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第28話 『夢を喰らう』
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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第28話
『夢を喰らう』
「リエちゃん。言ってたもの買ってきましたよ」
「ありがとうございます。楓さん」
部活終わりに事務所にやってきた楓ちゃんは、コンビニに寄ってリエが頼んでいたものを買ってきてくれた。
「ん、なんだそれ?」
全身びしょ濡れの黒猫が風呂場から出てくる。私は黒猫をタオルで拭こうと、追いかけるが黒猫は事務所の中を駆け回りなかなか捕まえられない。
「ちょっと、タカヒロさん。事務所が濡れるからやめてー!」
「俺の意思じゃない。ミーちゃんだ。この後ドライヤーで乾かされるの分かってんだろ……」
「じゃあ、タカヒロさんが説得してよ!」
「無理だ。こうなったらミーちゃんは全力で逃げるぞ。頑張って捕まえろ」
私と黒猫が鬼ごっこをする中。リエと楓ちゃんは買ってきた漫画雑誌のページを巡っていた。
「あ、ここですね。新人賞の結果発表……」
あるページを二人で隅々まで見つめる。
「……あり、ませんか……」
リエはソファーの背もたれに倒れかかった。楓ちゃんは本を手にしてもう一度確認するが、目当てものもは見つからない。
「やっぱりないですね……」
楓ちゃんは本をテーブルの上に置き、ソファーに座り込んだ。
「楓さん、手伝ってもらったのに申し訳ないです……」
「良いよ良いよ、僕はリエちゃんの原稿をポストに入れてきたくらいだし。次は原稿描くのも手伝うよ!」
二人が会話をしていると、私にタオルで巻かれて抱っこされている黒猫が二人に尋ねる。
「っんで、なんなんだよ、それは?」
楓ちゃんは洗面所からドライヤーを持ってくると、電源をコンセントに差しながら答えた。
「師匠、リエちゃんが漫画を頑張って描いてたの知ってますよね! この前、新人賞に応募してきたんですよ」
「あー、そういえば描いてたな。結果はどうだったんだ?」
落ち込んでいたリエだが、気持ちを切り替えて黒猫の質問に答える。
「今回はダメでした。でも、次回は!!」
意気込みを語るリエ。そんなリエの言葉を聞き、黒猫は嬉しそうにする。
「その調子だ。何かあったら俺も頼れよ。猫の手を貸す程度だが、俺も手伝ってやる」
っと黒猫は言いながらドライヤーから全力で逃げていく。
「タカヒロさん!! なら今、ミーちゃんを大人しくするのを手伝ってくださーーーい!!!!」
私は腕を引っ掻かれて痛いが、それでも黒猫を追いかけた。
「ねぇ、サトシ……」
「なに? アケミ……」
ベッドで寝ている女性が床で寝ている男に話しかける。
「私、寝るの怖いな……」
「どうして?」
「最近、こんな噂があるの……。この街に人に悪夢を見せて、その夢を食べる妖怪がいるって」
「噂だろ……。そんな妖怪いるわけないよ」
「でも……」
「なら、安心しろ。そんな妖怪が襲ってきても俺が撃退してやるからよ」
「サトシ……」
「アケミ……」
夢を見る男女。その家の屋根の上に鼻の長いゾウのような動物が寝っ転がっていた。
「けっぷ。美味しかったなぁ。特に男の方は『元カノと一緒にいるところを彼女に見つかる』という、ハラハラのスパイシーな悪夢だったなぁ」
食事を終えた妖怪は立ち上がると、月光が照らされる街を見渡す。
「さて、次はどこに行こうか」
朝食を食べ終えて私が新聞を開くと、大見出しに赤いマントを羽織る怪盗の写真がデカデカと乗せられていた。
「怪盗オリガミ、アグサニエベス美術館に現る。流石オリガミ様~!! どんな美術館にも侵入するのね!」
私が新聞の写真に見惚れていると、うとうとした状態のリエが洗面所から戻ってくる。
「リエ~、朝ごはんはラップして台所にあるから。勝手にとって食べてねー」
いつもは私よりも先に起きて黒猫と将棋をしているリエだが、今日は珍しく起きるのが遅かった。
というか、今日に関してはタカヒロさんもまだ寝ている。
今日は眠たい日なのだろうか?
