TS少女総受けファンタジー~拾われたTS少女は流されやすい~

熊と猫

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一章『出会い』

1-3裏

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 私が勇者と呼ばれ始めて3年程が経った。
 勇者等と呼ばれているが何も特別な力があるとか、物語で語られる様な神や女神からの啓示による使命があるだとか、そう言った物は全く無い。
 私、アイリエスは唯の冒険者だ。
 確かに魔物のスタンピードや、旅の先で数度程、街や国を襲った危機に対して尽力した事があるが、それは共に戦った他の冒険者達も同じ事をした筈だ。
 まぁ確かに聊か目立ち過ぎた感はある。というか何故か私が行く先々でトラブルが起こるのだ。
 逆に私がトラブルを引き寄せているんじゃないだろうかと、昔は本気で悩みかけたがまぁそんな事は有り得ないだろう。
 今は唯、そう言う星の元に生まれてしまったのだと割り切っている。
 まぁそんな旅も昨年から止め、そろそろ腰を落ち着けて本拠地としての街を持ち、今ではルエスの街を拠点として活動している。
 15歳で田舎村を飛び出し、現在は23歳。
 腰を落ち着けるにはいい頃合いだったのだ。
 そして今日は最近良く受領している、集結の森と呼ばれる魔境の警戒依頼をこなす。

 街からは片道三日程と多少離れているが、過去に3回もスタンピードが起こっている脅威度の高い場所だ。
 とは言っても、普段はそこまで警戒する事は無い。年に数度と言った所だろう。
 しかし、この一年は目に見えて森の中の動きが活発で、既に数度森の中からまるで何かから逃げる様に魔物が溢れた事があった。規模は小さかったので大事にはならなかったが、国と街の上役が例年よりも警戒するのは当然の事だろう。
 最近ではめっきり落ち着いているので、そろそろ常設されている警戒依頼も終わりが見えて来たかも知れない。
 国と街からの常設依頼で、報酬が良かっただけに、不謹慎ではあるが少し残念だ。

「なーアリスー、もう疲れたぜー。なー、休もうぜー」
「ん?あぁ、そうだな。ここいらで少し休憩するか」

 少し紫がかった黒髪をポニーテールにした少女、エルネットがぶー垂れた様に私に声を掛けてきたので、それに頷き、言葉を返す。
 黒いマントに、その下にはまるで男の子が好んで身に着ける様な白いシャツと短めのズボンを穿いている。
 赤く大きな瞳に、未だ幼さの残る顔立ちに少し日に焼けた健康的な肌。
 そしてその手には魔道具、先端に赤い宝石の付いた短杖を持つ。
 背が小さく歳も20歳と年下なので、私にとっては妹の様な存在だ。
 まぁ背が小さいと言っても平均的な部類に入るだろう。
 私が女性にしては背が高いのが彼女が小さく見える原因だ。
 まぁこんな小さく可愛い彼女であるが、その実態は魔導学校を首席で卒業しているという、私が組んでいるパーティーの魔術師だ。

「全く、エルは本当に体力が無いですね。まぁそろそろ折り返し地点ですし、休憩しますか」

 更に後方から聞こえてくる声は、パーティーの支援役であるローレルだ。
 私より多少背が低いが、彼女も女性にしては高身長の部類に入るだろう。
 桃色の髪を後ろで三つ編みにしており、少し垂れ目がちな目元に、黒縁メガネが良く似合っている。
 そして耳は長く尖っており、その特徴が彼女がエルフであるという事を主張している。
 大凡筋肉で出来て居るのではないかと言う様な私の体とは対照的に、ふくよかで女性らしい体付きは少し羨ましい。
 長ズボンに皮の胸当てを装備し、背には弓矢を装備している。
 こんな格好をしているが、彼女は別に射手がメインでは無い。まぁ森の民であるエルフなので使えない事は無いが、大きくなるにつれて弓を射るのに邪魔になり、魔法をメインに切り替えたのだとか。
 まぁどこが大きくかは彼女を見れば解る。
 という訳で彼女は射手では無く、支援術士、回復術士と呼ばれるヒーラーだ。

 そして最後に私が騎士職であり前衛を務めている。

 三人パーティーというのは普通よりも少ない部類に入るが、これでも勇者のパーティーと噂されている高ランク冒険者パーティーだ。
 前衛、中衛、後衛と揃っているので、特に不都合なことは無い。
 しかし、魔王と呼ばれる魔族の王とも和解して数百年と時が経つと言うのに、勇者だなんだと言われても困ってしまうのだが……。

 そんなこんなで休憩を挟み、折り返し地点としていた場所へと辿り着いた所で異変に遭遇した。

 それはとても巨大な二足歩行の魔物。魔猿王エイプキングと呼ばれる脅威度Bクラスの化物だった。

 化物には違いないが、私達三人に掛かれば多少時間が掛かっても倒せない事は無い。
 過去には同じ脅威度Bの魔物を三人で倒した事もある。

 不意の遭遇ではあったが、直ぐに私達は散開し、落ち着きを取り戻して交戦体制に入る。

 そこからは終始危なげの無い展開だった。
 私が盾と剣を用いて攻撃をいなし、反撃し、飛び退いた所をエルの魔法で追撃する。
 ローレルは数度の射撃の後は、傷を癒す魔法や、耐性を上げる魔法等を此方へ飛ばし、支援職として申し分ない動きを見せていた。

