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第9話 『新聞部の意地』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第9話
『新聞部の意地』



 ──霊能力者──



 彼らは未知の力を駆使して、怪奇的な存在から人々を守るために日々精進している。



 それは雪の降る季節も、桜散る季節も、そして真夏の猛暑の中であっても……。







「やっぱり、エアコンは快適ねー」



 私はエアコンの効いた事務所のソファーで寝っ転がり寛ぐ。



「レイさ~ん、荷物届いてますよ」



 寛いでいると玄関から段ボールを持ったリエがやってくる。



「荷物? 何か頼んでたっけ?」



 私はソファーに座り、リエの持ってきた段ボールを開く。
 すると、段ボールの中には最新のゲーム機が入っていた。



 それを見て私は思い出す。



「あ、あれ当たったんだ!!」



「なんのことですか?」



 不思議がるリエに私はソファーから手を伸ばして、後ろにある棚から一枚のチラシを取り出した。



「ジェイナスアプリのアカウントを持ってると応募できる、抽選プレゼント企画なのよ。それでこのゲーム機が当たったの!!」



 私は早速箱の中からゲーム機を取り出した。



「それでこのゲーム機が送られてきたんですね!」



 リエは興味なさそうに答えるが、目線はチラチラとゲーム機を見ている。



「やってみたい?」



「いや、前取り憑いてた屋敷にゲームなんてなくって、おはじきとかお手玉でしか遊んだことなくて!! こういうのに興味があるとかそういうわけじゃ、ありませんから!!」



 私が聞くとリエは明らかに動揺した様子で返してきた。



「ま、私もやりたかったから応募したわけだし。リエもやりたいなら、早速セットしてみましょうか」



「や、やりたくなんてないですよ!!」



 私はゲーム機を持ってテレビも側に行き、ゲーム機とテレビを繋げようとする。そんな中、空になった段ボールに黒猫は寄ってくると、私とリエがゲーム機に夢中になっている隙に、段ボールの中に入って落ち着く。



