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第29話 『悪夢と核』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第29話
『悪夢と核』



「分かりました。僕も覚悟を決めましょう。あなたを夢の世界に送れば良いんですね……」



 黒猫の決意にバクも覚悟を決める。そんな二人に私は咄嗟に、



「待って!!」



「レイ……まだ止める気なのか?」



「いや、そのつもりはない……だけど。あなただけじゃ心配なのよ。私も行く」



 私はそんなことを言っていた。



 確かにタカヒロさんだけじゃ心配という気持ちもあった。でも、本心はそれだけじゃない。
 しかし、これ以上のことは口には出なかった。



 それでも黒猫は察したのか。視線を逸らした。



「心配してるんじゃねーよ……。任せろって言ったろ。……だが、めんどくせーが、寂しいなら連れてってやるよ」



 タカヒロさんも本音と本音じゃない部分が混ざる。



「バク、そういうことよ。私達を夢の中に……」



「はい。夢の世界に入ったら核を見つけ出して破壊してください。くれぐれも注意してくださいね、夢の中での出来事は現実にも反映されます」








 視界が暗闇に包まれる。音も光と何もかもがない空間、そこをただひたすらに進む。



 すると突如、青い炎の壁が現れる。しかし、自分の意思では歩みを止めることができず、炎の壁にぶつかる。



 だが、炎の壁にぶつかりそうになるが、炎の壁が私達を避けるように逸れる。
 何が起こったのか、理解する前に…………。









「はっ!? ここは…………」



 目覚めると私は古びた屋敷のベッドで寝ていた。



 記憶ではバクの夢の中に行く方法をやるために、ベッドで寝たはず。



「あ、そうだ。タカヒロさんは……」



 私は一緒に夢の中に入ったはずのタカヒロさんを探す。



 ここは屋敷の寝室のようで見渡すが、黒猫の姿は見当たらない。
 どこか別の場所にいるのか。私はベッドから出ようとすると、ベッドの中に私だけではなくもう一人人間がいることに気づいた。