 そして、このまま行けば、後数分もあれば止めを刺せるかという考えが頭を過った時、それは起こった。

 魔猿王は急に攻撃の手を緩め、天へ向かって咆哮を上げた。
 余りの大音量に三人共が耳を塞ぎ、顔を顰める。そして次の瞬間、魔猿王は両腕を振り上げて地面へと叩きつけた。

「ちぃっ!みんな散れぇぇっ!」
「くっそっ!」
「ふっ!」

 私の言葉に即座に反応し、散開する。
 その後、叩きつけられた腕に反応して地面が盛り上がり、大小様々な礫が私達が元居た場所へと降り注いだ。
 更に地面の盛り上がりは不自然に直線に進み、鋭利な石の棘が空へと突き出る。

 上位種と呼ばれる脅威度C以上の魔物はこれがあるから厄介だ。
 魔物の固有技とも言うべき攻撃手段は、どれも総じて強力の一言に尽きる。
 魔力を纏わせた攻撃は自然の理など容易に破壊する。

 そしてもう一度咆哮を上げた魔猿王に小さく舌打ちをしたところで、それは現れた。

 突如として乱入してきた黒い影は、長い髪の隙間から微かな金色の光を漏らし、魔猿王へと向かって疾走する。
 助けに入って来た冒険者かと即座に判断し、私は即座にその人物へと声を上げる。

「大技の前兆だ!!危険だから離れろぉぉっ!」

 私の言葉に少し反応を見せ、チラリと一瞬振り返ったが、件の人物の疾走は止まらない。
 それどころか更に加速した。
 既に腕を振り上げた魔猿王が視界に映り、だめだ、もう間に合わないと半ば諦め、顔を顰めた所で事は起こった。

 その人物は、両腕を振り上げる魔猿王に向かって跳躍し、手に薄汚れた大剣をいつの間にか突き出す様に構えている。
 まるで射られた矢の様に鋭い攻撃は、魔猿王の喉元へと見事に吸い込まれた。
 件の人物はその全身に返り血を浴びながら更に喉元深くまで大剣を突き刺し、根元付近まで刺さった大剣を持ちながら両足で魔猿王喉元付近へと横向きに着地したかのように足を付いた。
 まるで重力に逆らっているかのような横向きの着地に目を見開くが、実際にはその突進の勢いのままに足を付いた為にそう見えたのだろう。
 その証拠に今では魔猿王の体毛を手で掴んでぶら下がっている状態だ。

 未だ攻撃に映らない魔猿王に固唾をのむ。トドメを刺したのか?と疑問が頭の中に浮かんだ瞬間、ピクリと魔猿王の体が動いた。
 やばい。そう思った瞬間、パキンッと乾いた音が響き、それが未だ魔猿王の首元に張り付いている人物がバランスを崩しかけている姿を見てそれが何の音だったのか理解した。

 あの人物は左手で体毛を掴み、右手で大剣の柄を持っていたはず。それが今は右手が下げられ、その手には柄から先が無い大剣が握られていた。
 大剣が根元から折れたのだ。

 そしてすぐに動き出し、あの乱入者を救おうと駆けだした所で、その乱入者はとんでもない行動に移った。
 右手に持った柄をポイと捨て、こう離れていては手の形がどうなっているのかは解らないが、腕を振りかぶり、拳か、はたまた掌打なのか、それを思い切り恐らく残った首元に刺さる大剣へと咆哮と共に叩き込んだ。

 また、大量の血の飛沫が空へ舞う。その様を唖然とした状態で眺めていた。

 そして、ビクビクと痙攣を繰り返した魔猿王は、大きな音を立てて仰向けに倒れた。
 確かに後少しで倒せるであろう所までは追い詰めていた。
 だが、こんな事が普通の冒険者に出来るのか?私にはやれと言われても無理だ。
 まぁそもそも目の前から此方へ歩いてきている人物と私では戦闘スタイルからして違うだろうが……。

 そして目の前まで来た人物は恐る恐ると言った感じで此方を覗いている。
 身長はエルよりも更に低い。血や泥で体は汚れ、匂いも少し、いやかなりキツイ。
 まさか、冒険者では無い?しかも、子供なのか……?
 と、ここで少し困った様な表情を浮かべている目の前の子供に我に返り、慌てて手を差し出した。

 「す、すまない。君が余りにすごい立ち回りだった為に驚いていてな。
  しかし、助かったよ、ありがとう」

 「!?!?!?!?」

 私の言葉に目の前の子供は驚いたかのように目を見開き、オロオロとして慌てている様だ。
 まさか、言葉が通じてないのか……?

 これは、どうしたものかと、苦笑いを浮かべて頬を掻きつつ、今現在後方から駆け寄ってきているであろう仲間の到着を、助けを待つ思いで待つ私であった……。
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