魔女リリアの旅ごはん

アーチ

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141話、湖釣りとフィッシュバーガー

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 ツツジ湖を迂回するルートで湖の向こう側を目指しているところだけど、さすがにこの湖は大きすぎた。
 湖のほとりにそって歩いているのにまっすぐな道が続き、一向に向こう側との距離が縮まらない。そうこうするうちに夕暮れが近くなりだしていた。

 まだ空が朱に染まる前兆を見せた頃合いだが、私達は早々に野宿することに決定した。イタズラに歩くよりも暗くなる前に腰を落ち着ける場所を確保した方がいいと判断したのだ。
 幸いツツジ湖庭園からまだそれほど離れていないので、この辺りにはいくつか出店があった。といってもこれらのお店も夕刻を過ぎればルキョウの町に帰ってしまうだろう。だからこそ早めに野宿を決めたのである。今ならこれらのお店から食料を調達できるのだから。

 なので早速夜ごはんの確保の為屋台巡り……といきたい所なのだが、私にはどうしても目を奪われるものがあった。
 釣りだ。このほとりには釣り人が結構いる。どうやらこの付近ではツツジ湖での釣りが許可されているらしい。おあつらえ向きに釣竿の貸し出しまでされている。

「せっかくだし釣りしようかな。私が魚釣ってさ、ベアトリスがそれを調理するの。どう?」

 久しぶりに釣りがしたくなった私はそんな提案をした。するとベアトリスが疑わしそうな目を向ける。

「別にいいけど、釣れなかった場合どうするの? あまり遅くなると屋台もしまっちゃうわよ」
「大丈夫だよ、こう見えて釣りは意外と得意だから」
「ふーん、そう」

 なんだか興味無い感じだ。ベアトリスは釣りにロマンとか感じないタイプなのかな。いや、私も釣りにロマンは感じてないけど。でもたまにやると楽しい。

「とりあえずそういう事なら、リリアが魚を釣るのを期待して屋台で料理用の食材を買ってくるわ」

 一応私が釣る前提では動いてくれるらしい。ベアトリスは屋台がある方へ向かっていった。
 さて、私もそろそろ動かないと。もうすぐ夕暮れになる。そうなったら釣竿も返却しなければいけないだろう。これは時間との勝負だ。

 貸し釣竿屋で釣竿を借りてエサを購入し、早速釣りを開始する。勢いよく竿を振ってできるだけ湖の奥へ針を落とした。
 後はもう待つだけ。釣りはぼーっとしている時間の方が長いのだ。

「……やっぱり釣りって地味ね」

 ライラがふわぁっとあくびをする。以前クロエと釣り勝負をして以来の釣りだが、相変わらずただ過ぎているだけの時間だ。
 でも釣りは忍耐。我慢が大切。魚がエサにかかるまでひたすら待つのみだ。
 するとベアトリスが買いつけから戻ってくる。

「連れた?」
「……まだ」
「……釣れるの?」
「……わかんない」
「最初の頃の自信がもうないのね」

 呆れたように言われた。釣りを始める前はいつも釣れる気がするんだけどなー。いざやるとそんな短時間で魚がかかったりはしない。虚無の時間がやってくる。
 それから待つこと十分。ようやく初めてのあたりが来た。
 釣竿の先が揺れ、竿を持つ私の手に震動が伝わる。

「釣れた!」

 思いっきり竿を引き、魚を引き上げる。釣竿の先には、手の平二つ分程度の大きさの魚がいた。

「なんだろうこれ。鮎?」
「鮎ね。川魚にしては食べやすい方よ。当たりじゃない」

 あまり大きくないけど釣れたには釣れた。よし、この調子でもっと釣ってやろう。
 そう意気込んでもう一度竿を振って待つこと十分……二十分……三十分……。

「もうすっかり夕暮れね。そろそろ釣竿を返さなければいけないんじゃないの?」

 ベアトリスにタイムリミットを告げられ、私はがっくり肩を落とした。結局一匹しか釣れなかった……せめて人数分は釣りたかったのに。

「でも一匹は釣れて良かったじゃない。前は変な鉄の塊しか釣れなかったのに」

 ライラが励ますように言うが、後半のは完全に余計なひと言だ。

「……え、それで釣りには自信があるとか言ってたの?」

 ほら、ベアトリスに聞かれた。信じられないとばかりに白い目を向けている。

「それより前はもっと釣れたんだよ……ライラと出会う前のことだから証人が誰もいないけど本当だよ」

 訴えるも、二人にはいはいと生返事で対応される。悔しい……いつかバンバン釣れてる所を見せつけたい。
 いや、でもそれよりも問題は夜ごはんだ。結局一匹しか釣れなかった。もう屋台も引き上げようと片づけに入っているので買うこともできない。
 すると、ベアトリスがなにか訴えるようにこほんと咳払いした。