「…………」



 身長は私よりも低い。しかし、布団の膨らみからして横にデカい。



 私はそっと掛け布団を持ち上げる。



 布団の中で猫のように丸くなって寝ている。その存在は丸々と太った身体にパツパツの服を着た男性だった。



「……………………っ!?」



 私は思わず男性を蹴り落として、ベッドから叩き落とした。
 地面に顔面を激突させた男性は飛び起きて私を怒鳴りつける。



「痛いなおい! 何するだよ! レイ……………って、あれ、この姿は…………」



 聞き覚えのある声。この声はまさか……。



「タカヒロさん!?」



「俺、人間の姿に戻ってる……。そうか、夢の中だからか」







 人間の姿になったタカヒロさんと、私は屋敷の中を探索していた。



「それにしても人の身体は久しぶりだな。走ってみるか?」



「その身体で暴れると目立つからやめなさい。ってか、あんた、そんなに太ってたのね……」



「なんでだろうな……。基本もやし生活で金は全部ミーちゃんに使ってたんだけどな。痩せなかったな」



「そういう生活してるから病気になるのよ……っと、それにしても……」



 私はタカヒロさんと一緒に屋敷を周って分かったことがある。



「ここ、リエと出会った屋敷ね。少し変わってるけど、ほとんど同じ」



 ここはリエと出会った漫画家が住んでいた屋敷だ。漫画家が引っ越してから、建物の老化が進み、隙間風が入ってくるのもあの建物と同じだ。



 だが、違う点もある。それは屋敷の広さだ。



 現実にあった屋敷の三倍以上の広さがある。それに夢の中だからか、玄関もないし、窓も開かない。完全にここに閉じ込められている。



「バクは核を探せって言ってたよね。どんな見た目って言ってたっけ?」



 私は隣で人間の身体を堪能しているタカヒロさんに聞く。



「ん、確か、青い光を放つ半透明の球体って言ってたな……」



 私達は屋敷を進み、夢の核を探す。しばらく進んでいると、廊下の奥から悪臭が流れてくる。



「なんなの……この匂いは……」



「鉄……みたいな匂いだが。奥から匂ってくるか」



 鼻をつまみたくなるような匂い。その匂いの正体を知るために私達は屋敷を進む。
 すると、廊下の先から何かを砕くような音が聞こえてきた。



 硬い何かをさらに硬い何かが潰して砕くような音。
 その音を聞いたタカヒロさんは私の服を引っ張って先に進むのを止めた。



「ちょ、私の服!?」



「……待て、何かいるぞ」



 薄暗くてよく見えない。しかし、暗闇の奥に何かが蠢いていた。



 身体の殆どが口であり、歯茎が剥き出しになっている。口の横から生えた手で肉片を持ち、ムシャリムシャリと何かを食べていた。



「良いかレイ。ここは逃げるぞ」



「……言われなくてもそうするよ」



 私とタカヒロさんは気付かれないように足音を立てず、方向転換して怪物から距離を取る。



 あの怪物が何を食べていたのかはよく見えなかったが、匂いの正体はそれだろう。



 そーっと、そ~~っと、怪物から一歩ずつ離れていく。しかし、




「ギィガィゥアガァァァァァァ!!!!」



 突然怪物は奇妙な叫び声を上げる。そして立ち上がると、私達に気づいたのかこちらに身体を向けてきた。



「やばいやばいやばいやばい!!!!」



「レイ、逃げるぞ!」



 ビビって動けない私をタカヒロさんが引っ張って逃げる。



「はぁはぁはぁ、追ってくる!!」



「振り返るな、とにかく走れ!!」



 私達は追ってくる怪物から逃げる。足が速いわけではないが、怪物はしつこく追ってくる。



「そこの部屋に飛び込め!」



「えっ!? 今なんて?」



 走る中、タカヒロさんが何かを叫ぶ。私はそれを聞き取れなかったが、タカヒロさんは私を引っ張り、廊下の途中にあった部屋に飛び込んだ。



 部屋に入るとタカヒロさんは、素早く扉を閉めて近くにあった椅子で扉を固める。
 だが、怪物は私達が廊下の先に行ったと勘違いしたのか、部屋の前を通り過ぎてどこかへ消えた。



「……どっかに行ったみたいだな」



「なんだったのよ、今の怪物は……」



「俺が知るか。とにかくヤバいのは確かだ。次は出会さないようにしよう」



 怪物からは無事に逃げられた。しかし、次に入った部屋は部屋というには大きすぎる。



「……なんで、こんなところに」



 さっきまで走っていた廊下の大きさから考えて不可能だ。
 だが、目の前に浮かぶ光景は……



「プールがあるのよ」



 そこにはプールがあった。室内プールではなく、屋敷の壁に囲まれておるが、天井はなく夜空が見える。



「夢の中だからな。こういう変わった空間があっても不思議じゃないだろ」



「なんであんたはそんな冷静なのよ!?」



「お前が俺のリアクション取ってるんだよ。ま、お前もいるし、俺がしっかりしないとな……」



 来た扉の廊下はまだ怪物がいるかもしれない。私達はプールサイドを進み、プールの反対側にある扉を目指す。



「しっかし、ここ見覚えがあるのよね」



「お前もそうか……俺もだ」



 このプールには見覚えがある。そこまで前のことではない、最近のことだ。
 しかし、いつのことだったか……。



 私達がプールサイドを進み、ちょうど半分のところに到達すると、プール方から女性の笑い声が聞こえてきた。



「ふふふ……ふふふふふふ…………」



 そしてプールの水面に女性の顔が映り込む。



「これってあの時の……」



 その顔を見て私はやっと思い出した。このプールは楓ちゃんの学校のプールだ。
 そして思い出したのは、私だけではなくタカヒロさんも同様だったようだ。



「レイ、お前も思い出したか……」



「ええ、ここは高校プール……そしてあの水面に浮かぶ顔は……」



「悪霊だな……」



 水面に浮かぶ顔がニヤリと笑うと、あの時と同じようにプールの水が渦を巻き、水柱を作り上げる。
 水柱は触手のように動くと、私たちに向かって襲いかかってきた。



「逃げるぞ!!」



 タカヒロさんに引っ張られてプールサイドを進む。
 水が追ってくるがどうにか回避して、私達はプールの端にたどり着いた。



 扉を開けようとするが、鍵が閉まっているのかドアノブを捻っても開かない。



「退いてろ!」



 タカヒロさんは私を退けると、扉にタックルをして扉を破壊。プールのある部屋から脱出することができた。



 プールの部屋から出ると悪霊はその部屋から出られないのか追ってくることはない。



「なんで消えたはずの悪霊が……。どうやって復活したの……」



「夢の中だからな。復活したわけではない。きっとこれがリエが見てる悪夢なんだ……」



「リエはこんな怖い悪夢の中に閉じ込められてるの……」



 ここまで口のでかい怪物やプールの悪霊に出会った。他にもまだ何かいるかもしれない。
 そう思うとリエが心配になる。



 早く核を見つけてリエを助け出さなくては……。



 屋敷の中を進んでいき、次に入った部屋は刑務所の面会室のように、部屋の中央をガラスで遮った部屋。
 ガラスの向こうに繋がる扉はなく、遠回りしないと反対側には行けなそうだ。



