙な匂いだわ」
それは言えてる。
ベアトリスが朝食に作ってくれたのは、ホットドッグだった。フライパンで焼いてたのはウインナーで、それを上に切れ目を入れたコッペパンで挟んだのだ。そこにケチャップとマスタードをかけて、シンプルなホットドッグが完成したというわけだ。
作ってくれたベアトリスに感謝しつつ、ホットドッグを頬張る。コッペパンはかなり素朴だが、焼いたウインナーの香ばしさと旨みが混じるととたんにおいしくなる。マスタードのぴりっとした辛さとケチャップの甘さがたまらない。
肉系なので食べごたえもあり、朝からお腹が落ちつくごはんだ。
あっという間に平らげ、早速旅を再開……の前に、紅茶を飲んで一息つくことにした。
ここで早速、できあがった紅茶に簡易香水を一滴垂らす。水と花と魔力だけでできてるので、食材や飲み物に混ぜても大丈夫なのだ。
すると紅茶にミントのフローラルな香りが混じり、ハーブティー風味になる。
同じ紅茶でも匂いが変わるだけで不思議と味わいも変わるもの。こうしてたまには変化をつけないとね。
朝日差す獣道の中、私達三人はしばらく優雅にハーブティーを楽しんだ。
空からは明るい陽射し。そして鼻につく草花の匂い。これを感じると、ああ、野宿してるんだなって思う。
霞む目で辺りを見回すと、すでに起きていたベアトリスが何やら自分の荷物を漁っていた。ごそごそした物音は彼女のせいらしい。
「あら、おはよう。起こしちゃったみたいね」
「……んー……おはよう。なにしてるの?」
「なんだか早く目が覚めちゃったから、今のうちに朝食の準備でもしようかなと思ったのよ」
それで荷物を漁っていたのか……いや、そもそも吸血鬼なのに早起きしてるのがおかしい気がする。でもいっか、ベアトリスだし。
「そうだ、起きたついでに火を起こしてくれない?」
「んぁー……はい」
起きたばかりで寝ぼけ半分だったが、もうこれまでの旅で染みついてしまったのか自然と体が動く。体内の魔力を調整して、ぼっと火を灯した。
でもさすがに寝ぼけていたせいか、思っていた以上に大きな火が燃え上がってしまう。
「ぎゃー! ちょっと火! 火! もっと弱めなさいよ!」
「ごめんごめん、すぐ調整する……」
内心慌てつつ魔力を調整して火加減する。するといつも通りのたき火程度の火力に落ちついた。
「気をつけなさいよ……吸血鬼だって火には弱いんだから」
半ば涙目で睨まれてしまう。そんなに怖かったんだ……火にも弱いんだな、吸血鬼。
この騒ぎでさすがに私の意識もはっきりと覚醒し、うーんと伸びをする。それだけで全身が目覚める気分だった。
対してライラはいまだすやすやと寝ていた。ベアトリスの叫び声でも起きないなんて……リラックスしすぎ。
しかし、こんな早起きをしてもする事がない。朝食はベアトリスが何やら作ってるらしいので、本当にやる事がなかった。
「……簡単な魔法薬でも作ってみるか」
あまりにも暇なのでそう思い立ち、たき火の近くで魔法薬作成を試みる。
今はあいにく手持ちにリリスの花がなくてマナ水から作る事ができない。だから調合しつつ自分の魔力を込めて作り上げる、やや難易度の高い作成法をするしかなかった。ま、簡単な薬だしなんとかなるでしょ。
作るのは香水。といっても、きちんとした香水ではない。さすがに手持ちの材料ではできないからだ。
実際の香水は無水エタノールに精油が必要だ。これらを混ぜて馴染ませればわりと簡単にできる。ここにマナ水などで魔力を含ませれば、通常の香水よりも長期保存できる香水が完成する。
それらが無い今、私にできるのは……簡易香水だけ。花などのできるだけ強い香り成分が含まれる植物を熱湯で茹で、香り成分が含まれた水を抽出。それに魔力をそそげば香りの強さを増した魔法薬、簡易香水ができあがる。
正規の作り方をした香水と比べると品質も香りも劣るが、少なくとも軽い匂い消し程度には使えるだろう。花でなく樹の根で作れば虫よけにも使える。
とりあえずその辺に生えてた花――匂いからするとミント系――を摘み取り、ケトルでお湯を沸かしてその中に花を入れる。ぐつぐつ沸騰させて煮込むと、花がぐずぐずに崩れて水に混ざった。そのまま煮詰めていって匂いを濃くし、この辺りから箸でかき混ぜつつ魔力を込める。
「……なにしてるわけ?」
地味な作業をしている私が気になったのか、ベアトリスが聞いてきた。
「魔法薬作ってる」
「へえ……」
興味があるのかないのか、気の無い返事をしたベアトリスはフライパンで何やら焼きはじめた。すごく良い匂いがする。肉でも焼いてるのか。
「思ったんだけど」
ふとベアトリスが言った。
「魔法薬の中には料理に使える物はないの?」
「……あー」
そういえば無いかも。いや、あるかもしれないが私が知らないだけか?
