世界最強の兵器はここに!?

ピラフドリア

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オーボエ王国編

 第25話  【氷の女王】

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 世界最強の兵器はここに!?25


 著者:pirafu doria
 作画:pirafu doria


 第25話
 【氷の女王】




 パトはヤマブキと共に建物の影に隠れながら、王国内を移動していた。



 ミリアの提案した作戦。それはあまりにもシンプルなもの。



 パト達で二手に分かれて、奴隷を解放していく。
 解放する奴隷はサージュ村の者に限らず、見つけた奴隷を手当たり次第に解放すると言うもの。
 この地区内が開放された奴隷で溢れれば、混乱が起きて動きやすくなるというものだ。



 しかし、奴隷に付けられた首輪は賢者の一人フェス・クローバーの魔力によるものらしい。
 首輪がある限り、奴隷も反旗を起こすのは難しい。
 そのため開放するのは、首輪が付けられる前の奴隷達。つまりはサージュ村と同様に最近連れてこられた者たちである。



 彼らが騒動を起こしているうちに、フェスを倒し、首輪の奴隷も解除。そして大混乱を起こしているうちに逃げ出すという作戦だ。



 既に王国内にある牢屋から数名の奴隷を解放したパト達は、人の少ない倉庫の並んだエリアに辿り着いた。



「ここの見張りも少ないな」



 解放した奴隷と共に隠れながら、サージュ村の村人を居場所を聞くが、捕まった奴隷は別々の牢屋に入れられるため誰も知っているものはいなかった。



 二手に分かれてから時間もそれなりに経っている。
 パトとヤマブキは首輪のない奴隷の解放。エリスとミリアはフェスを倒しに向かった。そろそろエリス達がフェスのいる建物に着いた頃だろう。こちらもより多くの奴隷を解放し、暴動を起こさなければ、あちらに王国の勢力が集まるかもしれない。



 パトの顔に焦りが見え始める。
 それなりの数の奴隷を解放したが、まだ騒動が起こるほどではない。より多くの奴隷を解放して混乱を招かなければならない。



「ここです。ここにも奴隷が囚われているはずです」



 ここまで案内してくれた奴隷の一人が、倉庫の一つを指さす。
 それは他の倉庫に比べてデカく、村の建物よりも大きな倉庫。



「ありがとう。ここの奴隷は俺たちが解放します。なので他のところをお願いします」



 パトは礼を言うとミリアから貰った鍵を奴隷達に渡す。
 転送魔法で奪った牢屋の鍵らしい。



 その一つの鍵を受け取ると、案内してくれた奴隷達は他の奴隷を解放するために別の牢屋へと向かっていく。



 残ったパトとヤマブキは案内された倉庫の扉を開く。
 開くと同時に白い空気が流れ出し、冷気が体に染み込む。まるで真冬のような倉庫の空気に体を震わせた。倉庫の壁は凍りつき、天井には氷柱が見える。



「本当にこんなところに奴隷が?」



 パトは疑問に思いながらも、薄暗い倉庫の中へと足を進める。
 すると、



「おい、そこにいるのは? パトか!」



 どこか聞き覚えのある懐かしい声が聞こえる。
 声の方へと振り向くと、そこには半裸のマッチョ男がいた。



「オリパさん!?」



 それはサージュ村一番の力持ちオリパ・ハンマーがいる。その周りには体つきの良い男達が震えながら座っていた。
 半裸なのにオリパは全く震えることなく、堂々として言う。



「なぜ、君がここに?」



「助けに来たんです」



 パトと回答にオリパは目を丸くして驚くが、すぐに納得する。



「それは助かった。感謝する」



 しかし、牢屋には見たことのない人たちだらけ、村のみんなは見当たらない。
 もしかしたらもうすでにこの首輪を付けられて他の区間に売られてしまったのだろうか。



 パトは恐る恐る他の村人の居場所について聞く。



「他のみんなは?」



 パトの表情から不安を感じ取ったのか。オリパはパトの心配を振り払うように言い放った。



「ここに入れられたのは俺だけだ。他のみんなは別の牢屋に入れられた。だが、王国に着いたのは今日だ。まだ近くにいるはずだ」



 オリパの言葉を聞いたパトは、村のみんなを救い出せることを喜ぶ。
 そんなパトの表情を見たオリパは胸を張った。



「この牢屋にいる他の奴隷も出してやってくれ。コイツらは良い筋肉の持ち主だ。手を貸してくれる」



 そう言われて周りの牢屋を見渡すと、寒さに凍えながらも身体付きの良い男どもが牢屋に入れられていた。
 二人の話の聞こえた奴隷達は胸を叩いたり、うなずいたりして手を貸すと言ってくれた。



