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一章『出会い』
1-6
しおりを挟む体を洗い終え、ある程度の汚れを落としてさっぱりした後、私はエルフのお姉さんが起こしてくれた火にあたりながら木の枝に掛けられた服が乾くのを待っている。
ポニーテール女子が羽織っていたマントを貸してもらい、それに包まっている状態だ。
私の隣には女騎士さんが腰かけており、中々の上機嫌な雰囲気で、私がチラリと様子を伺うたびに微笑んでくれる。
これだけ私に対する心象が良いのはひょっとしたら体を洗われたからかもしれない。
ならば恥ずかしい思いをして洗われた甲斐もあるって物だ。
そんな事を考えつつ、またチラリと女騎士さんの方を見ると目が合い、微笑みを浮かべて頭を撫でられる。
これは気に入られていると、考えてもいいのだろうか……。
それにしても、焚火を挟んで前に座っている二人の内、ポニーテール女子の視線をさっきからチラチラと感じるのだが、何か気になる所でもあるのだろうか。
ひょっとしたらさっきまで汚れ切っていた私に、マントを貸しているのが気に入らないとか……。
いや、それなら自分から差し出して来てくれる訳無いか。
やけに顔を赤くしながら慌ててマントを貸してくれたのだ。
それが気に入らないと考えるのは説明が付かない。
首を傾げながらポニーテール女子を見ていると、また此方をチラリと覗き見た様で、バッチリと目が合った。
するとポニーテール女子は慌てて目を反らして、話題を変える様に何やら周りにいるどちらかに話を振った様だ。
会話の内容が解らないのが残念だが、色々と相談する事もあるのかもしれない。
私は大人しく焚火に当たって居よう。
『し、しかし、なんだ……。コイツ、こんなに可愛かったのか……?
変わり過ぎだろ……』
『おや、私は可愛い顔をしているのには気づいて居ましたよ? まぁ確かに少し小奇麗にしただけでここまで変わるとは思いませんでしたが……』
『うむ、確かに、そうそう見ない程に整った容姿をしているな。作り物めいている、とでも言うか、本当に人形の様な可愛さだ』
『だよな! 小さい頃に持ってた人形にソックリなんだけど……うん……可愛い……』
『コラ、エル。何だか視線が危ないぞ。お前は本当に可愛い物に目が無いな……』
『ばっ……、人聞きの悪い事を言うなっ!コイツに聞かれたら……って、言葉が解らないのか……』
うむ。何だか楽しそうだなぁ。
少し疎外感……。そう言えば固定パーティーに入った直ぐもこんな感じだったな。
何だか会話に付いていけなくて、唯傍で話を聞いている感じ……。
ヤバイ、思い出したらちょっと泣けてきた。
ここ最近というか、寂しさを募らせていた後半の数ヵ月間の間で驚くほど涙もろくなってしまった気がする。
殺されない為に殺し、生きる為に食らう。
唯それを考えて、只管に、唯々必死に魔物と戦っていた頃はまだ良かった。
生きるという事以外を考えなくて済んだから。
最初の頃に死への恐怖等と言った物に襲われた私は兎に角必死に、この森に、この世界に順応しようと努力した。
以前の世界の肉体であったなら早々に諦めていただろう。
何故なら普通の生身で、唯の人間がこんな自然の中で、地球の猛獣よりも凶暴で巨大な魔物を相手にして生きる事など出来る訳が無い。
逃げ惑い、絶望と共に息絶えるか、そうそうに諦めてしまっていただろう。
しかし、私の肉体はどうやらハーフエルフと言う種族としての力と、ゲームで培った魔物に対する知識と対応、そして、何よりも、常人では不可能とされるであろう立ち回りを強靭な肉体性能によって可能としていた。
ゲームでの強さがそのままという訳でもない様だが、常人を遥かに上回る身体能力を持っていた私は驚くほど簡単にこの世界に、自然で生きるという事にみるみる内に順応していった。
そしてその生活に慣れてから、酷く早く感じる時間の流れに身を任せて気が付けば数ヵ月が経ち、そこから先は、唯々寂しさだけが募っていった。
そんな中でようやく巡って来たこの3人との出会い。
私にとって奇跡的で運命的なこの出会いを、この縁を何としても手放したくない。
特に、女騎士さんとは一緒に居たいと何故か心が訴えてきている。この気持ちが何なのかは良く解らないが、この気持ちだけは殺したくない。
出来れば一緒にパーティーを組んだりしたいけど、既に3人でパーティーを組んでいるみたいだし、この中に私が入っていけるかどうかは正直微妙かもしれない。
気心の知れた仲の良さそうな感じが傍目にも伝わってくるし……。
ならば、せめて、街まで連れてってもらえたら私は私で、またソロで冒険者をすればいい。
それで、あれだ。女騎士さんとは仲間じゃなくても、友達に……、なってくれればいいかな。
よし、それでいこう。気が遠くなる様な妄想だが、何とか女騎士さんと友達になるという事を目標にしてこれからは生きていこう!
