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第二章 立志編

第50話 統べる者

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 素早く首領ボンへダンキングをしながら近づくと死角から右フックを繰り出し、その勢いを使い続いて左フックを死角から放つ。
 息を止め気力の続く限り同じ動作を繰り返す攻撃は徐々にスピードを増しダウンもできぬまま滅多打ちにされ続ける。

「ぷはぁっ!」

 クロが動きを止めると、ガードしていたであろう首領ボンの両腕が変な方向に曲がっており、意識を失い前のめりに倒れた。

「さすが異世界! 不可能を可能に出来る! うぉぉぉ!!」

 クロは柄にもなく雄叫びあげる。この興奮は味わったものにしかわからないだろう。異世界といえばチート無双だが、転生した時にそんな能力はなかった。弱者として五年を過ごし、スーと出会い死ぬ思いをして力を手に入れた。それから十年もの間、試行錯誤しながら鍛えてきた努力が報われた瞬間で、スキルによる攻撃ではなく自分で手に入れた力が花開いたのだから。

「四天王全員が倒れてるって事は、俺が頂点って事でいいよな?」

「……出鱈目な攻撃……でもここはスラム、力が全て」

「じゃあお前ら全員俺の下って事でよろしく」

 クロの宣言に異を唱える声は聞こえない。乱戦になった事で全員が死ぬか瀕死の状態になっているのだから当たり前であるが四天王としてのメンツは潰れ、負けた事は言い訳は出来ないだろう。

「おい、ガロウ」

 クロは動けないガロウを蹴飛ばし話しかける。

「お前に勝ったじじいに俺は勝った。けど、お前との勝負はまた別の話しだよな?」

「ゔ……ぐぅっ! て、てめぇ……」

「さあ! 約束通りやり合ってやるから立て」

 髪の毛を掴み無理矢理立たせて、ふらふらのガロウの側頭部にハイキックを放つ。
 ガロウの身体は壁に吹き飛び、力なく倒れるが追い討ちをかけ顔面を何度も殴りつける。

「……卑怯! ガロウはもう動ける状態じゃない」

「何言ってんだ、それはこいつの都合であって俺には関係ないだろ? 慈悲を与えろと? お前は馬鹿なのか? なあ、そうだろガロウ」

 ボロボロになったガロウの髪の毛を掴み顔を近づける。小さな声で「殺せ」と聞こえるが無視をし、そのまま壁に顔面を叩きつける。

「死をお前が選ぶなよ、生殺与奪の権限はお前にないよ」

「……もういいでしょ? これ以上……敗者を冒涜しないで」

「これが逆の立場だったら俺も同じ事をやられてた。それが現実だ! 敗者の尊厳を守れ? そんなご都合主義なんてクソっくらえだ!」

「……暴君」

「はははっ! 弱者の戯言だよそれは」

 裏の世界では力が全て。負ければ失い、勝てば手に入る単純な構造だ。そこに身を置くと決めた時から敵対する者は徹底的に排除するそう決めている。正義を振りかざすつもりは毛頭なく、敗者を敗者のまま放置はしない。それは支配する者の責務である。

「俺の下について従順になるなら栄華を約束する。敵対するなら従順になるまで痛めつけるだけだ」

「……悪魔みたい」

「悪魔か、褒め言葉だな。なんと呼ばれようがどうでもいい、俺は俺のやりたいようにやるし。リンリン、どうせ生きてる奴は回復魔法か薬で回復するんだろ? 起きたら言っといてくれ」

「……なんて?」

「スラムにあるお前達の権限は全てよこせ、俺の邪魔をしないなら友好的に共存してやると」

「……許容できるとでも?」

「出来るか出来ないじゃない、許容しろ。お前はどうなんだ? まだ戦う意志があるか?」

「……ない、でも、支配はされない」

「はぁ……じゃあ今死ね」

「え……」

 ドンッ!!

 不意をつかれたリンリンは心臓を貫かれ息を引き取った。

「時勢も読めない馬鹿は必要ない」

 まわりを見渡し意識のある者を探すが居なかった。その中で一番傷が浅そうなドルトランド改めゴブリンを覚醒させるために蹴飛ばす。

「おい、起きろゴブリン!」

「ぐぅ……き、貴様!」

 とりあえず従順になるまでマウント状態で殴り続けると、程なくして心が折れた。

「ゴブリン、よく聞け」

「は、はい……」

「全員に伝えろ。受け入れろと。受け入れた奴には利を与えるが、そうでなければ……」

「なければ……?」

「尊厳もくそもない意味のない死を与えてやる」

「わ、わかった……伝える」

「じゃあ、俺は帰るから後はよろしくな」

 ドルトランドは去っていくクロの後ろ姿を固唾を飲んで見送り、姿が見えなくなると腰を抜かすように倒れ込む。

「我々は選択を間違えた……」

 次の日、スラムを支配していた四天王の全てが懺蛇に従うと宣言する事となった。
 これはクロ達がこのスラムにやってきてほんの一ヶ月の間に起こった出来事である。
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