「ありがとうございます。多くの奴隷を解放するためにも騒ぎを起こさないといけないんです」



 パトの説明を聞き、奴隷達は任せろと活気付く。



 寒さで手が震えてきたパトは、奴隷達を解放するために懐から鍵を取り出した時。



「なんじゃ~? 妾の商品に何をしようとしておる? ネズミ」



 薄暗い倉庫の奥から女性の声が聞こえる。



 声の方に目を向けると、そこには青い髪に白い着物を着たスレンダーボディの女性がいる。
 厚い化粧をしているが、大人びた雰囲気を醸し出し、手に持つ扇を仰ぐ。



「なんじゃなんじゃ~。奴隷を解放する輩がいると聞いて、どんな奴が来たのかと思えば……小僧ではないか」



 女性はパトの姿を見るなり、目を押さえて甲高い声で笑う。
 どういう原理か分からないが、女性が喋ったり動くたびに倉庫の温度が下がっている気がする。



 倉庫の冷気に奴隷たちは身体を振るわせる。隣にいるヤマブキもその場でうずくまってしまった。



「やめろ!」



 原理は分からないが、確実にこの冷気を放っているのはあの女性である。それに気づいたパトは女性に止めるように叫んだ。
 しかし、女性は扇をパトに向ける。



「やめろ? 何を言っておる。妾を誰と思っておる」



 パトに向けたまま扇を開く。



「妾はリュウガ様より賢者の地位を授かりし、クリスタ・L・リードレアームであるぞ。小ネズミ如きが妾にそんな口を聞くでない!」



 クリスタが扇を仰ぐと、そこから冷気の風が発生し、パト達を襲った。



 まるで吹雪のような冷たい風。手が悴み、口から出る息は白くなっている。



「パト!!」



 オリパはパトを心配するように叫ぶ。オリパも同時にクリスタの冷気に当てられている。しかも半裸の状態だ。
 なのにパトよりも元気なのは、仲間を心配する心からだろうか。それとも彼の筋肉からだろうか。



 冷気を受けながらもパトは踏ん張って鍵を取り出すと、牢屋の鍵を開ける。
 薄暗い倉庫ということもあり、クリスタからは何をやっているのか、うまく見えなかったようだ。クリスタが気づいたのは鍵が空いた時。



 オリパに続き、他の奴隷たちも牢屋から続々と出ていく。



「なんじゃと? なぜ鍵を持っておる!?」



 奴隷たちが牢屋から出て、クリスタは驚きの表情を浮かべる。



「ある方が手に入れたんです」



「……どういうことじゃ、その鍵は…………。いや、今はいい」



 クリスタは鍵の入手に疑問を持ったようだが、追及はしないようだ。
 しかし、それはパトにとっても好都合。仲間と別れて別行動をしていることがバレれば、エリスたちにも危険が及ぶ。



「パト、ここは逃げた方が良い」



 耳元でオリパが提案する。それにパトは素早く賛同する。



 相手は賢者だ。それにこの冷気を操るほどの魔法使いとなるとかなりの腕となる。
 それにヤマブキの様子が先ほどからおかしい。この寒い倉庫に入ってから、目を細めてうとうとしていた。今では体育座りでうずくまっている。



「そうしましょう」



 逃げることにして出口の方へと向かう。解放された奴隷達はパト達の入ってきた出入り口から出て行く。



 パトもヤマブキを抱えて出口へと向かおうとするが、クリスタがそれを許さなかった。



 オリパ達が待つ外へと向かおうとパトは走るが、クリスタが扇を振ると、出入り口に氷の壁が生成される。
 氷の壁は進路を塞ぎ、外と内を完全に遮断した。



「逃すと思っておるのか? 小ネズミ」



 氷の向こうには薄らとオリパ達の姿が見える。あちらからもパトとヤマブキが飛び込められたのが分かったようで、呼ぶ声が聞こえる。



 しかし、氷の壁はガッチリと扉を塞ぎ、倉庫の壁も分厚い。声もはっきりとは聞こえない。



 クリスタは倉庫の奥から二人を見下した。



「いいの~いいの~、その表情……」



 パトはまだどうにか身体を動かすことができる。しかし、ヤマブキは身体を震えさせて、外をじっと見ている。



 氷の壁に手をついて、外へ出れないことを悲しむ。よっぽど寒さが苦手のようだ。
 パトは座るヤマブキに目線を合わせるため、その場にしゃがむ。



「大丈夫……じゃないですよね」



 言葉にはしないし、表情には出さないが、この冷気を嫌がっているのは確かだ。
 パトは着ていた上着をヤマブキに被せると立ち上がる。



「ヤマブキさんはここで待っててください。すぐに出しますから」



 そしてクリスタに剣を向けた。
 ヤマブキはパトの言葉を聞き、素直に上着を被せられると、外を見つめるのをやめて、パトとクリスタの方へと体の向きを変えた。



「いいのぉ~、其方のような勇敢な少年が絶望する様は……妾の大好物じゃ~」



 クリスタは扇をもう一つ取り出すと、片手に一つずつ取る。今までの冷気は本気ではなかったようだ。



「そうはなりませんよ。さぁ、この氷の魔法を解除してもらいます」



 パトは剣を握り、クリスタの元へと走り出した。



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