 だが、そんな部屋のガラスの向こう。そこに……。



「リエ!?」



 リエがいた。その姿は初めて会った時の大人の容姿であり、ガラスの前に座りずっと下を向いている。



「リエ!! リエ!!!!」



 私が呼びかけても返事がない。返事がない様子を見てタカヒロさんは疑うように言う。



「本当にこいつがリエなのか?」



「そっかタカヒロさんは小さい姿しか知らないからね。でも、これが本当のリエの姿なのよ」



 私はガラスを叩いて呼びかけるが、それでも全く反応がない。
 私は手を握りしめてそれでガラスを思いっきり叩こうとしたが、タカヒロさんに腕を掴まれて止められた。



「やめておけ……」



「なんで、目の前に……」



「こいつは夢の中のあいつだ。こいつをどうこうしたって、助けられるわけじゃない…………それにグーでガラスを殴ると痛いぞ」



 タカヒロさんは私をガラスから遠ざけて、笑顔を作る。
 少しでも雰囲気を変えようとしてくれたのだろう、だが、タカヒロさんが無理しているのも、彼の表情を見た私でも分かった。



「……そうね、核を探さないと」



 私はタカヒロさんに連れられてこの部屋から出る。タカヒロさんが廊下に何もいないことを確認して、安全なのを分かってから一緒に外に出た。



 扉を閉める時、リエの顔を見ると、その顔は怯えた顔だった。








 廊下を出て屋敷を再び探索し始める。一つ一つ部屋を丁寧を探索していくと、ピアノの置かれた音楽室にたどり着いた。



「特定の音を弾いたら扉が開くとかないかしら?」



 私はピアノの周りに脱出ゲームみたいなヒントがないか探してみる。
 タカヒロさんはゲームの話が分からないようで、残念な人をみる目で私を見る。



「ゲームだとこういうことがあるのよ!」



「ゲームね……。こういうのもゲームだとよくあるのか?」



 タカヒロさんは扉の上に引っ掛けられていたハンドガンを発見した。
 ジャンプしてタカヒロさんは取ろうとするが、身長が足りずに届かない。代わりに私がジャンプしてハンドガンを落として手に入れた。



