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三章『お留守番』
3-11
しおりを挟むよし、覚えたぞ。
『家族』『お父さん』『お母さん』『お姉ちゃん』『妹』という言葉を教えてもらった。
しかし、何やら教えてもらった後にエルはまた少し考え事をしているのか、黙ってしまった。
まぁ少し休憩という事で暫し待つ事にしよう。
そして待つ事暫く。
動き出したエルは、目の前の本に描かれた『お父さん』と『お母さん』の絵を続けて指さして私に何かを聞いている様だ。
『な、なぁアシュリー、お前のお父さんとお母さんは、何処に居るんだ?覚えてない、か?』
「ん???んー……」
この雰囲気からして、恐らく私の両親の事について聞いているのだろうか。
ひょっとしたら居場所とかを聞いているのかも。
私が子供の姿をしているので、寂しくないかと気をつかってくれているのだろう。
しかし、両親、か……。
この世界に両親は勿論居ないし、以前の世界の両親も既に他界しているので居ない。
仮にもし、天国と言う場所が存在すると言うのであれば、ソコに居るのかな、二人は……。
この世界の空が、以前の世界の空とは繋がっている筈は無いだろうけど……。
私は『お父さん』と『お母さん』の絵を続けて指さして、首を左右にプルプルと振り、続いて空を指さした。
『っ……!?まさか、空に居るって?死んじまったってことか?まさか、あの森の中で……?いや、それを覚えてるなら少しぐらい言葉だって覚えてるだろ……、ってことはもっと前に?あぁっ!解んねぇ!考えても解らない事はまぁいい!……しかし、そっか、両親居ないのか……。寂しかったろうなぁ……』
「んん??ふへへ……」
エルは何やらブツブツと言葉を告げたかと思うと、少し悲し気だが優しい声色で何かを言った後に私の頭を優しく撫でてくれる。
多分親が亡くなっているという事が伝わったのなら慰めてくれているのだろうか。
あんまりこう、続けて優しくされると私はダメになっちゃうんだよ。だからほどほどにねっ。
でも嬉しい!
「ふへへっ、エル、ありがとっ!」
『っ!!?くそっ、ホントに良い子だなぁっ!アシュリーっ!よしよしっ!』
慰めてくれたお礼を言うと先程まで優しく撫でていた手に少し力が入り、ガシガシと撫でられたかと思うと次の瞬間にはギュッと後ろから抱きしめられた。
こんな時に何ですがっ、背中っ背中にっ、天国がっ。
不謹慎だけど仕方ないの。柔らかいんだもの……。
『そうだ!家族が居ないなら、私達がアシュリーの本当の家族になっちまえばいいんだ!』
「???家族?」
『おお!そうだぞ!』
何やら覚えたての『家族』という言葉が聞こえたので聞き返してみる。
するとエルは抱きしめていた腕を緩めて、私の前で指を一つずつ折りながらこう言った。
『いいか?エル、ローレル、アリス、アシュリー、四人は家族だ!』
「!?!?エル、ローレル、アリス、アシュリー、家族?」
『おう!家族だ!パーティーメンバーなんて第二の家族みたいなもんだ!』
「家族、ふへへ……」
凄いぞ。何となくでしか解らないけど、多分アリスとローレルとエルと私は家族だって言ってくれているんじゃないだろうか。
子供の私を慰める為に言った事かもしれない。けどすごく嬉しい。
しかし、友達を目指していた所で家族にランクアップするなんてどんな奇跡!?
嬉しすぎてどうすればいいのか解らないぞ……。
いや、家族の為に頑張るって言う事で今まで通り三人の為に頑張ればいいのかっ?
