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第6話 「ふわふわごはん」と、小さな売店
しおりを挟む「今日はね、スープとパンのほかに……これ」
俺は無言で、テーブルの上に新しく届いた“カップ麺”を並べた。
湯を注いで3分待つだけで、香り高い味噌ラーメンが完成する──言ってしまえば、それだけの商品だ。
だけど、この世界では、それは魔法にも似た“ごちそう”になる。
「おぉ……麺だ。細ぇ!」
「いい匂い……汁までうまそうだぞ、これ……」
興味津々にのぞきこむ冒険者たち。
その中に、どこかで見た顔があった。
「あ、いたいた。おまえ……いや、君、ブラムのとこにいる子だよね?」
振り返ると、見覚えのある後衛系の若い冒険者が立っていた。ブラムと何度か組んでいるらしい。
「ブラム、今日も出っぱなしだったんだよな。あいつ、自分の飯は食ってるのか?」
「食べてる。……僕が、作ってる」
「マジか。あいつが“温かいご飯うめぇ”って目うるうるさせてんの、初めて見たぞ……おまえ、何者だ?」
何者。そう聞かれて、少しだけ迷う。
今の僕は、見た目は10歳くらい。言葉は抑えめ、顔に感情は出ない。でも最近、自分でも少しだけ“中身”が変わってきたように思う。
なんというか、言葉を選ばなくなってきたし、物事を素直に受け止めることが増えた。考える前に、「やる」ことが増えた。
(……子どもになってる、のかな)
そんな感覚が、ふと心をよぎった。
「……料理、する人。食べてくれる人が、いる。それで、いい」
その言葉に、冒険者がぽかんとして、それから笑った。
「……なんか、おっさんくせぇけど、カッコいいな。俺、カレーうどん食ってみたい。ある?」
「ある。明日届く。……無料だから」
「無料で仕入れてんのか!? えっ、どうやって……いや、いいや、深く考えないでおこう」
苦笑しながら去っていく冒険者の背中を見送りつつ、俺はそっとジェルの頭を撫でた。
ジェルはむにゅっと膨らんで、椅子の隣にべったりと潰れた。完全にくつろいでいる。
◆
その日、売れたのは:
• やわらかパン缶(チョコ)3つ
• カップ味噌ラーメン 5つ
• ポタージュスープ 4つ
• チョコナッツバー 2本
銅貨が十数枚、手元の袋にたまる。
“冒険者のための食堂&売店”として、少しずつ軌道に乗りはじめていた。
受付の女性も、最初は呆れていたが、今では「今日のおすすめある?」と聞いてくるようになった。
「甘いやつがいい」と言われて、こないだはドーナツ棒を取り寄せた。
◆
夜、ブラムが帰ってきた。
革鎧の肩を外して、ごろんと床に転がりながら、足のままパンを引き寄せている。
「はぁ……助かる。帰ってきたらメシある生活って、神か?」
「……当たり前、じゃない?」
「いや、普通じゃない。俺の中では“ごちそう”だぞこれ」
ハンバーグをかじりながら、ブラムが満足げに笑う。
俺はその横で、お湯を沸かしてスープの準備をしていた。
「ギルドの連中、おまえのこと“ふわふわごはんの主”とか呼んでたぞ」
「……変な名前」
「でも覚えやすい。言っとくけど、今のうちだけな? いつか出ていくってんなら、それまでしっかり飯食わせてもらうからな」
「……うん。しばらくは、いる。いるだけ」
それでいい。
誰かに求められて、何かを作って、食べてもらえる。
それが今の自分には、心地よい。
◆
翌朝。
【カタログスキル:配送完了】
届いたのは:
• カレーうどん(カップ)
• 焼きおにぎり(レトルト)
• 野菜ジュース(パウチ)
• カットフルーツ(常温保存タイプ)
そして、簡易什器セット。
ポップを書いたり、商品を並べたりするための折りたたみ式の什器棚。
今まではテーブルに並べるだけだったが、これがあれば「売店っぽく」なる。
ギルドに行くと、冒険者たちがすでに集まりはじめていた。
「今日のパンある?」
「カップ麺、昨日売り切れてたよな?」
「味噌汁、まだ?」
口々に声をかけられるのにも慣れてきた。
俺はジェルに乗ったまま、スッと什器を展開し、商品を並べ始める。
「……あります。順番に、どうぞ」
静かな声でも、ちゃんと届くようになった。
それに、誰も“ガキのくせに”とは言わなかった。
むしろ、ギルドの中ではすでに“ちょっとすごい子ども”として、一目置かれつつある。
冒険者たちは命を懸けて日々を生きている。その中で、温かいスープや甘いパンがどれだけの価値を持つか──彼らはちゃんと分かっている。
◆
夕方、売り切れを告げて店じまいした頃、ひとりのベテラン冒険者が声をかけてきた。
「坊主。おまえ、名前は?」
一瞬、考える。名乗る意味は、これまであまりなかった。けれど。
「……サハラ。佐原、けい。……けい、でいい」
「けい、か。覚えた。今後ともよろしくな、店主さんよ」
笑って去っていく背中を見送りながら、ジェルの背に乗る。
小さく背伸びして、ギルドの中を見渡すと、少しだけ景色が違って見えた。
(……ここが、居場所になるのかな)
目線の高さは、まだ子ども。
でも、少しずつ──自分の場所ができていく。
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