『追放されたバイヤー、10歳児の姿で異世界を仕入れて旅してます〜顔に出ないけど、商品と相棒には全力です〜』

きっこ

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第7話 あぶない甘味と、あったかい居場所

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ギルドの食堂兼売店として定着し始めた俺の小さな営業スペースは、冒険者や職員たちにじわじわと浸透していった。

やわらかパン、スープ、カップ麺──
日々の小さな贅沢が、彼らの表情を緩ませ、そして……噂も、広まっていった。

「ちっこいのに、やり手だな」

「なんか、すごい飯ばっかだよな。どこから仕入れてんだ?」

「顔に似合わず手際がいい……」

ありがたい反応の裏側で、思わぬ事態も忍び寄っていた。



その日、俺はいつものようにギルドで販売を終え、ジェルに乗って裏口から帰宅しようとしていた。

荷物は軽い。完売だった。
明日のためにまたカタログスキルで発注をかけよう──そう思っていた矢先だった。

「ねえ、坊や。ちょっとこっちに来てくれる?」

柔らかく、でもどこか冷たい声。

見れば、フードを被った男がふたり、細い路地の影から俺を呼んでいた。
視線が鋭くて、足元に手が伸びていて──ああ、これは。

(……やばい)

身体が勝手に反応する。
俺はすぐさまジェルを滑らせて、裏通りを駆け抜けた。

「おい、待てッ!」

ジェルのぴちぴちという振動が加速し、大人の早歩きどころか、走る馬車に迫る勢いで街路を飛ぶ。
だが、子ども一人に興味を持つ相手が、そう簡単に諦めるわけもない。

あとをつけられていた。
次の角に飛び出したとき、別の男が道をふさいでいた。

(囲まれた──)

その瞬間、視界の端が弾けた。

「何やってんだ、てめぇら──!」

怒鳴り声と同時に、風を裂く剣の音。

ブラムだった。



「ったく……ギルドの帰りに襲われるなんてな。何考えてやがんだ、あいつら……!」

その夜、ブラムはギルドの長と激しく口論していた。
俺はと言えば、湯たんぽのように温かいジェルの上にぺたんと座り、何も言わずお茶をすすっていた。

「ちょっと有名になったからって、子ども一人に手ぇ出すとか、ありえねぇ……! もう、こんなボロ屋じゃだめだ。もっと安全なとこに──」

「ブラム、少し落ち着いて……」

「いや、決めた。家、買うわ。ギルドのすぐ近くに。あいつはもう、俺の……」

視線がこちらを向いた。
俺と目が合った。いつものように静かな顔。でも、ほんの少し──ほんの少しだけ、不安が滲んでいたのだろう。

「けい。……お前、俺と家族にならねぇか?」

その言葉に、ふと胸の奥が温かくなった。

家族。そういう概念は、こっちに来てからすっかり忘れていた。
けれど──

「……うん。なる」

短く答えると、ブラムは噛みしめるように頷いた。

「……よし。俺が絶対、守る」

それはただの誓いじゃない。
あの剣の風のような、まっすぐな“言葉の斬撃”だった。



数日後、ブラムは本当にギルドの真裏に立派な家を買っていた。

広くて、日当たりがよくて、石造りの二階建て。防犯強化済み、魔物避けの結界までついているという。

「ほら、けい。鍵、渡しとく。もう、ここはおまえの家でもあるからな」

「……ありがとう」

鍵を両手で受け取ると、なぜか胸がじわっと熱くなった。

その夜、俺は地球から取り寄せたチーズフォンデュセットを開封した。
お礼として、ブラムのために。スキルレベルアップでバイヤースキルも無料になった今、こういう“贅沢”もできる。

溶けるチーズの香りに、ブラムが目を見張る。

「……すげぇ。これ、パンにつけて食うのか?」

「野菜も。ウィンナーも合う」

「……なんだよこのうまさ……! ヤベぇ、これマジで、けいの料理じゃないと生きていけなくなる……」

もぐもぐ食べながら、嬉しそうに笑うブラム。
気づけば俺は、その隣にぴったりくっついて座っていた。

(……なんか、こうしてると落ち着く)

いつのまにか、背中にそっと寄りかかっていた。
甘えるというより、ただ、安心したかっただけかもしれない。

ブラムが何も言わずに、そっと手を置いてきたのが、なんだか照れくさかった。



数日後、正式にギルド長との契約が交わされた。

「今後は“登録営業”として、ギルドの中でけいくんに食品販売をしてもらうわね」

「うん。大丈夫」

「販売内容は、お菓子や保存食、干し肉、ドライフルーツなど。あとは状況に応じて自由に変えてもらっていいわ」

「……ありがとう」

カタログスキルで注文した商品は、営業スペースにて毎朝並べられ、整理棚も什器も整ってきた。

ポップには「本日のおすすめ:しっとりチョコケーキ」「疲れたあなたに、塩キャラメルクッキー」などと可愛らしく描かれ、ギルド職員たちに大人気だ。

ある日、ブラムがこっそり買いに来た。

「これ、今日の分。俺が予約してたやつ」

「……甘すぎるって言ってたのに、買うの?」

「けいが売ってるから買うんだよ」

「……へんなの」

でも、少し嬉しかった。

俺の居場所が、ゆっくり、でも確かに形になっていく。

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