「よし、これでできるはずよ!」



 私はゲーム機のスイッチを入れて、コントローラーを手にソファーに戻る。私と隣ではソファーに座り、ソワソワしたリエが待っていた。



 テレビに「ジェイナス」という文字が写り、画面が切り替わると、白いフチの中に初期状態から使えるアプリが表示されていた。



「へぇー、これがゲームですか!!」



 ホーム画面で感心しているリエに私は



「まだよ。これからゲームを始めるのよ」



 そう言ってゲームを始めようとするが……。



「どうしたんですか?」



 コントローラーを持った状態で固まっている私に、リエが首を傾げる。



「ゲームソフト持ってないや」



 ゲーム機本体を持っていても、ソフトがなければ何も遊べない。
 私は頭を抱える。なんという致命的なミスをしてしまったんだ。



「ゲームソフトって、なんですか? なんですかー?」



 頭を抱えて絶望している私をリエが両手で掴んで揺らしてくる。視界が揺れる中、玄関の扉が勢いよく開かれる音がした。



 そして靴を脱ぎ捨てて、急いで走ってくる足音。楓ちゃんが私達のいる場所にたどり着くと、汗を流しながら困惑した表情で叫んだ。



「レイさん、助けてください!!」






 焦る楓ちゃんを椅子に座らせ落ち着かせる。リエも冷蔵庫からお茶を取り出して、コップに注ぐとそれを持ってきた。



 私は楓ちゃんの向かい側に座り、事情を聞く。



「助けてって何があったの?」



 楓ちゃんはお茶を飲んで呼吸を整えると答える。



「ストーカーです」



「ストーカー?」



 確かに楓ちゃんは可愛くて美しい。男女共に見惚れる美しさだ。ストーカーが現れてもおかしくはないほどに。



 リエが質問をする。



「誰にストーカーされてるんですか?」



「分からない。でも、同じ学校の人だと思う」



「あ、この前除霊に行った高校の生徒ですか」



「おそらく……」



 それを聞いた私は固まった。



「え、ストーカーしてるのは女性じゃなくて……」



「はい、男です」



 楓ちゃんの通っている高校は男子校だ。その男子生徒の一人にストーカーをされていると言う。




 段ボールの中から話を聞いていた黒猫は、顔をひょっこりと出して、



「楓、お前ならそんなストーカー、ちゃっちゃと撃退できるんじゃねーの?」



 と言った。



 確かに楓ちゃんの身体能力なら、ストーカー相手だろうと返り討ちにできる。
 しかし、楓ちゃんは首を振る。



「私もそのストーカーを追いかけたんですけど、逃げ足が早くて追いつけないんです」



 楓ちゃんが追いつけないって、どんな速度で走ってるんだか……。



「だからみなさんの力を借りたいんです!!」



 楓ちゃんはそう言って、私達にお願いしてきた。






 翌日、私とリエ、黒猫は事務所から高校の間にある喫茶店で寛いでいた。



「そろそろ楓さんが帰ってくる頃ですね」



「そうね。ま、ここは入り口に近くて、窓から外も見れるし、ここで見張ってましょ」



 計画は簡単。楓ちゃんの下校中に影から楓ちゃんを見張り、ストーカーを見つける。
 私達と楓ちゃんでストーカーを挟み討ちにして、懲らしめるというものである。



「お待たせいたしました。パンケーキになります」



 注文していたパンケーキを店員が運んでくる。



 私はホークを手に早速食べ始めようとすると、バックの中に隠れている黒猫が、ひょっこりと顔を出した。



「おい、俺にも食わせろ」



「嫌よ。欲しいなら自分で頼みなさいよ」



「猫が頼めるわけないだろ、ミーちゃんの為にもちょっとだけだ」



 私は仕方がなくパンケーキを千切ると、バックの中にいる黒猫にあげる。その様子を見ていた向かいの席に座るリエも目を輝かせる。



「私も欲しいです」



「あなた、幽霊でしょ。どうやって食べるのよ」



「レイさんが食べさせてくれれば、私も食べられます!!」



 リエの眼差しに負けた私は、リエに一口食べさせる。



 リエは頬っぺたに手を当てて、



「美味しいです」



 と空中を浮遊しながら喜ぶ。



 今は客も少ないため問題ないだろうが、リエの姿は他の人には見えていない。
 そのため、私が前方に差し出したパンケーキは、突然消えたように見えているはずだ。



 リエが満足した表情をしている中、私は喫茶店の窓から外を見る。すると、丁度喫茶店の前を楓ちゃんが通っていた。



 今日は水泳部が休みのため、部活のバックはなく、学校指定のバックのみで歩道橋を渡っていた。



 楓ちゃんが歩道橋の真ん中に差し掛かったところで、私達のいる反対側、学校側の歩道に楓ちゃんと同じ制服を着た生徒が現れる。



 首からデジタルカメラをぶら下げて、赤いバンダナを頭に巻いた男子高校生。彼はキョロキョロと周りを警戒しながら、楓ちゃんの後ろを尾行している。



「見つけた。あれがストーカーね!」



 私がそう言うと、リエと黒猫が窓に顔を近づけて除く。



「あのカメラ持ってる子ですね!」



「あいつがストーカーか。よし、追いかけるか」



 楓ちゃんは歩道橋を渡り終えて、喫茶店の前を通り過ぎていく。ストーカーもその後を追う。



 私達はストーカーを挟み討ちにするため、二人が通り過ぎてから店を出ることにした。



「いくよ!」



