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140話、ツツジ湖庭園とたい焼き
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結局ベアトリスの二日酔いは一日中尾を引き、私達はその日旅館で大人しく過ごして一泊した。
その翌日、さすがにベアトリスの二日酔いも冷めていたので、お昼前にルキョウの町から旅立つことにした。
旅立ちがてら、ルキョウの町近くにある観光名所であるツツジ湖庭園を見に行こうとなり、そこを目指す。このツツジ湖庭園は大きな湖のほとりの一角をルキョウの町が管理整備しているのだ。
私達はそのツツジ湖庭園を観光がてら湖にそって迂回し、湖の向こう側から先へ進むつもりである。
そうしてやってきたツツジ湖庭園。庭園というだけあって、ほとりの一角は綺麗に整備され色々な建物が建てられていた。
ほとりから伸びる桟橋は湖の中に浮かぶ小さな孤島へ繋がっており、そこには大きな家が建てられている。あれはかつてルキョウの町の名士が住んでいた家らしく、今ではルキョウの町の文化遺産に指定されている。なので遺産を保護する名目上、近づくことはできても中に入ったりはできないようだ。
私達も遠目から眺めておいたが、立派な建物だなぁとしか思えなかった。正直ルキョウの町にあった旅館と似た意匠にしか見えなかったため、その凄さはあまり伝わらない。
まあ一個人があれだけ広い家を、それも湖の孤島に立てたという事実が凄いのかもしれない。それだけあそこに住んでいた人物はルキョウにとっての有名人というわけだ。
町の人からすればかつての歴史を感じさせられる名所かもしれないが、外部の一見さんである私達からすると凄いなぁの一言である。
そんな私からすれば、湖のほとり近くにたくさん生えているツツジの群生の方がよっぽど目が惹かれた。白、赤、青紫と、様々な色のツツジの花が咲いている。湖には鴨がいて、空には鳩も飛び回り、自然の優美さが現れていた。
そのツツジの花々の近くには人工的な道路とあずま屋に石灯篭。どれらも自然の中で異物とならないよう配慮されたデザインだ。道路は石畳であずま屋は近くで自然に生えている杉の木材、石灯篭は湖のほとりにたくさん落ちているやや青みを帯びた石材で作られ、昼間からほのかな明かりを灯していた。
そこから湖を迂回するように進んでいくと、今度は多くの屋台に出くわす。観光名所だけあって、訪れるたくさんの人目当てに出店するお店が多くあるのだろう。
屋台から漂う色んな良い匂い。なんだか小さなお祭り騒ぎという感じがするので、この匂いは好きだった。
「せっかくだからなにか食べてこうよ」
私がこう言うとまた食欲に支配されていると揶揄されそうだが、ベアトリスとライラも同じ気持ちだったのか頷くだけだった。
「このまま湖を迂回するつもりだし、どうせなら歩きながら食べられる甘いお菓子とか欲しいわね」
「甘い物か……なにかあるかな」
ベアトリスに言われ、屋台を遠目から覗き見しつつ湖を迂回する。どこも鉄板を使った料理をしていて、とてもお菓子とか売ってる気配ではない。時刻もお昼なので、やはりどこもお昼ごはん目当ての客狙いなのだろう。
しかし探せばあるもので、とある屋台からは甘い匂いが漂っていた。
なにを作っているのだろうと近づくと、そこには不思議な形の鉄板で何やら焼いている。
普通鉄板は平べったいものだが、これはどうも部分部分へこんでいる。しかもそれが左右対称になっており、そこになにやら生地を流し込んで対称となる鉄板で挟み込んで両面を一気に焼いていたのだ。
なんだろうこれ……と首を傾げた後に屋台ののれんを見てみる。そこにはたい焼きと書いてあった。
「……たい、焼いてないじゃん」
思わずツッコミの言葉が漏れた。たいって魚のタイ、つまり鯛のことだよね? 焼いてるの小麦粉を水に溶かした生地じゃん。もしかして中にタイが入っているとか?