しかし、洗面所から戻ってきたリエの様子がおかしい。まだ夢の中なのか足元がおぼつかず、私のいるソファーに倒れ込んできた。
「ちょっと、リエ重たい……」
「ぅっううっ…………」
寝ているリエだが、その表情は苦しそうだ。
「リエ、リエ……」
嫌な予感がした私はリエを揺すって起こそうとする。しかし、リエは全く起きる気配はなく、呼吸も荒くなり辛そうだ。
「タカヒロさん! タカヒロさん起きて!! リエがなんか変なの!!」
私は窓際で寝ている黒猫に叫ぶ。すると、黒猫はのっそりと起きた。
「あぁ~、なんか嫌な夢見た気がする……。っと、呼んだか?」
黒猫は窓から降りて私達のいるソファーのところまでやってきた。
「リエが起きないのよ。それになんだか苦しそうだし……」
「んー? どれどれ」
黒猫はテーブルにジャンプして乗ると、テーブルを経由してソファーの上に飛び乗った。
そしてソファーで寝ているリエの頬っぺたに肉球を当てた。
「確かに辛そうだな。熱はないのか?」
「幽霊らしく低温よ……でも…………」
「そうだか。これは只事じゃないな」
黒猫はその場で何か対策がないか考える。
「お前の兄貴はどこにいるんだ? 霊に詳しいんだろ、何か知ってるんじゃないか?」
「分からない。お兄様、電話番号もすぐ変えちゃうし、どこにいるかも知らないの……」
「そうか、…………じゃあ、お前はそこで待ってろ、俺がそこら見てくる」
黒猫はそう言ってソファーから降りて玄関の方へと向かう。
「待ってタカヒロさん、そこら見てくるって?」
私は黒猫を止めようとしたが、黒猫は止まらない。
「幽霊が幽霊に取り憑かれるってのは聞いたことないが、可能性はゼロじゃない。病気じゃなければ、呪いかまたは取り憑かれている場合がある」
黒猫はジャンプして玄関の鍵と扉を開けた。
「呪いだと対策は難しいが、取り憑いてるなら射程距離内を探せば、幽霊を見つけられるかもしれない。やれることはやるべきだ」
黒猫はそう言って事務所から出て行った。
普段は私たちと一緒じゃなければ事務所から出ることがないタカヒロさん。それは今の姿で外で発見されれば、大騒ぎになるからだ。
ミーちゃんを守るためにも、タカヒロさんは事務所から出ることは避けていたが、今回は初めて一人で出て行った。
黒猫の秘密も外の人に見つかれば捕まる可能性もある。そのリスクを犯してでもリエを助けることができるかもしれないならと、行動をしてくれているのだ。
私もリエをソファーに寝かしつけて、何かできることがないかと行動してみる。
とりあえずリエは寝ながら汗をかいているため、洗面所からタオルを持ってきてリエの汗を拭いた。
今できるのはこれくらい。タカヒロさんも幽霊に取り憑かれている可能性に賭けて、外に捜索に行った。
後はタカヒロさんの予想が当たり、幽霊を見つけられれば良いのだが。
私がリエの側に付き添い、ソワソワしていると、玄関の扉が開いて黒猫が帰ってきた。
「タカヒロさん! 幽霊は!!」
私が玄関の方を見ると、そこには黒猫に引っ張られて連れ込まれたゾウのような動物がいた。
「妖怪なのか怪人なのか知らないが、怪しい奴を見つけたぞ!!」
黒猫に連れ込まれた生き物は、椅子に縛り付けられて私達に拷問をされていた。
「さぁ、リエが眠りから目覚めないのと関係があるか、吐いてもらおうか……」
私は猫じゃらしを持ってその生き物に近づく。くすぐって吐かせようとしたのだが、その前に
「はいそうです!! 僕がやりましたァァァ!! ごめんなさーーーい!!」
めっちゃ早口で謝ってきた。私は猫じゃらしをテーブルに置き、捕まえた犯人に事情を聞く。
「あなたは何者なの?」
