魔女リリアの旅ごはん

アーチ

文字の大きさ
158 / 185

158話、夜食の春巻き

しおりを挟む
 モニカと明日の約束をしてポップコーンを二人でたいらげた後、さすがに夜も更けてきたので私は宿へと戻った。
 もうライラは寝てそうだな、と思っていたのだが、宿で借りた部屋に入ると、そこにはライラだけでなくベアトリスがいた。

「お帰り」
「リリアお帰りー」

 二人に出迎えられて、ただいまと返しておいたが、ベアトリスが居る事を不思議に思って首を傾げる。

 宿の一部屋は一人用。小さい上に普通の人からは見えない妖精のライラは別として、ベアトリスとは別部屋を取っている。
 わざわざ私の帰りを出迎える為に私の部屋で待っているとは思えなかった。

「どうしたの、二人とも。てっきりもう寝てるかと思った」
「早めに寝るのも良かったんだけどね。あなたと別れてから、道中で屋台を見つけてしまったのよ」

 ベアトリスは言いながら、クーラーボックスから小さなパックを取りだした。

「夜食として皆で食べるのはどうかしらと思ってね。買っておいたわ。食べる?」

 さっきモニカとポップコーンを食べたばかりだが、軽い口当たりのおかげか胃が刺激され、食欲が多少わきあがっている。眠る前にもう少し軽く食べるのもよさそうだ。

 でも、わざわざ夜食を買って私を待っていた事がちょっと気がかりだった。
 もしかして、マジックスロットで大外れした私に気を使ってくれたのだろうか。

 しかしそうだとすると、この二人はなにか食べさせれば私の機嫌が良くなるはずと考えているのかもしれない。
 ……ま、外れてないけど。落ち込むことがあっても、おいしいごはんを食べれば前向きになれるよね。お腹が満たされるっていうのは、それだけ安心することなのだ。

「いいね、食べる食べる」

 私はきっと気を使ってくれた二人に感謝しつつ、買ってきてくれた夜食を頂くことにした。

「なに買ってきたの?」

 紙パックを開けるベアトリスに尋ねると、彼女は中を見せてくれた。
 そこには、茶色の細長い包みのような食べ物が三つ並んでいる。

「なにこれ」
「春巻きっていうらしいわよ。具材を小麦粉で作った皮で棒状に包んで揚げた食べ物」
「へえー、揚げ物なんだ」

 確かに茶色の見た目は、からっと揚げられた感じがする。
 でも夜食に揚げ物か。中々重そうかも。

「ちなみに具材は野菜がメインよ。タケノコとかしいたけが入っているって言ってたわ。揚げ物だけど、見た目より軽いとは思うわ」
「ふーん。まあ軽くても重くても、とりあえず食べるんだけどね」

 言って、私は春巻きの一つを用意した箸で掴んだ。
 ベアトリスも春巻きを一つ掴み、ライラには紙パックごと渡す。
 それでは夜食の春巻きを頂きます。

 一口噛んでみると、サクっとした食感。揚げられているから表面がパリっとしている。
 春巻きの生地は意外と厚めで、表面こそパリっとしていたが、中はしっとりしていた。

 そしてベアトリスも言っていた野菜メインの具材。どうやら、あんっぽく仕上げてるらしく、とろっとした感じがあった。
 具材は縦長の細切りらしく、細いけど食感は結構残っている。特にタケノコがしゃくしゃくした食感があっておいしい。

 なるほど、確かに油っぽさはあまり感じない。表面がカリっとしつつ、中はしっとり、あんのようなしっかり味付けされた具材で、一品物として満足できる味だ。
 意外と食べごたえもあるし、これなら夜食としてばっちりかも。

 もぐもぐ食べながら、私はさっきモニカと取りつけた明日の夕食の約束を話すことにした。

「さっきさ、偶然モニカと出会って、明日一緒にごはん食べる約束をしたんだけど、二人もそれでいい?」
「いいわよ。モニカ、偶然この町に来てたのね。久しぶりに会えるのが楽しみだわ」

 すでにモニカと面識あるライラは、再開できるのが楽しみなのか嬉し気だった。
 ベアトリスの方は、ライラと私を交互に見て、噛んでいた春巻きをごくんと飲みこんだ。

「モニカって誰かしら?」
「私の幼馴染だよ。ベアトリスも一回会ってるけど覚えてるかな? ほら、ラズベリージャムパンを買いに来た時に会った魔女」
「……ああ、確かにいたわね。あの小さかった子……まさかリリアの幼馴染だったなんて」

 私と同じく十五歳で成長止まってるからね。ちなみに私より一つ上。私より小さいけど。

「私も別に構わないわよ。それで、いったい何を食べるのかしら」
「さあ。そこまで聞いてなかったな。でも多分肉だよ、肉」
「モニカは肉が大好きなのよ」

 ライラが注釈してくれる。

「肉……なるほど」

 ベアトリスはぱくぱく春巻きを食べ終え、ふっと一息つく。

「私もお肉は大好きだから、意外と気が合いそうかもね」

 そういえばベアトリスってステーキも好きなんだっけ。ラズベリーラズベリー言ってるけど、これで意外と肉食系。

 でも気が合うかな……モニカ結構雑な料理が好きだからな。
 反してベアトリスは料理上手で結構本格派。
 これで明日雑な焼き肉を食べることになったらどうなるんだろう。

 ……ま、大丈夫か。お肉には違いないし。

 明日食べるであろうお肉のことを考えると、この野菜だけの春巻きが少し物足りなく感じてきたが、ぐっと我慢して夜食を食べ終えるのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...