『追放されたバイヤー、10歳児の姿で異世界を仕入れて旅してます〜顔に出ないけど、商品と相棒には全力です〜』

きっこ

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第8話 その味は、街の外へ

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「なあけい、このクッキー、もっと仕入れねぇの?」

そう言ってきたのは、遠征から戻ったばかりの冒険者・レオだった。彼はギルドに立ち寄るたびに、俺の店でお菓子を買っていく常連だ。

「前に買ったぶん、仲間のとこに持ってったら、女の子たちがめちゃくちゃ食いついてさ。『また食べたい』ってうるさくてよ」

そう言って笑う彼の背後では、他の冒険者たちも俺の売り場に群がっていた。

並んでいるのは、しっとり濃厚なガトーショコラ、キャラメルサンドビスケット、チョコがけドライバナナ、ラムレーズン入りクッキーなどなど。全部、バイヤースキルで取り寄せた“地球のお菓子”たちだ。

「……いつもどおり。1人2点まで」

「え~っ、もっと買わせてくれよぉ。俺、宿代よりこっちに金かけてんのに~」

「……寝ろ」

ぶっきらぼうに返してしまったが、周囲はくすくすと笑っている。

ギルドの一角にできた俺の“食品コーナー”は、すっかり街の名物になっていた。
それは俺が意図したことではなかったけれど──



その日、俺はいつも通り、ブラムと朝食をとっていた。
昨日仕入れたばかりの、地球製のクロワッサンとスープ用カップ雑炊をテーブルに並べる。

「……お前、こういうのどこで覚えたんだ?」

「仕事で、いろいろ見てた。買って、売る人だった」

「……マジで、ただのバイヤーだったのか」

ブラムはスプーンで雑炊をすくいながら呟いた。

「なあ、けい。お前が作るもん、最近ちょっと……有名になりすぎてる気がする」

「うん。感じてる」

「この前、街の商人が『あの子どこで仕入れてんだ』って聞いてきた。ギルドの連中も情報漏らしてないはずなのに、なんで……」

「多分、持ち帰られた」

「持ち帰られた?」

「外で、食べられた。旅人や商人に。……味、知られた」

俺はパンをちぎりながら、淡々と答えた。

そう。最近の売れ筋商品は“軽くて日持ちする”。つまり、旅に持って行きやすいということだ。

冒険者や商人たちが“保存食がてら”に買っていった商品は、そのまま別の町や宿場、街道沿いに広まっていく。
地球のお菓子や保存食は、この世界に存在しない風味や口当たりを持っているため、強烈に印象に残る。

(でも、仕方ない)

売るということは、知れ渡るということだ。
それを止めるつもりは、ない。

「おまえがそれでいいなら……でも、俺はもっと厳重に守るからな」

ブラムはそう言いながら、俺の頭をぐしゃっと撫でた。
最近、ブラムはやたらと手を伸ばしてくる。
髪を撫でたり、椅子を引いてくれたり、寝るときには毛布を整えてくれたり。

(……甘えすぎてる、かも)

そう思うたび、俺は言葉が減る。でも、顔は多分、少しだけ柔らかくなっている。
それが分かるから、ブラムはやたらと構ってくるのだろう。

俺はそのまま、もぐもぐとクロワッサンを食べた。



ギルドに向かう道すがら。

「けいくん!」

そう呼び止めたのは、ギルドの長・カリナだった。
普段は整った髪を結い上げ、知的な雰囲気を持つ女性だ。

「ちょっといい? 最近、あなたのところに“外部の買い付け依頼”が来てるって噂があって」

「……来てる。断ってる」

「うん、そうだと思ってた。でも、もうちょっと対策しよう。たとえば、注文の窓口を私のところで受けるとか」

「それなら、いい」

「ありがとう。無理しないでね。……でも、それだけじゃないの」

彼女は少し言いにくそうな表情を浮かべて言った。

「今日、他国の貴族から“けいの販売物の詳細を提供してほしい”って要請が来たの。……あくまで、正式な商取引として、って形で」

「……断って。僕、売らない」

「分かってる。でも、それが“引き金”になるかもしれないから、念のため報告したわ」

俺は黙って頷いた。
確かに、これはもう小さな遊びではなくなってきている。
「ただ、食べてもらいたい」という想いだけでは、すまなくなる日が来るのかもしれない。

でも──

(それでも、売る)



その夜。ブラムの買ってきたワインと、俺の作ったローストビーフで夕食を囲んだ。

「贅沢すぎねぇか?」

「……ご褒美。今日、がんばったから」

「俺も?」

「……一応」

ブラムは楽しそうに笑って、グラスを傾けた。

「なあ、けい」

「なに?」

「おまえがさ、もしこの国にいられなくなったら──俺、全部投げてでもついてくぞ?」

「……そのときは、パン屋やろう」

「マジか。やる。絶対やる」

今夜のローストビーフは、少しだけ塩が強かった。
でも、ブラムは「うまい」って言ってくれたから、たぶん大丈夫。

俺は小さく笑って、ジェルの上に寝転がった。

(……次は、なに作ろう)

この世界の味に、地球の記憶を溶かしながら。
俺は、今日も明日も、料理を続ける。

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感想 2

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みんなの感想(2件)

ひとみ
2025.06.13 ひとみ

2話目ありがとうございます
商人チートになりそう
大好きです

2025.06.13 きっこ

嬉しいです!ありがとうございます☺️

解除
ひとみ
2025.06.13 ひとみ

昨日に続いての新作嬉しいです
今までとちょっと違う路線のようですが好きです
これから先が楽しみです

2025.06.13 きっこ

早速の感想ありがとうございます!
いつもと少し違うので、お好みに合うか心配でしたが、読んでいただけたら嬉しいです☺️

解除

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