「私が知る限りはないかなー」
「そう、残念ね。料理にかけるとおいしくなる魔法薬とかあったら便利なのに」
「……その発想はなかった」
呆気にとられて私は口を開けた。
ベアトリスの言う通りだ。料理に使える魔法薬があったらかなり便利じゃん。調味料やスパイスには植物から取れたり作れる物も多い。これをどうにかして魔法薬にするのは決して不可能ではない。
「……開発してみようかな」
すごく乗り気だった。だって、これができれば普段の野宿料理もかなりおいしくなるうえ、飲食店にも売れるはずだ。試す価値はある。
でも新しい魔法薬は一朝一夕で作れる訳ではない。込める魔力の量がとにかく重要で、少しでも魔力量をミスると、とたんに品質が劣化する。一から開発するというのは、調合の際に込める魔力量が未知数という意味だ。これの正解を出すには長い試行錯誤が必要だろう。
でもやる価値はある。旅の合間にでもちょくちょく試作してみよう。何より日々のおいしいごはんの為に!
うんうんと息巻いていると、いつの間にか香水が完成していた。これは小瓶に詰めておく。必要になったら適当に振りかけるだけで結構な香りがつくはずだ。
また、ちょうどよくベアトリスの料理も終わったようだ。折よくライラも目を覚まし、あくびをしながらパタパタ飛びだした。
「……なんかおいしそうな匂いと花の良い匂いがする」
「おいしそうなのは私の料理ね」
「花の方は私が魔法薬作ってたからだね」
ライラは寝ぼけ目のまま首を振った。
「二つ混ざると奇妙な匂いだわ」
それは言えてる。
ベアトリスが朝食に作ってくれたのは、ホットドッグだった。フライパンで焼いてたのはウインナーで、それを上に切れ目を入れたコッペパンで挟んだのだ。そこにケチャップとマスタードをかけて、シンプルなホットドッグが完成したというわけだ。
作ってくれたベアトリスに感謝しつつ、ホットドッグを頬張る。コッペパンはかなり素朴だが、焼いたウインナーの香ばしさと旨みが混じるととたんにおいしくなる。マスタードのぴりっとした辛さとケチャップの甘さがたまらない。
肉系なので食べごたえもあり、朝からお腹が落ちつくごはんだ。
あっという間に平らげ、早速旅を再開……の前に、紅茶を飲んで一息つくことにした。
ここで早速、できあがった紅茶に簡易香水を一滴垂らす。水と花と魔力だけでできてるので、食材や飲み物に混ぜても大丈夫なのだ。
すると紅茶にミントのフローラルな香りが混じり、ハーブティー風味になる。
同じ紅茶でも匂いが変わるだけで不思議と味わいも変わるもの。こうしてたまには変化をつけないとね。
朝日差す獣道の中、私達三人はしばらく優雅にハーブティーを楽しんだ。
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