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第5話 『レイメイ』

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ギルドでNo.1の冒険者パーティに見習いとして加入することになった俺は、最強の冒険者として教育される。



著者:ピラフドリア



第5話
『レイメイ』




「よくポムポムを入手してきたな」



 ポムポムを採取した俺とエイコイは、ウィンクの元へ戻ってきていた。
 ウィンクは目は見えていないが、ポムポムを触って感触で本物であることを確かめる。



「よくやった。この手の試験をやると、だいたいの新米さんは帰らぬ人となるんだが」



「なんて試験を新米にやらせてるんですか!!」



 文句を言う俺に、ウィンクはハハハと笑いかける。



「冒険者ってのはそういうもんさ!! それに俺達は未開の地を目指してるんだからな」



「それはそうですけど」



 エイコイから彼らの目的については聞かされていた。世界地図を作ること。それが彼らの冒険の理由だ。
 おそらくここは異世界的な場所なのだろう。そしてまだ人の手が届いていない土地がある。彼らはそういう土地に足を踏み入れて、調査をするのが目的だ。



 未開の地となれば、どんな危険があるかは未知数。だからこそ、こういう試験をやるのもあるのだろう。



「それじゃあ、お前達を俺達レイメイのパーティメンバーとして歓迎しよう。とはいえ、まだ見習いとしてだがな」



「「はい!!」」



 エイコイと俺は元気よく返事をする。



「おーい、お前ら、メンバーの紹介をするから来い」



 ウィンクは少し離れたところにいたパーティメンバーを呼んだ。







「じゃあまずは俺から自己紹介しよう。俺はウィンク・ハインド。魔法使いであり、今はこのパーティのまとめ役をしている」



 両目を閉じた魔法使いは、綺麗な姿勢でお辞儀する。
 次に背中に巨大なトンカチを背負った女性が、ゴーグルを目から外して、



「アタシはクロエ・シャルタスと言いま~す。アイテムや装備を作ってるから、何か作って欲しいものがあったらアタシに相談してね~!!」



 両手でピースを作ってテンションの高いクロエ。クロエは挨拶を終えると、白馬に乗った女性に手を向ける。



「彼女はドミニク・ワンデイン。そして相棒の白馬のイリニちゃん!」



 クロエに自己紹介をされた白馬に乗った女騎士だが、ふんとそっぽを向いて顔を合わせない。馬も同様に顔を背けてこっちを向かない。



 クロエはドミニクがこういう態度を取るのを知っていたから、自分から紹介したのだろう。



「そして最後はオレだなァ」



 白い服に身を包んだムキムキの男。口には葉巻を咥え、顎に生えた髭が強者感を出している。



「オレはセルゲイ・アーガルド。怪我をしたらオレのところに来なァ。治してやる」



 神官服のを来ていることから、回復魔法を使うのかもしれない。しかし、



「傷を負わせる方が得意そうだァァァァァ!!」



 聖職者っていうよりも格闘家と名乗った方が良さそうな風貌だ。



 これで一通りの自己紹介を終えたのか、ウィンクが俺達の前に出る。



「これが俺達の現パーティだ。よろしく頼む」



 魔法使いのウィンク。生産職のクロエ。騎士のドミニク。聖職者のセルゲイ。と四人のメンバーは分かった。しかし、もう一人いることを俺とエイコイは知っていた。



「レジーヌは?」



 俺とエイコイの歳は同じか、エイコイの方が少し下という歳の印象。それに比べるとレジーヌは少し歳上感はあるが、小学校高学年の俺と同じか、高くても中学生になりたてという印象がある。
 クッズとかいう原型のない名前で呼ばれた仕返しを兼ねて、呼び捨てで呼んでみることにした。



 すると、四人の背後で隠れるような場所にいたレジーヌは、ドミニクと同じようにそっぽを向く。そして



「クズ共。私にもさんを付けなさい」



 そう言って俺が呼び捨てにしたことに文句を言ってきた。そんなレジーヌの姿にウィンクは笑うと、



「彼女も君達と同じ見習いだ。仲良くしてやってくれ」



 ウィンクはレジーヌと仲良くするように言うが、俺とエイコイは、



「人の名前をクズコイにする人とは、僕は仲良くなれません」



「俺も」



「君達!?」



 ウィンクは驚く中。パーティの方々に隠れて、レジーヌも肩をビクってさせて驚いているように見えた。
 仲良くできないと言われたのが、意外とショックだったのか?



