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第三章 復讐編

第100話 ケンタ・イイヅカ②

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「ゲイルさん、記憶の方はどうですか?」

 帝都内にある屋敷の一室。元勇者パーティーのメンバーだった剣聖ゲイルは失っていた四肢を取り戻したが、衰弱していた体力はすぐに戻らず静養を余儀なくされていた。

「いや……全く」

「そうですか……」

 後ろから落ち込む健太の頭に白く長い手が伸びる。

「ルシル!?」

 ルシルと呼ばれた人物は深く被られたフードを脱ぐと、現れたのは青い髪に尖った耳に、お世辞にも豊満とは言えない胸元を持つスレンダーなエルフの少女だ。


「ケンタ、あなたの作ったポーションで身体は完全に治っても心までは治せないわ。彼ほどの人物があんなところで売られていた経緯を想像してみて? 簡単なことではないのよ」


 健太とゲイルが出会えたのは、この世界に召喚され森の中で彷徨ってた際に出会ったエルフの少女ルシルの存在が大きかった。ルシルと出会えなければ健太と桜子はこの世界の常識や深い闇を知る事機会は遅くなっただろう。
 健太の作るポーションや精製できる量が規格外である事、鑑定のスキルは秘匿する必要がある事、桜子の浄化スキルは毒や病気を治す事ができ、奴隷紋をも解呪できてしまう事もルシルから教えてもらった。

 ルシルの目的は奴隷となった同胞の解放であった。そのような理由から桜子の持つ浄化スキルは都合が良かったのもあるが、どこか平和ボケしている二人が危なっかしく、どうしても放っておくことができず行動を共にするようになった。

「そう……だね」

「そうだニャ! ケンタはすごい事をしたのニャ! だから元気だすニャ」

「あははっ! ミューにはいつも元気づけられてばっかりだね」

「ケンタァァァ! 私が最初に慰めたのに!」

「嫉妬は見苦しいのニャ!」

「ミュー! いいかげんその悪い口を二度と開かないようにしてあげようかしらぁぁぁ!?」

「はぁ……二人とも仲良くしようよ?
 もちろんルシルにも感謝してるよ」

「ふんっ! 分かればいいのよ///」

「ツンデレエルフ!」

「だまれ下品ドロボウ猫!」

 森を抜け街道に出た時に、帝都に向かう商人を護衛している猫の獣人ミューと出会った。事情を説明し好意で馬車に乗せてもらえたお礼にポーションを渡すと、帝都に到着した後、その品質に興味を示した商人に商業ギルドを紹介してもらえた。
 帝都までの旅の間、冒険者としてのいろはや戦闘技術をミューは二人に叩き込んだ。短い時間ではあったものの、健太と桜子の人となりを気に入り帝都に着いてからも面倒をみてくれている。

「ここは賑やかだな」

「うるさくしてごめんなさい」

 ゲイルは小さく首を振る。

「不思議だな、懐かしい気分になるよ」

「きっと記憶をなくす前のゲイルさんもこういう環境に居たんですよ」

「ふっ、そうかもな」

 奴隷市場で出会った時のゲイルは見るも無残な状態で、四肢は切断され目は虚ろで生きているのが奇跡だった。鑑定スキルで剣聖の称号を持つ戦士だと分かり交渉の末、高額だったが即金で買い取った。周りを見渡すとこの区画は部位欠損の奴隷達しかおらず、ゲイル以外は安価で売買されていた。後でルシルに理由を聞いた時は人道に反する扱いに憤慨した。
 奴隷市場に行った理由はルシルの同胞を探す為だったが、残念ながらここにはエルフはいなかった。

「そういえばサクラコはどこに行ったのニャ?」

「サクラコさんは買い出しに行ってます」

 メイド姿の女性が人数分の飲み物を運び部屋へ入ってきた。

「一人で行ったのニャ?」

「いえ、バニラさんが付き添いで一緒に」

「あの筋肉女が一緒なら安心だニャ」

 モルモット奴隷の話を聞いた翌日、手持ちのポーションを大量に売りさばき潤沢な資金源を元に手当たり次第買い取った。その大半は奴隷紋を解除したあとに故郷へ送り届けたのだが、このメイド姿の女性ニーナと筋肉女と呼ばれたドラゴニュートのバニラは留まり行動を共にしたいと願い出た。
 ニーナは戦闘メイドとして貴族の屋敷で働いていたが、ケガをした事で用済みとなり奴隷として売られてしまった。バニラは傭兵出身で戦闘により腕を失い、拷問の末売られていた。再び力を取り戻した二人は健太に恩を返すまでは奴隷として働きたいと言っているが、離れる気はさらさらない。

「ケンタさん、この後お約束があると言ってませんでたか?」

「うん、旅の商人で名前は……クロウさんって人なんだけど、僕のポーションをもっと流通させたいから相談させてほしいって頼まれてね」

「ケンタ! あなたの作るポーションの効果は市場に出てる一般的なポーションと違って桁違いの効能なのよ! もし強欲な貴族がケンタに目を付けたら……」

「ありがとうルシル。でも、僕が作ったポーションで多くの人が助かるならそうしたい。それに、僕には頼りになる仲間がいるからね!」

「ケンタ……」

「安心するニャ! ケンタとサクラコは私が護るニャ」

「ミューさん、あなたに任せるのは心配でしかないのですが?」

「ニャにおー!! 破廉恥メイドは黙るニャ!」

「ミューさん、一週間ご飯抜きです」

「ニャッ! それはあんまりだニャぁぁぁ」

 ニーナからドス黒いオーラが放たれるとミューはニーナの足に縋りつき崩れ落ちる。

「行くのケンタ?」

「うん」

「誰か一緒に……」

「大丈夫だよ、ただの商談だし」

 大袈裟なとケンタは笑う。

「そう、でも今日は!」

「わかってる、遅れたらさくちゃんに殺されちゃうからね! 陽が落ちる前には帰るよ」

「気をつけてねケンタ」

「待ってるニャ! ケンタ」

「いってらっしゃいまさせケンタさん」

 三人がケンタを見る最後の姿は、未来を夢見る希望溢れた後ろ姿だった。

 ~~~~~~

「あっ! クロウさん! お待たせしました!」

「いえいえ、私も今来たところですよケンタさん。まあ立ち話もなんですからかけて下さい」

 順風満帆なハーレムチート召喚者に悪役を拗らせた狂気の支配者が牙を剥く。
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