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159話、モニカと焼き肉バーベキュー(準備)
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オラクルの町二日目の夕方。
モニカと食事の約束をしていた私は、ベアトリスとライラを連れて待ち合わせ場所にきていた。
そこはオラクルの町の外周に存在するバーベキュー広場。バーベキュー用の道具も貸し出されていて食材まで売っているので、手ぶらでやってきてすぐバーベキューを楽しめるのだ。
その広場の入口前にモニカが立っていて、私達に気づいて手を振った。
「リリアー!」
「ごめん、遅かった?」
「ん? いやちょうどいいんじゃない? 私もさっき来たばかりだし。それより……」
モニカが私の魔女帽子のつばに座っているライラと、隣にいるベアトリスへ視線をうつす。
「久しぶりねライラちゃん。それに、ベアトリスさん。私はモニカ。一応リリアの幼馴染をしているわ」
一応ってなんだよ。モニカはずっと幼馴染だよ。
「ベアトリスでいいわよ」
「そう、じゃあそうするわ。私のことも呼び捨てでいいわよ」
モニカはベアトリスと軽く握手をして、びっくりした顔をする。
「冷たっ……ベアトリスって冷え性? 氷みたいに冷たいけど大丈夫なの?」
……そういやベアトリスって体温低いっぽいんだよな。吸血鬼だからかな。
まだベアトリスの正体が吸血鬼だと知らないモニカからすると、その冷たい手はかなり驚愕したらしい。
ベアトリスは吸血鬼だと説明した方がいいのだろうか。うーん、でもなぁ。私の口から言うのもなぁ。
そう思ってちらっとベアトリスを見ると、彼女はごくごく平然としながら口を開いた。
「ああ、私吸血鬼だから体温が低いのよ」
「へ? 吸血鬼?」
呆気にとられるモニカ。私もこんな普通に正体を明かすベアトリスに驚きだ。
「吸血鬼ってあの……おとぎ話とかの奴? へえー、本当に存在するんだ。じゃあお肉より血の方が好き?」
「いいえ、正直人間の血はおいしくないわ。絶対にお肉の方がおいしいわよ。特に血が滴るようなレアステーキが最高ね」
それを聞いて、モニカはベアトリスの氷のように冷たい手を両手で握りしめた。
「そうよね! お肉はおいしいわよね! 今日はいっぱいお肉を食べましょう!」
「ええ」
お互い、にこりと笑う。
あっれー。モニカからすると肉好きなら吸血鬼という事実はどうでもいいんだ。こんな一瞬で打ち解けるかな、普通。
「ほらリリア、なに呆けてんのよ。私達お肉買いに行くから、ライラちゃんと一緒に良い場所取っておいてー!」
ベアトリスとモニカは肩を並べ、食材売り場へ向かっていった。
残された私とライラは、一度顔を見合わせた。
「あんな一瞬で気が合うかな、普通」
「以前ベアトリスと初めて会った時に警戒しまくってた私がバカみたいだわ」
ライラは懐かしいあの日を思い返しているようだ。
でもあの時のベアトリスは思いっきり私の血を吸いに来てたし、ライラの警戒は正しかったと思うよ。
今のベアトリスはラズベリー吸血鬼に変貌しているし、一緒に旅を始めてからは普通に料理上手な美女になってしまってるけど。
しかし食材の買い出しにベアトリスが一緒ってことは、とにかく肉まみれにはならなそうだ。モニカだけだと絶対色んな種類の肉を買うからなー。
ひとまず、言われた通り私達は良い場所を見繕うことにした。
まずは貸し出されているバーベキューセットを入口で受け取る。バーベキューコンロに、網、炭、着火剤、マッチ。火は私の魔術で着けられるから別にいいけど、炭があるのは嬉しい。炭で焼くのってバーベキューって感じだもん。
バーベキューコンロは四脚のスタンダードタイプ。炭を中に入れて、その上に網を乗っけて食材を焼くのだ。
バーベキューは結構人気なのか、広場にはたくさんの人がいた。せっかくだし静かに焼きたいので、中心地から離れた外周部分へと向かう。
ちょうどひと気のない場所があったので、そこにコンロを設置。買ってきた食材をすぐ焼けるようにコンロの中に炭を入れ、魔術で着火。炭が焼けて赤くなってきたら、網をかぶせた。
これで準備はいいだろう。せっかくだし、水を入れたケトルでものっけてお茶でも作っておこうかな。