「まぁその辺りは後々解消しよう……。それじゃあ次に君達について教えてくれ」








 俺とエイコイが自己紹介を終えると、ウィンクは顎に手を当てた。



「平山 友か……。もしや魔法の無い土地から来たかい?」



 俺の名前を聞いた途端。ウィンクはそんなことを口にする。



「え、そうですけど……」



 ウィンクは少し考え込んだ後。



「君が分かりやすい国の人で良かった。俺達と似たような名前をつける国出身だったら、気づけなかったよ。せめて言ってくれれば良かったのに……」



 ウィンクは軽く笑いながら頭を手を当てて掻き、



「ここは君の知る土地、地球ではない。とはいえ、君達の観測できている惑星よりも遥か遠くにある。同じような銀河、そこにあるもう一つの地球なんだがな」



「ん?」



 俺はウィンクの説明に理解ができず、首を傾げる。その俺の動作にうまく伝わっていたいと分かったウィンクは、杖を俺の頭に向ける。



 すると、不思議なことに映像が流れ込んできた。



 そこには三つの円が現れ、その円に一つずつ地球が現れた。



 この世界には複数の宇宙が存在している。そのうち、存在が確認されているのは三つの宇宙だ。そしてその宇宙には全て地球が存在して、地球人がいる。



 地球ごとに文化や存在する物質、ルールは異なる。その中でもユウ、君のいた世界は文明が発展し科学が進んだ世界。
 そして今いるこの世界は魔法が進んだ世界だ。




 視界が元の俺の視点に戻る。元に戻ったのはウィンクが杖を下げたからだろう。



「君はなぜ、この世界にやってきたのかはわからないが、言葉が通じて、この地球の環境に適応できているということは、適応できる力をやってきた時に与えられたということだ」



「そういえば、言葉通じてるや……」



 凄く今更だが、無意識に喋っていた言葉は日本語ではない。しかし、不思議なことにスッと頭に入ってきて喋れている。



「地球を移動した者が全員適応できるわけじゃない。君は運が良かった、適応できてなければ、こちらに来た時点で環境に適応できずに溶けて消滅してる」



「なにそれ怖!?」



 まさかの衝撃の事実。なぜだかは分からないが、適応できて良かったとホッとする。



「まぁ俺は先生がこの事を知っていて理解があるだけで、この構造を知っているものは少ない。別の地球から来たことはあまり他言しない事をお勧めしよう」



 ウィンクはそう俺に伝えた後。四人の後ろでまだ隠れていたレジーヌの方へ目線を向けた。



「彼女も君と同じ別の地球から来たんだ。君とは違う地球だが、同じ異世界人同士、何かあったら助け合うと良い」



 俺とも別の地球。ということは三つあると言っていたもう一つの地球ということか。



 俺との話を終え、ウィンクは次にエイコイの方に顔を向ける。目が見えていないはずだが、目線を向けて話そうとする姿に、エイコイもウィンクの瞑った状態の目を見る。



「エイコイ。君は本当に旅に出ていいのか? 君の場合は家のことを考えれば、他の方法もあるはずだが」



「僕はあなた達についていくことで、家を復興させたいんです。旅に出ることで見えてくることもあるはずです」



「そうか。覚悟があるなら良いだろう」



 エイコイとの話を終え、ウィンクは後ろで指を組むと



「レジーヌ。お前も来い」



 目線で俺とエイコイと並ぶようにレジーヌに伝える。隠れていたレジーヌだが、司令であっては逆らえないのか。



「はい!」



 と、肩をビクってさせてから返事をして、駆け足で俺達と並んで立った。レジーヌの姿に俺とエイコイも姿勢を正して立ち直す。そんな俺達にウィンクは、



「それじゃあ、君達見習いの今後について教えよう」



 そう言ってウィンクは魔法で背後に黒板のようなものを出現させる。そして手は後ろで組んでまま、チョークが宙に浮いて文字が書かれていく。



「まだ俺達パーティメンバーの四人はこの辺りの地図作成で約1ヶ月、まだこの森に滞在する。しかし、お前達見習いでは森の更なる奥地は危険だ。だから、この草原を拠点とし、君達にはここで見習い用の修行を受けてもらう」



