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二章『新しい生活』
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しおりを挟む街中を馬車に揺られて辿り着いた先は、周りの建物に比べても一回り程大きな二階建ての建物だった。
その敷地を見ても他に比べて大分広い。
右手側に裏へと回れる様に道になっていて、私たちの乗る馬車が悠々と通る事が出来る程の広さだ。
その裏手へと続く通路の近くへと荷馬車を止めて、私達は荷物を降ろす。
積み込むときは手伝えなかったが、降ろす物は積み込むのを見ていたので大体解っていた為に手伝う事が出来た。
三人にお礼を言われながら頭を撫でられる。その時に感謝の言葉と思われる『ありがとう』を教わった。
この言葉こそ今最も覚えたかったモノだ。
私は早速三人の名前と『ありがとう』という言葉を告げて、最後に自分の名前、アシュリーと感謝の言葉を告げた。
名前をつけてくれてありがとうという意味だったのだが、ちゃんと伝わったのかどうかは解らない。
そしてそう告げた後、暫くの沈黙後、三人に満面の笑みでもみくちゃにされた。
多分伝わったのだろう。そういう事にしておこう。
そのどさくさに紛れて誰かにお尻を揉まれていたが、犯人は大体解ってる。
しかし、さらにどさくさに紛れてお尻を揉まれつつ私の胸の辺りまで撫でる手があったのは解せない。
まぁ、何も言わないけどさ。
さて気を取り直して、荷物を降ろした後は、ローレルに手を引かれながら建物の中に入った。
木造建築で明るく清潔感のある雰囲気だ。
入って少し進んで右手側には色々な紙が張り付けてあるボードの様な物があり、数人がそこの前に立って何かを話しているのが見える。
そして所々にテーブルと椅子等が並び、奥には受付所の様な場所があった。
テーブルを挟んで対面の奥には受付嬢と思しき人が座っている。そんな場所が計四か所設置されていた。
一番左手側の受付は女性では無く男性が座っていて、その上部には何やら文字の書かれた看板の様な物がかけてある所を見ると、そこだけ他と少し毛色が違うのだろう。
以上の事を吟味すると……、見紛う事なくここは、冒険者組合!もしくは冒険者ギルド!?
素晴らしい。
ファンタジーっぽい!
実際に目にするとなると変な感動が覚えた私は、キョロキョロと周りを見渡しながら感慨の声を上げる。
お上りさんみたいだけどしょうがない。
「ふぉぉぉっ……、すごいっ」
『おぉ、アシュリーのテンションが凄い上がってるぞ。そりゃ森でずっと居たんならこんなとこ物珍しいよなぁ。目がキラキラしててめっちゃ可愛いぞ、よしよし』
『ふふふ、確かに、可愛いですね』
何やら微笑ましい物を見る感じの暖かい目を向けられながらエルとローレルに頭を撫でられている。
しかし、まぁ子供っぽいけど感動したのだから仕方ない。
ゲームの中でなら見た事はあるが、いくら体験型のゲームでもあれはフィクション。これは現実。
ちょっと計り知れない感動があるよね。
さて私の気持ちも落ち着いた所で、端の方に位置するテーブル席へと私とローレルとエルの三人は腰かけてアリスの事を待つ事になった。
私がお上りさんと化している間に、ポンポンと私の頭を軽く叩いた後、二人に何かを告げてアリスは一人受付へと歩いて行ったのだ。
恐らくアリスがこのパーティーのリーダーの様なので、報告か何かがあるのだろう。
なので大人しくローレルに手を引かれるままに席につく。
席に……、付こうとしたけどローレルに手を掴まれたままなのでそれは何故か阻止された。
三つ席があるので奥側に座ろうとしたのだが、それは叶わず、ローレルが立ち止まったままに私の手を引っ張り、そのままバランスを崩しかけた所でヒョイッと私の体は持ち上げられて、椅子に座ったローレルの膝の上に私のお尻は着地した。
首を傾げる状況だが、荷馬車での件もあるのでもう慣れた物だ。
これは彼女達のスキンシップの一環だ。だからやましいことなんてない。
そう自分に言い聞かせて頭に当たる柔らかい邪念を振り払うのだっ。
『あっ!ズリーぞ!ローレル!ほらアシュリー!私の方に来いっ!』
『ダメですよ。さっき荷馬車で私の番が最後に回ってこなかったんですから、これは私に許された特権です』
何やら二人が言い争っている様な感じだが、険悪な感じはないので放置だ。というかそれどころじゃないので。私は今邪念と戦ってるので。
そして言い争っている間に、私のお腹の前で組まれているローレルの手がモゾモゾと動く。
「ひっ……!?」
『あら……ごめんなさい。くすぐったかったですか?』
あんまりにもくすぐったかったので引きつった様な声が漏れてしまった。
ローレルの顔を見ると、『ごめんなさい』という言葉と笑顔が返ってきたのでワザとでは無いのだろう。
ならしょうがない。
「ひっんっ……」
『おっと……』
ワザとじゃないなら仕方ない……。仕方ない……。
そんな感じで私達はアリスを待つ。
アリス、お願いだから、は、早く来てっ。
何やら私の体の上を動くモゾモゾとした指に悪戦苦闘しながら、アリスを待つ事暫く。
ローレルの膝の上でぐったりとした私の姿がそこにはあるのだった。
どうやらこの体は想像以上にくすぐったがりな様だ……。
以前の体はそんな事無かったのになぁ。
と、そんな事をぼんやりとした頭で思う私であった……。
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