「僕は獏(バク)と言い、夢を試食とする世間では妖怪と言われる存在です。私は悪夢を食べて、その人間を悪夢から解き放つという力を持っているのです」
バクと名乗った妖怪だが、その説明に私は疑問を持った。
「なんでリエは起きないの? これ絶対良くない夢見てるよ」
リエの状況は悪化している。
バクは悪夢を食べると言っていたが、リエは悪夢を見ている様子だ。
「それが……変なんです。僕が夢を食べれば、悪い夢から良い夢に変わるはずなのに……。最近は悪夢のままで、そのまま目覚めない人が多いんです……」
黒猫はテーブルに広げてある新聞を見て頷く。
「確かにそういう事件が起きてるみたいだな……。似た事件をナイトメアって呼んでるらしい」
私も新聞を覗くと、そこには『遂に眠りから覚めぬ人20名を超える。ナイトメア事件』とニュースになっていた。
「あなたが原因なんでしょ、なんとかしなさいよ!」
私は椅子を揺らしてバクに急かす。しかし、バクは慌てているが何もできないようで、
「無理です。なぜか僕の力が変えられちゃってるんです。今の僕にはどうしようもないです」
私はバクを揺らし続けるが、
「止めろ、レイ……」
黒猫が真剣な声で私を止めた。そして
「バクと言ったか……。お前、力が変えられたってどういうことだ? 何かあったのか」
「……それは」
戸惑うバク。しかし、表情から何かあったのは確かだ。
「早く言いなさいよ!」
私はまた揺らし始める。しかし、すぐに黒猫が私を止める。
「やめろ、無理に言わせるな。何か事情があるんだろ、言えない理由が……」
タカヒロさんの言葉にバクは頷く。
「分かった。なら答えなくて良い」
「タカヒロさん!?」
どうしてパクにそう言うのか。戸惑う私。しかし、そんな私には何も言わずに黒猫はパクを睨んだ。
「答える必要はない。だが、リエを助ける方法を教えろ」
黒猫の声はいつに増して真剣だった。
「お前は夢に干渉できる妖怪なんだろ。何か策を知ってるんじゃないか……」
最初は答えようとになかったパクだが、黒猫の圧に負けて口を開く。
「あります。でも、安全とは言い難い、危険な方法です」
「どんな方法だ?」
「他者が夢に入り夢の核を壊す。そうすることで夢から解放することができます。でも、寝ている人間だけでなく、夢の中に入る人間も最悪…………とにかく危険なんです!!」
バクは黒猫に問い詰められて答えてしまったが、この方法には乗る気でないようだ。
だが、黒猫は
「そうか、なら俺が行こう」
「タカヒロさん!?」
「なんだレイ、文句でもあるのか?」
「ありまくりよ! こんな得体も知れない妖怪の言葉を信じるの? リエをこんな状態にしたのはこいつなのよ!!」
「そうだな……」
黒猫はテーブルから私の肩に飛び乗ると、肩を伝って頭の上に乗った。
「俺は臆病でビビリで人も嫌いだ。だが、一つだけ決めてることがある。それは信じることだ、それが人間じゃなくてもな……」
「信じるって、……どうして!?」
「そうだなぁ、それが俺に最後に残った信念みたいなものだ。それに立ち止まってちゃ、リエはこのままだぞ、やれることはやらねぇとな」
「タカヒロ……さん」
黒猫は頭の上から私のおでこに猫パンチする。
「いたっ!?」
「任せとけって。ミーちゃんには残ってもらうから安心しろ。夢に行くのは俺の精神だけだ」
黒猫は私の頭から降りてテーブルに着地した。
「立ち止まってちゃ救えるものも救えないぜ。……そういうことだ、今すぐやれるか? バク」
黒猫の顔を見てバクも覚悟を決めたのか。
「分かりました。僕も覚悟を決めましょう。あなたを夢の世界に送れば良いんですね……」
著者:ピラフドリア
第28話
『夢を喰らう』
「リエちゃん。言ってたもの買ってきましたよ」
