『追放されたバイヤー、10歳児の姿で異世界を仕入れて旅してます〜顔に出ないけど、商品と相棒には全力です〜』

きっこ

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第2話 10歳児の足じゃ無理なので、スライムに乗って旅に出る

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朝。目を覚ますと、体の下がふわふわしていた。

ジェルの上だ。

スライム特有の柔らかさと弾力に、包まれるような感覚。寝返りを打っても反発力があり、沈みすぎない。
まるで体圧を記憶するマットレスのようだ。おかげで体のどこも痛くない。

「……ありがと」

一言だけ呟くと、ジェルはぶるんと体を震わせて応えてくれた。
言葉の意味までは通じていないはずだが、感情は伝わっているらしい。

のそりと身体を起こすと、昨夜のことがよみがえる。
異世界召喚、即追放。そして、泉のほとりにたどり着いた俺は、初めてのスキル使用とテイムで命の土台を得た。

そして──今日は、注文した品が届く日だ。

俺は腕のスキル端末に軽く触れる。

【カタログスキル:配送状況】
→ 折りたたみナイフ:配達完了
→ 小型ランタン:配達完了

(来てるな)

そう思った瞬間、泉のそばに小さなダンボールがふたつ出現した。
地味で、普通に見える段ボールだが、異世界においてこれが現れる光景はシュールの極みだ。

ナイフの方は、折りたたみ式で握りやすく、安全ロックつき。災害備蓄コーナーでも売れ筋だった軽量モデル。
ランタンは手のひらサイズで、底面にフック付き。LEDの光量調整が可能で、長時間点灯できる優れものだ。

(……どちらも、問題なし)

商品に外れはない。それが一番大事だ。



ジェルの背に座った状態で、足元の草を刈りながら軽く試し切りをしてみた。
折りたたみナイフは刃のバランスも良く、硬い草もすっと切れる。これ一本で、簡易の食材処理や薪の加工くらいは問題ない。

さて、これからどう動くかだが……まずは人里を目指すしかない。
物と金があっても、この世界でどう通用するかは実際に人と交わってみないとわからない。

ただ――

俺は一歩、地面に足をつけて歩いてみた。二歩目で、確信した。

(……遅い)

体が軽くても、歩幅そのものが小さい。
成人男性なら普通に10分で進む道のりが、今の体では30分はかかりそうだ。

しかも疲れやすい。体力も明らかに落ちている。これはまずい。

(……)

無言で振り返ると、ジェルがすぐ傍でこちらを見ていた。
丸くて優しげな姿。試しに指をさして、自分の腰をぽんと叩いてみる。

「……乗っても、いい?」

ジェルは一瞬ぶるんと揺れたあと、体を縦長に変形し、中央をやや凹ませて「どうぞ」とでも言いたげに平たく広がる。

(……すごい)

ゆっくりとその上に座る。沈みすぎず、ちょうど良い高さに調整されたその柔軟さ。
もはやベッドどころか、ソファでもあり乗用動物でもある。

「じゃ、お願い」

小さく声をかけると、ジェルがゆっくりと動き出した。

最初はおそるおそる。ぷるん、ぷるん、と弾みながら地面を滑るように進む。
揺れはあるが、慣れるとむしろ心地よい。すぐにペースが上がっていき──

(……あれ、速い)

ジェルの移動は、地を這うというより、上下のリズムで滑るように進む。
その速度は、明らかに俺の歩きよりも速く、成人男性の早歩きくらい。なのに乗り心地は安定している。

草をなでるように滑って進み、少し傾斜のある岩場も、ぶよっと吸い付くようにそのまま越えていく。
途中で石に乗り上げても、ジェルの体が変形して段差を吸収するので、まったく弾かれない。

(万能か……?)

思わずそう考えてしまうほどだった。



森を抜ける頃、遠くに畑のような開けた土地が見えた。
小さな柵と、丸太の小屋。人の手が入った痕跡。どうやら最初の集落が近いらしい。

ジェルを制止し、地面に降りる。
ぬるりとした温かい感触が名残惜しかったが、そろそろ見た目も気をつける必要がある。

俺は年端もいかぬ子供の姿で、どこから見ても旅人には見えない。
しかも、荷物はなく、言葉少なな幼児がふらりと現れるなど、相手に警戒されて当然だ。

(……ここからは、余計なことは言わない方がいい)

そもそも口数は多くない。情報は聞く側に回る方が得意だ。

少し歩くと、畑の端で農具を扱っている中年の男に出くわした。

「おう? ……坊主? おまえ、こんなとこで何してんだ?」

(……言葉、通じる)

それだけで少しだけ安心した。

「森の方から……来た。迷って」

短くそう言うと、男は首をひねりながらも、警戒はしていない様子だった。

「ふーん、迷子か。見たことない服だな? 旅の子か?」

「……うん。ひとりで」

「はあ? いやいや、ひとりって……」

明らかに戸惑っている。そりゃそうだ。
子供が森から一人で出てきて、「旅してる」などと言われても、状況が飲み込めるわけがない。

でも、これ以上は言わない。説明する義務もないし、言葉を重ねれば疑われるだけだ。

「よし、腹減ってるだろ。家、こっち。休んでけ」

「……ありがとう」

男は不思議そうに眉を寄せつつも、俺の手を引こうとはせず、前を歩くだけだった。

(悪い人じゃない、か)

ジェルは俺の後ろを小さくぷるぷるとついてくる。
この村で最初に話すことになるのは、この男と、そして俺が持ち込む“商品”たちだ。

次に必要なのは、まず信頼だ。

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