 黒板には1日のスケジュールを四つに分割した時間割りが書かれる。



「俺達4人の中から一人が拠点の防衛と修行の担当をかねてここに残る。残った一人が君達の修行をつける。そしてそのメンバーは俺達4人でローテーションさせる」



 午前を一人ずつ交代で二人。午後も一人ずつ交代で二人という順番でやっていくらしい。



「これから一ヶ月、みっちり修行をつけてやる。期待していてくれ」








 そうして地獄の一ヶ月が始まった。



「俺の修行内容だが……」



 ウィンクは魔法で俺達の目の前に大量の教科書とノート、その他必要な文房具を出現させる。
 魔法使いの修行ということで、魔法を教えてもらえると思っていた俺は固まる。



「あ、あの、魔法は?」



「魔法も大事だが、冒険者に必要なのは知識だ。俺の修行ではまず、勉学から始める。ということで、教科書の8ページから……」








「諦めるな! 踏ん張れ! 踏ん張らなければ燃えるぞ!!」



 セルゲイが俺達を鉄棒のようなものに吊るし、俺達の下で焚き火をする。腹筋を使って身体を上に持ち上げなければ、燃えてしまう状況。俺達は必死に身体を持ち上げる。



「熱ぅぅぅっい!! これは虐待だ!! 体罰だ!!」



 俺は身体を持ち上げながら燃えないようにして、セルゲイに訴える。しかし、セルゲイはガハハと笑う。



「何を言うかァ!! 筋肉はイジメなければ成長せん!! イジメてイジメて鍛え抜け!! そう、コケコッコー神様は仰っている!!」



「ヒャぃヤァァァァっ!?」



 俺が悲鳴を上げる中。エイコイは隣で同じように吊るされているレジーヌの方に顔だけ向ける。



「前からこんな修行やってたの?」



「ふ、当然よ。私はレイメイの見習い冒険者よ。これくらい余裕でできて当然よ」



「髪燃えてるよ」



「あっつい!?」








 次のドミニクの修行では、



「ドミニクさん。馬と一緒に寝てるけど良いの?」



 ドミニクは俺達に修行をつけず、寝ており自由時間となる。



「ドミニクさんの時間は自習できるのよ。他の時間じゃ魔法の修行は出来ないからね。クズども私はこれから魔法の修行をするから、近づくんじゃないわよ」



「「え~、教えてよ~」」





 そして最後の一人。



「アタシの訓練は魔力コントロール。まずはそれを身につけてもらうためにも……」



 クロエは自作の改造リュックを取り出した。



「これを背負って走ってもらうよ~!!」



 その改造リュックは教科書をパンパンに入れたランドセルよりも重く。小まめに持って帰るのを忘れ、夏休み前に大量になってしまった荷物のように重量を感じる。



 それを背負って草原を走るのだが、道中で、



「な、なんだ!? リュックが動き出した!!」



 リュックから機械仕掛けの手が出てきてくすぐってきたり、モニターが現れてクイズを出題されたりと様々な妨害をされる。
 さらに



「最下位の人にはアタシの新作アイテムの試運転をしてもらいま~す!!」



 ビリになったら怪しげなアイテムの実験に付き合わされるという罰ゲームまで付いてきた。








 こうして修行を続ける日々が続き、1ヶ月が経とうとした時。



「もうすぐこの森での仕事も終わる。その前に見習い用の特別クエストをお前達にプレゼントしよう!!」



 朝食を終えた俺達見習い三人を集め、ウィンクはそんなことを言い出した。













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