「ありがとうございます。楓さん」
部活終わりに事務所にやってきた楓ちゃんは、コンビニに寄ってリエが頼んでいたものを買ってきてくれた。
「ん、なんだそれ?」
全身びしょ濡れの黒猫が風呂場から出てくる。私は黒猫をタオルで拭こうと、追いかけるが黒猫は事務所の中を駆け回りなかなか捕まえられない。
「ちょっと、タカヒロさん。事務所が濡れるからやめてー!」
「俺の意思じゃない。ミーちゃんだ。この後ドライヤーで乾かされるの分かってんだろ……」
「じゃあ、タカヒロさんが説得してよ!」
「無理だ。こうなったらミーちゃんは全力で逃げるぞ。頑張って捕まえろ」
私と黒猫が鬼ごっこをする中。リエと楓ちゃんは買ってきた漫画雑誌のページを巡っていた。
「あ、ここですね。新人賞の結果発表……」
あるページを二人で隅々まで見つめる。
「……あり、ませんか……」
リエはソファーの背もたれに倒れかかった。楓ちゃんは本を手にしてもう一度確認するが、目当てものもは見つからない。
「やっぱりないですね……」
楓ちゃんは本をテーブルの上に置き、ソファーに座り込んだ。
「楓さん、手伝ってもらったのに申し訳ないです……」
「良いよ良いよ、僕はリエちゃんの原稿をポストに入れてきたくらいだし。次は原稿描くのも手伝うよ!」
二人が会話をしていると、私にタオルで巻かれて抱っこされている黒猫が二人に尋ねる。
「っんで、なんなんだよ、それは?」
楓ちゃんは洗面所からドライヤーを持ってくると、電源をコンセントに差しながら答えた。
「師匠、リエちゃんが漫画を頑張って描いてたの知ってますよね! この前、新人賞に応募してきたんですよ」
「あー、そういえば描いてたな。結果はどうだったんだ?」
落ち込んでいたリエだが、気持ちを切り替えて黒猫の質問に答える。
「今回はダメでした。でも、次回は!!」
意気込みを語るリエ。そんなリエの言葉を聞き、黒猫は嬉しそうにする。
「その調子だ。何かあったら俺も頼れよ。猫の手を貸す程度だが、俺も手伝ってやる」
っと黒猫は言いながらドライヤーから全力で逃げていく。
「タカヒロさん!! なら今、ミーちゃんを大人しくするのを手伝ってくださーーーい!!!!」
私は腕を引っ掻かれて痛いが、それでも黒猫を追いかけた。
「ねぇ、サトシ……」
「なに? アケミ……」
ベッドで寝ている女性が床で寝ている男に話しかける。
「私、寝るの怖いな……」
「どうして?」
「最近、こんな噂があるの……。この街に人に悪夢を見せて、その夢を食べる妖怪がいるって」
「噂だろ……。そんな妖怪いるわけないよ」
「でも……」
「なら、安心しろ。そんな妖怪が襲ってきても俺が撃退してやるからよ」
「サトシ……」
「アケミ……」
夢を見る男女。その家の屋根の上に鼻の長いゾウのような動物が寝っ転がっていた。
「けっぷ。美味しかったなぁ。特に男の方は『元カノと一緒にいるところを彼女に見つかる』という、ハラハラのスパイシーな悪夢だったなぁ」
食事を終えた妖怪は立ち上がると、月光が照らされる街を見渡す。
「さて、次はどこに行こうか」
朝食を食べ終えて私が新聞を開くと、大見出しに赤いマントを羽織る怪盗の写真がデカデカと乗せられていた。
「怪盗オリガミ、アグサニエベス美術館に現る。流石オリガミ様~!! どんな美術館にも侵入するのね!」
私が新聞の写真に見惚れていると、うとうとした状態のリエが洗面所から戻ってくる。
「リエ~、朝ごはんはラップして台所にあるから。勝手にとって食べてねー」
いつもは私よりも先に起きて黒猫と将棋をしているリエだが、今日は珍しく起きるのが遅かった。
というか、今日に関してはタカヒロさんもまだ寝ている。
今日は眠たい日なのだろうか?