「安心しなさい。こんなこともあろうかとこんな物を買っておいたわ」

 ベアトリスが愛用する小さなクーラーボックスをぱかっと開く。すると中にはラップに包まれた鮎が三匹も入っていた。

「え? 魚売ってたの?」

 驚愕を隠すことができなかった。でも考えてみれば当然か。ここは釣りができるエリアなので、釣れなかった人向けに魚を売っているお店があっても変ではない。

「合わせて四匹。どれも大きくないけど、三人で食べるには十分でしょう? 暗くなる前に調理するから、釣竿を返してきたら火を起こしてちょうだい」
「……はい」

 私より完全に上手だったベアトリスに粛々と従い、釣竿を返却してきた。すぐに魔術で火を起こし、後はベアトリスの調理を見守ることにする。
 ベアトリスは慣れたように鮎の下処理をする。買ってきた三匹はすでに処理済みだが、私が釣った一匹はちゃんとしなければならないのだ。
 腹を捌いて内臓を取り除き、丁寧に洗って三枚におろした。そこでベアトリスがはたと動きを止める。

「匂い消しがしたいけど……あいにく今は手持ちがないのよね」
「あ、スパイスなら色々あるけど使う?」

 以前鉱石の町カルディアで色々スパイスを買いつけていたのだ。確かスパイスは匂い消しにも重宝したはず。

「あら、そんな便利な物持ってたの? やるじゃない」

 謎の褒め言葉を貰いつつ、ベアトリスにいくつかスパイスを見せる。

「クミンだけでいいわ。ガラムマサラをつけて焼き上げるだけでもおいしいだろうけど、今日の料理だとあまりスパイスの匂い自体はつけたくないのよね」

 私にはよく分からないが、そういうことらしい。いったい何を作ろうとしているのだろう。
 クミンを捌いた鮎にまぶした後、ボウルに小麦粉と水を入れて混ぜ、そこに切った鮎の身を全部入れる。

 そして油をたっぷり入れたフライパンを火で熱し、十分温まったところで衣がついた鮎を揚げていく。もちろんフライパンを固定させているのは私の魔術だ。私は料理のサポート役として使われている……。
 じゅわじゅわ揚がっていく鮎。その様子を見ていると、この前食べた料理が思い浮かんだ。

「あ、天ぷらだ」

 ベアトリスが作っていたのは鮎の天ぷらだった。まさかこの前食べた料理をすぐに作ってしまうとは……やっぱり私とは料理センスが段違いらしい。

「ただ天ぷらにして終わりではないけどね。まあ見てなさい」

 鮎の天ぷらが出来あがったらお皿に乗せる。それで完成かと思ったら、まだらしい。
 ベアトリスは今度はパンを取りだした。これもどうやら近くの屋台で買ったらしい。丸く膨らんだパン三つを真ん中から切り、その間に鮎の天ぷらを挟んでいった。
 そして今度はゆで卵を取り出してみじん切りにし、マヨネーズをかけて和えていく。

「本当は玉ねぎも欲しいんだけど、さすがに屋台では売ってなかったわ。ゆで卵は売ってたんだけどね。だからリリアが持っていた乾燥バジルを使ってちょっと変わり種のタルタルソースにしてみる」

 最後に乾燥バジルをかけてできあがったタルタルソースを、パンの上に乗った天ぷらにかける。そして最後にパンで挟んだ。

「はい、フィッシュバーガーの完成よ。本来は魚のフライだけど、今回は天ぷらにしてみたわ」
「おお~」

 鮎四匹分を使っているので、パンから鮎の天ぷらがはみ出す程のボリュームがある。これはすごくおいしそうだ。
 料理が完成した頃には夕暮れ空もかげってきていた。本格的に夜が来る前に、さっそくフィッシュバーガーを食べることにする。

「いただきます」

 作ってくれたベアトリスに感謝しつつ、フィッシュバーガーにかじりつく。
 フライではなく天ぷらにされた鮎は、衣がサクっとしつつもしっとりとした食感。クミンで匂いを消してあるからか、川魚特有の生臭さが全くない。しかもバジルを使ったタルタルソースまであるので、匂いは爽やかかつ食欲がそそるものだった。

 鮎自体はわりと淡泊な味だ。そこにマヨネーズが効いたタルタルの濃厚さ。ふんわりとしたパンもたまらない。普通にお店にありそうなクオリティに感じる。
 それにしても……と、食べていて私はふと思った。

「ベアトリスってさ、もしかしてバーガー好き?」

 思えば以前もハンバーガーを作ってくれた。金髪かつルビーのような赤い目をしていて一見お嬢様っぽい見た目の彼女だが、意外と庶民的な料理が好きなのかもしれない。

「好きか嫌いかで言えば好きよ。だって食べるのが楽じゃない。だから総菜パンも好き」
「総菜パンいいよね。私も好き」
「あ、私も好きよ。リリアと初めて会った時に食べたチーズパンすごくおいしかったわ」

 そういえばライラが初めて食べたのはチーズパンだったか。意外なところで気が合う私達だった。今度町についたら皆で気になる総菜パンを買ってきて食べるのも面白いかも。
 談笑しつつフィッシュバーガーを食べていると空がとっぷりと暗くなってきた。

 夜になるとツツジ湖のほとりは石灯篭の柔らかな光が浮かび上がり、水面とツツジの花を彩る。
 そんな美しい自然を堪能しながら、私達は食後のお茶を飲んで眠くなるまで話し続けた。
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