そうしてお湯を沸かしていると、ベアトリスとモニカが大きな袋を持ってやって来た。
「こんな外れにいるとは思わなかったわよ。袋、重いっ」
「こっちもそんなに買うとは思ってなかった。全部食べるつもり?」
モニカに聞くと、代わりにベアトリスが答えた。
「いいえ、せっかくだから日持ちする料理も作って、持ち帰られるようにするのよ」
「そうそう。私はとにかく肉を焼くつもりだったけど、ベアトリスって料理が上手らしいじゃない? だから後で持って帰られるような料理も作ってってお願いしたのよ」
モニカ発案だったのか。そしてやっぱりとにかく肉を焼くつもりだったのか。
「じゃあ私、ちょっと調理に入るわ」
買い出しからの帰り際、広場入口でついでに借りてきたらしい小さなテーブルを設置し、そこに食材を並べていくベアトリス。
「よーし、私はガンガン焼くわよー!」
モニカの方はと言えば、買ってきたパック詰めの様々な肉を開け始めていた。
「……私はお茶作ろう」
お肉を焼くのはモニカに任せ、調理が必要な料理はベアトリスに任せるとしたら、もう私はお茶を淹れるしかなかった。
茶葉を入れ、紅茶を煮出す。しかしふと思ったけど、バーベキューで熱い紅茶をお共にするのはどうなんだろう。
やっぱり冷えてる方がいいかな。
そう思った私は、紅茶が十分煮出せたのを確認するとケトルの蓋を閉め、魔術をかけてみる。
焼ける肉を見守っていたモニカが私の魔力の変化に気づいたらしく、首を傾げていた。
「何してるの?」
「魔術で冷やしてるんだよ」
火を発生させる魔術や風を発生させる魔術が使えるのだから、当然冷気を発生させる魔術だって私は使えるのだ。
……ま、あんまり使ったこと無いけど。
「火の魔術で作りだしたたき火で料理するだけじゃ飽きたらず、冷気の魔術で冷やす工程まで見つけたのね。やっぱりあんたは原始的魔女料理の第一人者よ。これで野外でも冷製スープが作れるわね」
「誰が原始的魔女料理の第一人者だよ! 誰だって思いつくってこれくらい!」
モニカお得意の原始的魔女料理のレッテルが張られかけたので、私は必死で否定しておいた。
空は夕暮れ。バーベキューはまだ始まったばかり。
今日は遅くまでいっぱいごはんを食べられそうだ。
モニカと食事の約束をしていた私は、ベアトリスとライラを連れて待ち合わせ場所にきていた。
そこはオラクルの町の外周に存在するバーベキュー広場。バーベキュー用の道具も貸し出されていて食材まで売っているので、手ぶらでやってきてすぐバーベキューを楽しめるのだ。
その広場の入口前にモニカが立っていて、私達に気づいて手を振った。
「リリアー!」
「ごめん、遅かった?」
「ん? いやちょうどいいんじゃない? 私もさっき来たばかりだし。それより……」
モニカが私の魔女帽子のつばに座っているライラと、隣にいるベアトリスへ視線をうつす。
「久しぶりねライラちゃん。それに、ベアトリスさん。私はモニカ。一応リリアの幼馴染をしているわ」
一応ってなんだよ。モニカはずっと幼馴染だよ。
「ベアトリスでいいわよ」
「そう、じゃあそうするわ。私のことも呼び捨てでいいわよ」
モニカはベアトリスと軽く握手をして、びっくりした顔をする。
「冷たっ……ベアトリスって冷え性? 氷みたいに冷たいけど大丈夫なの?」
……そういやベアトリスって体温低いっぽいんだよな。吸血鬼だからかな。
まだベアトリスの正体が吸血鬼だと知らないモニカからすると、その冷たい手はかなり驚愕したらしい。
ベアトリスは吸血鬼だと説明した方がいいのだろうか。うーん、でもなぁ。私の口から言うのもなぁ。
そう思ってちらっとベアトリスを見ると、彼女はごくごく平然としながら口を開いた。
「ああ、私吸血鬼だから体温が低いのよ」
「へ? 吸血鬼?」
呆気にとられるモニカ。私もこんな普通に正体を明かすベアトリスに驚きだ。
「吸血鬼ってあの……おとぎ話とかの奴? へえー、本当に存在するんだ。じゃあお肉より血の方が好き?」
「いいえ、正直人間の血はおいしくないわ。絶対にお肉の方がおいしいわよ。特に血が滴るようなレアステーキが最高ね」
それを聞いて、モニカはベアトリスの氷のように冷たい手を両手で握りしめた。
「そうよね! お肉はおいしいわよね! 今日はいっぱいお肉を食べましょう!」