「ずびっ……」
『ん?』
やばい、落ち着いた所で、涙と一緒に鼻水が出てたから鼻を啜ったら思った以上に音が大きかった。
急に泣きだしてるとか恥ずかしすぎるっ。
『おいおいっ、何で急に泣き出してんだよっ!』
『ど、どうした? どこか痛むのか?』
何か慌てた様に声を掛けられ、隣の女騎士さんからは頭を撫でられて、前に居たポニーテール女子まで何か心配そうに私のすぐ傍まで駆けよって来てくれた。
うぅ、ポニーテール女子も案外優しい。
あんまり優しくされると勘違いしてしまうからやめてぇ。
『やべぇ、泣き顔まで可愛い……。よ、よし! ほーら、お姉ちゃんが慰めてやろう!』
「へぁっ!!?」
『こ、こらエル! 危ないぞ!』
何を思ったのか、すぐ近くまで来ていたポニーテール女子が私を徐に抱き上げて背中に手を回し、頭を撫でてくる。驚きすぎて変な声が口から洩れた。
幾ら私の体が小さいとは言ってもそれ程軽くはない筈だ。
それを軽々持ち上げるとは、異世界の女冒険者恐るべし。
しかし、恥ずかしいから降ろして!
ポニーテール女子の腕から逃れようとして、ジタバタと暴れていると、慌てた様な女騎士さんの声が聞こえて来た。
『ほらっ!嫌がってるだろ!その子はこっちに渡せ!』
『むぅ……、そんなに嫌がんなよぉ……』
『全く……、ほら、こっちに寄越せ』
『こっちに寄越せって、アリスずるいぞ! この子の体を洗ってやったんだろ!
私にも可愛がる権利がある筈だ!』
『どういう権利だ……。いいから、手を放せ』
そしてようやくポニーテール女子の私を抱いていた腕の力が緩み、解放されるかと思った瞬間、ヒョイッという軽い感じで今度を女騎士さんの手に私の体は譲渡された。
そしてクルリと私を自分の方に向かせた女騎士さんは、先のポニーテール女子と同じように私を抱きしめて後頭部をポンポンと優しく叩いてくる。
恥ずかしい。が、なんだかポニーテール女子とはまた違う感覚が押し寄せてくる。
気恥ずかしさはあるが、何故か安心感があるというか……。
因みに、身に纏っていた白銀の鎧は現在脱いで傍に置いてある。
とても暖かい。
胸に押し寄せてくるポカポカとした温かさに身を任せていると、抱きしめられた状態で無意識の内に両腕を女騎士さんの首元に回して私からも抱きついていたという状態にハッと気付いた。
「あわわっ!」
『こら、暴れるな。いいから、暫くこうして居ろ……』
慌てて手を放そうとしたところで、それに気付いた女騎士さんから優しく諭される様な声色が耳のすぐ近くから響いてくる。
これ程他人の優しさに触れたのはいつ以来だろうか。
この優しさに対して私はまだ何も差し出していない。
私が彼女にとって有益な存在で無いと解ったら、この優しさは取り上げられてしまうかもしれない。
それを回避するために私が役に立つという所を何とか見せていかなければ。
だがしかし、今はまだもうちょっと、この優しさに甘えてもいいかな……。
『なんだよ……。ホントにアリスには良く懐いてるな……ズルイ。私にも懐いて欲しい……』
何やらブツブツとポニーテール女子が言っているのが聞こえてくるが、聞こえてないふりをする事にする。
まぁなんて言っているか解らないから返しようがないけどね……。
今は取り敢えず、女騎士さんに甘えるのに忙しいのでそっとしておいてください……。
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