 私は黒猫の入ったバックを背負い、喫茶店を出ようとする。



「あ、お客さん、会計!」



 出ようとした私に店員が声をかける。



「忘れてた……」



 私は財布を出して、コーヒーとパンケーキ代を払う。



「ちょっと早くしてくださいよ! 2人とも行っちゃいますよ!」



「急かさないでよ!」



 財布から小銭を出す私をリエが急かす。お金を店員に渡すと、



「10円足りませんね」



「あ……」



 私は財布を出して、10円玉を探す。



「まだですかー!!」



「今やってるところー」



 結局十円玉は見つからず、お釣りを出してもらって喫茶店を出た。



 しかし、



「いないね」



「いませんね」



 楓ちゃんとストーカーの姿はなかった。







 楓ちゃんとストーカーを見失った私達は、しばらく周囲を捜索したのだが、結局見つけることはできず、事務所に戻ってきた。



「あーあ、結局逃げられちゃったなー」



 私はソファーに寝そべり、そんなことを言うと、リエが私も横で私のことを睨む。



「レイさんがお会計で手こずるからですよ」



「しょーがないじゃん、細かいの使いたかったんだもん」



「だからってあの場でやることじゃないですか!」



 リエが怒る中、黒猫は窓際で外を見つめていた。



「あ、いた……」



 そして窓の外で何かを発見して呟く。



「おい、お前!!」



 黒猫は窓際から私とリエを呼ぶと、



「例のストーカー。こっちに向かってきてるぞ」



「え!?」



 衝撃的なことを告げた。






 楓ちゃんはまだ戻ってきていない。ストーカーの周囲には楓ちゃんの姿は見えない。
 だが、ストーカーは確実に事務所に向かって歩いてきている。



 事務所のあるアパートに入る姿が見えた。



「ストーカーが来ますよ!!!! どうするんですか!!」



 リエが空中を浮遊しながら、事務所を走り回って焦る。



「落ち着きなさいリエ!! まずは、まずはそうよ、冷蔵庫の中に隠れるのよ!!」



 私は冷蔵庫の中身をひっくり返しながら、冷蔵庫に無理くり入り込もうとする。
 しかし、うちの冷蔵庫のサイズでは私が入り込むことは難しい。



「あなたも落ち着いてくださいよ!! 何やってるんですか!!」



 私とリエが焦っている中、黒猫は玄関の前で耳を澄ませる。



「おい、エレベーターがうちの階で止まったぞ」



 どうやらエレベーターの音を聞いていたようだ。



「どうしましょう!! 武器ですか! 武器を装備すれば良いんですか!?」



 リエは鍋を被り、両手にフライパンとしゃもじを装備した。
 それを見た私は、



「それじゃダメよ!! もっと距離のある武器にしないと!!」



 と言って、限界まで伸ばして途中で折れているメジャーと、丸めた新聞紙を装備した。



「もうヘニャヘニャじゃないですか!!」



「これしか長くなるのなかったのよ!!」



 私とリエがそんな会話をしていると、黒猫が私達に対して怒鳴った。



「お前らうるさい!! とりあえず静かにしろ!!」



「「はい……」」




 黒猫に怒られた私達はソファーにポツリと座り、様子を伺う。そして、



「すみませーん!! どなたかいませんかー!!」



 インターホンと共に男性の声が玄関から聞こえていた。



「どうします? 出ますか?」



 リエが怯える中、私は立ち上がる。



「出る。楓ちゃんが困ってるわけだし、私がガツンと言ってくる!!」



 私は玄関に向かう。一応、しっかりとチェーンをつけてから玄関を開けた。



「あ、初めまして」



 外にいる赤いバンダナを巻いた学生は礼儀正しく、頭を下げる。



「こちらがレイ相談所で合ってますか?」



「そうですけど……」



「心霊写真が撮れて……除霊……お願いしたいんですけど」






 少年の名前は石上 裕人(いしかみ ひろと)。楓ちゃんと同じ高校に通っている。
 依頼があるというので、彼を事務所に入れて事情を聞くことにした。



 石上君は椅子に座る。私は石上君に出すお茶を出すため、台所で用意をしていた。



 そんな私の元にリエがやってきた。



「どうして中に入れたんですか」



「依頼みたいだったから」



「依頼って……ガツンと言うんじゃないんですか?」



「それはこれからよ。もしかしたら依頼と関係あるかもしれないでしょ」



 私はお盆にお茶を乗せて、石上君の元に持っていく。



「どうぞ」



「ありがとうございます」



 お茶を出して私は石上君の向かいにある席に座った。



「それでその心霊写真ってどんなのなの?」



 私が聞くと、バックの中から一枚の写真を取り出した。



「これです……」



 そこに写っていたのは学校のプールに浮かぶ女性の顔、そして動く水の姿。



 私の隣で写真を見ていたリエが私に呟く。



「これってあの時の……」



「そうね、プールの時の悪霊ね」



 石上君にはリエが見えていないので、怪しまれない程度に私はリエに答えた。



「まさか、あの時の写真が撮られてたなんて……」



 プールの悪霊。それは前に楓ちゃんの通う高校の水泳部の顧問に依頼されたもの。
 学校のプールに女性の顔が浮かび上がるので、その女性の幽霊を除霊して欲しいというものだった。