「ええ」
お互い、にこりと笑う。
あっれー。モニカからすると肉好きなら吸血鬼という事実はどうでもいいんだ。こんな一瞬で打ち解けるかな、普通。
「ほらリリア、なに呆けてんのよ。私達お肉買いに行くから、ライラちゃんと一緒に良い場所取っておいてー!」
ベアトリスとモニカは肩を並べ、食材売り場へ向かっていった。
残された私とライラは、一度顔を見合わせた。
「あんな一瞬で気が合うかな、普通」
「以前ベアトリスと初めて会った時に警戒しまくってた私がバカみたいだわ」
ライラは懐かしいあの日を思い返しているようだ。
でもあの時のベアトリスは思いっきり私の血を吸いに来てたし、ライラの警戒は正しかったと思うよ。
今のベアトリスはラズベリー吸血鬼に変貌しているし、一緒に旅を始めてからは普通に料理上手な美女になってしまってるけど。
しかし食材の買い出しにベアトリスが一緒ってことは、とにかく肉まみれにはならなそうだ。モニカだけだと絶対色んな種類の肉を買うからなー。
ひとまず、言われた通り私達は良い場所を見繕うことにした。
まずは貸し出されているバーベキューセットを入口で受け取る。バーベキューコンロに、網、炭、着火剤、マッチ。火は私の魔術で着けられるから別にいいけど、炭があるのは嬉しい。炭で焼くのってバーベキューって感じだもん。
バーベキューコンロは四脚のスタンダードタイプ。炭を中に入れて、その上に網を乗っけて食材を焼くのだ。
バーベキューは結構人気なのか、広場にはたくさんの人がいた。せっかくだし静かに焼きたいので、中心地から離れた外周部分へと向かう。
ちょうどひと気のない場所があったので、そこにコンロを設置。買ってきた食材をすぐ焼けるようにコンロの中に炭を入れ、魔術で着火。炭が焼けて赤くなってきたら、網をかぶせた。
これで準備はいいだろう。せっかくだし、水を入れたケトルでものっけてお茶でも作っておこうかな。
そうしてお湯を沸かしていると、ベアトリスとモニカが大きな袋を持ってやって来た。
「こんな外れにいるとは思わなかったわよ。袋、重いっ」
「こっちもそんなに買うとは思ってなかった。全部食べるつもり?」
モニカに聞くと、代わりにベアトリスが答えた。
「いいえ、せっかくだから日持ちする料理も作って、持ち帰られるようにするのよ」
「そうそう。私はとにかく肉を焼くつもりだったけど、ベアトリスって料理が上手らしいじゃない? だから後で持って帰られるような料理も作ってってお願いしたのよ」
モニカ発案だったのか。そしてやっぱりとにかく肉を焼くつもりだったのか。
「じゃあ私、ちょっと調理に入るわ」
買い出しからの帰り際、広場入口でついでに借りてきたらしい小さなテーブルを設置し、そこに食材を並べていくベアトリス。
「よーし、私はガンガン焼くわよー!」
モニカの方はと言えば、買ってきたパック詰めの様々な肉を開け始めていた。
「……私はお茶作ろう」
お肉を焼くのはモニカに任せ、調理が必要な料理はベアトリスに任せるとしたら、もう私はお茶を淹れるしかなかった。
茶葉を入れ、紅茶を煮出す。しかしふと思ったけど、バーベキューで熱い紅茶をお共にするのはどうなんだろう。
やっぱり冷えてる方がいいかな。
そう思った私は、紅茶が十分煮出せたのを確認するとケトルの蓋を閉め、魔術をかけてみる。
焼ける肉を見守っていたモニカが私の魔力の変化に気づいたらしく、首を傾げていた。
「何してるの?」
「魔術で冷やしてるんだよ」
火を発生させる魔術や風を発生させる魔術が使えるのだから、当然冷気を発生させる魔術だって私は使えるのだ。
……ま、あんまり使ったこと無いけど。
「火の魔術で作りだしたたき火で料理するだけじゃ飽きたらず、冷気の魔術で冷やす工程まで見つけたのね。やっぱりあんたは原始的魔女料理の第一人者よ。これで野外でも冷製スープが作れるわね」
「誰が原始的魔女料理の第一人者だよ! 誰だって思いつくってこれくらい!」
モニカお得意の原始的魔女料理のレッテルが張られかけたので、私は必死で否定しておいた。
空は夕暮れ。バーベキューはまだ始まったばかり。
今日は遅くまでいっぱいごはんを食べられそうだ。
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