いや、そもそもこの甘い匂い。どう考えても作っているのはお菓子系統のはず。ならたい焼きってどういう意味なんだろう。
そう思っていたら、突然ライラが叫んだ。
「あ、お魚」
「は?」
意味が分からずもう一度たい焼きとやらを作っている屋台の中を覗くと、ちょうど閉じた鉄板を開いたところだった。
その中には……タイの形をした焼き菓子があった。
あっけにとられる私と違い、ベアトリスは感心したように息をつく。
「そういうこと。タイの形をしているからたい焼きなのね。形のことだとは思いもしなかったわ」
それを聞いてようやく私も理解が追いついた。どうやらこのへこんだ鉄板、へこみがタイの形をしているのだ。そこに生地を流し込んで焼くと、タイの形をした焼き菓子が出来あがる。だからたい焼き、なのだろう。
確かに面白い。まさか名称の由来が形からだとは思いもしない。普通そのままタイを焼いていると考えるもん。
ちょうど出来上がったようだし、お菓子系の間食を探していたのもあり、私達は五つ入りのパックを一つ購入した。
たい焼きを持ってみると、意外と生地はしっかりしていた。カステラ系の生地をよりしっかりさせた生地に近いかもしれない。
しかし結構な大きさだ。さすがに本物のタイほどは無いけど、小さな魚程度はある。私の手の平からハミ出るくらい。これ全部ただ生地を焼いただけなら味気無さそうだけど……さて。
三人それぞれたい焼きを掴み、皆で同時にぱくっと一口。私とベアトリスは頭からいったが、ライラはなぜか尻尾からかじってた。
「ん、あんこだわ」
「あ、本当だ。あんこ入ってる」
ベアトリスに続いて私も中にあんこが入っているのに気付いた。作っている時に見逃したのか、ちゃんと中に入ってた。さすがに生地だけだと味気ないからね。
それにしても……またあんこか。
もう二口ほどぱくぱく食べてみる。表面がパリっとした生地に、温まって甘さと粘度が増したあんこ。おいしい。確かにおいしい……けど。
「これ、以前食べた人形焼やどら焼きとほぼ一緒じゃない?」
ベアトリスが禁断の言葉を口にしてしまった。私も思っていたことだけど、それを言ったらお終いじゃないだろうか。
生地の焼き具合とか味とか少し違うけども、中にあんこが入っている焼き菓子はこれで三度目。フウゲツやルキョウではどうもお菓子にはあんこ文化があるらしいが、見た目が違うだけで味自体は結構同じでは? と思ってしまう。
「ここ連日似たようなお菓子を食べてたせいだよね。おいしいけど、どれも一緒に思える」
もそもそ食べつつ私もベアトリスに同調してそんな事を言ってしまう。
「多分この辺りの人はあんこが好きなんでしょうけど、中身を変えたらもっと色々バリエーションが出るでしょうに」
「例えばなに?」
私が聞くと、ベアトリスは黙って考え込んだ。段々その顔が難しくなり、やがて絞り出すように言った。
「……ジャムとか」
「ジャムかぁ……この生地に合うかな?」
フルーティーなジャムとこの甘目な生地では、互いの甘さと匂いが邪魔しそうでもある。
「……確かに、カステラ系統の生地にジャムは微妙かも知れないわね……」
「はちみつとかは合うと思うけど……」
「中にはちみつを入れるの? 生地と混ざってしまうわよ」
「だよね。生地の中に入れて一緒に焼くとなると、意外とあんこしかないのかも」
「……なるほど」
私達でも思うのだから、それこそこの辺りの人々が中身を工夫するのは当然だ。でも案外良いのが無かったりするのだろう。
そんな中で、一人夢中でもそもそたい焼きを食べていたライラが私達にたい焼きの中を見せてくる。
「ねえ……私のたい焼き、中身あんこじゃないわよ?」
「は?」
「え?」
二人間抜けな声を出して差し出されたたい焼きを見ると、中にはクリーム色の何かが入ってた。
「これ……カスタードね」
「あーカスタードか」
カスタードは牛乳、卵、砂糖、小麦粉で作るお菓子用のクリームだ。小麦粉を使ってソースのように粘度ととろみがある状態に仕立てるのが特徴で、パンやシュークリームの中に入れたりと用途は幅広い。
カスタードならあんこ同様粘度があるので、生地と一緒に焼き上げても混ざったりはしない。果物の味があるジャムよりもこういった生地に合いやすそうだ。
私とベアトリスは一度目を合わせ、次に買ってきたたい焼きの残り三つに視線を向けた。
「五つのうちカスタードが一つだけとは考えられないわ。かといってカスタードが三つとも考えられない。だって、いわばあんこが王道でカスタードは傍流のはずよ。なら五つのうち三つがあんこで、カスタードは二つと考えるのが妥当。つまり残るカスタードはおそらく後一つ……」
「……」
もう一度私とベアトリスの視線が合う。お互い無言だけど、心中は共通していた。
――あんこはおいしいけど、さすがに今回はカスタードの方が食べたい。
どれだ……? 残る二つのうちどれがカスタードだ……?
