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二章『新しい生活』
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しおりを挟む冒険者組合での用事を終えて、アリスと合流した私達は日の完全に落ちた夜道を四人で何処かへ向かって歩いている。
ローレルの膝の上でぐったりしていた私を見てアリスは首を傾げていたが、何かに感づいたのか、ローレルへとジト目を向けた後、ひったくる様に私を抱き上げて頭を撫でてくれた。
それから直ぐに冒険者組合を出た後、今現在アリスに手を引かれつつ四人で歩いている所という訳だ。
夜道とは言っても以前の世界の様に街灯の様な物が所々に設置されているので、足元は明るい。
親子連れやカップルと思しき二人組等が平和そうに私達とすれ違っていく所を見ると、治安もかなり良さそうだ。
以前の世界の街の光景やゲームの中の街の光景等を知る私からしたら、特別物珍しい物が沢山あるという訳ではないが、私が約一年間暮らしていた森と比べるとそれは雲泥の差と言える程に違い、余りにも目に移るモノが輝いて見えた。
キョロキョロと忙しなく街を見渡しながら歩く事暫く。
どうやら目的地に着いたのか、アリスが一つの一軒家の前で立ち止まった。
続いて後ろを歩いていた二人も止まったので、ここが目的地と見て間違いないだろう。
『よし、着いたぞアシュリー。今日からここがお前の家だからな?』
手をつないだままに、視線を私の方へと向けて何かを伝えるアリス。
ん?ひょっとして、ここは三人の家なの?
『はぁ~、ようやく我が家かぁ……。疲れたなぁ……』
『まぁいつもより急ぎましたからね。ゆっくりする暇がありませんでしたし……』
『はは、確かにな。よし、アシュリー、さっそく家を案内してやろう』
後ろを歩いていた二人が何かを言いながら私達を追い越して目の前にある二階建ての一軒家のドアを開けて中に入っていくのを、アリスと一緒に手をつないでその後を追いかける。
この若さで家を持ってるとは驚きだ……。普通に宿屋とかが拠点なのかなぁと勝手に思っていた。
流石高名な冒険者パーティーと思われる三人である。
三人の私に対する態度等を加味すると、街に着いたらはいさようなら、なんて事にはならないと思ってはいたけど、まさか自宅に案内される事になるとは思ってもみなかった。
しかし、今日はもう夜も遅い。
今日の所は、という線も消えてはいないので油断は出来ないぞ私よ!
淡い期待を無理矢理胸に押し込めて、アリスに手を引かれながら件の家へと足を踏み入れる!
玄関をくぐると、足元には土を落とす為と思しきマットと、その隣には靴を置く棚があり、その隣には靴を脱ぐためか、簡易な椅子が置いてあった。
どうやらここで外履きの靴を脱ぎ、内履きに履き替える様だ。
さっそく靴をささっと脱いで、内履きが無いのでどうしようかと迷っていると、椅子に座ってブーツを脱いでいるアリスが、隣の棚から青いスリッパの様な物を出してくれたので、それを履いてお礼を言い、ブーツを脱ぐアリスを待つ事にする。
『ほら、今日はこれを使え。明日にでも必要な物を買いにいこうな』
「ふへへ、ありがと!アリス!」
『ふふ、よしよし。よーし、ローレルがご飯を作ってくれている間に簡単に家の中を案内してやろう』
アリスは、ブーツを脱ぎ終えて内履きに履き替え、私の頭をやさしく撫でた後、また手を取って歩き出したのでついて行く。
家の中は結構立派で広く、そして奇麗だった。流石女性の三人暮らしだ。掃除等も行き届いている様に見受けられる。
玄関から入ってすぐ右手には、窓があり、その近くの床には白いふわふわとしたカーペットとその上に白いソファーと小さい机が置いてある。
まったり出来そうでいい感じ。
そこから更に奥にはテーブルと椅子が4つ並んだリビングに、その奥に見えるのはキッチンだろう。