しかし、洗面所から戻ってきたリエの様子がおかしい。まだ夢の中なのか足元がおぼつかず、私のいるソファーに倒れ込んできた。
「ちょっと、リエ重たい……」
「ぅっううっ…………」
寝ているリエだが、その表情は苦しそうだ。
「リエ、リエ……」
嫌な予感がした私はリエを揺すって起こそうとする。しかし、リエは全く起きる気配はなく、呼吸も荒くなり辛そうだ。
「タカヒロさん! タカヒロさん起きて!! リエがなんか変なの!!」
私は窓際で寝ている黒猫に叫ぶ。すると、黒猫はのっそりと起きた。
「あぁ~、なんか嫌な夢見た気がする……。っと、呼んだか?」
黒猫は窓から降りて私達のいるソファーのところまでやってきた。
「リエが起きないのよ。それになんだか苦しそうだし……」
「んー? どれどれ」
黒猫はテーブルにジャンプして乗ると、テーブルを経由してソファーの上に飛び乗った。
そしてソファーで寝ているリエの頬っぺたに肉球を当てた。
「確かに辛そうだな。熱はないのか?」
「幽霊らしく低温よ……でも…………」
「そうだか。これは只事じゃないな」
黒猫はその場で何か対策がないか考える。
「お前の兄貴はどこにいるんだ? 霊に詳しいんだろ、何か知ってるんじゃないか?」
「分からない。お兄様、電話番号もすぐ変えちゃうし、どこにいるかも知らないの……」
「そうか、…………じゃあ、お前はそこで待ってろ、俺がそこら見てくる」
黒猫はそう言ってソファーから降りて玄関の方へと向かう。
「待ってタカヒロさん、そこら見てくるって?」
私は黒猫を止めようとしたが、黒猫は止まらない。
「幽霊が幽霊に取り憑かれるってのは聞いたことないが、可能性はゼロじゃない。病気じゃなければ、呪いかまたは取り憑かれている場合がある」
黒猫はジャンプして玄関の鍵と扉を開けた。
「呪いだと対策は難しいが、取り憑いてるなら射程距離内を探せば、幽霊を見つけられるかもしれない。やれることはやるべきだ」
黒猫はそう言って事務所から出て行った。
普段は私たちと一緒じゃなければ事務所から出ることがないタカヒロさん。それは今の姿で外で発見されれば、大騒ぎになるからだ。
ミーちゃんを守るためにも、タカヒロさんは事務所から出ることは避けていたが、今回は初めて一人で出て行った。
黒猫の秘密も外の人に見つかれば捕まる可能性もある。そのリスクを犯してでもリエを助けることができるかもしれないならと、行動をしてくれているのだ。
私もリエをソファーに寝かしつけて、何かできることがないかと行動してみる。
とりあえずリエは寝ながら汗をかいているため、洗面所からタオルを持ってきてリエの汗を拭いた。
今できるのはこれくらい。タカヒロさんも幽霊に取り憑かれている可能性に賭けて、外に捜索に行った。
後はタカヒロさんの予想が当たり、幽霊を見つけられれば良いのだが。
私がリエの側に付き添い、ソワソワしていると、玄関の扉が開いて黒猫が帰ってきた。
「タカヒロさん! 幽霊は!!」
私が玄関の方を見ると、そこには黒猫に引っ張られて連れ込まれたゾウのような動物がいた。
「妖怪なのか怪人なのか知らないが、怪しい奴を見つけたぞ!!」
黒猫に連れ込まれた生き物は、椅子に縛り付けられて私達に拷問をされていた。
「さぁ、リエが眠りから目覚めないのと関係があるか、吐いてもらおうか……」
私は猫じゃらしを持ってその生き物に近づく。くすぐって吐かせようとしたのだが、その前に
「はいそうです!! 僕がやりましたァァァ!! ごめんなさーーーい!!」
めっちゃ早口で謝ってきた。私は猫じゃらしをテーブルに置き、捕まえた犯人に事情を聞く。
「あなたは何者なの?」