 実際にそのプールに行き、私達が遭遇したのは悪霊。悪霊は水を動かして、私達に襲いかかってきた。



 石上君が持ってきた写真はその時の写真だ。プールサイドで逃げている私達を追う水柱。それを校舎の四階から撮影したものだった。



 石上君はその写真を私達に見せると告げる。



「その写真を撮ってから不幸なことが続くんです……車に轢かれそうになったり、犬のフンを踏んだり…………」



 それを聞いた私はひっそりとリエに聞く。



「ねぇ、あの悪霊って除霊できたのよね?」



「ええ、完全に消えてましたよ」



 あの時襲ってきた悪霊だが、お兄様に貰った紙により除霊することができた。
 紙から出てきた狼が、悪霊を退治したのだ。



 リエは私の耳元で呟く。



「確かにあの悪霊は退治しました。それにこの写真からは霊力は感じないので、幽霊の仕業ではないです」



 リエはそう断言した後続ける。



「しかし、思い込みで不運に引き寄せられてるのかもしれませんね。なのでその思い込みをどうにかすれば、この問題は解決するはずです」



「ということは、私の出番ってわけね」



 私は立ち上がると胸を張って答えた。



「分かりました。この依頼、この私が解決して見せましょう!!」



 私がそう宣言した時、玄関の扉が勢いよく開かれる。そして玄関から大声で叫ぶ声。



「その依頼、待ったーーーーッ!!!!」



 私達が玄関を覗くと、そこには息を切らしている楓ちゃんの姿があった。



「その依頼、待って、ください……」



 楓ちゃんは息を整えると、事務所に入ってくる。そして石上君の前に立つと、座っている石上君のことを見下ろして睨みつける。



「あなたがストーカーだったのね……。やっと正体を掴んだ」



「楓君か、君はここでバイトしているという噂があったが、本当だったようだね」



 睨みつけられている石上君だが、動揺することはなく。冷静に楓ちゃんに返す。



「そんなこと調査済みだったんでしょ、あなたの情報収集能力の話は聞いてるよ」



「へぇ~、そんな話があるんだ。俺もジャーナリストとして嬉しいよ」



 石上君はニコニコして楓ちゃんに返すが、楓ちゃんの表情は石上君とは正反対である。



 私はギスギスしている二人の間に入ると、楓ちゃんを止めようとする。



「ちょっと、楓ちゃんらしくないよ? 付けられてて嫌だったのも分かるけど、彼は依頼で」



 私がそこまで言いかけると、楓ちゃんは私を連れて台所まで行く。
 そして石上君に聞こえていないのを確認して、ついてきていたリエと私に話し始めた。



「彼は石上 裕人。私の通う高校の新聞部の部長です」



「ええ、それは彼から聞いたけど」



 楓ちゃんは警戒して石上君の方を見る。石上君は椅子に座ったまま、窓際で寝ている黒猫をニコニコして見ていた。
 石上君が見ていないのを確認した楓ちゃんは続ける。



「石上君は校内でもちょくちょく話題になる人でして、よく色んなネタを見つけては新聞を作ってるんです」



「部活に熱心な人じゃない」



「でも、最近の新聞の話題がマズイんですよ。怪奇現象について取材中のようですが、科学的にあり得ない。証拠不十分として、真っ向から否定してるんです」



 それを聞いたリエが不服そうな顔をする。



「なんか幽霊の私からしたら存在を否定されてる気がして嫌です。姿を見せてきましょうか?」



「そんなことしても無駄ですよ。彼には全く霊感がないんです。だから、あの悪霊の写真しか撮れなかった」