そこにはエプロン姿のローレルが立っているが、エルの姿は見えないので、恐らく自分の部屋にでも行ったのだろうか。
食事の用意は当番制か何かかなぁとそんな事を考える。
後で食事を作るローレルを手伝おうかな。
更に手を引かれてリビングから左手に進むと、ドアが二つあり、片方がトイレでもう片方はお風呂だった。
両方とも水洗という所が素晴らしい。魔道具ファンタジー様様である。
そのドアの傍には階段があって、二階へと続いている様だ。恐らく其々の個室があるのだろう。
『と、こんなものかな。さて、ローレルのご飯が出来るのを座って待っているとするか?』
視線を私に落として何かを告げているアリスと目を合わせ、また手を引かれるままにテーブルへと向かって歩く。
いい家ですね。私もここで暮らしたいです。
と言えたらどんなにいいか……。取り合えずご飯が終わったらこのポーチの宝石が家賃替わりになるなら、暫くここに置いてもらえないか何とか聞いてみよう。
複雑な会話は難しいけど、身振り手振りすれば伝わるかもしれないし。
よし、そうと決まればまずはこの世界の台所事情を調べるよっ。
置いてもらうなら家事ぐらい出来る様にしないとね。
さて、アリスが椅子に座った所で、私は席にはつかずに台所でせっせと料理をしているローレルの元へ駆け寄っていく。
『あらあら?余り近くにくると危ないですよ?それともアシュリーは料理に興味があるのですか?』
うーむ、何だか諭されている様な感じの声色だ。恐らく危ないから退いてなさいって感じだろう。
近くで観たかったけど仕方ない。コクリと頷いてちょっと一歩下がった位置から眺める事にする。
『うん?んー、まぁ見たいと言うならいいんですけど……、ちょっと緊張しますね……』
まず、斬り終えた材料、恐らく野菜の様な物だろう、それを中ぐらいの鍋の中に水と一緒に入れて火にかけている。
火は以前の世界でいう所のコンロの様な物に非常に似通っている。
コンロの様な物の下部にある捻りの様な物をカチカチと回すとボッと火が付いた。
あれなら簡単に火が使えそうだ。有難い。
二つあるコンロの奥側に鍋を火にかけて、次にもう一つの方には丸いフライパンに油の様な物を垂らして火を付けた。
キッチンの傍には黒い鉄の箱が置いてあり、左の端についているレバーの様な物をガチャリと上へ上げると、カパッとドアの様に開いた。
中を覗き見ると食材が入っていて、少しひんやりとした風を感じる。凄い冷蔵庫ですっ。
あれも魔道具様の賜物か。便利だ。
そして中から取り出したるは塊の様なお肉!
何の肉かは解らないけど、サシも適度に入ってて美味しそう……。いかん、ヨダレが。
それを適当な大きさに切って熱したフライパンの上へジューッ!っと。
もう既に美味しそうなんですけどっ。
それにキッチンに並べて置いてある調味料と思しきツボの内の一つから粉の様な物を取り出してパラパラと振りかけている。恐らく塩コショウみたいなのかな?
次々と焼けていく肉に、野菜スープの味付けも並行して行い、キッチンの上にある棚からフランスパンの様なパンを取り出して、完成!
素晴らしい!
このキッチンなら私も使えそうだ。
ふふふ、さっそく明日使ってみよう。
おっと、私も運びますよ。それぐらいさせてください。
『あら、手伝ってくれるの?ありがとう、アシュリーは良い子ですね、よしよし……。エルにも見習わせたい所ですね』
「ふへへ」
『お、出来たのか。ん?アシュリーも手伝っているのか?よし、食器を運ぶぐらい私も手伝おう。ほんとにアシュリーは良い子だな』
焼いた肉を盛り付けたお皿を運ぶ私に対して、二人して頭を撫でられた。
『あー、腹減ったー。お、丁度良かった!飯だ飯だー!』
後からやって来たエルに三人してジト目を向けると、何事かとたじろぐエルを見て、久しく忘れていた楽しい気分になる私であった。
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