いやいや、浮かれすぎるのは良くない、よね。
我ながらちょっと捻くれてる気がしないでもないけど、あれは私を慰める為に言った事だという可能性を念頭に置かなければっ。
エルの気持ちを本当に有難く受け取って、そのエルの優しさを胸にっ、今まで通りに自分を律して更に精進するのだっ。
飛び上がりそうな程の嬉しさを何とか自制した所で、続いてエルはローレルとアリスの名前と一緒にお父さんとかお母さんとか言った後に、二人で仲良く手を繋ぐ子供の絵を指さした。
『よ、よし!いいか?アシュリー、ローレルは何だかお母さんみたいだろ?そんで、アリスはお父さんっぽいよな?ってことは残る私は、こっち、だよな?こ、こっちはアシュリーな?』
「ふ、む??」
どうやらその子供の絵の片方、背が少し高い方がエルで背が低い方が私だと仮定しているのだろうか。
うん、という事は?
『私がアシュリーの、お姉ちゃんになってやるからな?』
「お姉ちゃん?」
『そ、そうだ!エルお姉ちゃんだぞ!こっちはアシュリーだぞ!』
「エル、お姉ちゃん……」
ふむ、これはどういう事だ?
エルが私のお姉ちゃんになるって事か?
義兄弟ならぬ義姉妹かっ!姉妹分って事か!
しかし、兄弟、か。
少なくない憧れがありますよ。
だって、兄弟って素晴らしいよね。
歳が近くて、無条件に愛情を注げて、誰よりも近しい友達みたいな家族!
小さい頃は、友達出来ないから兄弟欲しいなって何度思った事か。
閑話休題。
そんな事よりもっ、今エルが私のお姉ちゃんになるって話だよね!
え、ホントに、いいの?
『だ、だめか……?』
尋ねる感じのダメがエルから聞こえる。ダメじゃない、全然ダメじゃないですよっ。
しかしどう伝えれば……。呼んでみればいいのかな?
「お、お姉ちゃん……」
『おお!いいのか!?いいんだな!?そうだぞ!私がアシュリーのお姉ちゃんだからな!』
「ふへへ、お姉ちゃん……」
お姉ちゃんと言うと、後ろからまたギュッと抱きしめられた。
何と、異世界でまさかの憧れのお姉ちゃんが出来てしまったぞ。
盃とか、いらない?飲む?あ、レモンティーでいいですか?
『しかしなんだな……、私だけ呼び方変わってアシュリーはそのままってのも何か味気無いな……。姉妹同士の愛称みたいなの決めちゃうか……?うーん……』
「ん?」
何かブツブツと頭の上から聞こえたが、私に対して言った言葉では無いのか。
何かまた考え事をしているのか、エルが黙ってしまったので暫し待つ。背中?変わらず天国ですよ?
待つ事数分。
『よ、よし、我ながら結構いい愛称じゃないか?しかし、私以外に呼ばせたくないな……。言い聞かせられる、か?よーし……、アシュリー?』
「ん??」
呼んだ?
首だけを動かして後ろをチラリと見ると、抱きしめていた腕を緩めて、少し私を持ち上げたかと思うと、ソファーを降ろされて前に立たされてしまった。
何だろうと振り返ると、エルが自分を指さして『お姉ちゃん』と言った後に、私を指さして、『アーシュ』と言う言葉を言った。
『アーシュ』?私の名前に使われている言葉が入ってる所を見ると、愛称の様な物だろうか。
あ、あれか!姉妹同士での呼び方みたいな……?
家族間でのみ言い合う愛称みたいなあれですか!?
淳宏って名前の人が居たとする。お姉ちゃんからは、あーくんって呼ばれてます。みたいなっ!
なんて少しソワソワッとしていると、続いてローレルとアリスの名前を告げた後指を一本立てて口元に持って行った。
ナイショとか秘密とかのジェスチャーだろうか。
『いいか?お姉ちゃんとアーシュは、アリスとローレルには秘密だぞ?ひ、み、つ』
「ひ、み、つ、秘密!」
『そ、そうだ!秘密だ!アリスとローレルにはシーだぞ?』
「ん???アリス、ローレル、秘密?お姉ちゃん、秘密、アーシュ、秘密?」
ん?そうやって呼び合っているのを秘密にしたいって事かな?
うん。これはあれだね。
友達が家に遊びに来た時何かに、両親や兄弟から家で呼ばれてる愛称で呼ばれると恥ずかしいっていう事かな。経験?ある訳ないじゃないか!聞かないでよっ!