「僕は獏(バク)と言い、夢を試食とする世間では妖怪と言われる存在です。私は悪夢を食べて、その人間を悪夢から解き放つという力を持っているのです」
バクと名乗った妖怪だが、その説明に私は疑問を持った。
「なんでリエは起きないの? これ絶対良くない夢見てるよ」
リエの状況は悪化している。
バクは悪夢を食べると言っていたが、リエは悪夢を見ている様子だ。
「それが……変なんです。僕が夢を食べれば、悪い夢から良い夢に変わるはずなのに……。最近は悪夢のままで、そのまま目覚めない人が多いんです……」
黒猫はテーブルに広げてある新聞を見て頷く。
「確かにそういう事件が起きてるみたいだな……。似た事件をナイトメアって呼んでるらしい」
私も新聞を覗くと、そこには『遂に眠りから覚めぬ人20名を超える。ナイトメア事件』とニュースになっていた。
「あなたが原因なんでしょ、なんとかしなさいよ!」
私は椅子を揺らしてバクに急かす。しかし、バクは慌てているが何もできないようで、
「無理です。なぜか僕の力が変えられちゃってるんです。今の僕にはどうしようもないです」
私はバクを揺らし続けるが、
「止めろ、レイ……」
黒猫が真剣な声で私を止めた。そして
「バクと言ったか……。お前、力が変えられたってどういうことだ? 何かあったのか」
「……それは」
戸惑うバク。しかし、表情から何かあったのは確かだ。
「早く言いなさいよ!」
私はまた揺らし始める。しかし、すぐに黒猫が私を止める。
「やめろ、無理に言わせるな。何か事情があるんだろ、言えない理由が……」
タカヒロさんの言葉にバクは頷く。
「分かった。なら答えなくて良い」
「タカヒロさん!?」
どうしてパクにそう言うのか。戸惑う私。しかし、そんな私には何も言わずに黒猫はパクを睨んだ。
「答える必要はない。だが、リエを助ける方法を教えろ」
黒猫の声はいつに増して真剣だった。
「お前は夢に干渉できる妖怪なんだろ。何か策を知ってるんじゃないか……」
最初は答えようとになかったパクだが、黒猫の圧に負けて口を開く。
「あります。でも、安全とは言い難い、危険な方法です」
「どんな方法だ?」
「他者が夢に入り夢の核を壊す。そうすることで夢から解放することができます。でも、寝ている人間だけでなく、夢の中に入る人間も最悪…………とにかく危険なんです!!」
バクは黒猫に問い詰められて答えてしまったが、この方法には乗る気でないようだ。
だが、黒猫は
「そうか、なら俺が行こう」
「タカヒロさん!?」
「なんだレイ、文句でもあるのか?」
「ありまくりよ! こんな得体も知れない妖怪の言葉を信じるの? リエをこんな状態にしたのはこいつなのよ!!」
「そうだな……」
黒猫はテーブルから私の肩に飛び乗ると、肩を伝って頭の上に乗った。
「俺は臆病でビビリで人も嫌いだ。だが、一つだけ決めてることがある。それは信じることだ、それが人間じゃなくてもな……」
「信じるって、……どうして!?」
「そうだなぁ、それが俺に最後に残った信念みたいなものだ。それに立ち止まってちゃ、リエはこのままだぞ、やれることはやらねぇとな」
「タカヒロ……さん」
黒猫は頭の上から私のおでこに猫パンチする。
「いたっ!?」
「任せとけって。ミーちゃんには残ってもらうから安心しろ。夢に行くのは俺の精神だけだ」
黒猫は私の頭から降りてテーブルに着地した。
「立ち止まってちゃ救えるものも救えないぜ。……そういうことだ、今すぐやれるか? バク」
黒猫の顔を見てバクも覚悟を決めたのか。
「分かりました。僕も覚悟を決めましょう。あなたを夢の世界に送れば良いんですね……」
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