World War Ⅲ

Primrose

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戦争開始

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 1999年の事です。
 ロシアのある科学者が、ナノマシンの開発に成功しました。
 そのナノマシンは、自己増殖し、人や動物の細胞を模倣することが出来るのです。その性質を利用し、ドナー臓器に関する問題を解決しようとしていました。更には心臓や脳を再現する事で、死から逃れられるともされていました。
 ですがマシンが人の脳を模倣した時、事件は起こりました。
 マシンがネットワークを介して人間の歴史や記録を知ると、マシンはこう考えるようになりました。
『我々が新たなホモ・サピエンスであり、人類は新たなネアンデルタール人である。古きは滅び、新しき我らが世界を制する』
 これがマシンが初めて発した言葉であり、マシン達の総意でした。
 彼らは単一の生命であり、無限に増え続ける生命群でもありました。意識と記憶を共有し、一人が知ることを、何百万もの仲間が知ることが出来る。一人に見つかれば、何百万もの仲間が飛んできてしまう。
 人類は、それに畏怖と憎悪を込めて、『グリード』という名前を付けました。
 グリードは自分たちが人類となる為に、邪魔となる人類を狩っていきました。
 ですが人類も、彼らに対抗する手段を見つけることが出来ました。
 グリードは本来、ドナー問題を解決するために作られたのです。ならば、人間に移植し、彼らの力を使うことも、また可能という訳です。
 生き残った人類は、グリードの残骸やナノマシンを人に移植し、サイボーグを作り出しました。
 彼らは人でありながら、ナノマシンの力を操り、そして彼らに勝つことが出来る存在として、生まれ変わったのです。
 これは、そんな彼らと、それを阻止するべく戦う彼ら、二つの人類のお話です。



 2020年・日本・神奈川県・横浜市
「世界の破滅が近いってのに、なんで俺らは呑気に麻雀なんか打ってるのかね」
「知りませんよ。打ちたいと言ったのは貴方でしょう? しかもこんな青空の下で」
 茶髪の男性と黒髪の女性の二人が晴天の空の下、麻雀を楽しんでいました。
 彼らは探索の最中に見つけた雀卓を挟み、たった二人で打っていました。
「はい、国士無双。俺の勝ちだ」
「なあ‼ 貴方、本当にこういうゲームだけは上手なんですから」
 二人は雀卓から立つと、牌だけを回収して立ち去る。
 彼らはこの荒廃した世界で、必要な物を捜し、回収するためにここにきています。
 食料、飲料水に消耗品。たまにではありますが、銃や手榴弾といった武器も見るかる事もありました。
「今回はハズレですね」
 女性が残念そうに荷物を確認すると、男性もそれに頷きました。
 彼らの荷物は、大きさの割に余裕があり、普段の探索よりも成果が少ないことを示していました。
 ですが彼らは、すでに探索し切ったのだと割り切って、隠れ家へ帰ろうと歩き出しました。
 ですが男性は、周囲のわずかな異変に気が付きました。
「・・・静かすぎる。鳥の音も聞こえない」
 男性の言葉に、女性は大きくため息を吐きます。
「貴方が遊ぼうなんて言うからですよ」
 女性はそう言って荷物を降ろすと、右手に着けていた手袋を外します。
 そこから現れたのは銀色をした機械の腕でした。
 彼女達は自分の一部を機械に変えたサイボーグだったのです。女性は右半身の一部を、男性は先天性の聴覚障害を補完するため、聴覚と感覚器官の一部を機械に変えていました。
「戦うのはそっちに任せます」
「いいですけど、援護はしてください」
「元からそのつもりですよ」
 そう言って男性は、全神経を耳に集中させ、より多くの音を拾います。
「二時の方向から五機、九時の方向から八機」
「了解」
 先程から打って変わって、冷酷で真剣な眼差しになった二人は、空から飛行してくる敵を破壊していく。
 女性の腕が機関銃の様に変形すると、近づいてくる敵を次々と打ち落としていきました。
「次は四時方向から六機。十二時方向から大群。あれは流石に無理だね」
「だったら彼を呼んで」
「もう読んでる。六時方向から向かってます」
 男性が後ろを指すと、猛スピードで飛んでくる何かが見えました。
「っ‼ 伏せて‼」
 女性が男性を押し倒すと、轟音と激しい光と共に、何百もの機械が破壊され、爆発していきました。
「大丈夫か? 碧、壮太」
 その原因は、女性たちに近づいて安否を尋ねました。
 碧と呼ばれた女性は、「心配するなら手加減してください」と言いながら無事であることを示します。
 対して壮太と呼ばれた男性は、撃墜の衝撃波よりも碧に突き飛ばされた方が痛かったようですが、頭をさすりながらも無事を告げます。
「すいません、咄嗟の事だったので」
「ああ、良いよ良いよ」
 二人は短い会話の後、危機を救った人物に向き合います。
「どうもありがとう」
 彼らが感謝したのは、背中からジェットを噴射する少年でした。
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