魔女の店通りの歩き方

川坂千潮

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骨の髄まで

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「瑠衣、県大会、応援に行くからね」
「うれしいけど……大会、平日だよ?」
「その日は高熱を出すの」
「あはっ、既に体調の予定が決めちゃってる」
 そんな瑠衣も、今日だって部活の練習だった。
「たまに息抜きしないと、調子狂うんだよね」

 バレーはすきだ。
 地面からの跳躍で頼れるのは身体能力のみ。空の飛行とは異なる集中力が必要で、いつでも新鮮な感覚だ。スパイクを打つ瞬間に立ちはだかる相手チームのブロック。ネット越しの勝負はいつだって一瞬だ。
 チームメイトが拾い、繋げてくれたボール。瑠衣が打ち抜くと信じてくれる。日常では得がたい想いを背負うプレッシャーは大きいが、背負えばもっと勝負に昂ぶる。
 それでも、瑠衣はただの中学生であり、骨の髄から魔女なのだ。
 一人で走り込みたいこともある。一人で魔法にのめり込みたいこともある。クラスメイトやチームメイトではなく、魔女たちの中にいたいこともある。
 孤独は寂しさではなく、他者の拒絶でもない。己を見直すのに、ただの休むのに大切なのだと魔女たちはおばばから教わっている。

「この不良娘~」
「み、美花には言われたくないな!」

 風が涼しくなってきた。太陽が西に沈みはじめている。日暮れまでにはもう少し時間があるだろう。
 明日はまた、ただの学生に切り替える。
 ほうきを置いて、帽子もかぶらず、指定の制服で地を歩く。
 放課後は体操着を着て、体育館に急ぎ、バレーの練習をする。
 その姿を転写したならば、自分はどんな風に映るのか。
 ただの学生が一人でいれば、寂しい孤独が写るのだろうか。クラスメイトやチームメイトへの接し方が冷たく写らないだろうか。

「瑠衣」

 美花が瑠衣の肩に肩で触れ、頬を寄せた。
 瑠衣は思いきり前に両腕を伸ばして、親指と人さし指で額をつくった。それからゆっくりと、指先を離してゆく。
 指と指を線で結べばきっちりとした四角形になるように、天窓のように正確に、慎重に瑠衣と美花がおさまるていどまで額を広げた。
 すう、と息を吸い、
「   」
 ひらり、瑠衣と美花の間に落ちてきた紙には、笑い合う二人の少女だけが転写されていた。
 妖精も、他の魔女もいない、二人きりの世界を囲った。
 やはり一人で魔法を使うより、二人で写し取った方がうれしい。孤独を飼い慣らせるようになるには修行が足りない。
「それは持ってて」
 美花がひそりと人さし指を唇の前で立てた。「魔女の私と、魔女の瑠衣、ナイショね」わるい魔女は、制服を着てもわるい子をしのびやかに抱いているらしい。
 骨の髄まで魔女なのは、瑠衣も、美花も、他の少女たちも、同じなのだ。
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