「本当にゲームみたいね」



「レイ、お前撃てるか?」



 タカヒロさんはハンドガンを拾うと、私に聞いてくる。



「ゲームなんかなら撃ったことあるけど……」



「そうか。なら渡しておく」



「え!?」



 突然渡されてビビる私。渡される時に銃口がタカヒロさんの方に向いており、私はうっかり撃ってしまわないか、ビビりながらもハンドガンを受け取った。



「俺は映画とかでしか見たことなしいな」



「私も同じレベルよ!!」



「それに持っていれば身を守れるかもしれん。それで自分を守れ」



「タカヒロさんは?」



「俺は…………。どうにかする」



 不器用なタカヒロさんなりに、私を守ろうとしてくれているのだろう。
 普段は頭の上に乗って文句ばかり言っている男の背中を追って屋敷の探索を再開する。



 次にたどり着いたのは食堂だ。奥には大きな厨房が設備されている。



「ここは確か……」



 私はリエと会った時を思い出す。リエが取り憑けるものを探して屋敷中を探し回り、最終的にたどり着いたのがここだ。



「他の部屋に比べてやけにここは綺麗だな……」



 食堂の様子を見たタカヒロさんは不思議そうに見渡す。言われてみればそうだ。



 他の部屋は煤や埃で壁や床が汚れていた。しかし、この部屋だけは床も壁と綺麗に磨かれている。



「なんでこの部屋だけ綺麗なのかしら?」



「何かあるのかもしれないな」



 私とタカヒロさんは食堂に入り、核がないか探す。しかし、核はこの部屋にはなかった。
 だが、その代わりに。



「おい、レイ! 地下室に通じる通路があったぞ」



 厨房の奥にタカヒロさんが通路を発見した。



「本物の屋敷ではこんな通路なかったのに……」



「この先に行ってみるか」



 私達が通路に入ろうとすると、食堂の入り口の扉が勢いよく破壊された。



「グギュィァァァッアハァァッ!!!!」



 扉を破壊して入ってきたのは、口だけの怪物、怪物は口を開け閉めしながら私達を探している。



「またあいつか……。構うことはない、先に行くぞ」



 タカヒロさんは先に通路に行くように促す。通路は私達がしゃがんでやっと通れるような大きさ、怪物は追ってきても、この通路に入り込むことはできない。



 しかし、私は立ち止まる。



「タカヒロさんは先に行って……」



「レイ? 何する気だ……」



 私は食堂を彷徨く怪物に銃口を向ける。



「さっき、リエが怯えていたの。もしかしたらコイツが原因かも……」



「だからってそいつに銃が効くかは分からないだろ!」



 厨房と食堂に壁があり、今は見えない位置だ。だから怪物にも見つかっていない。
 しかし、今音を立てれば、見つかって襲ってくるだろう。



「今は逃げるのが一番だ」



 後ろでタカヒロさんが説得しようとしてくる。私は震える両手でハンドガンを握りしめて、怪物の方へすり足で進む。
 後ろで私の様子を見ていたタカヒロさんは溜め息を吐くと、



「…………分かった。レイ」



 タカヒロさんは私の後ろをついてきて、後ろからハンドガンを取り上げた。



「タカヒロさん!?」



「やめろってわけじゃない。…………俺がやる」



 タカヒロさんは私を後ろに引っ張って下がらせると、震える身体で前に出た。



「お前はあの怪物を倒せば、リエが怖くないって思ったんだろ。なら、やれることはやるべきだな……」



「でもあんた、震えて……」



 タカヒロさんは頬のお肉に波が見えるほどの振動で震えている。それに汗もびっしょにで脇からはえげつない匂いが漂ってくる。



「お前も震えてた……。…………良いか、一発撃つ……それで効かなかったら、すぐに穴に逃げ込むぞ」



 当たるかも分からない一発。だが、その時は外れるなんてことを考えていなかった。外れる可能性もあるし、弾が入っていないかもしれない。



 ただそんなことすら考えることなく、怪物を倒せるか、倒せないかだけを考え、その一発に私は大きな期待を乗せる。



 タカヒロさんは厨房から食堂の方へ顔を出す。すると、タカヒロさんに気づいた怪物が身体を左右に揺らしながら、こちらに向かって突進してきた。



「撃つぞおぉぉぉおおおっ!!」



 震える身体に無理矢理いうことを聞かせるために大声を出す。
 男が引き金を引くと、撃った反動で腕ごと銃は大きくのけ反り、男の顔面に直撃した。



 驚いたタカヒロさんは自ら後ろに跳ねて厨房の壁に激突した。
 壁に掛けてあった食器がぶつかった衝撃で落ちる。皿の割れる音が鳴り響く中、私は厨房を覗いた。



「どうだ……やれたか?」



 鼻を赤くして震えた声のタカヒロさんが私に聞いてくる。
 私は食堂の怪物の様子を的確に伝えた。



「倒せた……みたい」



 銃で撃たれた怪物は霧状になって消滅した。その場に肉片でも残ると思っていたが、跡形もなく消滅している。


 タカヒロさんはゆっくりと立ち上がる。しかし、鼻からは鼻水を垂らし、目も潤っている。



「やれたなら良かった。こいつが使えるってことが分かったからな」



 強がって入るが、声は鼻声だし震えてる。よっぽど怖かったんだ。
 私はポケットからハンカチを取り出してタカヒロさんの目を拭こうとする。



「やめろ、自分でやる」



 しかし、嫌がってハンカチを奪い取った。



「鼻はかまないでよ」



「分かってるよ」



 怪物退治も終わり、落ち着いた私達は厨房の通路に入り込む。



 狭い道をどうにか進んでいき、しばらく進むと広い場所に出た。



 そこは事務所のように見えるが、私達の住んでいる事務所を何倍にも膨らましたような空間。
 夢によくある知っている場所が出てくると、その空間が捻じ曲げられ、普段はすぐに行けるところでも何倍を歩かされる感覚。



