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7話 授業⑤
しおりを挟む「悪魔が何言ってんだか」
負洛はそう呟いて1枚の紙をザイラに渡す。
渡されたのは建物の設計図か。
「赤丸が付いてるけど、7階?エレベーターだと良いな」
「私は別に健康的な生活な為に階段で行っても良いんだけど、今日は夢川 陽麗ちゃんが居るからね」
「私は階段でも良いと思いますけど、ワニワニパニックが階段に連続で頭ぶつけて痛そう」
そう私は言ったけど古びた解体予定のビルに入ると結局エレベーターは負洛が私達を待つ間の戦闘で壊していた所為でワニワニパニックは階段に後頭部を連続殴打し、7階まで徒歩で進むこととなった。
その途中、負洛は私達に言う。
「"名前持ち"と"名無し"は俺ら悪魔狩りの魔術師が悪魔を2種類に分けてる呼び方になる」
「最初に"名前持ち"っていうのは、ワニワニパニックみたいに"真名"を持った悪魔のこと。」
「名前を持った悪魔はそこから更に下級、中級、上級悪魔に別れて勿論階級が上がる度に強さが増す」
「この"アンドラス"みたいなのってこと、ですか。」
「夢川ちゃん、1つ大事なことを言おう。」
「自身が契約する悪魔の"真名"を無闇矢鱈に振り撒いてはいけない……」
「なぜなら"名前持ち"の悪魔は真名を聞くだけで、その悪魔の能力を知っている可能性があるからな」
『その通りラス。』階段の踊り場でワニワニパニックが相槌をうつ。
「次に"名無し"は簡単に言えば雑魚。」
「悪魔固有の能力を持たない下級の悪魔より性能が劣る魔獣、"名前持ち"の悪魔に仕える奴って覚えるといい」
「"名無し"は群れで行動するけど、俺らからしたら弱過ぎて雑魚呼ばわりよ」
「それは私も戦ったことがあるね」
「私が殺した悪魔が連れてたから複数体いて強いのかと思ったけど、弱過ぎて面白くなかったよ」
ザイラがそう言うと負洛が大きく溜息を吐いて私に首だけ振り向く。
「専門知識が無い魔術師で"名前持ち"を殺せるの…ザイラさんクラスしか居ないだろうから」
「もし今後、悪魔狩り以外の魔術師と共に行動する事があっても過度に期待はするな」
「君達、私居る時は安心していい」とドヤるザイラに再度負洛の溜息が出る。
「"俺らからしたら"って負洛さんは言ってました…」
「けど、それが悪魔狩りや魔術師さん達じゃ無かったら雑魚とはならないってこと??」
「話を良く聞いて素晴らしい」
「その通りだ。一般人に対して"名無し"は脅威となる」
「奴らは下級悪魔より弱く力も多く持たないが、ワニワニパニック同様に人間への強制契約を可能としている」
「魔力を扱えない一般市民はそれに対して無力…1度契約を交わしてしまえば元の体に戻る事も、人間として死ぬ事も出来なくなる」
「殺した私が言うのもなんだけど、"名無し"って奴らは契約する人間のことを玩具としか思って無かった」
「悪戯好きで好奇心旺盛で善悪も分からぬ純粋無垢な悪性腫瘍が人間を己の快楽の為、地球外から来て我が物顔で手にかける…万死に値するとは思わないか?」
立ち止まって そう言い放ったザイラの雰囲気はまるで周辺の空気が歪むかのような強烈な圧迫感。
見た事も感じたことも無いザイラに私は生唾を呑む。
これは恐怖の感情だろう、私も引き摺られていたワニワニパニックも一瞬にして動けなくなってしまった。そんな私達を気遣ったのか負洛が
「ザイラさん見えちゃいけない部分が出ちゃってますよ(笑)」と苦しい空気に割って入ってくれた。
「ごめんごめん、少し驚かせてみたくなっただけだ」
「私にもこんな所があるんだよってね」
ザイラはニコニコ笑いながら私の頭を優しく撫でると再び歩き出すと、先程の恐ろしい雰囲気はパッと消えて無くなってしまった。
「もう1階上がれば目的の7階か。対悪魔の戦闘について必要な情報は戦闘中に話す」
「夢川ちゃんが前衛、ザイラさんは夢川ちゃんが危ないと判断したらバックアップを頼みます」
「はーい」気の抜けた返事の後、ザイラは私に
「Good luck♪」と私の背中を押してくれた。
扉を開いた先に立っていたのは異様な姿をした生き物……顔は上唇から髪の毛先まで老人のようなシワシワの皮膚に白髪とシミがあり、下唇から下は若い女性のような体つきをして華奢で胸部は小さく膨らみ、袖から見える指先は赤いネイルチップを着けている。
異様なのは下半身だ。女性のような体の下から野生の馬の首から下が生えている。
それはまるで神話に出てくるケンタウロス、胴から下にあるのは私を襲ったワニワニパニックの鰐になる前の姿のような人の体に別の動物がくっ付いている。
敵の悪魔は私達に視線を合わせると、嗄れた声ゆったりと話し出す。
『人間の女んが1つ、2つ?』
『片方は女なのだろうか…男2つ、お前んらは要らん、女を置いて帰れば、見逃してやらんでもない』
「おい私は女だ」
ツッコミを入れたのはザイラ、筋肉質で長身のザイラを悪魔は女と認めていないらしい。