「これよ……! きっとこれがカスタード!」
私より早く、ベアトリスが一個を選び取る。そのままぱくっと食べると、彼女の顔が歓喜に染まった。
「カスタードぉ~」
嬉々として私に中身を見せてくるベアトリス。やられた……取られてしまった……カスタード……。あとそのすごく調子に乗った顔が許せない。返せ、私のカスタード返せよぉ。
「ひ、一口……どうか一口お願いしますベアトリスさん……」
思わず敬語になってそんな懇願までしてしまう。ベアトリスは楽しそうに高笑いをしていた。
するとその状況に見かねたのか、ライラがふよふよと私の目の前に漂ってきた。
「そんなにカスタードが食べたかったの? なら私の残りをあげるわよ。代わりに残りもう一個食べるわね」
「あ、ありがとうライラ……!」
ライラの施しに感銘を受けつつ、私は嬉々としてカスタードたい焼きにかぶりついた。
あんことは違ったクリーミーな甘み。ああ、おいしい。あんこもおいしいけどあんこ以外の甘味が久しぶりなので体に染みる。
「……ふぅ、もうちょっとからかっていたかったのに、つまらないわね」
ベアトリスはそんな捨て台詞を吐いてたい焼きにぱくつきだした。私はなんとなく勝った気分になる。
「さて、じゃあ私は残りの一つ~」
ライラが鼻歌混じりに最後のたい焼きをかじる。やっぱり尻尾からだった。もしかして頭からは可哀想とか思うタイプなのだろうか。
たい焼きをかじったライラはもぐもぐ口を動かしつつ、首を傾げる。たい焼きの中味を見て、ぼそっと呟いた。
「これ、あんこもカスタードも入ってるわ」
「!?」
「!?」
私もベアトリスも、驚愕のあまり固まってしまった。まさか最後の一個がそんな特別なやつだなんて思わないじゃん……。
結局、私達はライラから一口施して貰った。あんことカスタードのブレンドは複雑な甘さだったものの、プレミアム感があっておいしかった。
その翌日、さすがにベアトリスの二日酔いも冷めていたので、お昼前にルキョウの町から旅立つことにした。
旅立ちがてら、ルキョウの町近くにある観光名所であるツツジ湖庭園を見に行こうとなり、そこを目指す。このツツジ湖庭園は大きな湖のほとりの一角をルキョウの町が管理整備しているのだ。
私達はそのツツジ湖庭園を観光がてら湖にそって迂回し、湖の向こう側から先へ進むつもりである。
そうしてやってきたツツジ湖庭園。庭園というだけあって、ほとりの一角は綺麗に整備され色々な建物が建てられていた。
ほとりから伸びる桟橋は湖の中に浮かぶ小さな孤島へ繋がっており、そこには大きな家が建てられている。あれはかつてルキョウの町の名士が住んでいた家らしく、今ではルキョウの町の文化遺産に指定されている。なので遺産を保護する名目上、近づくことはできても中に入ったりはできないようだ。
私達も遠目から眺めておいたが、立派な建物だなぁとしか思えなかった。正直ルキョウの町にあった旅館と似た意匠にしか見えなかったため、その凄さはあまり伝わらない。
まあ一個人があれだけ広い家を、それも湖の孤島に立てたという事実が凄いのかもしれない。それだけあそこに住んでいた人物はルキョウにとっての有名人というわけだ。
町の人からすればかつての歴史を感じさせられる名所かもしれないが、外部の一見さんである私達からすると凄いなぁの一言である。
そんな私からすれば、湖のほとり近くにたくさん生えているツツジの群生の方がよっぽど目が惹かれた。白、赤、青紫と、様々な色のツツジの花が咲いている。湖には鴨がいて、空には鳩も飛び回り、自然の優美さが現れていた。
そのツツジの花々の近くには人工的な道路とあずま屋に石灯篭。どれらも自然の中で異物とならないよう配慮されたデザインだ。道路は石畳であずま屋は近くで自然に生えている杉の木材、石灯篭は湖のほとりにたくさん落ちているやや青みを帯びた石材で作られ、昼間からほのかな明かりを灯していた。
そこから湖を迂回するように進んでいくと、今度は多くの屋台に出くわす。観光名所だけあって、訪れるたくさんの人目当てに出店するお店が多くあるのだろう。
屋台から漂う色んな良い匂い。なんだか小さなお祭り騒ぎという感じがするので、この匂いは好きだった。
