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第8話 その味は、街の外へ
しおりを挟む「なあけい、このクッキー、もっと仕入れねぇの?」
そう言ってきたのは、遠征から戻ったばかりの冒険者・レオだった。彼はギルドに立ち寄るたびに、俺の店でお菓子を買っていく常連だ。
「前に買ったぶん、仲間のとこに持ってったら、女の子たちがめちゃくちゃ食いついてさ。『また食べたい』ってうるさくてよ」
そう言って笑う彼の背後では、他の冒険者たちも俺の売り場に群がっていた。
並んでいるのは、しっとり濃厚なガトーショコラ、キャラメルサンドビスケット、チョコがけドライバナナ、ラムレーズン入りクッキーなどなど。全部、バイヤースキルで取り寄せた“地球のお菓子”たちだ。
「……いつもどおり。1人2点まで」
「え~っ、もっと買わせてくれよぉ。俺、宿代よりこっちに金かけてんのに~」
「……寝ろ」
ぶっきらぼうに返してしまったが、周囲はくすくすと笑っている。
ギルドの一角にできた俺の“食品コーナー”は、すっかり街の名物になっていた。
それは俺が意図したことではなかったけれど──
◆
その日、俺はいつも通り、ブラムと朝食をとっていた。
昨日仕入れたばかりの、地球製のクロワッサンとスープ用カップ雑炊をテーブルに並べる。
「……お前、こういうのどこで覚えたんだ?」
「仕事で、いろいろ見てた。買って、売る人だった」
「……マジで、ただのバイヤーだったのか」
ブラムはスプーンで雑炊をすくいながら呟いた。
「なあ、けい。お前が作るもん、最近ちょっと……有名になりすぎてる気がする」
「うん。感じてる」
「この前、街の商人が『あの子どこで仕入れてんだ』って聞いてきた。ギルドの連中も情報漏らしてないはずなのに、なんで……」
「多分、持ち帰られた」
「持ち帰られた?」
「外で、食べられた。旅人や商人に。……味、知られた」
俺はパンをちぎりながら、淡々と答えた。
そう。最近の売れ筋商品は“軽くて日持ちする”。つまり、旅に持って行きやすいということだ。
冒険者や商人たちが“保存食がてら”に買っていった商品は、そのまま別の町や宿場、街道沿いに広まっていく。
地球のお菓子や保存食は、この世界に存在しない風味や口当たりを持っているため、強烈に印象に残る。
(でも、仕方ない)
売るということは、知れ渡るということだ。
それを止めるつもりは、ない。
「おまえがそれでいいなら……でも、俺はもっと厳重に守るからな」
ブラムはそう言いながら、俺の頭をぐしゃっと撫でた。
最近、ブラムはやたらと手を伸ばしてくる。
髪を撫でたり、椅子を引いてくれたり、寝るときには毛布を整えてくれたり。
(……甘えすぎてる、かも)
そう思うたび、俺は言葉が減る。でも、顔は多分、少しだけ柔らかくなっている。
それが分かるから、ブラムはやたらと構ってくるのだろう。
俺はそのまま、もぐもぐとクロワッサンを食べた。
◆
ギルドに向かう道すがら。
「けいくん!」
そう呼び止めたのは、ギルドの長・カリナだった。
普段は整った髪を結い上げ、知的な雰囲気を持つ女性だ。
「ちょっといい? 最近、あなたのところに“外部の買い付け依頼”が来てるって噂があって」
「……来てる。断ってる」
「うん、そうだと思ってた。でも、もうちょっと対策しよう。たとえば、注文の窓口を私のところで受けるとか」
「それなら、いい」
「ありがとう。無理しないでね。……でも、それだけじゃないの」
彼女は少し言いにくそうな表情を浮かべて言った。
「今日、他国の貴族から“けいの販売物の詳細を提供してほしい”って要請が来たの。……あくまで、正式な商取引として、って形で」
「……断って。僕、売らない」
「分かってる。でも、それが“引き金”になるかもしれないから、念のため報告したわ」
俺は黙って頷いた。
確かに、これはもう小さな遊びではなくなってきている。
「ただ、食べてもらいたい」という想いだけでは、すまなくなる日が来るのかもしれない。
でも──
(それでも、売る)
◆
その夜。ブラムの買ってきたワインと、俺の作ったローストビーフで夕食を囲んだ。
「贅沢すぎねぇか?」
「……ご褒美。今日、がんばったから」
「俺も?」
「……一応」
ブラムは楽しそうに笑って、グラスを傾けた。
「なあ、けい」
「なに?」
「おまえがさ、もしこの国にいられなくなったら──俺、全部投げてでもついてくぞ?」
「……そのときは、パン屋やろう」
「マジか。やる。絶対やる」
今夜のローストビーフは、少しだけ塩が強かった。
でも、ブラムは「うまい」って言ってくれたから、たぶん大丈夫。
俺は小さく笑って、ジェルの上に寝転がった。
(……次は、なに作ろう)
この世界の味に、地球の記憶を溶かしながら。
俺は、今日も明日も、料理を続ける。
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2話目ありがとうございます
商人チートになりそう
大好きです
嬉しいです!ありがとうございます☺️
昨日に続いての新作嬉しいです
今までとちょっと違う路線のようですが好きです
これから先が楽しみです
早速の感想ありがとうございます!
いつもと少し違うので、お好みに合うか心配でしたが、読んでいただけたら嬉しいです☺️