負洛はワニワニパニックへ視界に映る敵の悪魔が何者か聞くと、あっさり真名を言ってきた。
『アレはフルカスラス』
「ふるかすらす?」
『いやフルカスラス!!』
「ふるかすらすって名前か?(笑)」
『この腐れ餓鬼…フルカスという名前ラス!!』
『私と同じ階級、だが私の方が強いラス!』
私に尻尾を掴まれながらワニワニパニックが負洛にブチ切れて暴れ出し、それを見たフルカスが自身を馬鹿にされたと思い突っ込んで来る。
それはまるで車が横断歩道を横切る小学生を躊躇無く轢き殺そうとするようで無慈悲な突撃…
突然始まった戦闘に動けない私をワニワニパニックごとザイラが担いで距離を取り、共に負洛もサイドステップで横に避けた。
『何んを笑っている…』
勢い良く壁に突っ込んだフルカスは私達が出てきた扉を爆発音と共に階段方向に突き破ると、当たり前のように負洛へ振り向いて何処からか取り出した直剣を振り上げながら斬り掛かった。
『男!お前んが先に死ねぇ!!!』
目まぐるしく飛んで来る縦や斜めの斬撃を、なんと負洛はダンスを踊るようにステップを踏んで全て避け切る。
「お前が下で待機させてた雑魚共は俺が全員粉微塵にしてやった」
「攻撃が当たらないのは部下が応援してくれないからか?、ごめんなぁ…俺が部下共を殺しちまってよぉ(笑)」
負洛に焦りは無く、余裕さえ感じさせる面持ちだ。それに比べてフルカスは自身が万全の状態では無いこと、先に潰せる方を考慮して負洛から標的をザイラに切り替える。
"女性もどき"と判断したザイラにを一刀両断する為、大きく振りかぶった唐竹割りで負洛との距離を離し先程私達にして来た突撃を再度私とザイラに向かって行う。
当然走って来るフルカスを横目に捉えていたザイラは私から離れて自身へ標的を絞らせ、敢えて攻撃をモロに受ける。
走り際に放った直剣による横薙ぎ払いは私の目にも確実にザイラへ直撃したと見えた…が、直剣の刃をザイラは肘と膝で挟み肉を斬らせることは無かった。
「振りが遅せぇ……君、教材としては良いかもだけど私には必要無いね」
「サンドバッグになるといい」
次の瞬間。ザイラの空いた右腕が隆起し、フルカスの馬である下半身の脇腹を一気に突き上げるアッパーカット。
それはフルカスの足を簡単に宙へ浮かせ、成人女性と馬のハーフを勢い良く負洛方面に殴り飛ばした。
地面へ体を叩き付けられたフルカスを見て負洛が不敵に笑うと、次は私へ言い放つ。
「その1…緊張はしても構わない。けど足は動かせ」
「ゲームで初見殺しがあってもコンティニューすれば、次は避けられる…けれどな、俺達がやってんのは1度死んだらゲームオーバーのクソゲーだ」
そう言う負洛の目は真剣だ。立ち上がって来るフルカスから後ろ歩きをして距離を離し、私に指示を出す。
「その2。敵からの攻撃は可能な限り避け続けろ、敵の攻撃パターンを頭に入れるんだ」
「至近距離ではこの攻撃が来る、離れるとアレが来て…避けるとコレが来る。」
「全部頭に入れろ、常に集中状態だ」
「はい…」
私は尻尾を握る手に力を入れる。
「その3、敵も死にたくない。こっちを是が非でも殺す覚悟で来る。こんな風にな!!」
『ウォオオッ!!』
話し続ける負洛へ立ち上がったフルカスが猛烈な突進攻撃を放つ。それを舞うように躱して私へ話を再開する。
「この敵は自分から一定距離、離れると突進攻撃をする。突進するとき正面で向き合っていなければ、走り際の直剣による薙ぎ払い攻撃が襲う」
「聞いているか!!」
「はい!!」
フルカスから目を離さない私は、敵からの猛攻を避けながら私に情報を伝え続ける負洛を完全に先生と認識している。
「契約した悪魔から戦闘能力を与えられている君は俺と同じように敵の攻撃が見える場合、こんな風に避ける事が可能だ」
「そして、その4。契約した悪魔から契約武器を借り、悪魔の能力を使って戦え!!」
「さぁ本番だ、死ぬなよ夢川ちゃん!!」
そう言い放って負洛は自身の悪魔との契約武器【Carpe Diem】を出すとフルカス同様の薙ぎ払いでフルカスを私の前に吹き飛ばす。
再度地面に叩き付けられ血反吐を撒き散らしながら立ち上がるフルカスという悪魔は、自身の近くで明確な戦闘意思を持った私の方へと振り返る。
『ハァ、ハァ…ハァ。。』
『お前んは…最後に殺す、つもりだったが辞めだ。女、お前から先に殺して喰ってやる』
眼前に立っているのは一般人が何人集まっても殺されるだけの悪魔だ。
無力であれば悪魔の雰囲気に恐怖して先程のように動けないだろう…けど、良かった。
私はこの雰囲気よりもっと恐ろしい物を数分前に見ている。あの時のザイラの方が絶対に怖いし、ワニワニパニックもチビってた。
だから私は、幼く弱かった私は自分を奮い立たたせるように叫ぶ。
「テメェなんぞにビビって家族が守れるかよ!!!」
「かかって来いよ女装ジジイ!!」
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