記憶の書庫

週刊 なかのや

文字の大きさ
4 / 6

A-2-k 君と赤いポスト

しおりを挟む

午前2時。寝ることができずに暗く寒い外へ足を踏み出す毎日の日課。
不眠症になった理由は思い出せない。
鈍く光る街灯の下、息を吐いて白い煙が目の前を光と共に遮って冬の寒さを感じる。
「今日も寒いなぁ」
家では親も兄弟もフワフワのベッドで横になって朝から始まる仕事に向けて体を休める。
僕はこの時間が好きだ。この時間に会える人がいる。ここから真っ直ぐ進んだ赤いポストが、ぽつんと一つだけあるあの場所が。
「ねぇ、いる?」
『いるよ』
「今日も来ちゃった」
『おかえり』
「ただいま」
『……』
「今日はね、お母さんと買い物行ってきたんだ」
『怪我しなかった?』
「大丈夫だよ」
『ほんとに?』
「心配しすぎだよ?」
『そりゃ心配だよ、君の彼氏なんだから』
「えへへ、ありがとっ」
僕にしか見えないポスト横に座る彼。
『学校は?』
「んー、みんな元気だよ」
『君は?』
「早く死にたい」
『だーめ。』
「やだ」
『こっち来ちゃダメ』
「死んだら貴方にまた触れられるでしょ?」
『それでもダメなものはダメだよ』
彼に最後に触れたのは、彼が車に轢かれそうな僕を庇った時。僕のせいで彼は死んだ。
『また自分責めてるでしょ』
「なんでわかるの…」
『泣き虫さん、あんま泣かないでくれよ。俺の分まで生きて?』
「あ、今日ね、テスト100点取ったよ!」
『話逸らしたな』
「まぁいいから♪」
『…で、テストがどうしたって?』
「あのね…」
話はぐらかさないと、涙止まらなくなっちゃってまた君を悲しませるから。君はいつかここからも消えてしまうんだろうけどそれまではずっと話していたいから。君が消えるまでには、君との約束を破ってでも死んでそっちに行きたいな。
また君と手繋いで此処を一緒に歩きたい。
………………

曲がり角、曲がった端の家が君の家。帰り道に何度も通るこの通りは僕等の愛を紡いだ通学路。
そして俺が死んだ赤ポスト前だ。
彼女を助けて俺は死んで彼女が生きた。それだけで俺は幸せだ。心残りがあって、あの交通事故以来、地縛霊として赤ポストの横にずっといる…
「彼女また来ちゃうよなぁ…」
未練とか早く消えなきゃいけなくて俺が居たら彼女は前に進めないし、彼女の幸せを考えたら早く成仏した方いいんだろう
スタスタスタ
『ねぇ、いる?』
ほら、来ちゃった。
「いるよ」
どうして来たの?とか、もう来ちゃダメとか突き放してもいいけど、俺も未練あるのかな…っていうか未練しかないか。彼女が心配なのもあるけど、会いたくてしょうがなくて…どうにもならない気持ちを抑えて、笑わなきゃって
『今日も来ちゃった』
そうだね…
好き過ぎて…離れたくなくて…嗚呼、突き放さなきゃ
「おかえり」
突き放す言葉より先に出た迎える声
『ただいま』
嬉しそうでなにより。彼女も抱える気持ちがあって俺にもある。けれど、隠さないと涙が滲んで、君に笑えないから
「……」
『今日はね、お母さんと買い物行ってきたんだ』
「怪我しなかった?」
『大丈夫だよ』
「ほんとに?」
『心配しすぎだよ?』
「そりゃ心配だよ、君の彼氏なんだから」
『えへへ、ありがとっ』
死んだ俺と話して笑顔を見せる君、愛おしくて触れたくて…嗚呼神様ってお願いしても、まぁ無理だろう
「学校は?」
『んー、みんな元気だよ』
「君は?」
『早く死にたい』
「だーめ。」
『やだ』
「こっち来ちゃダメ」
「死んだら貴方にまた触れられるでしょ?」
「それでもダメなものはダメだよ」
君は自分をよく責める。俺の事で悩まなくたっていいのに、君は自分のせいで俺が死んだとかそういうの思ってんだろうなぁ…責めなくていいのに。
「また自分責めてるでしょ」
『なんでわかるの…』
君のことなら何でもお見通しだよ。
「泣き虫さん、あんま泣かないでくれよ。俺の分まで生きて?」
君が泣いたら俺…
『あ、今日ね、テスト100点取ったよ!』
!?…少し驚いたけど、俺が君でも君みたく話変えるよ…つらいもんな…
「はぁ…話逸らしたな」
『まぁいいから♪』
隠し事なんてありませんよって顔に貼っつけたような笑い方して吐き出したい悲しみを口にチャックして話を変える君に今日も乗ってやろう
「…で、テストがどうしたって?」
「あのね…」
…いつか、いつかは君に会えなくなって無になったら君は幸せに生きてくれるかな。生きてくれるなら早く成仏しなきゃなって言いたいけれど、君が好きでさ…血が通って君に触れられた時と今も変わらず君を愛してて、毎日会いたくて君の表情みて君の声聞いて「大好き」とか言いたくて……
『ん?』
ん?じゃないよ…その顔も華奢な体も触れて愛して好きって伝えたかったなぁ…なんて後悔しかないけどね、今だって伝えたいこと伝えられる声はあるから。
「愛してる」
サヨナラするのがいつか分からないから言いたい事言っておこう。誰しもいつかは大切な人に会えなくなるのだから。

……神様なんて居なくて叶わない願いを夜空に、ぽつりと呟いても君に触れる事は叶わなくて…何が言いたいかって言われたら
「君の隣にずっと居たい」




     作・かゆい
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...