「あれを見ろ」



 タカヒロさんが指差すと、奥に見えるソファーの上に淡い光を放つ青い球体が浮かんでいた。



「あれが核……急いで壊しましょう」



 私達は玄関から核に向かって急いで走る。
 普通の事務所ならほんの数メートルの距離だが、何十メートルにも感じる。



 核の姿がはっきりと見えてきた時。



「レイ、危ない!!」


 何かに気づいたタカヒロさんが私を押して何かから守った。



「痛たた……何が…………」



 何が起きたのか。タカヒロさんの方を見ると、タカヒロさんの身体を巨大なタコの足が巻き付いていた。



「これは……海にいた悪霊!?」



 またしても前に会ったことがある悪霊だ。これも悪夢が見せる偽物なのか。



「タカヒロさん!! 待ってて!!」



 私は落ちていたハンドガンを拾い、タコ足に銃口を向ける。
 ゲームでしか撃ったことがない銃。下手をすればタカヒロさんにも当たるかもしれない。



 しかし、今撃たなければ、助けられない。



 私は引き金を引いて撃とうとする。しかし、弾は出ない。私は何度もチャレンジするが、発砲することができなかった。



「なんでよ……」



 さっきは撃てていた。弾切れか。それとも壊れてしまったのか。
 焦る私に逆さになったままタカヒロさんは叫ぶ。



「俺のことは良い、核を破壊しろ!」



「でも……」



「核を破壊するのが最優先だ!!!!」



 私はハンドガンを地面に叩きつけると、核に向かって走り出す。
 後ろからは低い悲鳴が聞こえるが、振り返ることはない。



 リビングに到達して、ソファーに向かう。ソファー後ろに立ち、核に手を伸ばそうとした時。



「レイ……さん?」



 ソファーからひょっこりとリエが顔を出した。



「リエ……」



 その姿はさっき見かけた大人の姿ではなく、見慣れている子供の姿。



「もうお昼ご飯の時間ですか?」



 リエはいつものように笑顔を向けてくる。その笑顔を見た私は夢にいることを忘れて、普段通り話しそうになる。
 しかし、青い光を放つ核を見て我に返った。



「リエ、今助けるから」



 私はリエの上を通して核に手を伸ばす。あと少し、もう少し伸ばせば手が届く。



「レイさん……」



 リエの下から手を伸ばし、私の腕を掴む。いつものひんやりした手ではなく、その手から暑さも冷たさも何も感じない。



「……嫌だ。嫌です」



 私の腕を掴んだリエは泣き出す。



「どこにも行かないで……」



「私はいるから。大丈夫……。手を離して」



 私はもう片方の手でリエの手を優しく掴み、そっと離す。リエの手が私から離れると、



「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌媢嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……」



 リエの身体から黒い湯気のようなものが溢れてくる。そしてリエの姿が変貌する。
 それは口だけの怪物のように、またはプールの悪霊のように、そしてタコの悪霊のような姿へと形を変えていく。



「リ……エ…………」



 何が起きているのか。今のリエの姿にかつての面影はない。
 これは夢。夢のはずなのに、夢だとは思えない。



「レーー一イ!!!!」



 後ろからタカヒロさんの声が聞こえる気がする。タコ足に捕まってるはずだが、私の戸惑いに気づき叫んでくれたのか。



 私は核に手を伸ばす。そして握りしめた。



「これを壊せば……」



 私は握りしめた核を地面に思いっきり、叩きつけた。










 目が覚めると、そこは事務所にある自室のベッドだった。



「リエ!!!!」



 私は飛び起きてリビングに向かう。リビングのソファーではリエが座って待っていた。



「起きたんですね。レイさん」



「リエ、起きたの?」



「はい、タカヒロさんとレイさんのおかげです」



 私は安心して胸を撫で下ろす。無事にリエは起きたのだ。
 しかし、一つ問題に気づく。



 ある人物の姿が見えないのだ。



「バクは?」



 そう、悪夢を食べる妖怪バクの姿が見えないのだ。
 すると、黒猫が事情を説明する。



「バクならスコーピオンのいる怪人事務所に行ったよ。楓が来たから楓に送ってもらってる」



「怪人事務所?」



「お前が寝てる間にバクは自分の身に起きたことを教えてくれたんだ」



 黒猫の話では、バクはある夜に謎の組織に捕まり、なんらかの改造をされてしまったらしい。
 それにより悪夢を見せることしかできなくなり、さらには悪夢を見た人物を、夢の中に閉じ込めることとなった。



 核を破壊したことでその組織も勘付いて、バクを再び狙ってくるだろう。
 そこでタカヒロさんはネットでスコーピオン達、悪の組織について調べて、連絡を取り匿ってもらうことにしたのだ。



 バクと同じようになんらかの組織に追われた怪人を他にも匿っており、世界征服を狙う悪の組織にとっては、妖怪や怪人を悪用する、他の組織は敵になる。



「バクは怪人達に守ってもらうことになった。ここに関してはヒーローが見回りを強化してくれるとよ」



「ヒーローって…………。あの人達役に立つの? 警察の方が良くない?」



「警察は怪奇については無関心だからな。こういう時に頼れるのはその道の人だ」







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