「せっかくだからなにか食べてこうよ」
私がこう言うとまた食欲に支配されていると揶揄されそうだが、ベアトリスとライラも同じ気持ちだったのか頷くだけだった。
「このまま湖を迂回するつもりだし、どうせなら歩きながら食べられる甘いお菓子とか欲しいわね」
「甘い物か……なにかあるかな」
ベアトリスに言われ、屋台を遠目から覗き見しつつ湖を迂回する。どこも鉄板を使った料理をしていて、とてもお菓子とか売ってる気配ではない。時刻もお昼なので、やはりどこもお昼ごはん目当ての客狙いなのだろう。
しかし探せばあるもので、とある屋台からは甘い匂いが漂っていた。
なにを作っているのだろうと近づくと、そこには不思議な形の鉄板で何やら焼いている。
普通鉄板は平べったいものだが、これはどうも部分部分へこんでいる。しかもそれが左右対称になっており、そこになにやら生地を流し込んで対称となる鉄板で挟み込んで両面を一気に焼いていたのだ。
なんだろうこれ……と首を傾げた後に屋台ののれんを見てみる。そこにはたい焼きと書いてあった。
「……たい、焼いてないじゃん」
思わずツッコミの言葉が漏れた。たいって魚のタイ、つまり鯛のことだよね? 焼いてるの小麦粉を水に溶かした生地じゃん。もしかして中にタイが入っているとか?
いや、そもそもこの甘い匂い。どう考えても作っているのはお菓子系統のはず。ならたい焼きってどういう意味なんだろう。
そう思っていたら、突然ライラが叫んだ。
「あ、お魚」
「は?」
意味が分からずもう一度たい焼きとやらを作っている屋台の中を覗くと、ちょうど閉じた鉄板を開いたところだった。
その中には……タイの形をした焼き菓子があった。
あっけにとられる私と違い、ベアトリスは感心したように息をつく。
「そういうこと。タイの形をしているからたい焼きなのね。形のことだとは思いもしなかったわ」
それを聞いてようやく私も理解が追いついた。どうやらこのへこんだ鉄板、へこみがタイの形をしているのだ。そこに生地を流し込んで焼くと、タイの形をした焼き菓子が出来あがる。だからたい焼き、なのだろう。
確かに面白い。まさか名称の由来が形からだとは思いもしない。普通そのままタイを焼いていると考えるもん。
ちょうど出来上がったようだし、お菓子系の間食を探していたのもあり、私達は五つ入りのパックを一つ購入した。
たい焼きを持ってみると、意外と生地はしっかりしていた。カステラ系の生地をよりしっかりさせた生地に近いかもしれない。
しかし結構な大きさだ。さすがに本物のタイほどは無いけど、小さな魚程度はある。私の手の平からハミ出るくらい。これ全部ただ生地を焼いただけなら味気無さそうだけど……さて。
三人それぞれたい焼きを掴み、皆で同時にぱくっと一口。私とベアトリスは頭からいったが、ライラはなぜか尻尾からかじってた。
「ん、あんこだわ」
「あ、本当だ。あんこ入ってる」
ベアトリスに続いて私も中にあんこが入っているのに気付いた。作っている時に見逃したのか、ちゃんと中に入ってた。さすがに生地だけだと味気ないからね。
それにしても……またあんこか。
もう二口ほどぱくぱく食べてみる。表面がパリっとした生地に、温まって甘さと粘度が増したあんこ。おいしい。確かにおいしい……けど。
「これ、以前食べた人形焼やどら焼きとほぼ一緒じゃない?」
ベアトリスが禁断の言葉を口にしてしまった。私も思っていたことだけど、それを言ったらお終いじゃないだろうか。
生地の焼き具合とか味とか少し違うけども、中にあんこが入っている焼き菓子はこれで三度目。フウゲツやルキョウではどうもお菓子にはあんこ文化があるらしいが、見た目が違うだけで味自体は結構同じでは? と思ってしまう。
「ここ連日似たようなお菓子を食べてたせいだよね。おいしいけど、どれも一緒に思える」
もそもそ食べつつ私もベアトリスに同調してそんな事を言ってしまう。
「多分この辺りの人はあんこが好きなんでしょうけど、中身を変えたらもっと色々バリエーションが出るでしょうに」
「例えばなに?」
