『異世界転移コンビニ「つばき屋」〜レベルアップするたび商品が増えていく件〜』

きっこ

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第六話『新しい住まいと、プレゼント空間』

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市の喧騒から一夜明けたヴェルツ村は、晴れ渡った空の下で穏やかに朝を迎えていた。
コンビニつばき屋の店内は、早朝だというのに既に開店準備が整っていた。棚には昨日仕入れたばかりのチェーン店の新商品が並び、レオンは元気よくモップをかけながら店内を駆け回っている。

「店長ー、今日も“からあげ棒”の場所は前面に出す?」

「そうだな。昨日の反応を見てると、リピーターが来る可能性が高い。しっかり補充しよう」

翔也はレジの裏側にあるバックヤードに入り、タブレットを起動した。昨日のレベルアップ通知には続きがあったはずだ。画面を確認すると、新たな表示が浮かび上がった。

【店舗レベル2達成特典】
オーナー専用「衣住空間」解放
・店舗裏に自動生成済み
・一名以上の同居人登録可
・現段階の設備:ベッド2台/風呂/トイレ/簡易キッチン/暖房/衣類自動洗浄装置
※今後レベルに応じてグレードアップ予定

「……マジか」

翔也は息を呑んだ。今まではバックヤードの休憩室に布団を敷き、レオンと雑魚寝していたが、いくらなんでも狭かった。商品在庫と布団が共存するカオスな空間だったのだ。

「レオン、ちょっと裏に来てみてくれ」

「え、なになに? あ、新商品見つけたとか!?」

「いや、それよりも……たぶん、すごいことだ」

店の裏口を開けると、そこには昨日までなかったはずの扉が現れていた。木目調で、丸い真鍮の取っ手。コンビニの無機質な壁に唐突に埋め込まれているが、不思議と違和感はない。

「これ……前はなかったよね?」

「ああ。レベルアップで追加されたらしい」

恐る恐る扉を開くと、そこには思わず息を呑む光景が広がっていた。

外観はシンプルなロッジ風。だが中に入ると、暖かな木の床に清潔な白い壁、そしてふかふかのベッドが二台並ぶベッドルームが広がっていた。奥には小さなバスルーム、洗面台、トイレ。さらに隣接するミニキッチンには、魔法式のコンロと調理台、そして木製のテーブルと椅子まで完備されていた。

「……なにこれ……お城?」

「いや、まだレベル2仕様らしいから“質素な山荘”って感じだな。でも充分すぎるくらいだ」

レオンはベッドに飛び込み、もふもふの布団に顔をうずめた。

「ふわっふわだぁ……! もうここで寝る! 一生ここに住む!」

「そのつもりだ。今までは在庫の横だったからな」

翔也は軽く笑いながら荷物を運び入れる準備を始めた。といっても、レオンの持ち物は衣服と小さな袋ひとつ、翔也も地球から持ち込んだ日用品くらいしかない。

引っ越しは、あっという間だった。


夜になり、営業が終わったあと。
新しい衣住空間のリビングには、ホットミルクとドーナツの香りが漂っていた。

「うまっ……この部屋、あったかいし、静かだし、最高……」

レオンがもぐもぐとおやつを食べながら、ソファでうとうとし始めていた。翔也はキッチンで湯を沸かしながら、その様子を微笑ましく見守っていた。

「……なあ、レオン。お前、ここに住んで本当にいいのか?」

「いいよ! だって、ここが“家”みたいなんだもん」

「……そうか。ありがとう」

レオンが目を閉じたまま、小さな声で返す。

「オレ、ここで働いて、ごはん食べて、寝て……なんか、初めてちゃんと“暮らしてる”って感じする」

翔也はお茶を注ぎ、そっとソファの隣に腰を下ろした。

「この部屋、レベルが上がるともっと豪華になるらしい」

「え、もっと!? もう十分じゃないの?」

「いや……そのうち、個室もできるかもな。キッチンが広くなったり、暖炉が付いたり……夢があるよ」

レオンは目を輝かせて頷いた。

「じゃあレベルアップ、もっとがんばらなきゃ!」

「明日もたくさんからあげ棒売らないとな」

「うんっ!」

翔也は湯気の立つお茶を口に含みながら、静かに満たされるような気持ちを感じていた。
この世界に来たときは、どうなるかと思った。だが今は――目の前にレオンがいて、家があって、明日の予定もある。

それは、何よりも“生きている”という実感をくれた。


夜も更けて、レオンは布団の中で寝息を立てていた。翔也も隣のベッドに入り、深く息を吐く。
シーツの匂い、木の香り、夜風の音。どれもが“ちゃんとした日常”だった。

【オーナーの生活安定度:上昇】
【衣住空間:初期段階・展開完了】
【次のレベルアップで設備が拡張されます】



まだまだ、この世界での生活は始まったばかり。
だが確かに、歩みは進んでいる。

明日もまた、“つばき屋”は光を灯して、世界をちょっとずつ便利にしていく――
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