 悪霊の写真。石上君が除霊して欲しいと頼んできたものだ。



「それは証拠にならないの?」



 私が聞くと楓ちゃんは首を振る。



「なり得る可能性がある。だから、石上君はあの写真はトリックだって証明したいんです」



「じゃあ、あのまま依頼を受けてたら…………」



「ここは似非霊能力者の店として取り上げるつもりです。僕のことを付けてたのは、私がそういう店で働いてるってどこかで知ったからなんでしょうね…………」



 楓ちゃんはため息をつく。



「しかし、このまま追い返しても悪い噂を流されそうですし、どうにかして幽霊の存在を彼に見せつけるしかないですね」



 そう言った楓ちゃんにリエが返す。



「しかし、霊感のない方にどうやって私達の存在を知らせるんですか?」



 リエが聞いた時、黒猫が台所にやってきた。



「ここは俺に任せてもらおうか」



 黒猫は自慢げに言った。









「師匠? 何か作戦があるんですか?」



 楓ちゃんが黒猫に聞くと、黒猫は自慢げに答える。



「怪奇的な存在を認めさせればいいんだろう。なら、簡単なことだ。霊力の強い幽霊に出逢わせればいい」



 ドヤ顔で言う黒猫。しかし、それを聞いた私達は口をポカーンと開ける。



「それはそうだけど、そんな幽霊、私知らないよ」



「そこは問題ない。俺に任せろ」



 私に黒猫はそう答えると、棚から地図を持ってきてそれを床に広げた。そして前の手にインクをつけるとその地図に手を押し付けて印をつけた。



「ここに俺の知る幽霊がいる。無害で話の通じる奴だ。霊力もそれなりにあるから力になってくれるかもしれん」



 私達がその地図を見ると、猫の手のマークがついているのは、隣町にある廃墟となった病院だった。








 私達は石上君を連れて、黒猫の教えてくれた廃墟の病院へと向かっていた。



「確かに廃墟の病院だったら、幽霊はいそうですけど、手伝ってくれるんですか?」



 私の横に並んでふわふわと飛んでいるリエが心配そうに聞く。すると、私の頭の上で堂々と座っている黒猫が返す。



「問題ない。彼は人間の頃からの唯一の知り合いで。退院以降は会ってないが、話のわかる奴だ」



「ねぇ、そろそろ降りてくれない……」



 私のことを無視して、黒猫は前方を見る。



「我が弟子のためだ。ここはこのタカヒロとその愛猫のミーちゃんに任せたまえ!!」



「おい、頭の上にモフモフが乗ってると暑いんだよ」



 私が頭の上に乗る黒猫を下ろそうと必死になっている中、その後ろでは楓ちゃんと石上君が並んで歩き、石上君のことを楓ちゃんが睨みつけていた。



「君のバイト先の上司は面白いね。猫と喧嘩してるよ」



「………………」



 楓ちゃんは石上君の言葉に何も返さない。



「いつまで俺のことを警戒してるつもりだ?」



「僕は君のことが嫌いだ。情報は人を惑わせる。君はそれで何人もの生徒や先生を陥れてきた」



「……楓君。君は俺のことを勘違いしている。俺のモットーはどれだけ読者を楽しませるか、そのために必要な犠牲なら俺はいくらでも払うさ」



 石上君は笑顔で楓ちゃんの方を向く。



「……もしかして忘れてないか。今の学校での君があるのも俺のおかげなんだ。一人寂しくいた君を、学校の頼れる人気者にしたのは誰のおかげだ、今回の記事、それ次第で君の株も変化するんだよ」






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