私が聞くと、ベアトリスは黙って考え込んだ。段々その顔が難しくなり、やがて絞り出すように言った。
「……ジャムとか」
「ジャムかぁ……この生地に合うかな?」
フルーティーなジャムとこの甘目な生地では、互いの甘さと匂いが邪魔しそうでもある。
「……確かに、カステラ系統の生地にジャムは微妙かも知れないわね……」
「はちみつとかは合うと思うけど……」
「中にはちみつを入れるの? 生地と混ざってしまうわよ」
「だよね。生地の中に入れて一緒に焼くとなると、意外とあんこしかないのかも」
「……なるほど」
私達でも思うのだから、それこそこの辺りの人々が中身を工夫するのは当然だ。でも案外良いのが無かったりするのだろう。
そんな中で、一人夢中でもそもそたい焼きを食べていたライラが私達にたい焼きの中を見せてくる。
「ねえ……私のたい焼き、中身あんこじゃないわよ?」
「は?」
「え?」
二人間抜けな声を出して差し出されたたい焼きを見ると、中にはクリーム色の何かが入ってた。
「これ……カスタードね」
「あーカスタードか」
カスタードは牛乳、卵、砂糖、小麦粉で作るお菓子用のクリームだ。小麦粉を使ってソースのように粘度ととろみがある状態に仕立てるのが特徴で、パンやシュークリームの中に入れたりと用途は幅広い。
カスタードならあんこ同様粘度があるので、生地と一緒に焼き上げても混ざったりはしない。果物の味があるジャムよりもこういった生地に合いやすそうだ。
私とベアトリスは一度目を合わせ、次に買ってきたたい焼きの残り三つに視線を向けた。
「五つのうちカスタードが一つだけとは考えられないわ。かといってカスタードが三つとも考えられない。だって、いわばあんこが王道でカスタードは傍流のはずよ。なら五つのうち三つがあんこで、カスタードは二つと考えるのが妥当。つまり残るカスタードはおそらく後一つ……」
「……」
もう一度私とベアトリスの視線が合う。お互い無言だけど、心中は共通していた。
――あんこはおいしいけど、さすがに今回はカスタードの方が食べたい。
どれだ……? 残る二つのうちどれがカスタードだ……?
「これよ……! きっとこれがカスタード!」
私より早く、ベアトリスが一個を選び取る。そのままぱくっと食べると、彼女の顔が歓喜に染まった。
「カスタードぉ~」
嬉々として私に中身を見せてくるベアトリス。やられた……取られてしまった……カスタード……。あとそのすごく調子に乗った顔が許せない。返せ、私のカスタード返せよぉ。
「ひ、一口……どうか一口お願いしますベアトリスさん……」
思わず敬語になってそんな懇願までしてしまう。ベアトリスは楽しそうに高笑いをしていた。
するとその状況に見かねたのか、ライラがふよふよと私の目の前に漂ってきた。
「そんなにカスタードが食べたかったの? なら私の残りをあげるわよ。代わりに残りもう一個食べるわね」
「あ、ありがとうライラ……!」
ライラの施しに感銘を受けつつ、私は嬉々としてカスタードたい焼きにかぶりついた。
あんことは違ったクリーミーな甘み。ああ、おいしい。あんこもおいしいけどあんこ以外の甘味が久しぶりなので体に染みる。
「……ふぅ、もうちょっとからかっていたかったのに、つまらないわね」
ベアトリスはそんな捨て台詞を吐いてたい焼きにぱくつきだした。私はなんとなく勝った気分になる。
「さて、じゃあ私は残りの一つ~」
ライラが鼻歌混じりに最後のたい焼きをかじる。やっぱり尻尾からだった。もしかして頭からは可哀想とか思うタイプなのだろうか。
たい焼きをかじったライラはもぐもぐ口を動かしつつ、首を傾げる。たい焼きの中味を見て、ぼそっと呟いた。
「これ、あんこもカスタードも入ってるわ」
「!?」
「!?」
私もベアトリスも、驚愕のあまり固まってしまった。まさか最後の一個がそんな特別なやつだなんて思わないじゃん……。
結局、私達はライラから一口施して貰った。あんことカスタードのブレンドは複雑な甘さだったものの、プレミアム感があっておいしかった。
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