婚約破棄されたので、脚本書きました(本当のことを)

桜野なつみ

文字の大きさ
9 / 13

開幕

舞台の幕が上がる。

照明が一気に焚かれ、
豪奢な夜会の場が現れた。

ざわり、と客席がどよめく。

次の瞬間――
張りのある声が、劇場中に響き渡った。

「婚約破棄だ!」

一拍。

観客の視線が、舞台中央へ吸い寄せられる。

正装した青年が立ち、
その前に、三人の令嬢が並ばされている。

よくある構図。
あまりにも、よくある構図だった。

令嬢の一人が泣き崩れる。
「そんな……っ、殿下……!」

別の令嬢は顔を上げ、声を荒らげる。
「私は、そんなことしていません!」

そして、最後の一人は――
何も言わず、ただ静かに頭を下げる。

その様子を、舞台上の人々は誰も気に留めない。

断罪は、滞りなく進んでいく。
言葉は鋭く、結論は早い。

観客席には、最初は拍手すら混じっていた。

――だが。

少しずつ、空気が変わる。

ざわ……
ざわざわ……

誰かが、身を乗り出した。

「……これ……」

別の場所から、ひそひそと声が漏れる。

「え……?」

「……ちょっと、待って」

舞台では、すでに場面が切り替わっていた。

一人目の令嬢。
自室で叱責される。

「殿下の不興を買ったのだろう!
そんな娘を、家に置いておけるか!」

彼女は泣きながら、否定する。

「私は……何もしていません……」

だが、聞き入れられない。

次の場面。
二人目の令嬢。

領地へ連れ戻され、
突きつけられる選択。

「結婚か、修道院か」

沈黙のあと、彼女は修道院を選ぶ。

客席のざわめきが、はっきりと音を持ち始める。

「……こんな……」

「これ、さっきの……」

「いや、でも……」

舞台は、修道院へ。

質素な部屋。
再会する、二人の令嬢。

ゆっくりと、言葉を交わし始める。

「……あの手紙、普通のことしか書いていないのよ」

「私も。乱暴なんて、命じていない」

観客席。

ざわざわ。
ざわ……。

「え?」

「どういうこと?」

「……話が……」

声が、広がっていく。

ヒソヒソ。
ヒソヒソ。

誰かが、はっきりと口にした。

「……これ……」

「……本当に、正しかったの……?」

その問いは、もう止まらない。

舞台の上では、
二人の令嬢が、淡々と“真実”を語り続けている。

客席のざわめきは、やがて一つの波になり、
劇場全体を包み込んでいった。

ざわ。
ざわざわ。

――そして。

誰もが、気づき始めていた。

この劇は、
どこかで見たことがあるのではなく。

自分たちが、見てきたものそのものなのだと。

あなたにおすすめの小説

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

「冷酷で理屈っぽい」と捨てられましたが、この国を影から支えていたの、実は私なんです

水上
恋愛
【全7話完結】 「冷酷で理屈っぽい」 そう断じられ婚約破棄されたヴィオラ。 しかし、追放先の辺境で、その知識を用いて泥沼の街道を舗装し、極上のチーズや保湿クリームを開発して大活躍!   一方、彼女を捨てたことで、王都では様々な問題が発生する。 馬車が揺れを制御できなくなり、隣国の大使が王都で嘔吐。 それが外交問題に発展して……。

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。 ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。 対して領民の娘イルアは、本気だった。 もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。 けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。 誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。 弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

悪役令嬢の妹は復讐を誓う

影茸
恋愛
王子との婚約を冤罪によって破棄され、何もかも失った少女メイア・ストラード。 そしてその妹、アリアは絶望に嘆き悲しむ姉の姿を見て婚約を破棄した王子に復讐を誓う。

「無能」と切り捨てられた令嬢、覚醒したら皆が土下座してきました

ゆっこ
恋愛
 「リリアーヌ。君には……もう、婚約者としての役目はない」  静まり返った大広間に、元婚約者である王太子アランの冷たい声だけが響く。  私はただ、淡々とその言葉を受け止めていた。  驚き? 悲しみ?  ……そんなもの、とっくの昔に捨てた。  なぜなら、この人は——私をずっと“無能”と笑ってきた男だからだ。

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…