お姉ちゃんは別に呼ばれても恥ずかしくないと思うけど、まぁ内緒にしたいって本人が言うなら別にいいかなっ。
それに何だか姉妹で他の人に秘密の決まり事があるなんて、ちょっと憧れる。
「ふへへ、お姉ちゃん、アーシュ、秘密!ローレル、アリス、秘密!」
『そ、そうだ!秘密だぞ!?つ、伝わった、か……?まぁ今はそれでいいかっ。よ、よーし、おいでー、アーシュ』
「ん、ふへへ……、お姉ちゃん」
腕を広げて私の愛称を呼び、『おいで』と呼ばれたからまたまた距離は近いけど一歩前に進むと私はエルの広げた腕に掴まる。
私もつい自分の腕をエルに回して抱きついてしまった。
姉妹だから、いい、よね?いいのかな……。
『んん~っ!!!アーシュ!可愛いぞっ!その可愛さは反則だっ!』
「ふへへぇ、お姉ちゃん、お姉ちゃん」
『っ!?!?か、可愛すぎる……、鼻血出てねえよな……。くぅ……、お姉ちゃんはアーシュが大好きだぞっ!』
「んむ!?!?」
今、好きって言った?これはアリス、ローレルに続いて三人目のサプライズ。
私ってこんなに幸せでいいんだろうか。
姉妹ってすごい。家族ってすごい。義理だけど、家族なら無条件で愛情を注げる対象になるのだろうか。
大丈夫、ちゃんと弁えてはいるよっ。
この好きはライク、ライク。ラブじゃないラブじゃ……。
ん?いや、家族だからラブでもいいの?
「お姉ちゃん、アシュリー、好き?」
『おぉ!好きって言葉解るのかっ?!わ、わからないと思ってつい感情のままに口走っちまった……。で、でもまぁ、隠す事でもない、よな……?』
「????」
『あ、あぁ!お姉ちゃんは好きだぞっ!アーシュが大好きだっ!』
な、何だか空耳じゃないかと確かめる為にホントに言ったのかどうか聞いたら、声を大にして好きだと言って貰えた。
そしてエルの私を抱く腕にギュッと更に力が篭った。
そっかぁ、好きなんだ。
凄いぞ。姉妹パワー凄い。
私も好きだ!お姉ちゃん!
「ふへへ、お姉ちゃん好き!好きぃ!!」
『!?!?!?まじかっ!?好きなのか!?アーシュも私が好きなのか!?夢じゃないよな!?夢なら覚めるなっ!!!』
「お姉ちゃん、好き」
『ふ、ふふふ、はははっ!勝ったぞ、アリス!ローレル!アーシュは私の嫁だ!いや、妹か?まぁどっちもだ!アーシュは私の妹で、嫁だっ!』
「ん~!!好き好き!」
はっ!好き好き言い過ぎた。
そして我に返ると私を抱きしめつつ何か勝ち誇った様な笑いを零しているエルに気付いた。
私のお姉ちゃんは少し変わってるな。
まぁ少し変わってるぐらい、私はちゃんと受け入れるよ。姉妹だしね!
家族ってそう言うもんでしょう?
『好き同士なら、ちょ、ちょっとぐらい、いいよな?な?』
「ふぁ、んっ!!?」
こ、これは、またお姉ちゃんの病気が再発したのかっ!?さっきまで大人しかったのに!?
お尻揉むのはだめぇ!
もうそれ直だからっ!スカート短い上に、中の布の面積狭いからぁ!
「んぅ~ッ!?お姉ちゃん、だ、だめぇっ!」
『……呼び方一つでこうも違うのか……?な、何かイケナイ事してる気分が増すな……。しかし、その涙目は反則なんだぞ……。止まらなくなっちゃうだろぉ……』
「んゃぁぁっ!!?」
それから暫くの間、ダメだと言っているのにエル、もとい、お姉ちゃんの病気が止まる事は無かった。
歯止めとなるアリスとローレルが居ないという事の危険さに、私はこの時初めて気付いたのだった……。
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